第5界層 〜不朽不滅の幽鬼の塔〜
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ユーリと約束した翌日。
私は、レイヴンと共に第5界層へと挑むことを決めていた。
残り何界層あるかは分からないが、ともかく第5界層をクリアしなければ第6界層へは行けないのでまだ未踏破であるレイヴンと行く事になったのだ。
レイヴン「よろしくな!メルクちゃん!」
『はい。よろしくお願いしますね?レイヴン』
レイヴン「うんうん!何だか、2人きりっていいねぇ…。」
ユーリ「誰と誰が2人きりだって?」
レイヴン「げ、青年!」
私たちの後ろからにゅっと現れてはニヤリと笑い、してやったぜという顔をしているユーリ。
対するレイヴンは怪訝な顔でユーリを見ていた。
レイヴン「青年はもう行ったじゃないのよ~?」
ユーリ「別に何回行ってもいいだろーが。それに…二人だけだと戦闘のバランス悪すぎだろ。」
私達を見て顔を顰めるユーリは本当に心配そうな様子だった。
だからレイヴンと顔を見合わせ、頷いておいた。
確かにレイヴンは弓担当で中距離から遠距離を想定されている武器であり、私も魔術を多用するので遠距離のタイプである。
…そう思うとどちらも後衛組なので、前に出る前衛タイプが居なかった。
そこでユーリが前衛を買って出てくれたのだ。
いつもならカロルも行くと言ってくれるのだが…。
カロル「ごめん、メルク…。ボクあそこだけは…ちょっと…。」
リタ「あたしもパス。」
エステル「す、すみません…。私もちょっと…。」
レイヴン「え?皆して何なの?第5界層って、そんなにヤバい所なの?」
ユーリ「まぁ、子供組はちときつかったみたいだな。」
しれっというユーリを見たが、彼は怖がってる様子はなかった。
寧ろ好戦的というか…。
ユーリをじっと見ていた私に気付いたようで、彼がこちらを見て首を傾げた。
ここで「何でもない」というと反感を買いそうなので言葉を重ねる。
『ユーリは怖くなかったのですか?』
ユーリ「俺は別に…って感じだったな。寧ろ、こいつらの悲鳴に驚いたっつーか…。」
カロル「だって!!急にお化けが出てくるんだもん!」
ジュディス「あら?楽しかったじゃない。中々突けない相手って素敵よ?」
レイヴン「じゃあ、もう一人はジュディスちゃん、来ない?」
ジュディス「ええ、良いわよ?任せて頂戴?」
カロル「流石…命知らず二人…」
ユーリ「なんか言ったか?カロル先生?」
カロル「いや…何でもないよ…。ハハハ…。」
から笑いをしたカロルにレイヴンと二人で目を丸くさせた。
何だか皆の話を聞いていると、恐ろしい場所だというのは分かるのだが他の情報がない為、楽しみ半分、怖い半分だ。
一度深呼吸をした私に、行くことが決まった3人がこちらを見た。
ジュディス「大丈夫よ。彼もいるし、私だっているんだもの。あれならそこの”おじさま”を盾にしてもいいのよ?」
レイヴン「ジュディスちゃん…」
ユーリ「そうだな。それなら安心だよな?」
レイヴン「青年まで…!メルクちゃんはそんなことしないよね~?」
『はい。レイヴンが危ないときは盾になりますから安心して戦ってくださいね?』
レイヴン「いや…。それはちょっと…。さ、さ!行こうぜ!!」
慌てた様子で私の背中を押し、外へ出ようとするレイヴン。
その前にぬらりくらりと医者が現れ、レイヴンを驚かせた。
「メルクさん。お気をつけて。」
『はい。怪我をしたらまたお願いします。』
「なるべく怪我の無い様にお願いしたいものですが。まぁ、了解しました。決して無理だけはなさらないよう、他の方も注意願います。」
「「「了解」」」
「メルクさん。」
『はい?』
