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布攻防戦

 短期遠征から戻った山姥切長義は、本丸の審神者への報告を終えた後、戦装束を解く為に軽い足取りで自室へと向かっていた。
今回の遠征は首尾よく進める事が出来て、限られた時間の中で得られる限りの成果を得る事ができた。
部隊の隊員の働きもだが、今回の自分の隊長としての采配も満足がいくものだったので、山姥切は機嫌が良かった。
さて、着替え終わったら猫殺しくんでもからかいに行くかと、自室に付いた山姥切はまず、自分が身にまとっている青い裏地が付いたストールを外そうとボタンに手を駆けようとした。
すると遠くから荒々しい足音が近づいてきたと思ったら、スパンと勢いよく障子が開かれた。

「山姥切!あんた冷蔵庫にあった、俺の今日のおやつのプリン食べただろう!!」

そう怒鳴りながら肩を怒らせて、部屋にずかずかと入ってきたのは山姥切の写し刀、山姥切国広だった。
自分に似た顔が眉を吊り上げて自分を睨みつけるのを見て、山姥切は先程まで良かった機嫌が急降下した。

「はあ……ノックくらいしたらどうかな、偽物くん」
「写しは偽物じゃない、どうなんだ!」

 目を吊り上げて凄む国広を鬱陶しく思いながら、山姥切は軽く数時間前の事を思い出した。
遠征前に小腹がすいていた山姥切は、厨の冷蔵庫にプリンが入っていたのを見つけた。
山姥切はそれが国広の物だと分かっていたが、以前国広が山姥切が取っておいた饅頭を勝手に食べたのを思い出して、おかえしとばかりにプリンを食べて遠征へ向かったのだ。
なので山姥切は謝る事無く、逆にフンと鼻で笑って見せた。

「偽物くんがあんな所に名前も書かずに置いておくのが悪いんだよ。それにこの前、お前も俺の饅頭を勝手に食べたじゃないか。おあいこだよ」
「うっ……そっ、それでも今日は兄弟が作ってくれたのに!」
「食い意地の悪い偽物くんが悪いんだよ」

図星を突かれて国広は一度言葉に詰まったが、それでも納得がいかないとばかりに声を上げたが、山姥切はそれをバッサリと切り捨てた。
国広は一瞬悔しそうに唇を噛みしめて俯いたが、すぐに顔を上げてギッと山姥切を睨みつけて、彼に向かってビシリと指をさした。

「食い意地が悪いのはあんたもじゃないか!この前の夕餉の後のりんごも俺のから一つ取ったし、俺の食い意地はあんたに似たんだ!」
「……へえ?」

山姥切は今日一番の低い声を出して、国広の方へ真正面に向き直った。

「減らず口を叩くのはこの口かな?」
「いたっ…!」

口元は笑みを浮かべているけど目元は決して笑っていない、そんな凶悪な笑みを浮かべて山姥切は国広の片方の頬を思い切りつねった。

「いひゃい、いひゃいやみゃんばぎい!(痛い、痛い山姥切!)」
「大体あれは偽物くんが俺のから揚げを取ったからそうしたんだよ。自分の食い意地の悪さを棚に上げて、俺のせいにしないで貰いたいね」

かなり強い力でつねられて痛がっていた国広だったが、やられっぱなしで終わる彼では無かった。
キッと目つきを鋭くしたかと思うと、こちらも負けじと手を伸ばして、山姥切の両頬をつねり返した。

「ひょのことば、ひょっくりかえひてやる!(その言葉、そっくり返してやる!)」
「いだだだだっ!」

 互いに特でカンストをしているので、ちぎれる程痛い。
つねり合いはエスカレートして、そのままもつれあって床に転がった。
それでも怒りは収まらなくて、つねられたせいでヒリヒリする頬を押さえながら、山姥切はゆらりと起き上がった。

「……俺の頬をつねるなんていい度胸じゃないか。表へ出なよ偽物くん、今日こそ決着をつけてやる!」
「言われなくともそのつもりだ!!」

そう言われた国広も即座に立ち上がって、決闘に挑む勢いで大声で言い返した。
仲がいいのか悪いのか、真っ赤になったほっぺで睨み合いながら、ほぼ同じ歩幅で部屋の外へ出ていった。
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