第5界層 〜不朽不滅の幽鬼の塔〜
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___カプワノール
医者の元へ戻ったメルクは、久しぶりに会う猫背で不健康そうな医者の元へと駆け寄った。
医者はメルクが元気そうで何よりだ、と安心したように目を細め、メルクを歓迎した。
「おかえりなさいませ。よくご無事で。」
『申し訳ありませんでした……。急に私も知らないところに飛ばされてしまい…何がなんやら……』
「メルクさんが無事なら良いのですよ。さ。先に診察しましょうか。秘薬を作りたいのは分かりますが、メルクさんの力が必要不可欠ですからね。今やれるだけの体調なのか医者である私が見極めなくては。」
診察室に案内しようとした医者だが、僅かに後退したメルクに笑った。
ユーリとレイヴンもそれを見て苦笑いをする。
そりゃ、そうだ。
医者の診察といえば、また“アレ”が来るだろうから。
「メルクさん?怖がる必要はないんですよ?……あっははァ…!」
『(ビクッ)』
医者の様子が少し変わった事に気付き、余計にその足を後退させたメルクだったが、いとも簡単に身長の差からかたったの一歩で追い詰められてしまう。
そして両肩を掴まれ、目を光らせる医者にメルクが少し涙目になりながらユーリを見た。
しかしそのユーリも眉間に皺を寄せ、首を静かに横に振った。
「大〜丈夫ですよォ…?メルクさん…。優しくしますから……!」
『お、お手柔らかに……お願いします……』
尻すぼみになる言葉を告げた瞬間、医者はメルクを抱き上げそのまま診察室へ。
そしてあの機械音を鳴らし、メルクの悲鳴も上がる。
あぁ…、と遠い目をしたユーリとレイヴン、そしてカロルだったが他の面々は目を丸くしたり顔を真っ青にしたりと大変慌ただしい。
エステル「だ、大丈夫なんです?!すごい音がしてますよ?!」
リタ「こりゃあ、嫌がるのも納得だわ。」
ジュディス「まぁ、優しくするって言ってたからきっと大丈夫よ。」
レイヴン「流石ジュディスちゃん……。物怖じしないわねー…」
ブルっと身震いしたレイヴンだったが、意外にも診察は早く終わり、モクモクと煙の中扉が開けられ、気絶したメルクを抱き抱えた医者が出てくる。
「ふむ。悪化はしていませんが、良くもなっていませんね。これならやはり秘薬エリクシールが必要になってくるでしょう。」
ユーリ「いつ頃出来そうなんだ?」
「メルクさん次第ですが、メルクさんが起きたら可能かと思います。それに早めにした方がメルクさんのためにもなりますし、その方向で行きましょう。」
カロル「問題はベンだね…。あれから見てないけど何処に行ったんだろ…。」
「……彼は、気難しいですからね。それに真面目ですから。」
気だるげな表情を浮かべながらも、医者のその瞳には心配や不安が覗いていた。
瞳を曇らせた医者を仲間たちがじっと見つめる。
一度閉じられた瞳は、開かれた瞬間先程の曇りは見られなかった。
いつもの気だるげで不健康そうな医者へと戻っていたのだった。
ユーリ「あんたはヴィスキント・ロータスと仲が良かったんだな。」
「まぁ、彼は以前ここに来たことがありますからね。それに同年代ということもあって、私としては彼を友人だと思っていましたが……。向こうはそうは思っていないようです。この間、ハッキリと言われましたよ。」
病室へと移動しながら話し始めた医者をユーリ達は追いかけつつその話に耳を傾けた。
「私の唯一の友人の頼みですからね。メルクさんの副作用の治療も請け負いました。……しかし、あれは予想外でした。まさか、〝神子〟への身体を作りかえるのに、あんな身体に負担が掛るとは思ってもいませんでしたから。」
レイヴン「請け負ったことに今更後悔してるのかい?」
「まさか。メルクさんのかかりつけの医者として当然だと思っています。ですが、戸惑いの方が大きいと思います。私としても未知の領域ですからね。〝神子〟の事も……副作用や試練と呼ばれるあの身体に負担をかける異常さも。」
優しく下ろした少女の頭を無骨な大きな手で優しく撫でてやる。
「彼はあの異常さを知ってなお、メルクさんに強いているのです。次、宝石を飲み込めば、間違いなくメルクさんの命は危険です。但し、それは秘薬エリクシールと霊薬アムリタがなければの話です。今後の体調についても診ていかないとなんとも言えませんが、メルクさんはもう覚悟の上なのでしょう。あの時…迷わず宝石を飲み込んだのはメルクさんなのですから。」
1ヶ月前に起きたあの事件の話を始める医者。
ユーリ達も大人しく聞いていた。