「完治したとはいえ、まだメルクさんの体は油断ならない状態です。ゆめゆめ、忘れなきよう。」
『お医者様…。はい、気を付けます。では、行ってきます。』
「はい。お気をつけください。」
カロル達ともここで別れて4人だけで〈
そこで疑問が浮かんだのか、レイヴンが船の中…(バウルのおかげで飛んでいる船だが…)で全員に向かって疑問をぶつける。
レイヴン「っつーかさー!〈
離れているからか、大声で間延びした様な言葉ではっきりと申すレイヴンに、私がその疑問を解消させる。
きっとユグドラシルから聞いたやり方なら…、私なら、開けられると思う。
『私が開けます!ユグドラシルから聞いたので、可能だと思いますので!』
ユーリ「ユグドラシル?」
ジュディス「それも神子の力って事かしら?」
『はい。神子ならではのスキルと言いますか…。私なら開けられるようなのでやってみます。』
レイヴン「神子ってすごいのね~?」
風に煽られながらもユーリが支えてくれているので、それにしがみつきながら話す。
感心したように話すレイヴンを余所に、ユーリも疑問をぶつけた。
ユーリ「ユグドラシルって誰だ?」
『〈
ジュディス「じゃあ、結構な力の持ち主なのね。あんなに大きい物を出現させるなんて一筋縄じゃ行かないと思うのだけれど?」
『”神”のような力を持っていましたので、それでじゃないかと…。』
ユーリ「何時会ったんだ?」
『宝石を飲み込んで…それから目を開けたら真っ白い空間に居て…。そこで会ったんです。私の事を神子だとはっきり言っていました。』
ユーリ「神子を知る人物…か。」
レイヴン「それって結構重要人物じゃない?一旦話を聞いてみたいものね~?」
『全て〈
ユーリ「それって、ユグドラシルに願えばメルクは神子から解放されるって事か?」
『おそらくは…。』
初めて聞く話のはずなのに、皆に恐怖の表情はない。
寧ろ、それを聞いて希望を持ったような表情を浮かべているのを見て、私は不思議に思った。
__どうしてそんな顔をするのだろう、と。
ユーリ「〈
ジュディス「ふんわりとしていたものね?今までの目標は。」
レイヴン「おっさんたちはそのユグドラシルに用事があるし、一石二鳥よね~?」
『用事、ですか…?』
ユーリ「メルクを元に戻してやってくれって話付けなきゃいけないだろ?」
『……!』
未だ忘れそうになるが、彼らは私が犠牲になることを知らないのだ。
でもそれは知られてはいけないのだ。
だから私は優しい嘘を吐くのだ。
『皆さん…。ありがとうございます。』
私のお礼に皆が笑ったところで頭上からバウルの鳴き声が聞こえた。
ジュディス「どうやら、着いたみたいよ?」
レイヴン「よっしゃ、いっちょやったりますか!!」
ユーリ「珍しくおっさんがやる気を出すから、今日は何か起きるな。」
ジュディス「同感ね。」
レイヴン「ひどいっ!!」
何だかそのやり取りを聞いていると、くすりと笑ってしまう。
私がくすりと笑ってしまうと、皆が穏やかな顔でこちらを見ていた。
どうしてそんな顔をされたのか分からなかったけど、もう感じないはずの温かさを……胸に感じた気がした。
****************************************************
〈
確か、石板に記載されていたやり方があったはずだ。
私は思い出しながらゆっくりと〈
そして目を閉じ、ゆっくりと体も扉へと重ねる。
その時、後ろからごくりと喉を鳴らす人が居た。
誰かは分からないが、緊張した面持ちでこちらを見ているのだろう。
笑ってしまいそうになるのを堪え、私は笑顔で言葉を紡いだ。
『__第5界層への扉、開き給え。』
瞬間。
