第6界層 〜蛙鳴蝉噪なる罪過の湖〜
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___イリキア大陸、港の街カプワ・ノール
そこには港町ならではの賑やかさがある。
盛んな港町で、街の特産は勿論魚である。
海近くにある
「いらっしゃい、いらっしゃい!!!今日も活きがいいよ!!」
いつものお決まり文句に誘われるように観光客が集まってくる。
暫しの休暇を取る事になったメルク達もまた、そんな観光客に紛れて卸売り場へとやって来ていた。
カロル「うわぁ!活気があるね!」
『どれも美味しそうな魚ね…!』
海辺の近くは風が強いため、ユーリがメルクを支えながら横に居た。
そんなユーリもメルクの嬉しそうな様子に笑顔を零していた。
実は休暇を取ることになった理由として、仲間たちが内々で話し合っていたのだ。
このままではいつかメルクが敵側に行くかもしれない、と。
危惧していた事態が意外と近くにある事に気付いた皆は、メルクとの信頼関係を築くため、こうして休暇と称してメルクへと休むように提案していた。
筋力がまだ戻っていなかったのもある上、医者からも休暇とリハビリを兼ねて休むようお勧めされ、メルクは二つ返事でそれを受け入れたのだった。
そんなメルクはカロルとユーリ、そしてエステルと共に今日の夕食用の魚を選ぼうと卸売り場へと来ていた。
エステル「何だかこんなに魚を見ていると、お腹が減ってきそうです…。」
ユーリ「ははっ!食い意地の張ったお姫様だな?」
エステル「し、仕方ないじゃないですか!美味しそうなのがいけないんです!!」
カロル「でも、ここカプワ・ノールの魚は何処の魚よりも新鮮で美味しいって話題なんだよ!エステルの気持ちも僕は分かるよ!」
『そうなのね?でも、沢山ありすぎて迷っちゃうわ。』
カロル「お店の人に聞いたら美味しいやつ選んでくれそうじゃない?ちょっと聞いてみない?」
カロルが先行してお店の人に聞きに行ったので、私達はその後を追いかけ耳を傾ける。
折角なら美味しいやつを皆に振る舞いたいものね?
カロル「おじさん!美味しい魚選んでよ!」
「お!ここを選ぶとは見る目があるねぇ!坊主!よっしゃ見繕ってやるよ!何個必要なんだ?」
カロル「えっと、皆の分合わせて……10個!」
「あいよっ!」
私達が近くに寄る頃には店の人が何個か見繕ってくれているところで、私は他の魚にも目を向けていた。
色とりどりの魚がいて、果たしてそれが美味しいのか気になってしまう。
でも、今の私に味覚がないから…………少し残念に思えてしまう。
『……美味しいと良いわね?カロル。』
カロル「うん!メルクが作ってくれるでしょ?なら安心して食べれるよ!あの医者が作ったやつだと……ほら、なんか入れてそうで怖くない?」
エステル「え?何かって、なんです?」
カロル「ほら、なんかヤバい薬品とかさ?」
『あらあら、まぁ。だったら私も一応薬剤師なのに、それは考えないのかしら?』
カロル「え、嘘でしょメルク。メルクがそんなことするはずないじゃん。」
ちょっと怖がる様子のカロルに私がクスッと笑ってみると、「マジ?」といった顔をされたので更にクスクスと笑ってしまった。
流石にユーリとエステルは私を信じてくれているようで、私と一緒に笑っていた。
「へいお待ち!」
カロル「あ!ありがと!おじさん!」
「おう!気ぃつけて帰れよ!坊主たち!…………あ、そういえばお前さん方、白装束の格好したやつらに会ったら気をつけろよ?」
エステル「白装束の人…?」
「ほら、そこら辺にいるだろ?」
そう言って、とある方向を指す店のおじさん。
その方向を皆で見ると何処かの宗教団体なのか、白装束に身を包んでいる人達がチラホラ見える。
しかし顔も見えているし、普通に魚を買ったり店の人たちと笑いあったりして服装以外では一般人に見える。
そんな不思議そうな顔をしていたからか、おじさんが私達にヒソヒソ話をするように口元に手を当てて話しかけてくる。
