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すべてを燃やして零に戻る



「あ……るじ……?」
「こいつが……こいつらが悪いんだ……毎日毎日成果ばかり求めてきやがって……どいつもこいつも俺を馬鹿にして……」

 主が部屋の真ん中で座り込んで、ぶつぶつと何か呟いているがそんな事は頭に入らず、俺はその向こうに倒れている刀から目が離せなかった。



何故。

どうしてこの刀がここにいるんだ。

夢にまで見たほど会いたくて、けれどこの本丸では絶対に会いたくなかった刀が、今自分の目の前に倒れていた。


 この離れに入れたのは本当にただの偶然だった。
今日のノルマを達成した事を伝えようとして、主を探していたらたまたま離れの結界が緩んでいる事に気が付いて、もしかしたら主はここにいるかもしれないと思った俺は、離れに足を踏み入れた。
そうしたら、この光景が目に飛び込んで来て、俺はその場に立ち尽くした。

ずっと昔に見た銀色。
あの綺麗な青は今は瞼の下に隠れている。
優しく微笑んでくれたあの顔は、汚い紫の痣と滲みだす赤い血に汚されていた。
仰向けに倒れた身体には、何処にも力が入っていなくて、完全に意識を失っている。

「あ……ああ……」

 ざわざわと腹の底から何かが這いあがってくる。
ずっと押さえ続けていた感情、ずっと言えずに蓋をしてきた事、頭をよぎってはその度にすぐに打ち消していた思い、その全てが俺の身体から出ていこうと暴れ出す。
それは駄目だと、いけない事だと、いつものように蓋をして押さえつけようとしたが、今回ばかりはとてもできそうにない。

 彼は、すごく綺麗な刀だった。
俺という付喪神が生まれて初めて「綺麗」だと思う事ができた物。
この先の見えない苦しみの日々の中で、束の間の夢に見る彼はいつも笑っていて、日や月の光に照らされて笑う彼はいつも綺麗で、何度会いたいと思った事か。
苦しみの中で彼の事を思い出すのは、自分の奥深くに隠していたとびきりの宝物を取り出しては眺める様な心地で、それにほんの僅かながら救われていた。

 ……それを、こんなになるまで痛めつけるなんて、あっていい筈がない。
彼が何をした、何を言った、そんな事は俺は一切知らない、知る必要も無い。
ずっと大事にしていた宝物が、汚い手で取り上げられて、酷く汚されてしまった。
その事が俺が今までずっと押さえつけてきた物に、限界をもたらした。

「あ……アア゛アアアッ!!!」

頭の奥でプツリと切れた音がして、目の前が真っ赤に染まった。

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