扉がギィーと軋む音を立て、開かれていく。
体重を扉へと預けていた私はそのまま扉の中に誘われるように入っていった。
ユーリ「っメルク!」
ユーリの声がした。
そして目が回るような、時空転移特有の感覚に身を委ね、目を開けた先には雲よりも高くそびえたつ塔の前に私は居た。
その後からユーリ達も同じ場所へと辿り着き、三人が安心した様な顔を見せた。
レイヴン「本当に来れちゃったわね…」
ジュディス「もう懐かしい気分だわ。私の時は何もなかったけど、あなた達の時はあったんでしょ?」
ユーリ「そりゃあもう、沢山の罠がな?」
『確か、無数の罠を掻い潜りながら先へ進むんでしたよね?罠が来る前は鳥の鳴く音がするとか…。』
ユーリ「あー、そんなのもしてたな。」
レイヴン「無数の罠って…。大丈夫なの?それ。」
ユーリ「だからヤバいって言ってるだろ?」
ジュディスがにこりと笑いながら早々に塔の扉を開け放ってしまったので、行かざるを得なくなった私たちは塔の扉の中へと入っていった。
中は薄暗く、少し肌寒いように感じる…。(寒いと感じるはずもないのに、中の鬱屈とした様子から寒く感じてしまうのだ…。)
ユーリ「よし、行くぞ。」
ユーリは私の手を取り、歩き出した。
きっと罠とか知っている彼だからどこに罠があるのか覚えていて、私に教えてくれるのだろう。
お礼を言うと静かに頷き、彼は慎重に歩きだした。
しかし、早くもその足を止める事となる。
《ピーヒョロロロロ…》
「「「!!」」」
『さっきのは、もしかして…』
私が言い終わる前に上の方からゴロゴロという音がして、何かを引きずっている…または、何かが転がっているようなそんな音がした。
ユーリは私の手を引き、よく見ないと分からないような横道に入っていく。
それに倣い、他の2人も横道に逸れ危機を免れた。
ゴロゴロゴロゴロ――
鳴りやまぬその音の正体は巨大な岩だった。
通路ギリギリの大きさのその岩は歪な球体になっていて、大きな音を立て私たちの横を通り過ぎて行った。
ユーリ「やっぱり来たか…。」
レイヴン「ちょ、聞いてないんだけど!!?あんな大きいのどうやって避けんのよ?!」
ジュディス「私も初めて見たわ。」
ユーリ「あれ見てるの俺だけかよ…。」
『危機一髪でしたね…?』
それぞれが感想を言い合う中、再びゴロゴロと音がして、上から巨大な球体の岩石が私たちの横を通り過ぎていく。
よく見れば、通路の壁には何か当たって、擦ったような跡が見られた。
ここは先ほどの岩石の通り道なのだろう。
レイヴン「どーすんのよ…これ。こんな所、出るに出られないじゃない…。」
ユーリ「タイミングを見計らうしかないな。」
ジュディス「何かあってもおじさまなら何とかしてくれるでしょ?」
レイヴン「あの岩…弓矢で壊せるものならとっくの前に壊してるよ…ジュディスちゃん…。」
『……術で押し返しましょうか?』
ユーリ「いや。そこまでは必要ないぜ?ここ、タイミングさえ合えば上に行けるからな。」
ジュディス「”タイミングさえ合えば”…ね?」
レイヴン「子供組が言ってたことが分かった気がするわー。」
遠くを見つめ始めたレイヴンに、私は苦笑いを零す。
どんなことがあるか分からない。気を引き締めたいところだが、確かにあれを見てしまえば戦意喪失になるというもの。
そんな中、一人タイミングを計っていたユーリが私の手を握り、現実へと引き戻した。
ユーリ「メルク、行けるか?」
『はい。いつでも。』
ユーリ「よし、行くぞ!」
岩が通り過ぎたタイミングで勢いよく飛び出し、上へと駆けあがっていく私達。
しっかりと握られた手は離れることなくしっかりと握られていて、なんだか、それがとても嬉しい。
《ピーヒョロロロロ……》