「あいつら…どっかの宗教にのめり込んでる奴らみたいでな?勧誘とかしてくるから気をつけろよ?」
『勧誘、ですか?』
「あぁ、教祖様万歳!とか言ってくるんだよ。怖いったらねぇぜ。」
カロル「完っ全に宗教じゃん。別に勧誘くらいなら断ればいいじゃん。」
「ま、坊主には分からないだろうが、気をつけるに越したことはないと思うぜ?」
ユーリ「忠告ありがとな。ほら、行くぞ。」
ユーリがそう言って私の手を握り直すと歩き始めたので、つられて私も歩き出すとカロルとエステルも慌てて私達を追いかけて外に出る。
するとあまりの海風の強さに攫われそうになった私はユーリに抱き締められ、風に飛ばされずに済んだ。
『…ごめんなさい、ユーリ。』
ユーリ「謝るより他にあるだろ?」
『そう、よね。ありがとう、ユーリ。』
ユーリ「ん。」
エステル「ま、待ってください!ユーリ!メルク!」
カロル「きゅ、急にどうしたのさ?別に慌てて外に出なくても…」
ユーリ「なーんか、嫌な予感がしたんだよなぁ?アイツら。」
『アイツらって……』
私が白装束の人を見ようとすると、ユーリは見させないとでも言うのか、私の頭を自分の胸へと押し当てた。
それに首を傾げた私達三人だったが、ユーリの視線は訝しそうにその白装束の人達に向けられていた。
ユーリ「とりあえず帰ろうぜ。メルクの体力も持たないだろうしな。」
『私、そんなにか弱くないつもりなんだけど…。』
ユーリ「こんな風でも吹き飛ばされる奴が、か?」
『それとこれとでは話が違うと思わない?……ダメ?』
私がコテンと首を傾げると、ユーリが慌てて目を逸らせた。
あんなに強請ってはみたが結局、駄目だとユーリに一刀両断され、私達は渋々ユーリの言う通りに医者の自宅兼仕事場へと戻ることになったのだった。
.。.:*・゚+.。.:*・゚+.。.:*・゚+.。.:*・゚+.。.:*・゚+.。.
「「「おかえりなさい」」」
カロル「ただいまー!」
エステル「ただいま帰りました。」
『ただいま。』
何だかその言葉が私には気恥ずかしくて、照れながら言うと皆がそれを見て笑顔で返事をしてくれた。
何か良いものあったか、とか変なやつに追いかけ回されなかったか、と聞いてくれる皆に笑顔で答えながら奥に入ると、私の主治医さんが顔を覗かせる。
「おかえりなさいませ、メルクさん。どうでしたか?外の様子は。」
『今日も賑やかで楽しそうでした。特にここの特産である魚は沢山あって目移りしてしまいました。』
私の頭を撫で、いつもの子供が泣きそうな笑顔でお医者さんが笑う。
「それは良かったですね。では、今日の夕飯は期待しましょうか。」
『はい。頑張りますね?』
お医者さんは私の味覚障害を知っている。
しかし他の皆は知らないからそれを黙って黙認してくれている。
患者の心に寄り添う、とても良い先生。
カロル「メルク!僕も夕飯手伝うよ!」
エステル「私も手伝いますよ!」
ユーリ「はいはい。お前らはやることあるだろ?」
「「あ、」」
そう言えば……カロルとエステルは一度別行動しないといけないと朝に聞いていたのだった。
それなのに私の休暇に時間を削ってもらって申し訳ない。
『今日のお夕飯、楽しみにしててくださいね?』
「「うん!/はい!」」
何だかんだ、2人とも自分の仕事が忙しいらしい。
慌てて散っていった2人を見送り、買った魚を調理場へと持っていこうとしてユーリに呼び止められた。
ユーリ「なぁメルク。今日はもう外に出るの止めておこうぜ?」
『?? さっきの白装束の人達ですか?』
ユーリ「まぁな。それもあるが、今日この後雨が降りそうだからな。」
ユーリの言葉に私は窓から外を覗く。
すると雨雲が天に広がっていて、今から降りそうなことを予期させるような黒い雲があった。
……これは、大雨の予感がしますね。
『分かりました。そうしましょうか。では仕込みほどしてしまいますので……ユーリも手伝って貰えますか?』
ユーリ「あぁ。じゃ、やっちまいますかね!」
