中学生
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「君がレイラですか。クフフ…。話に聞くとおり本当に美しいですね」
………だれ?
恭弥くんがいなくなって、マイカと竹寿司へと戻る。今日はカラッとした快晴だったのに、なんだか空気がどんよりぬるくなった気がした。
その人は瞬きをする間に現れたように、突然そこに立っていた。
わたしが美しいなんて当たり前のことを。これがパーティーだったらありがとうと返すところだけど、相手は怪しい知らない人間。顔は悪くないけど。
「ああ、失礼しました。僕は、六道骸です」
彼ははじめまして、と軽く頭を下げる。
ご丁寧にどうも、怪しい人。マイカの前に立って彼女を下がらせようとした。でも、マイカは動かなかった。
「…ムクロん?」
えっ?
「久しぶりですねマイカ。相変わらずかわいらしい。もっとも、こうして会うのは初めてですが」
知り合いなの?
「マイカ知ってる人なの?」
「…うん、たぶん」
「自信なさげですね、僕は君の知るムクロんで合ってますよ」
やっぱり、とマイカは下唇を噛んだ。
「君が紫雲のご令嬢なのは最近まで知りませんでしたがね。会えて嬉しいですよ」
「マイカは微妙な顔だけど?」
「僕は仲良くしたいと思っているんですがね。レイラ、君とも」
「わたし、素性のよくわからない人とは仲良くしないの」
「僕は先程も言いましたが六道骸という名前で、黒曜中学の3年生です。住居も黒曜です。後それから、そうですね。誕生日は6月9日、好きな食べ物はチョコレートです。……そんなに警戒しなくても危害を加えたりしませんよ」
腕を組み、片手を顔の前に考えるような仕草を見せたのでその隙に一歩下がると六道骸は言った。危害を加えるつもりはない?今までそう言ってスタンガンを向けてきた誘拐犯が何組いたことか。残虐な人間ほど紳士の仮面を被るのが上手いのよ。
「今日は挨拶をしに来たんです」
「あいさつ」
「そうです。近くに越して来たので」
「引っ越しのあいさつ」
「まあ、そのようなものですね」
六道骸は危害を加えるつもりはないと言って、それ以上近づいては来ない。
「一応、信じてあげる」
「感謝します、レイラ」
「何かされたらやり返せばいいだけだもの」
「何にもしませんよ」
「もし、仮に。あなたがマイカに何かするようなことがあったら…」
六道骸の目を真っ直ぐに見る。珍しいオッドアイ。
「わたしの動かせる全ての力をもってこの世の地獄に送ってあげる」
わたしの言葉に、彼はふ、と初めて本物らしい笑いを見せた。
「紫雲のご令嬢にそう言われると、こわいですね」
全然怖くなさそう、舐められてる。
うちの車のエンジン音が近づいて来た。
「また会いましょう」
最後にそう言って六道骸は現れた時と同じように消えた。
「マイカ今の人とどこで知り合ったの?」
「…夢の、中で」
夢……?
ユリの運転する車がわたし達の側で止まる。
「レイラ様、マイカ様。お待たせいたしました。…!」
車を降りてわたし達の側によったユリがハッとしたような顔をする。
「失礼」
何かをわたし達に振りかけるユリ。結晶がライトでキラリと光る。
「なっ何?」
「びっくりした」
「驚かせて申し訳ありません。塩です。お清めですよ」
邪気を感じましたので、というユリに鳥肌がたった。ちょっと六道骸!あなた幽霊じゃないでしょうね?
「クフフ。クハハ!たかが一財閥のお嬢様ごときが。地獄など見たこともないだろうに」
◇◇◇
マイカとの出会いは夢の中。精神世界にて。緑の生い茂る樹の下で彼女はしゃがみこんでいた。僕には泣いているように見えた。
『どうしました?きみ、大丈夫ですか?』
屈んで手を差し出した僕の手を、彼女は取らなかった。
次の日も彼女は膝を抱え込んでうずくまっていた。その日は鮮やかな花畑の上だった。
「また会えましたね」
彼女はやっとこちらを見上げた。
「不躾な質問ですが、昨日はなぜ泣いていたんです?」
彼女は花畑に咲いた花をぶちぶちとちぎって集めながらぽつりぽつりと話し始めた。
聞けば彼女はとある大企業の跡継ぎで、双子の姉がいて、その姉が熱を出して寝込んでいるそうだ。その姉は美しく気高くカリスマ性があって賢いと、とにかく姉を褒めちぎる。姉が大好きなのだという。でも、その姉は自分と違い身体が弱い。
「きっとママのお腹にいるときにマイカがレイラの栄養とっちゃってたんだよ…」
順当に行けば跡継ぎは才覚あるレイラだったのにと彼女は暗い顔で言う。
…恵まれた人間の恵まれているが故に生まれた悩みだ。姉妹愛はうつくしいがくだらない。しかし、大企業の跡継ぎならばいつか利用できるときが来るだろう。
マイカは姉が体調を崩すたびにここへ来た。話しているうちに、マイカが話に聞いた姉に劣るような娘ではないことがわかった。彼女もまた賢く、多才だった。それと共に彼女が大好きだという姉の話も聞いたが、僕には病弱故に甘やかされわがままに育った人間というイメージしか湧かなかった。僕が当主なら間違いなく跡継ぎにはマイカを推す。
「ムクロんはきょうだいいる?」
「いませんよ」
「そっかあ」
マイカはタンポポの綿毛を飛ばして遊んでいる。彼女は僕に興味があるわけではなく、会話のついでで聞いただけのようだ。僕の素性をマイカは知らない。
「私達ね、生まれる前から一緒にいたの」
ぶちっとまた綿毛を引きちぎる。
「でも、生まれてしまったからいつかさよならいなきゃいけない。普通の子たちより早く。私のせいで」
綿毛が風に流されて行く。