「『!!』」
レイヴン「次は何が来るのよ~?」
ジュディス「ここまで酷いのは初めてね。」
ゴゴゴゴゴゴゴゴ――
今度は何かが迫ってくるような音がして足を止めるかと思ったが、ユーリは足を止めなかった。
ついでに言うと何か水音もするので、今度は大量の水がこちらへと迫ってきていることが分かる。
私の体重は羽と同じように軽い。
ここで水が来てしまえば、簡単に流されてしまうだろう。
『ユーリっ!』
ユーリ「しっかり捕まってろよ…!!」
水が上から大量に通路へと流れてきたのが見えた瞬間、ユーリは私を強く抱きすくめる。
直後息が出来ないくらい強い水の奔流に、思わずユーリへとしがみつく。
水の流れ…上流側と呼べる方向にユーリが私を庇って立ってくれているので、軽い体重の私でも流されずに済んでいるのだ。
水で息が出来ない、苦しい…。
そんな気持ちを水の方が察してくれたのか、ようやく水の流れが収まってきて、慌てて肺に呼吸を入れるように大きく口を開けた。
『っは!!はぁ、はぁ…』
ユーリ「っ、大丈夫か…?メルク。」
『はぁ、はぁ、なん、とか…!』
レイヴン「ゴホゴホっ」
一番死にそうなのはレイヴンだった。
通路に膝をつき、苦しそうに呼吸をしているではないか。
レイヴン「お、おっさん…死にそう…」
ジュディス「冷たかったわね。もう少し暖かかったら良かったのだけれど。」
レイヴン「ジュディスちゃん…。最強すぎない?あの激流でその感想…?」
ユーリ「おっさん動けそうかー?」
レイヴン「こうなったら、やってやるわよ…。おっさんだって出来るって事証明してやろうじゃない!」
急にレイヴンは上へと向かって走り出してしまう。
未だにユーリに抱きすくめられている私もユーリから離れようとしたが、逆に強く彼の体に押し込まれてしまった。
ユーリ「おっさーん。もう一回来るぞー。」
レイヴン「へ?!」
ユーリの言う通り、本当に激流が再び襲い掛かってきて私はまたしてもユーリにしがみついた。
そしてユーリも離さないと言わんばかりに私を強く抱きしめてくれていた。
『(苦しい…)』
二度はごめんだ。
しかし今度は私の気持ちを汲み取ってくれないのか、いつまで経っても終わる兆しを見せない。
遂に私は息切れで力が抜けてしまい、手を放してしまった。
ゴポリと私が吐いた大量の空気が水の中に溶け込んでは流れていく。
口の中に水が入ってこようとした瞬間、急に空気が口の中に流れ込んできた。
『!!』
ユーリが私に口づけをして空気を入れてくれていたのだ。
必死に空気を求める私にゆっくりと空気を入れてくれるユーリ。
暫くその状態が続いたのだが、羞恥心よりも心配や不安が押し寄せてくる。
呼吸が出来たことで放していた手をゆっくりとユーリの服を掴み、この激流に流されないようにする。
本当にいつまでそうしていただろう。
ようやく終わった頃には流石にジュディスも荒い息を繰り返し、レイヴンに至っては流されてしまったのか姿さえ見えない。
ユーリ「『はぁ、はぁ、はぁ…』」
いつの間にか離されていた口から必死に呼吸を入れる。
しかし、身体は未だに密着されたままだった。
それが…本当に嬉しいと感じる。
きゅっとユーリの服を掴むと優しく頭を撫でられた。
ユーリ「だい、じょうぶか…?」
『う、ん…。ありがとう、ゆーり…』
拙い話し方でお礼を伝えるとゆっくりと体が離れていく。
それをとても残念だと思ってしまう…。
ジュディス「さす、がに…きつかったわね…。」
ユーリ「つーか、おっさん流されたな…?」
『戻りましょうか…?』
そんな私たちの心配とは余所に今度は下から何かが駆けてくる音がする。
レイヴンならいいが、この音の正体は一体なんだろうか。
