第6界層 〜蛙鳴蝉噪なる罪過の湖〜
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___翌日。
体力測定も無事終わり、いつものようにリハビリをこなす。
そこには私と医師だけでなく、エステルやフレン、ユーリも一緒に私のリハビリに付き合ってくれていた。
それがどんなに心強いか…。
『付き合わせてしまい、申し訳ありません。』
エステル「何を言ってるんですか!こうやって一緒にいれることが大事なんですよ! そうですよね?ユーリ、フレン?」
ユーリ「あぁ、そうだな。」
フレン「そうですよ、メルクさん。そんなに気になさらないでください。これも市民を守る騎士の勤めですから。」
『ありがとうございます。皆さん。』
今日も今日とて、海風が強いカプワ・ノール。
私が吹き飛ばされないよう、医師とエステルが手を繋いでくれるので安心して今日もリハビリに励める。
私は再びお礼を言って、リハビリに励もうとしたその時───
「もし、そこの方々。」
白装束の人が柔らかな笑顔を浮かべ話しかけてきた。
それにユーリだけが怪訝な顔で反応をする。
他の人は不思議そうな顔で白装束を着た女性を見ていた。
「あなた方もユグドラシル教に入りませんか?」
『ユグドラシル教……?』
エステル「聞いたことがない宗教ですね?」
「最近出来たばかりですから無理もありません。ですが、ああやって〈
フレン「その、ユグドラシル様というのはどなたなんですか?」
フレンがそう聞くのを私は俯いて聞いていた。
ユグドラシルと言えば、あの白い空間でいつも私のことを「私の神子」と言っていた女性だ。
それがこんな宗教までやっていたとは驚きだった。
「ユグドラシル様はこの世界を救ってくださる神の名前です。この腐り切った世界を矯正されるお方です。…で、どうでしょうか?入ってみられませんか?」
エステル「えっと…。」
ユーリ「勧誘なら他を当たってくれ。今はリハビリで忙しいんでね。」
「そうでしたか!大変失礼しました。リハビリ頑張って下さいね。あなた方に、ユグドラシル様のご加護がありますように。」
白装束の女性は私達に手を合わせ祈るとすぐにその場を去っていった。
拍子抜けだったのか、フレンとユーリの顔には僅かに驚きを含んでいた。
フレン「もう少ししつこい勧誘かと思っていましたが、あれくらいなら良い宗教団体ですね。」
エステル「その甲斐あってか、最近ではいろんな街で白装束を見かけるようになりましたよね…?」
ユーリ「あんまり信用しない方がいいと思うぞ。ああいう手合いは、急に逆上してきたりするもんだからな。」
エステル「ユーリ、物騒です。」
ユーリ「本当のことだろ?」
医師は話に参加せず、何かを考え込んでいる様子で、口元に手を当てては「ふむ」と呟いていた。
それを見て私も道行く白装束の人たちを見る。
他の一般人と変わりない様子で歩いている白装束の人たち。
時に笑い、時に呆れ、時に泣いている様子なので、あの異様な白い装束の姿以外では普通の人のように思えた。
強いてあげるならば、時折、色んな人にユグドラシル教に入らないか、と勧誘しているようだ。
『ユーリが言うなら気を付けてみようかしら。』
ユーリ「そうしてくれ。」
「それはそうと、皆さん。今日は外食でもどうですか?」
エステル「たまには良いですね!いつもメルクにばかり料理して貰っていたので、たまには休暇らしく休んでもらいましょう!」
『あらあら、ふふ。お気遣いありがとうございます。』
味が分からずとも、以前の様に作れば味は変わらないのだ。
時折ユーリも味見をしてくれていたから皆に味覚障害がバレることもない。
安堵しながら私は医師の提案を呑むことにした。
───その時の私は気付かなかった。
周りに居た白装束の人達が私を見てヒソヒソと噂をしていたことに…。
。+゚☆゚+。♪。+゚☆゚+。♪。+゚☆゚+。♪
___外食後のリハビリ再開中
外食も終えた私達は再びリハビリに励んでいた。
飽きもせず私に付き合ってくれる3人に本日何度目かのお礼を言った後、医師とエステルの手を繋ぎ街中を歩く。
エステル「海風が相変わらず強いですね。」
