このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

第一章:独りきりの二人の旅立ち - 七節綴文編

第3話:最初の一歩

 蜜柑を一つ食べきり、もう他に話すことはないのかと爺さんに視線を送ると、何故かパァッと明るい笑顔を見せてくる。
 今回の事が無かったら、普通に「可愛いなこの爺さん」とか思ってたんだろうな。

「さて、これから話す事が最後じゃ。これから転生する、其方の種族【人族】についてじゃ。【地球】とは大きく異なる部分があるのでな、しっかり記憶してほしい」
「同じ人間なのに、そんなにも違うものなんですか?」
「まず、その【人間】という言葉の意味が違うんじゃよ」
「どういう事ですか?」
「そもそも【人間】という言葉に【人】という意味を持たせたのは、其方等の祖先なんじゃよ。じゃから、アノニームでは本来の意味である【世の中】とか【人の世】という意味で使われておる」
「そんな所から違うんですね……」
「【人】という言葉も、種族的な意味での【人】とは違うんじゃ。エルフでもドワーフでも【一人】というし、『この人はエルフのナントカさん』と言うしの。種族的な意味で呼ぶ場合は【人族】じゃな」

 こんな具合で、【地球】とアノニームでの言葉の意味の違いや、使い方の違いをレクチャーされた。思った以上に量があって、軽い授業のようになっていた気がする。
 そして、言葉講座が終わりお茶を啜ると、本当の意味での【人族】の違い講座が始まる。

「これから話すのは、価値観や認識の違いもある内容なんじゃが、心して聞いてほしい」
「は、はい……」

 すごく真剣な顔をしている。いったいどれだけ重い話しなんだろうか。

「アノニームには【種族特性】というものがあっての、種族毎に固有の能力が備わっておる。エルフが【膨大な魔力】と【長大な寿命】を持っておるのも【種族特性】じゃな」
「私のイメージと大きな違いは無いと言ってましたが、本当にイメージ通りなんですね」
「そうじゃな。さて【人族】なんじゃが、二つの【種族特性】を持っておる。一つが【血半けっぱん】、もう一つが【性別変化】というての」

 性別変化……もう名前からして嫌な予感しかしない……。

「【血半】は、他種族との間に子が成せる特性じゃ。生まれる子は必ず血の濃さが半々となって、所謂【獣人】や【亜人】と呼ばれる存在になるんじゃ」
「なんでそんな特性が付いたんですか……」
「種族繁栄のためと聞いたがの。ちと複雑な特性なんじゃが……」

 どうやら、人族の血が混ざっている限りこの特性は引き継がれるようだ。その場合【種族特性】から【スキル】に置き換わるらしい。
 血の濃さも関係があり、片方の血が【五パーセント】を下回ると、もう片方の血に侵食される。侵食されると、残った方の純血が生まれるんだとか。

 例を上げるならば次の通りだ。全て、生まれた子が狼と子を成した場合を提示する。
 人族五十対狼五十、二十五対七十五、約十二対約八十八、約六対約九十四、零対百
 最終的に人族の血が五パーセントを下回ったため、百パーセント狼の純血が生まれることになる。

 その昔、この【血半】が大きな問題となり、複数の種族の血が混ざった子が生まれた事があった。その子は理性を喪失した【混獣キメラ】となり、世界を危機に陥れたらしい。
 今では世界協定で『意図的に複数の血を混ぜる事は死罪』とされており、アノニーム全土で固く禁止されているようだ。

「次に【性別変化】なんじゃが……其方は【同性愛】についてはどう考えておるかの?」
「う~ん……私はべつに興味無いですね。『好きな人が同性だった』というだけですし、当人同士が良ければ、それで良いかと」
「なるほどの。この特性は、人族同士の性交時のみ発動する物での、【男役】と【女役】に身体が変化する場合があるんじゃ」
「身体そのものが変化するんですね……。てっきり生えたり無くなったり程度かと……」
「その表現は逆に生々しい気がするんじゃが。……女同士の場合片方が【男役】になり、男同士はその逆じゃな。この特性が存在するせいか【同性愛】という概念は存在せんのじゃよ。皆普通の事じゃと思うておる」