ジュディス「今度は暑いわね…」
ユーリ「今度はなんだ…。」
全員が下を様子見していたら、血相を変えたレイヴンがこの通路を走って上がってくるのが見えた。
その後ろには猛々しい炎がやってきていて、ユーリとジュディスがぎょっとした顔でそれを見る。
ユーリ「流石にそれは想定外だぞ…!?」
ジュディス「早く行かないと焦げるわね。」
ユーリは再び私の手を引き、上へと駆けあがる。
ジュディスやレイヴンも後ろから一生懸命に走り、塔を駆け上がっていた。
所々息苦しそうな声が聞こえてくる。
炎の近くは呼吸がしづらい。
私には暑さが分からないけど皆は辛そうである。
レイヴン「あっついわー!!」
ユーリ「っ、本当に、な!メルク、大丈夫か──」
言った瞬間失態したかのように声が途切れる。
彼は私の副作用を知っているから、だから言い噤んだのだろう。
『大丈夫ですよ…?!』
ユーリ「! 無理はするなよ!」
機転を利かせた私にのってくれ、ユーリは変わらず私の手を引き、頂上を目指していく。
走っていると急に扉が見え、皆で慌ててそこに入り、ユーリとレイヴンが慌てて扉を閉めた。
その扉は鉄でできているようで、炎がこちらまで攻めてくることはないようだった。
ユーリ「はぁ…」
全員でその場に座り込む。
……体力の限界を感じる。
気休め程度にしかならないだろうが、私は回復術を使うことにした。
『~~.。+゜♪.。+゜♪』
短杖を構え、歌うと皆の体が徐々に光を帯びていく。
そして回復術特有の光が淡く消えていくと、全員からお礼を言われた。
私には、炎の熱さは分からないから…。
だから皆の苦しみも今はあまり分かってあげられないんだ…。
『大丈夫ですか?』
レイヴン「さすがメルクちゃんは気が利くわー。どっかの誰かさんとは違って。」
ユーリ「何でこっちを見るんだよ。」
レイヴン「もうちょっと早く言ってくれない?!おかげで流されちゃったじゃないのよ!!」
ユーリ「そりゃご苦労さん。だが、俺はちゃんと言ったぞ。」
レイヴン「遅すぎるわよ、青年!」
各々時間を過ごしている間、私は辺りを見渡しておく。
一応攻略法を読んだことがあるので、何か役に立てないかと周りを見渡したが、広い空間だけが見えるだけで特に何もありそうにない。
そんな中、ジュディスが近付いてきてにこりと笑う。
ジュディス「彼からの接吻はどうだったかしら?」
『??』
そんなもの、あっただろうか。
よくよく考えると、先ほど激流に流されかけた時に空気を分けてもらった気がする。
ジュディス「優しかったの?」
『意識が遠のきそうだった時だったので…実はあまり覚えていないんです…。』
ジュディス「あら、残念ね。」
本当に残念そうに言うジュディスに苦笑いを零した。
あれは救急的且つ緊急的にやったもので、ユーリにそういった意味合いはないと思う。
そんな顔をしていたからか、ジュディスは呆れたように、でも困ったように嘆息した。
ジュディス「分かってないわね。」
『??』
ユーリ「何の話をしてたんだ?」
ジュディス「貴方が漢を見せた時の話よ。」
ユーリ「???」
ジュディス「全く…。あなたたち、似た者同士ね。面白みに欠けるわ。」
ユーリ「人で遊ぶなよ…。」
ジト目でユーリがジュディスを見れば、ジュディスはジュディスで呆れた表情を浮かべていた。
一人分からずにいると、今度は急にレイヴンが悲鳴を上げた。
レイヴン「ちょ、青年!!後ろ!!」
ユーリ「今度は何だよ。」
レイヴン「後ろだってば!」
後ろを振り返るユーリに合わせて私もユーリの後ろを注視するが、特に何もいないように思う。
しかしレイヴンの顔は青ざめており、嘘ではない事が窺える。
では一体、何が…?
