第5界層 〜不朽不滅の幽鬼の塔〜
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少女の願いを聞いた翌日のこと。
ユーリは未だに昨日の違和感について考えていた。
当面の行動は昨日少女が言った通りで、仲間達もそれに頷いて賛成していた。
だが、このまま少女の言う通りに〈
ユーリ「……」
レイヴン「どーしたのよ、青年?そんな眉間に皺寄せちゃって。」
ユーリ「ん?あぁいや、このまま本当に〈
レイヴン「んー?だって青年たちが決めたことじゃないのよ?」
ユーリ「まぁ、そうなんだが…。なーんか不吉な予感がしてな。」
レイヴン「うわ…。青年のその予感って当たるからなぁ…?なんか悩んでるんならおっさんに話してみんしゃい。ん?ん?」
強引に聞き出そうとするレイヴンに少しうざったそうに顔をしかめたユーリだったが、誰かに聞いて答えを出してスッキリさせたかったのもまた事実である。
ユーリはそのままレイヴンに密やかな相談を持ち掛けることにした。
内容は少女に対しての違和感についてだ。
それを聞いたレイヴンは暫く腕を組み考える素振りを見せた。
レイヴン「………これは、あくまで俺様の考えよ?もしかしてだけどメルクちゃん…温度が分からなくなってんじゃねえの?」
ユーリ「っ!!」
その言葉を聞いた瞬間に、全てのピースがはまり込んだような感覚がした。
”神子の副作用”、そして”少女の体に起こった不具合”。
それらを照らし合わせればすぐに分かることだったのだ。
それに昨日、自分はもう一つの違和感を感じていたじゃないか。
ユーリ「…味覚も、か…?」
レイヴン「あながち、間違ってないかもねぇ?メルクちゃんがあんなに酷い味付けをするとは思えないし…。あの時、一瞬何の冗談かと思ったんだが…こりゃあ、結構まずいな。これが本当なら、神子になればなるほどメルクちゃんの体はおかしくなっていく。もう宝石を飲み込ませるべきじゃないのかもしれねえな。」
真剣な表情でレイヴンが考察していく。
ユーリはグッと拳を握った。
やっと体が治って一安心かと思ったら、別のところで少女は徐々に壊れていく。
その小さな体を…徐々に壊していたのだ。
少女自身がそれに気付いていない訳ではあるまい。だって少女自身の身に起きた、こんなにも明らかな体の異常なのだから。
こちらは、まんまと少女の笑顔にまた騙されていたわけだ。
ユーリ「…本当に、普通の体に戻してやりてえな。」
レイヴン「…そうだな。その為にもメルクちゃんは〈
ユーリ「っ、」
急に変わった少女の願い。
もしかすると、少女は自身の体が壊れているのを気付いて、それを危惧して願いを変えたのかもしれない。
それならば自分たちに出来るのは〈
ユーリ「…俺に出来る事、な…。」
レイヴン「青年。そんなに気負ったら今度は青年がぶっ倒れちゃうわよ?」
ユーリ「そうだな。」
自身の好いた少女が自分の知らないところで苦しんで、悩んで、もがいている。
一人で悩むな、とエステルから言われていたのにも関わらず、それをひた隠しにしていた。
ユーリは自分の不甲斐なさに、無意識だが唇を嚙んでいた。
ちらと見たレイヴンもそれを見て、視線を俯かせたのだった。
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__医者の自室
「ん?どうしたんです?こんな時間に。」
ユーリはあの後、医者の所へと行っていた。
少女は皆と病室で話していて、今いる診察室とは違う場所に居るのがユーリにとっては好都合だった。
ユーリ「あんた、メルクの副作用を知ってたのか?」
「何のことですか。…あぁ、体重減少のことなら存じていますが。」
ユーリ「そっちじゃない。味覚、あと寒さとか暑さを感じない事とか……メルクの主治医であるあんたなら、覚えがあるんじゃねえのか?」
「……どこでそれを察知したんですか?」
バレては仕方ないと言わんばかりに嘆息し、クマの出来ている目をユーリに、それも気だるげに見遣った。
ユーリは自身の考えが当たってしまった事に、嫌気が差していた。
出来ることなら…、メルクの主治医であるこの医者から全てを否定して欲しかった。
ユーリ「メルクが俺の手を触った時に“暖かい”って言ったんだ。俺の手は冷たかったのにな?」
「……全く、墓穴を掘りましたね。メルクさん。」
ユーリ「そう言うって事は、メルクも分かってたのか。」
「そうですね。ですが貴方達が心配しないようにと黙っててくれと言われているんですよ。……ちなみに、全員この事を?」
ユーリ「いや、俺とおっさんだけだな。」
「なるほど。ならばいいですが。」
医者は自分の座っていた診察室の椅子をクルリとさせ、自身も回り立ち上がる。
なんの意味も為さないその行動だが、医者には何かしらの効果があるらしい。
「いやぁ、素晴らしい洞察力ですねェ?」
ユーリ「はぐらかすな。」
「ふむ。ちなみに副作用の事、どこまで知っているのか伺っても?」
ユーリ「メルクが宝石を食べる事によって副作用が出る。それが今回は味覚と、熱いとか冷たいとかの感覚が無くなったことくらいだ。」
「なるほど。まぁ、そこまで知っているならお教えしましょうか。……実はメルクさん。痛みも分からないんですよ。」
ユーリ「っ!?」
医者の思いがけない言葉にユーリは息を呑んで、唖然とした。
まさか、痛みさえ感じないとは思わなかったからだ。
それならばとても危険だ。
痛みは体が健康を維持する為の大事な器官である。
