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桜は何で色づくか

宴から数日、国広は乱達が言っていた、彼の濃く色づく桜を見てみたいと思い、山姥切の事を遠くから見ていた。
どうやら嬉しい時に出てくる桜は他の者と変わらないらしく、昨日燭台切から貰ったおやつを食べている時などは、淡い色の桜が数枚舞っていた。
それでも綺麗な事には変わりなかったが、国広が見たいと思っている桜ではなかった。
 戦っている時、もしくは誉を取って帰還した時だけ色が変わる桜。
どうして彼だけ桜の色が違うのか、不思議に思った者もいたが、にっかりや石切丸が見ても害もないし、綺麗だからいいだろうと言う結論になった。

 今日も山姥切は練度上げの為に出陣している。
それを「今日はあの桜を見る事は出来るだろうか」と、国広は門の近くの地面を箒で掃きながら、ぼんやりと時間を潰していた。
 しばらくそうしていると、門の方が騒がしくなったので、遠くから門が見られる場所へ足を運ぶ。
どうやら山姥切の部隊が帰ってきたらしい、大きな怪我も無いらしく、皆生き生きとした顔をしていた。
 その中で一際目を引いたのは、鮮やかな桃色。
どうやら今日の誉を取ったのであろう、山姥切の頭上からは、話に聞いていた色濃い桜が舞っていた。
桜が舞う中で部隊の仲間達と、穏やかな顔つきで話している彼の姿はとても美しく、国広は思わず胸に手を当ててその姿に見入っていた。

「お熱いねえ……視線の事だよ?」

 ふと声を掛けられて振り返ると、隣ににっかり青江が、いつもの怪しげな笑みを浮かべながら、箒を持って立っていた。

「あっちの掃除は終わったよ。彼の事を見ていたのかい?」
「ありがとう……そんなに見ていたか?」
「そりゃあ、あんなに熱烈に見つめていたらね。……ここからでも彼の桜は綺麗に見えるね」
「ああ」
「近くで見たいとは、思わないのかい?」

にっかりの問いに、国広はにっかりと山姥切を交互に見て、ハ、と息を吐く様に笑った。
それはにっかりを決して馬鹿にした訳ではなく、自分を卑下するような笑い声だった。

「俺がいると、きっと山姥切の機嫌が悪くなる。だから、今は遠くで見ているだけでいい」
「そうかい?」

 山姥切と国広の仲は、決して良い物ではない。
彼が顕現した時に、国広は審神者と一緒に立ち会った。
初めてこの本丸で山姥切に会った時は、とても嬉しくて、視界が少し明るくなった気分だった。
しかし、昔は「国広」と呼んでくれていたのに、彼は自分を「偽物くん」と呼んだ。
 演練や万屋で噂に聞く、審神者が山姥切を冷遇する様な事は無く、この本丸の主はしばらく様子を見る姿勢を取った。

 山姥切は国広への当たりが強いが、それ以外はとても人当たりがいい刀だった。
他の者への手伝いも積極的に行い、政府にいた事もあって、デスクワークにも通じており、審神者の書類作業を多く手伝う長谷部にも重宝されており、本丸の面々にも早くに馴染んだ。
 好きな食べ物や天気の話でも、何でもいい、最初は話をしてみたいと、声を掛けてみたりもしたが、いざ彼を目の前にすると、何を話したらいいのか分からず、会話が上手く続ける事が出来ない。
 終いには「もういいかな?」と言って、彼は去ってしまうのだ。
山姥切からも顕現してすぐの会話以外、積極的に国広には関わろうとせず、今となっては連絡事項以外、会話をしていない有様だった。
 どうにかしたいとは思っていても、一向に策が見つからず、国広は正直困り果てていた。

「主に彼と一緒に出陣出来るように、頼んでみたらどうだい?」
「主に?」
「そうしたら、近くで見られるかもしれないし、彼と話せるかもしれないよ?」
「……決めるのは主だ、俺がどうにかできる物じゃないだろうな。今は短刀達の育成を主に行っているから、俺が出陣出来るかも怪しい」
「……確かにね」

 国広は随分と前に既にカンストを迎えていた為、最近はほとんど出陣していない。
体が鈍らないように、日々の鍛錬は欠かさず行ってはいるが、戦場での感覚が薄れてしまいそうで怖くなる程だ。
 修行には行きたいとは思っているが、今は初期刀を除く短刀達を優先して、修行に行かせているので、初期刀ではない国広が修行に向かう事ができるのは、随分と先の話になりそうだ。

「まあ。あまり思いつめず、気長に待てばいいんじゃないかな?無責任な言い方にはなっちゃうけどね」
「そうだな、ありがとう、にっかり」

そう言って笑った国広の笑顔は、どこかぎこちなく、少し寂しげにも見えた。
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