わざとらしく腕を捲り上げるユーリに『ふふ』と笑いかけ、2人で魚の下ごしらえをしてしまう。
その間他愛ない話で盛り上がり、私達は楽しく夕食の準備を整えていた。
そんな時、外から雨粒の音が聞こえてくる。
ザーーーーー…
『……あぁ。降り出してしまいましたね…?』
ユーリ「やっぱそうだよな。あんな怪しい雨雲して、降らないなんておかしいしな。」
私が窓から外を見上げると、その横にユーリも移動し、本格的に悪天候となった雨空を見上げる。
……折角天気だったのに気分が落ちちゃいそうですね。
激しい雨が窓に叩きつけられ、これまた激しい音を立てている。
そっと窓に手を置けば、ユーリが私の頭を撫でた。
ユーリ「明日晴れたらまた出れるだろ?」
『……うん、そうよね?今ここで落ち込んでちゃダメよね。』
ユーリ「そういうこと。明日は明日の風が吹くってやつだな。」
『あらあら、ふふ!ユーリ?レイヴンみたいな事言ってますよ?』
ユーリ「げ、おっさんと同じは勘弁だわ。」
本当に嫌そうな顔になったユーリが可笑しくて、思わず口に出して笑ってしまう私に、ユーリは私を見て嬉しそうに顔を綻ばせた。
ユーリ「(ほんと、この小さい体でよく頑張ってるよ、お前は……。味覚が分かんねぇってのに頑張ろうとしてるんだからな。)」
『……明日は晴れますように。』
私が胸の前に手を組み、空に向かって祈りを込めると───
ピカーーーーー
「『……え?!』」
さっきまでの晴れは何処へやら。
突然晴れ間が見えて、あの黒い雨雲はどこかへ消えてしまっていた。
それに2人してお互いを見ると、プッと吹き出してしまう。
ユーリも私も、本当に驚いた顔でお互いを見ていたからなんだかそれが面白くて。
『これなら外に出れそうよ?』
ユーリ「おいおい、やめとけって。また降られたら堪んないぜ?」
『ふふ、冗談。』
今はもう曇り空なんてひとつも無くて、それに眩しそうに私は目を細めながら窓の外を見た。
そんな時、お医者さんが私たちの方に近付いてくる。
「メルクさん。少しよろしいですか?」
『…?? はい。』
「少し彼女を借りますよ。」
ユーリ「あぁ。」
私はユーリと別れてお医者さんと診察室へと足を運ぶ。
お医者さんが座ったのを見ていると、お医者さんは私にも反対の椅子に座るよう勧めて下さったので、私も反対の椅子へと腰掛けた。
どうやら重要そうな話の様だが……一体なんだろう?
「メルクさん。最近の調子はどうですか?」
『あの大風邪を引いていた時よりも全然良いと思います。あの時はいつ何が起こるか分かりませんでしたが…今は、元気だと分かるので…。』
「えェ、えェ…、そうですか。では貴女の主治医である私からひとつ提案があるのですが……よろしいですか?」
『…はい。』
何でしょうか?
なにか恐ろしいものではないと思いたいですが…。
「今現在、メルクさんは大風邪も治り元気になりました。そこで〝神子〟としてのメルクさんの体力測定を行いたいと思います。勿論、私の監督の元で、ですが。」
『〝神子〟としての私の体力……?』
「そうです。」
カルテの様な物を見ながらお医者さんが話し出すのを、首を傾げながら聞く。
体力測定なんて、やった事がないから一体どんなことをするのだろう?
そんな事を思いながら私は大きく頷き笑顔を向け、頭を下げた。
『よろしくお願いします。』
「ムフフッ…!どんな内容かは聞かれないのですねェ?」
『私のお医者さんなので、そこは心配していません。それよりどれほど体力があるのか、心配しています。』
「そうですか。なるほど、メルクさんのお気持ちは分かりましたよ。大丈夫です。私もついていますから、安心なさってください。医者として無理はさせませんから。えェ…絶対に。」
笑いながら優しく頭を撫でてくれるお医者さまに私は大きく頷いた。
『どうぞ、よろしくお願いします。』
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体力測定……?