「女性二人でも飛ばされそうなほどですから、お二人とも充分に注意して下さい。」
「『はい。』」
心配してくれる医師を見て大きく頷き、私は隣に居たエステルを見つめる。
するとエステルも微笑んでこちらを見てくれるので二人してその場で笑い合った。
「……お前、フレン・シーフォだな?」
急に男の低い声がしたかと思えば、それは突然訪れた。
フレンが危機を察知し剣を取った瞬間、白装束を着た男の人が手持ちの剣でフレンの心臓を狙っていた。
軽く準備していたユーリによって、その男の人の剣は弾き飛ばされていく。
ユーリ「おいおい…。お前、恨みを買うようなことでもしたのか?」
フレン「いや…この人は初めてだと思うが…?」
「俺は…」
白装束の男がギロリとフレンを睨む。
「俺は、王族や騎士ってやつが大っ嫌いだ!市民が苦しんでいるのに何もしやがらねえ!そんな騎士団が大っ嫌いだったよ!!」
そう言って、男は再び剣を振り翳しフレンを攻撃しようとする。
しかしフレンによってその剣は軽く往なされてしまう。
フレン「ユーリ。エステリーゼ様を頼む。」
ユーリ「はいはい…。」
ユーリがエステルの手を引き、逃げていく。
そして私達を振り返り、ユーリが顎で合図する。
「…どうやら私達がここにいては彼の邪魔になるようです。ここは彼に従って動きましょうか。」
『分かりました。行きましょう!』
医師と共に動き出した私だったがその足はすぐに止まることになる。
何故なら、他の白装束の人達に囲まれてしまったからだ。
ユーリ「っ?!(狙いはフレンとエステルだけじゃないのか!)」
『???』
「(これは…まずいかもしれませんねェ?)メルクさん、急いで抜けますよ。」
『は、はい!』
しかし私達が逃げるより先に、白装束の人達が懐から白い鎖を取り出す。
その白い鎖を白装束の人達が投げると、あんなにもバラバラに投げられていた鎖が何故か私の方へ向かってきた。
そしてあっという間に私に絡みつき、腕ごと身体を拘束された私は悲鳴を上げた。
『きゃあああ!!』
「「「「?!!」」」」
この鎖に縛られても、痛みはない。…来るはずもない。
なのに何故か、この鎖が巻き付くと全身の力が抜けていく。
私は堪らずその場に崩れ落ちそうになり、それを慌てた様子で医師が抱き止める。
「メルクさん!?」
『お医者、様…。なぜか…チカラ、が…抜けて…いきます…。』
ユーリ「っメルク!」
エステルの手を離し、こちらに向かおうとしたユーリだったが、行く手を遮られてしまう。
それに怒りを表したユーリは武器を手にして白装束の人達に向かっていった。
ユーリ「退けっ!」
エステル「メルク!今助けます!」
エステルまでも私を助けようとしてくれ、拘束された鎖を私が解けずにいると医師が白装束の人達を掻い潜り、鎖を解こうとしてくれた。
だが、男の人の力を持ってしても解けそうにない鎖に、私はそのまま俯く。
「大丈夫ですから、どうか顔をあげて下さい。メルクさん。」
『お…医者、様…。』
「器具さえあれば、こんな鎖簡単に取れますから。ですから落ち込む必要はありません。」
『ありが、とう…ございます…。』
「(だが、何故この鎖はメルクさんに反応を…?それにメルクさんも力が抜けると言っていますし、何かこの鎖に施されている可能性がありますねェ。少々厄介です。)」
鎖を解くのを諦めた医師はそのまま拘束された私を横抱きにすると、自宅兼仕事場である建物に帰ろうとした。
「そこのお方、瑠璃色の少女を渡しなさい。」
白装束の女性が医師へそう話す。
それを聞いて医師も私も首を傾げさせた。
“瑠璃色の少女”?
「これもユグドラシル様と神子様の為なのです。神子様のお身体を治すのは、そこにいる瑠璃色の少女でしか出来ないのです!ですから瑠璃色の少女を渡しなさい!!」
「(神子…?神子はメルクさんのはずですが…?)」
『(どういうこと、でしょうか…?神子は私の、はず…なのに…。)』
二人して疑問を浮かべていれば、周りの白装束は医師に向かって襲いかかってくる。
否、医師に向かってではなく…メルクに向かって手を伸ばしていた。
それを上手く掻い潜った医師はすぐさま仕事場へ引き返す。
……遠くで「ナイスだ!」というユーリの声が聞こえた気がした。