あれからメルクを探しに散り散りになったから。
話がようやく聞けて安堵の一方、驚くべき事実にユーリ達の心は戸惑っていた。
リタ「待って。副作用ってなんの事なの?それに〝神子〟に身体を作り替えるって…そんなこと可能なの?人の体は未知な部分が多いのに?」
「私もそれについては詳しくは知りませんが、どうやら彼から聞いた話ではそうみたいですね。最も、1番詳しいのはメルクさんかもしれませんね。〝神子〟の体になりつつあるのですから。」
フレン「やはり、最終的にはメルクさんに聞くしかないか…。」
ユーリ「……。ヴィスキントが帰ってきたときにメルクを渡さないようにしないとな?折角見つけた意味が無い。」
カロル「ベン……」
不安げに呟くカロルにエステルも悲しそうに言葉にする。
エステル「…何だか、全てがすれ違っていますね…。思うようにいかないのが、こんなにも苦しいなんて…。」
ジュディス「前の旅でも分かってた事じゃない。大丈夫よ。きっと良い方に傾くわ。」
カロル「それも女の勘ってやつ?」
ジュディス「そうね。道中や経過がどうであれ、結果が良ければ大丈夫だと思うけど?」
レイヴン「ジュディスちゃんの言葉も一理あるな。このまんまだと、いずれメルクちゃんは敵さんの方へと付くかもしれない。そうなった時に最終的にはちゃんとメルクちゃんを説得出来る力が必要だ。」
ユーリ「説得…な。」
フレン「……ユーリ」
ユーリ「分かってる。いずれ決着をつけないと行けないだろうってことはな。」
「ともかくメルクさんが起きて、本人が大丈夫と言うのであれば秘薬エリクシールの作成に入ります。皆さんは如何いたしますか?終わるまで外で待ってても宜しいですが…」
言葉を切った医者の言葉にユーリ達も分かったかのように頷く。
このタイミングでもしかするとヴィスキントが帰ってくるかもしれない。
だから医者は言い淀んだのだ。
いつの間にかヴィスキントが中に居られたらこちらも対応が遅れてしまう。
それだけは避けなければならないだろう。
ユーリ「いや、作成の瞬間を中で見ようと思うんだが…。大丈夫なのか?」
「構いませんよ。私も今回は難易度の高い調合なのでメルクさんの体調に構っていられないかもしれませんし、皆さんにメルクさんはお願いしたいところですね。」
ユーリ「あぁ、それについてはこっちで何とかする。任せとけ。」
カロル「〝神子の祈り〟だっけ?という事はまた羽みたいなやつ出すんだよね?それってメルク、大丈夫なの?」
「大丈夫では無いと思います。かなり体力を消耗するようですし、素材を見ても一発勝負と言ったところですね。」
エステル「なんか、緊張してきました…!」
ジュディス「まだ早いわよ。」
リタ「本当よ!なんで今から緊張するのよ。緊張するなら当日にしなさいよ。」
ジュディスやリタのアドバイスを聞き、少しだけ緊張を解いたエステルだったがメルクを見て余計に緊張したように身体を固めてしまう。
それを見て2人はやれやれと肩を竦めた。
緊張感があっていい事だが、何にしても早すぎる。
ユーリ「ともかく明日だな。」
「はい。そうだと思います。メルクさんが宝石を飲み込んだ事による副作用も診なければなりませんし、何にしても明日になるとは思います。」
カロル「ねぇ…?今日ボク、メルクの隣にいてもいい?」
エステル「あ、それなら私も…!」
リタ「アタシも近くに居たいわ。起きた時にその副作用やらなんやら聞きたいもの。」
ジュディス「じゃあ、私も今日はここで寝るわね。」
「どうぞどうぞ。皆さんと一緒にいた時のメルクさんの様子からしても大丈夫そうなので構いませんよ。患者用のベッド搬入しておきますね。」
リタ「なんか、患者用って言われると嫌ね…。」
流し目で医者を見れば、あの独特な笑いで笑われてしまう。
カロルがユーリとフレンを見て首を傾げる。
カロル「ユーリ達はどうするの?」
フレン「流石に僕達は──」
レイヴン「よーし、おっさんもここで寝よっかなぁ!」
ユーリ「そうだな。折角ならここで寝泊まりさせてもらうか。」
フレン「ユーリ?!レイヴンさんまで?!」
ユーリ「フレンは宿でも良いんだぜ?色々聞いておくからよ?」
レイヴン「そうだぜ?青年。無理は良くないからな!」
そこまで言うとかなり迷ったようだが、結局メルクの姿を見て、ここで寝ることを決めたようだ。
医者が人数分のベッドを搬入するのを手伝い、今日は皆でメルクの隣でお泊まりする事に。
誰ともなくおやすみの合図をすれば、明かりが消え寝静まった。
すぐにいびきをかく者もいれば、暫く目を閉じただけの人もいる。
そんな静かな夜…。