『……っ、』
服と白衣の間に何かが入り込んだ感覚がして服を見る。
しかし、何もいない。
でも感覚はしたのだ。何かが居るはずなのだが…。
『ふ、あはははっ!!』
「「「?!!!」」」
急に笑い出した私に驚き、皆が私に注目したが、私は私でそれどころではない。
誰かがやはり服との間に入り込み、私を擽っているのだ。
あまりにもずっと途切れることなく擽られているので笑いが堪えられず、その場で膝をついてしまい、服からそれを追い出そうとするが上手くいかない。
『ふふ、ははははは、はは、っはは、も、もう…や、やめて…!!』
ユーリ「どうした?!」
ユーリが膝をついている私に近付いたが、何がなんやらという顔で様子を見ている。
私はそれを見かねて白衣を指し、ユーリに合図を送ってみる。
ユーリは恐る恐る白衣の中を確認すると目を瞬かせた。
そして何かを追い出す仕草をすると、ようやく私は擽り地獄から抜け出すことが出来た。
あまりの疲労感に、そのままその場で倒れ込めば心配そうにユーリが声をかけてくれる。
ユーリ「お、おい。大丈夫か?」
『………死ぬかと、思いました……』
ぐったりとした私を見て横に座って様子を見てくれる彼にお礼を言いつつ、先ほどの擽っていた物体を見遣る。
それは今はレイヴンの方へ行き、何やらやらかそうとしている。
身構えたレイヴンと半透明のお化けとの構図が面白く、笑ってしまったが先ほどまでの体力を奪われてしまったので、私の口からは乾いた笑いが出てしまった。
ユーリ「無理すんな。少し休んでろ。」
『そうします…』
しかし休憩しようと思った矢先、どこからかボッという炎の音がする。
まるで発火した様な音にその音の元を辿れば、レイヴンが火の玉に追いかけられているところだった。
どうも、ここのお化け…、この場所の名前を借りるならば幽鬼だが、相当な悪戯好きのようだ。
レイヴンを驚かせては面白がっている節がある。
他の2人は滅多に驚く様子が無い事から、目標をレイヴン一人に絞ったのだろう。
横になっている私はそれを見つつ、休憩を兼ねることにした。
ここまで来てふと、思った事がある。
一人でここまで来るのは無謀だっただろう、という事。
最初は一人でもやる、と思っていたが、こればっかりはユーリ達に感謝だ。
ユーリ「いつまでも遊んでないでそろそろ行くぞー」
レイヴン「青年!?助けてくれてもいいんでない?!」
ユーリ「メルク、行けるか?」
『はい。大分回復しました。』
レイヴン「おーい?メルクちゃんまでー?おっさんは悲しいぞー?」
別段悲しそうな声音で話すわけでもなく、棒読みで呼び止めるレイヴンに私はクスリと笑い手を振った。
『さっきそのお化けさんにやられたので、レイヴンに差し上げますね?』
レイヴン「え?!そりゃないよ〜!?メルクちゃん!!?」
慌てて火の玉から逃げるレイヴンを見て、またしても笑いが込み上げてきてしまった。
困った顔をしてはいるものの、余裕がありそうなので彼ならきっと大丈夫だろう。
私が立ち上がろうとすると、手を差し出してくれるユーリ。
その手へ遠慮なく重ねると、握られヒョイっと持ち上げられる。
今は羽のように軽いからこんな芸当が出来るんだ、と自分とユーリに対して感心する。
『ありがとうございます、ユーリ。』
ユーリ「これくらいでお礼なんて言ってたらキリがないぞ?」
苦笑いでそう零すユーリは、レイヴンを見たあと私達を見た。
ユーリ「さて。そろそろ行くか。上にはヌシって奴もいるから要注意だな。」
『確か…主は“命狩る死神”でしたね。大きな鎌が特徴的で、それで胴を一刀両断するのだとか……。』
ジュディス「あの時は可愛い魔導士さんが頑張ってくれていたからあまり楽しめなかったのよね。」
ユーリ「あれで斬られてみろ…、大ごとだぞ?」
ジュディス「でも、この面子なら楽しめそうじゃないかしら?この間は大所帯だから簡単に倒せたのだし。」
『不安になってきますね…?』
ユーリ「俺たちなら大丈夫だろ。なんてったって…怖いもの知らずのクリティア族に弓と剣の二刀流のおっさん、それにリタに負けず劣らずの魔術師が仲間にいるんだからな。」
