お願い!マイヒーロー!

「…」
「……」
「…………」
「あの、アズールさん?」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
「はぁ…そうですか……」

寮長室に戻って一時間ほど経ったろうか。
二人の様子はずっとこの調子である。
ベッドの上で正座し、向かい合ったまま、かち、こちと時だけが過ぎていく。

スケベパワーを貯めるには、御察しの通り相応のコトをシなければならないわけだが、そんなことをアズールが、初めて会った女子に対してできるわけがなかった。
行為の内容を詳しく知っていればこそ、余計にできるわけがない。
その間にも、女の光線銃にはぐんぐんスケベパワーが溜まっていたので、どうやらぴぃとジェイドはうまくいっているようだ。
それを考えれば、今日の今日でアズールに何かしてもらって試す必要もさほどないのだけれど…と思うも、目の前のアズールは百面相をしながら『あーでもないこーでもない』と頭を悩ませている最中なので、そんな風に声をかけるのも気がひける。

(今頃ぴぃちゃんはジェイドさんにスケベなことされてるのかぁ。ありがたいなぁ。やっとぴぃちゃんのことを思ってくれる人ができたなんて。ここに来れてよかった)

こうなったら目の前の人のことを考えるのはやめよう、と、遠い目をしながら女が意識を飛ばしてしばらく。揃えられた足の上に乗っていた両手をガッと掴まれて、あら、と意識を戻された。

「あのっ!」
「あ、覚悟決まりました?」
「えっ、ええ!あ、あな、貴女は、僕で、いいんですかっ!?」
「へ?ああ、そうですね、私は別に誰でも良いので」
「そ、そう…ですか…」

ガクッと肩が落ちたアズールを見て、女の中にもちょっとだけ可哀想な気持ちが湧いてくる。
女はこれを通してただ単に実験がしたいだけだったので、正直なところ、フロイドが相手でもアズールが相手でも良かった。けれどこんなに必死で自分のことを思ってくれるアズールに対して何の感情もわかないわけではない。

「アズールさん」
「…はい…なんです?」
「あのね、私、最初提案された時はスケベパワーが貯まるかどうかわかればなんでも良かったので、相手が誰でもいいかなって思ってたんですけど」
「そうなんですね…」
「でも、こうやって色々と私のこと考えてもらってると、貴方が相手でよかったなって、思えます」
「へ!?」

にこ、と笑った女を間近で直視し、女性に慣れていなかったアズールの純情はいとも簡単に制覇された。
ボンっと顔から火を出して、声にならない声を上げる。

「そ、あっ、な、」
「なので、じゃあ、まずは脱ぎましょうか」
「はぁ!??!?!?!?!?」
「脱がないと始まりませんもんね。よいしょ」
「ちょっと待ちなさーーーーーーい!!!!!!」
「わぁ!?」

なんの前触れもなく、自分の服に手をかけて胸元をはだけさせようとする女を見て、そんな心の準備はまだできていないとばかりにアズールは女に飛びかかる。

ぽすん、

気づいた時には、アズールの下に女がいる状態であった。
パチクリ。
瞬きを何度繰り返そうと、女の瞳に映るのは、カチカチに固まったアズールの姿と、天井だけ。
両手はアズールによって拘束されているので、動くことはできない。

「………」
「……」
「…………」
「あの、えっ!?」

プシュ、と音がしたかと思うほど、突然アズールの力が抜けて、女の真上に落ちてきた。

「アズールさん!?アズールさーん??」
「……」
「あら…気を失っちゃったみたい?」

オーバーヒートしたアズールの脳は停止を決め込んだようだ。
首元にかかる吐息と頬を掠める柔らかい髪の感触に、ふふっと微笑みを漏らしながら女はアズールをよしよしと撫でた。

「私がスケベパワーを貯められる日は遠そうね。でも、うん、なんだかいい気分だわ。とっても暖かいのね、人って」
「…う、ぅん……ぼく、は…ぅ…」
「……!起き……てない、かな……?今日は私も色々あったし、このまま寝させてもらおうかな」

そう呟くと、ぎゅっとアズールを抱きしめて、女も瞼を閉じた。
夜はこうして更けてゆく。

翌日目が覚めてから何が起こるのかなんて、誰の目にも明らかだった。

「ぼ、ぼ、僕はなんてことをーーーーー!!!!!!!!!!」

寮長室に響き渡る大声に彼女が起こされるまで、あと数時間。
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