 この特性は発動条件が決まっており、女が心の深いところで『父になりたい』と思っていないといけないらしい。所謂、深層心理というやつだ。
 同性同士だけでなく、異性同士でも発動条件が一致すれば、性別が逆転することも少なくないようだ。
 そして、お互いが子を成したいと心の深いところで思っていないと、絶対に子は成せないそう。逆にお互いが思っていれば、百パーセント子が成せる。

 また、いざ行為という時に、変化後が同性になる事も当然ある。基本的に種族を絶やさない事が本能に刷り込まれている為、破局する場合が殆どなんだとか。
 逆に快楽目的で続く場合もあるが、【快楽目的】という点で嫌悪する人達も少なからず居るらしい。

「なんというか、ぶっ飛んでますね、人族」

 どうしても【地球】での常識が理解の邪魔をする。まあ当然と言えば当然なのだが……。全てを飲み込むのには時間がかかりそうだ。

「気にする事はない。全ての者が受け入れてるわけではないのでな。中には【身体が異性に変化する】というのを受け入れられず、生涯独り身を貫く者もおるんじゃ」
「あ、そうなんですね。安心して良いのか分かりませんが……安心しました」
「ほっほっほ。そんな種族なもんでな、徐々に慣れてもらうしかないじゃろうな」

 この特性が全ての人族にあるなら、きちんと飲み込む以外ないだろうな……同じ特性を持つ事になるわけだし。
 話が一区切りし一息ついた時、綴文の身体が仄かに光り始めた。

「おや、そろそろ転生の時間のようじゃな……」
「いよいよですか」
「分からぬ事も多いじゃろうし、不安ばかりじゃろう。しかし、自由気儘に歩み、思った通りに行動し、良いと思った事を広めてくれればそれでいいからの」
「はい……。まずは【料理】を広める為に、拠点としてお店を持つ事を目標にしようと思います」
「それが良いじゃろう。無理せず頑張っておくれ。……そうじゃ、一万ルピスほど入った金袋をポケットに入れておくからの、活用しておくれ」

 爺さんがそう言うと、【前進の神】がふんわりと抱きしめて「応援してるからな……」と言ってくれた。
 隣で【嫉妬の神】も「わ、私も見守って……ます……」と、両手をグッと握って応援してくれている。
 応援してくれる気持ちがただただ嬉しくて、また泣きそうになるが、なんとか堪えた。

「なんだか、寂しいですね……もうお別れかと思うと……」
「大丈夫じゃよ、儂等はずっと見守っておる。どんな時も一人ではないと覚えておいておくれ」
「ありがとうございます。……ちょっと安心できました」

 自然と笑みと涙が零れ落ちる。せっかく堪えたのにな。
 そして、足の方からゆっくりと消え始めたようだ。

「そうじゃ、其方は「げいむ」で分身を作る時、白髪紅眼によくしておったようじゃし、憧れておるんじゃろう? 転生後の姿も同じようにしておいたぞい」

 ニッとサムズアップして、最後の最後にとんでもない爆弾を投下してきやがった。

「えっ! ちょっ! それは!」
「達者での~~」
「こんのクソジジイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!」

 消える瞬間、神さま達の孫を見送る時のような微笑みで手を振る姿が見えた。
 そして汚い言葉が木霊し、光の粒が弾けて消え去ったのだった。


 ――七節 綴文の転移が完了しました


 視界が真っ暗だ。最近見た展開っぽくてちょっと不安になる。ゆっくり目を開けると、小高い丘の上に寝そべっていた。
 良かった、また真っ白だったらどうしようかと思った。

