すべてを燃やして零に戻る
俺こそが長義が打った本科、山姥切。
監査官として向かった本丸で、倒れていたところを政府に保護されたらしい。
なぜ「らしい」と他人事な言い方なのかというと、目が覚めた俺には顕現してからの記憶が一切残っていなかったからだ。
政府の医療施設で目が覚めた俺は、一体何があったのか色々と質問されたが、たった今顕現したばかりだと思っていた俺には、何一つ答えられなかった。
その後政府で世話になっていたらしい役人が、俺の元へ駆けつけてきた。
その人の子は俺を見るなりボロボロと涙を流して、俺に抱き着いてきた。
どうやら政府にいた頃の俺は、俺の為に涙を流してくれる誰かがいた位には慕われていたらしい。
中々泣き止まない彼を、幼子にするように宥めながら、記憶を失うまでの俺は今までどうしていたのかを尋ねた。
彼の話によると、俺は政府の監査官として特命調査の任を任されてある本丸へ向かった。
しかしその後任務の期間が終わり、聚楽第への道を閉ざされた後でも俺からの報告が無く、連絡も一切取れなくなってしまったらしい。
その事を不審に思った彼らは、俺が向かった本丸へ何度も連絡を取ろうとしたが、その本丸の審神者から一方的に通信を切っていたらしく、返事は一向に返って来ない。
いよいよおかしいという事で、刀剣男士含めて何名かでその本丸へ向かおうとした所、堕神対策課から例の本丸に堕ちた刀剣男士の反応があると報告が入った。
慌てて部隊を編成してその本丸へ向かったが時すでに遅く、到着した時にその者達が目にしたのは、本丸が燃え盛る炎に全てを包まれて、大きな音を立てながら崩れ落ちていく所だった。
消火をする為に応援を呼んでも炎の勢いは止まらず、その場にいた者は成す術もなく呆然と炎が全てを燃やし尽くすまで、ただ見ている事しかできなかったそうだ。
一晩中かけて本丸を焼き尽くした炎は、明け方になってようやく鎮火された。
部隊がたどり着いた時は、酷く澱んだ空気と瘴気に満ちていたのに、いつの間にかそれは綺麗さっぱりと無くなっていたそうだ。
どうやら巨大な炎が本丸の浄化の役割を果たしたらしい。
その後安全が確認されてから、焼け跡となった本丸をいくら探しても報告に上げられた刀剣男士の姿はなく、焼けて何の刀だったか分からなくなってしまった無数の刀の残骸と、随分と小さくなってしまった審神者らしき無残な死体が発見された。
そして本丸から少し離れた木の下で、傷だらけで倒れていたのが俺だったそうだ。
手入れはすぐに行われたらしいが、高熱を出してしまった俺は三日間意識が戻らず、目を覚ました時には全ての記憶が無くなっていたという訳だ。
何故本丸がこのような事態を招いたのか、あの日本丸に何があったのか、手掛かりになりそうな物は全て灰になり、無事だった俺も記憶が無いという事で調べようがなく、結局捜査は数日で打ち切られてしまった。
つまり全ての真実は闇の中……いや、炎の中という訳だ。
それから俺は後遺症などが残っていないか念入りに検査されて、失った記憶以外は異常なしと診断された。
そのまま政府の刀剣として元の部署で働く事も出来たけど、記憶が無い俺を見て少し悲し気な表情を浮かべる人の子を見続けるのは忍びなくて、いっその事全く違う環境で一から始めたいと思った俺は、本丸への配属を希望した。
日常生活に戻る為のリハビリもこなしながら、何度かの面接や手続きを経て、政府が直接管理している本丸という条件付きではあるが、本丸への配属の許可が下りた。
そして今日が、その配属日だ。