ポンポンと頭を撫でられ、緊張をほぐすような事をしてくれて、正直助かった。
知らずうちに緊張していたのもあったから、そうやって気を使って貰って有難いし、多少申し訳なさも出てくる。
でも、今はユーリの優しさに甘えさせてもらうことにした。
『ふふ、戦闘マニアの前衛さんもいますしね?』
ユーリ「……。それ言ったのリタだろ?」
『はい。ユーリは戦闘マニアだから気を付けなさい、と出掛ける間際に言われましたよ?』
ユーリ「あいつ…」
はぁ、とため息を吐いたユーリだったがそれでもその顔は笑っていた。
その後は、レイヴンも回収し頂上へと向かおうとする一行であったのだが……。
『うーん…。離してくれませんか?』
一際大きな幽鬼が私にベッタリと引っ付いてしまい、離れてくれなくなってしまった。
離して、と言葉で試みてみるも…、まるで“イヤイヤ”と言われてるみたいに頭を振られてしまう。
そして極めつけには、まるで子供みたいにギュッと余計に抱きついて来る。
レイヴン「メルクちゃんの事、お母さんと間違えてるんじゃない?」
『うーん…。それはそれで困りますね…。』
私の身長よりも大きくデカいこの幽鬼。
半透明なのはほかと変わらないのだが、なんと言ってもデカさが凄い。
抱き着いてはいるが、半分私が幽鬼に埋もれているようなものだし、それでも離さないと強く抱き締められる。
何となくの感触があるのがとても不思議に感じるくらいだ。
ユーリ「攻撃したら抱き着いてるメルクに何するか分からないしな…。どうしたもんか…。」
ジュディス「そのまま移動したらどうかしら?」
『この子があまりにも大きすぎて半分足が浮いてる状態なんです…。私が歩けそうにありません…。』
レイヴン「随分と気に入られちゃったわね〜?」
先程の仕返しか、ニヤニヤと笑っているレイヴンに困った顔で見返す。
しかしこれ以上足止めをする訳にもいかないし…。
『…仕方ありません。皆さん先に進んでいてください。後で追いかけますので…』
ユーリ「それはやめとけ。1人でヌシを倒すのは至難の業だぞ。」
ジュディス「それに今回は貴女の支援が要なんだもの。私達が殺られるとは思えないけど万全を期したいところではあるわね。」
レイヴン「じゃあ、ちゃっちゃとこのお化けを剥がしにかかりますか…っと。」
レイヴンが幽鬼を掴み剥がしにかかったが、逆に強く強く抱きつかれてしまう。
痛みは感じなくなっているので問題は無いのだが、別の問題が生じている。
あまりにも強く抱き締められているので、肺に呼吸が入りにくくなっているのだ。
つまり呼吸困難である。
『うっ、は、あ、』
私の異常に気付いたユーリがレイヴンを止める。
ユーリ「おっさん、やめとけ。メルクが苦しそうだぞ。」
レイヴン「へ?何で?」
一旦様子を見に来たレイヴンが納得したようにうなずく。
それでも弛めてはくれないので、少しだけトントンと幽鬼を叩くと少しだけ抱き着く力を緩めてくれたので、呼吸がしやすくなってくる。
『う、死ぬかと思いました…。』
ユーリ「弱ったな…。コイツ、引っ張っていくか?」
ジュディス「そうね。そうしましょ。」
レイヴンとユーリが後ろに周り、幽霊を押してくれるので浮いた状態で進んでいく。
……とても楽だ…。
ジュディス「これはいい乗り物ね。」
『何だか不思議な感覚です。ゆらゆら揺れる船の上に乗ってるような…そんな感覚ですね…?』
ユーリ「メルク!苦しくないかー?」
『はい!快適です!』
レイヴン「快適…?」
ユーリ「まぁ、仕方ねぇ。進むぞ、おっさん。」
しかしそんな調子良いのも、上へと続く通路に差し掛かろうとしたまでだった。
急に大きく身体を揺らし、ユーリ達を強制的に剥がすと完全に私を持ち上げ、スイスイと上へ上へと昇っていく。
完全にユーリ達と離れてしまい、慌てて幽鬼に声を掛ける。
『待って…!まだ下にいる人達が…!』
しかし私の声が聞こえていないのか、端から聞く気がないのか、幽鬼はどんどんと上へと上がって行った。
どうしよう…?!
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