■2022/5〜の読み切りログ(ルシファー)

 今年もまた、この時期に人間界に来てしまった。
 いつかはやめなければと思うが、そううまくはいかないようだ。
『私が死んだらルシファーの中で生きることができるから死ぬのは怖くないんだけれど、こんな風に寝そべってるだけのところを見られるのは、ちょっと嫌だねぇ』
 そう言って笑っていた次の日、彼女の灯火は消え、そうして俺は宣言通り、彼女の一番美しい部分をこの身に取り込んだ。
 幾度となくさまざまな境目を乗り越えてきたが、この日ばかりは慣れるものではないなと自嘲する。 彼女はこんな、抜けるような青空の元に生まれたのだろうか。
「悪魔には関係のないことだな」
 随分と魔界に入り浸っていた彼女の墓には誰も訪れることはないようで、いつもこの日に、俺が綺麗にして俺が育てた薔薇を手向けている。まるで”人間”がそうするように。
「俺が死んだところで、おまえの隣にはいけないんだろうな」
 きっと彼女は天界にいるだろうから。俺はそこにはいけるはずもない。最初からわかっていることだ。ならば永遠に長い刻を、ずっと生きてやろうと決めた。
「また、来るよ」
 ぽん、と墓の十字架に、手袋を外して、手のひらをつけた。
 彼女の髪を撫でる、あの感覚を思い出しながら。

『また、って言いながら年に一回しか来てくれないじゃん、ケチ』

 そんな声が聞こえたような気がして、見上げた場所には、ただただ、青色が広がるのみ。少し考えて、込み上げてきたのは微笑みだ。
「そうだな。たまには別の日に来るよ。デモナスと、それからーーせっかくだから兄弟たちも連れて、な」

 その呟きに、ふわりと風が吹き抜けた。
 まるで、彼女が笑っているかのようだった。











ルシファーへ
ルシファー、今日はどんなことがありましたか。また、兄弟が何かしでかして眉間にシワを寄せているのかな。実は私は、あのやりとりを見るのもすきでした。なんていったら、怒られるかなぁ。

……言いたいことがありすぎて、どう表現すれば適切かわからない。けど、やっぱり、これにつきるんだよ。
私を留学生にしてくれてありがとう。
私と出会ってくれてありがとう。
私を一番そばに置いてくれてありがとう。
私を、あいしてくれてありがとう。
最期を見届けてくれるのがルシファーで、よかった。

ここ数日、起きているのか寝ているのかよくわからないながらにも、ルシファーと手を繋ぐ感触ははっきりと感じ取れていたよ。

これから私はルシファーの中で生きるんだよね。なんか不思議!でも全然怖くないよ。

ずっと見てるから、幸せになって。

ルシファー、愛しています。
ありがとう。

おやすみ。
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