痛みがあるから体の不調に気付ける。
それが無くなれば…。
「困ったものですよ。痛みがないというのは。」
ユーリ「……どうにか出来ないのか?」
「出来たらとっくの前にしていますよ。霊薬アムリタでさえも効果を為さない“副作用”……。〝神子〟というのは大変ですねェ。」
他人事の様に言ってはいるが、その顔は心配そうに壁の向こうの少女を案じていた。
医者でさえお手上げな物を素人がわかる訳もなく、ユーリは押し黙った。
それを気にした風でもなく、医者は再び診察室の椅子に座る。
「大風邪は完治しました。けれども……別の所でメルクさんは体を壊している。……医者として、これほど自分の不甲斐なさに悔やむ事はありませんよ。」
ユーリ「……仕方ない。〝神子〟自体が未知なものだからな。」
「まさか慰めて下さるとは。有難いですねェ。」
ユーリ「……。他には副作用は見られてないのか?」
「今のところ、その3つですね。一度に3つは辛い所ではありますが。主治医として今後もメルクさんの副作用を出来るだけ治療していきますから、ご安心を。」
ユーリ「あぁ。すまないな。」
「いえ、お気になさらず。」
ニコリと例の笑顔を浮かべた医者に苦笑いを零す。
相変わらず笑顔は苦手のようだ。
それとも笑顔がとても怖いように映ってしまう顔立ちなのか。
ともかく、副作用については医者から確認を取った。
これで後はメルクの体を元に戻すために…、〝神子〟としての身体を人間へと戻すために〈
ただ…、挑戦する前に本人と少し話しておきたい。
ユーリ「メルクと少し話したいんだが、頼めるか?」
「それならば、私名義でここへ連れてきましょうか。話がしやすいでしょう。……ただ、くれぐれも本人をあまりにも詰めないで下さいよ?」
ユーリ「そこは善処するさ。」
「分かりました。その言葉、信じますからね。」
医者は立ち上がると部屋を出て行く。
向こうの方から少女を呼ぶ声が聞こえ、知らずうちに拳を握っていた。
そんな事をしている内に少女が診察室へと入ってきて、握っていた拳を開き「よ。」と軽く手を挙げる。
困惑している少女を他所に医者は少女に詫びを入れるとユーリを差し、用事があるのは向こうだと伝えていた。
少女から驚くような顔をされるが、すぐにいつもの柔らかな笑顔でユーリの方へと歩み寄る。
『お話とはなんでしょうか?』
ユーリ「メルク。単刀直入に言わせてもらうが…、お前、副作用で味覚が損なわれてるだろ。」
『何のことでしょうか?』
すぐに切り返してきた言葉は否定の言葉だった。
それも、先程の笑顔と変わらぬ表情で。
……やはり一筋縄ではいかないか。
ユーリ「もう俺は知ってるから隠さなくてもいいぞ。何なら医者から確認も取った。」
『…』
瞬時に顔を顰めさせ、背後の扉へ視線を向ける。
その顔から思うに、医者に文句があるのだろう。
何故言ったんだ、という非難の言葉が。
『……どこまで知っているのですか…?』
ユーリ「味覚だけじゃない。熱さや冷たさも分からないんだろ?後、痛みさえも。」
『……』
__“どうして”
そんな言葉が呟かれる。
確かに少女の嘘は完璧だった。
だが、抜けてもいたのだ。
ユーリ「メルク。この間俺が手を握った時に“暖かい”って言っただろ?」
『?』
ユーリ「その時、俺の手の温度はメルクより冷たかったはずなんだ。なのに、お前は俺の手を握って確かに“暖かい”って言ったんだ。それが決め手だな。」
『!!』
少女はバツが悪そうに視線を逸らせた。
まさか、そんな事が。
そんな表情だった。
『……確かにあの時、ユーリの手は暖かいと勘違いしていました。でも、そんな言葉だけで私の副作用を見破ったのですか…?比喩だとは思わなかったのですか?』
ユーリ「確かに思ったけどな。でもそれにしちゃあ違和感があったんだ。あの時メルクが作ったスープを飲んだ時も違和感を覚えてな?」
『……バレていないと思っていました。…ユーリには嘘が吐けませんね…?』
少女は言葉を紡ぎながら困ったように眉根を下げ、顔を俯かせた。
苦笑いで嘆息したユーリは、腰に手を当て少女を見遣る。
ユーリ「相変わらず嘘が上手いな?」
『いえこれでも、下手になりましたよ?全部ユーリの前では、無意味なんだと思い知らされるようですね?』
ユーリ「そうだな。あまりにも上手いとこっちも困るがな。」
『ちなみに、この事は他の皆さんには伝えるのですか?』
ユーリ「んー?そうだな。」
『……』
あまり伝えて欲しそうな顔をしない少女を見て、ユーリは少し考え込んだ。
しかしその答えもすぐに出たようだ。
ユーリ「言わない代わりに条件がある。これを呑んでくれるならカロル達には言わないでやるよ。」
『?』
ユーリ「俺には嘘をつかない事、だな。例えば…〝神子〟の副作用の事とかな?……言っただろ?辛い時は辛いって言えばいい。それに、1人だけでも理解者がいればメルクもやりやすいだろ?」
『……』
少女にとって、それはとてつもなく難しい提案だった。
今でさえ嘘をついているというのに。
暫く思案した少女だったが、ユーリの提案を呑む事にした。
他の人にバレるよりはまだ…何も言われないと思うから。
それに屁理屈かもしれないが、これからの事をユーリに報告すればいい……。
今までの嘘を言う必要はないのだから……。
『……分かりました。』
ユーリ「よし。じゃあこれからよろしくな。メルク?」
『はい。…よろしくお願いします。』
頭を撫でられたが、その温もりも……今の少女には伝わってこらず、ただただ悲しみを募らせるのだった。