お願い!マイヒーロー!

「で、なんもできなかったわけ」
「はい!」
「…っ…そう、ですね…」
「はぁ〜」

翌日早朝。
大きな声が響いた寮長室に飛び込んだフロイドが見つけたのは、ベッドから転げ落ちておかしな格好をしていたアズールと、ベッドの上でキョトンとしている女だった。
そのまま部屋の椅子に座って、ぶつぶつ不満をぶつけるフロイド。その後ろにはつやつやしたジェイド、そしてその腕の中にはぴぃが。

そう、結局あのまま何もできず寝てしまったアズールと彼女二人は、今の今まで寝こけていたのだった。

「アズールさん、大丈夫よ!私が何かしなくても、ほら!こんなに光線銃にパワーが溜まってるから問題ないわ!ジェイドさん、ぴぃちゃん、ありがとう!」
「御礼を言われるようなことはしておりません」
「ぴぃ!」
「まぁそれに関しては〜オレも久々に一人部屋でめーっちゃのんびりできたからいーけどさーぁ」
「今のところはぴぃちゃんのパワーでも十分すぎるほどだから、私のことは置いておいて構わないのよ。アズールさん、頑張ってくれてありがとうございました」
「えっ、」
「あは。アズール見限られてやんの」

ペコリとお辞儀から体勢を立て直したところで、シャワーを浴びたいのだけど宇宙船に戻ってもいいかしら、と女が申し出るので、一人で戻るのは推奨できないからこの部屋のを使えと全力で止めたアズールは彼女を寮長室のシャワールームに押し込んでそのまま床に座り込んだ。

「…はぁ…。僕は本当に…」
「まぁまぁ。まだ一日目ですから焦らずいったらよいのでは?彼女もああ言っていることですし」
「ジェイドに言われたくないんですよ…」
「ま、無理になったらオレが引き継いでやるからさ〜。アズールはオオブネに乗った気でいなよ」
「フロイドに任せることがないようにがんばりますよ」

こうして早くから目が覚めた一向は準備をするとぞろぞろと朝食を作りにモストロ・ラウンジに向かう。幸いオクタヴィネル寮にはこのラウンジがあるために食糧難になってはいないが、それもこれだけの数の寮生を前にしては限られた時間のことになるだろう。
食べ物を揃えてラウンジに集まったアズール、ジェイド、フロイド、そして寮生一同、ならびに女とぴぃは、本日からどう過ごすかを話し合うことにした。

「それで?今日はどうするおつもりで」
「はい、今日はせっかくこれほどのパワーが溜まったので、PYOMAの様子を見に外へ出たいと思っています」

その言葉にザワっと空気が揺らぐ。
彼女の言葉を信じるならば、彼女はPYOMAを倒すために外へ出るべきなのだろう。しかしこんな、見た目はか弱い、しかも少し頭の弱そうな女子を一人で、荒廃してしまったNRCを探索しに行かせるのか?と。
仮にも慈悲の精神をモットーにするオクタヴィネル寮生は、根本的なところで優しい者が多かった。ただし、慈悲の精神は自己責任の上に成り立つものであるため、もしかしたら死と隣り合わせとなるかもしれない地上での作業に進んで「同行したい」と申し出るものがいないのも仕方のないことだ。

「お静かに。皆さんは寮内での作業に徹して頂くので問題ありません。地上のことだけでなく食糧の問題も気になりますし、僕も今日は外に出るつもりでいました。彼女には僕がついていきます。ジェイドは万が一僕に何かがあったときに指揮を任せたいのでここに残ってください」
「わかりました。ぴぃさんはいかがしますか?」
「ぴぃちゃん自身は攻撃したりはできないから、いつも宇宙船でお留守番してもらってたの。だから今回もそうできたら助かるわ。ジェイドさん、お願いしてもいいかしら」
「もちろんです」
「ぴぃ!」
「オレはぁ?」
「フロイドはできれば僕と地上へ来てもらえたらと思いますが、好きにしてもらって構いませんよ。お前は自由にしているときが一番実力を発揮できるからな」
「おっけ〜、じゃあオレも地上行く〜」
「わかりました」

寮長権限とでも言おうか、アズールの一存で全てが決まり、呆気なく話し合いは幕を閉じた。

腹ごなしが終わって少ししてから、出かけるメンバーは寮と鏡舎だったものを繋ぐ鏡の前に並ぶ。

「それではいってきます」
「いってくんね」
「フロイド、アズールをよろしく頼みますね」
「オレに任せとけってジェイド〜」
「失礼な!僕だって自分の命くらい自分で守る!」
「大丈夫ですよー、アーマースーツもありますし!」
「っちょ…!僕はこれがなくたって全然っ」
「まーまーとりあえずいこーねアズール」
「話はまだっアッ!」

暴れるアズールの背中を押しながら、続け様にシュンと消えていった三人を見て、ぴぃが心配そうな声をあげたので、ジェイドがぴぃをぎゅっと抱き直しながら言った。

「ああは言いましたが、アズールも並大抵の魔法士ではありませんから心配はいりません。三人はきっと無事に帰ってきます。心配はいりませんよ」
「ぴぃ…」
「ええ、もちろん問題ありません。…さぁ、僕らは彼女らが戻ってきたときにおもてなしができるように今からやることがたくさんですよ。ぴぃさんも手伝ってくださいますか?」
「ぴぃ!」

見送る側の心の変化もまた、ひとしおなのは、見送られる側は案外知らないことだった。
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