 優しい風が頬を撫で、自分の半分くらいの高さはあるであろう青々とした草が静かに揺れる。
 上半身を起こして辺りを見回すと、丘を下った辺りに道があるようだ。
 しかし、この爽やかな風が心地よく、久しぶりに感じる空気に浸りたくて再び寝転ぶ。

「本当に新しい世界に来たんだな……私……」

 空を見ると果てしない青が広がっている。そして、風に揺れる髪の毛が視界に入ってくる。

「しっかし……本当に髪が真っ白になってるよ……。可愛い女の子が白髪なのが好きなんであって、私がってわけじゃなかったのに……」

 深く溜息をつき「もう遅いか」とすぐに諦め、ひとまず近くに寝れる場所がないか探そうと決めた。
 まずは情報収集、これ大事。
 神さまにも宣言した通り、お店を出すのに適した場所がないかも探さないとね。

「やる事は多いけど、無理せずゆっくりいきますかね」

 勢いをつけて立ち上がり、伸びをして軽く気合を入れる。
 今日私は、新しい命と共に新しい世界に降り立った。
 どんな運命が待っているか分からないが、期待と不安を胸に、新しい夢への第一歩を踏み出した。


――神界――

「クソジジイって言われた……クソジジイって……」

 【輪廻の神】が四つん這いになって落ち込んでいる。

「自業自得じゃないッスか。最後の最後に余計な事したんッスから」
「そ、そう……思います……」

 立ち直るのにそこそこ時間がかかったようだが、綴文が知る事は無い。


ようやく新しい世界に降り立ちました。
ここから設定を固めつつ執筆をしていくので、投稿後に加筆修正をする事が多くなると思います。
予めご了承下さい。

○七節 綴文プロフィール
3月17日生まれ、魚座、A型
140cm 36.5kg→14cm 365g
B63AA W49 H67→B6.3AA W4.9 H6.7
肌色:雪のように色白
髪色:光の加減で茶に見える黒→白
眼色:黒→赤
性格:自由奔放、変な所で真面目

どう見ても小学3・4年生だが、正真正銘の18歳。
身長や胸にコンプレックスは無く、高身長や巨乳アピールをする女性には、心の底から無関心。

普段からボーイッシュでラフな格好が多く、スカートよりパンツの枚数の方が多い。
あまりダボっとしたものは好きではなく、モノトーンや赤を好んで使う。

外見にコンプレックスが無い事や、好みの服装にも影響が出ているが、料理人に男性が多い事から、男に生まれたかった願望がある。
しかし、女としての自分が嫌いなわけではなく、あくまで願望があるだけ。

得意科目は化学と数学で、どちらも料理に密接に関係しているという理由から好きになった。
趣味は料理研究と調理、食物の栽培・飼育・製造について調べ、料理に活かす事。
特技は暗算、あらゆる化学式の暗記、手に持った物の重量を±5gの精度で言い当てる事。
大の猫好きだが、人目がある場所ではそれを頑なに隠しているため、それを知るのは本人と両親だけ。

小中と普通の学校に通っており、成績も平均以上を維持していたが、運動も勉強も特別天才と呼べるものではなかった。
しかし料理に関しては小学校高学年から才能の片鱗を見せ始め、中学に入り、自分から両親に教えを請うた。

理科の実験中に先生の言葉を無視して薬品を混ぜ、小さな爆発事故を起こし「実験は料理と似ているから好き」とケラケラと笑っていたという。
反省はしているが、懲りてはいないようで、その後の理科の実験時は必要以上に監視されていたとか。

中学も折り返しを迎える頃には、調理技術が高すぎて調理実習には参加させてもらえず、各班へのアドバイスや味見役を任されていた。
家庭科の先生からは「良い奥さんになる」と言われたが、料理以外に興味が無いために苦笑いしか出来なかった。

卓越した料理センスは18歳とは思えない程高く、某有名レストラン評価本に載る複数の料理店から誘いが来るほど。
食物の知識にいたっては、料理の腕や味・レシピ考案を支えるように、深く広く根を張っている。
3/7ページ
スキ