第5界層 〜不朽不滅の幽鬼の塔〜
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___望想の街オルニオン
医者の元に残っているメルクは、そのまま医者の言う通りに薬を飲みまた元気になりつつあった。
大風邪のせいで、またいつ諸症状が再発するか分からないが、今はまだ健康だ。
御礼を言うと「医者ですから当然ですよ」と返され、何と模範的な答えだろう、と内心で思う。
「それにしても彼が帰ってきませんね?魔物退治は得意だと言ってはいましたが、いっそ心配になってきますよ。」
『本当ですね…。どこまで行ったんでしょうか?』
ふと、少女の脳裏にある言葉が思い浮かんでくる。
“方向音痴”、そして“迷子”の二つだ。
彼は気前がいいし、優しい性格であるとは思うが、なにぶん方向音痴なのだ。
今この瞬間、また迷っているかもしれないと思うとどうしようか、と持ち前のお人好しが炸裂してしまう。
本当だったら早くカプワ・ノールへ帰って皆に会いたいのだけど…。
「ま、もう少ししたら彼も帰ってくるでしょう。それまでは大人しくしているように。」
『…はい、ありがとうございます…』
去っていく医者の後ろ姿を見送り、再び思いを馳せる。
会いにくい、という気持ちも然ることながら、やはり皆には会いたいという気持ちが強まっていく。
こうして今自由に会えないからこそ…
『…………会いたい…』
そう、思いを焦がすのだ。
不自由だからこそ、余計に願ってしまうその願い。
叶うのはいつになる事やら。
健康な状態になったのをいい事に、メルクはそっと外へと飛び出した。
すると、メルクは目の前の光景に目を疑った。
何故なら…、遠くに見えるのはユーリだったからだ。
何故ここに…いや、他の人達は……?
口元に手を当て、信じられない気持ちを抑える。
だがそれよりも上回るのは、今すぐ駆け出してユーリの元へと行きたい。
暫く会えなかったから、本人を見ると余計にそう思ってしまう。
その心の願いのまま、勢いよく駆け出したメルク。
そしてメルクは泣きながらその広い背中へと飛び込んだ。
ユーリ「!!」
『…ゆー、り…』
ユーリ「その声…、メルクか?!」
背中にいるメルクを剥がし、肩に手を置くと本人かどうか確認するユーリ。
あぁ、本当にユーリだ…!
メルクの瞳から大量の涙が流れているのを見て瞠目したユーリだったが、そのままメルクを優しく抱き締めた。
ユーリ「ほら、胸を貸してやるから。」
『ゆ、ーり…!ユーリ…!!』
ユーリ「ははっ、そんなに俺に会いたかったのか?ま、そうだよな……。1ヶ月以上会えてないもんな。」
その言葉に驚いたメルクは目を瞬かせて、ユーリを見上げた。
1ヶ月もなんて、思ってもみなかったからだ。
ユグドラシルの所からこの世界に戻って、クレイマンと旅をしてはいたがそんなに日数は経っていないはずだ。
もしかしてあのユグドラシルといた場所でかなり時間がかかってしまったのか?
ユーリ「ん?違うのか?」
『1ヶ月も…?私、そんなに居なかったんですか……?』
ユーリ「あ、あぁ…。」
『私……そんなに、経ってるなんて、思わなくて…、その……』
涙を流したままメルクが時々言葉に詰まらせ、そう話す。
それにユーリが逡巡したが、ともかくメルクが自分たちの元へ戻ってきてくれた事で安堵していたユーリは、少女の頭を撫でた。
ユーリ「混み合う話もあるだろうが、ともかくカプワノールへ帰るか。早いところその体を治さないといけないだろ?」
『あ……。』
クレイマンがまだ帰ってきていない。
ここで何も言わずに別れるなんて、良心が痛む。
そしてそこへ、この街の医者が慌てた様子でユーリ達の元へと来た。
「ちょちょちょ!!!脱走なんてしないでくださいよ!!まだ治ってないんですからね!?」
ユーリ「おー、ここの医者にもかかってたのか。」
『倒れた私を、ここまで連れてきてくれた人が居たんです…。』
ユーリ「ん?そいつは今どこに行ったんだ?」
『私の治療費を稼いできてくれると出掛けてそれから帰ってきていないんです……』
「ま、彼…方向音痴だったんでしょ?帰って来れなさそうだけどね。治療費はまた今度でいいですよ?」
ともかく医者はメルクを連れ戻しに来たようで、逃がさないようにと少女の肩をひしと掴む。
困った顔で笑うメルクはユーリから離れ、ユーリへ謝る。
ユーリ「良い医者がいるんだ。そっちの方に最初かかってたんでな。こいつは連れてくわ。」
メルクの腕を掴み、ユーリが医者へとそう告げると一度は目を瞬かせたみたいだがすぐに了承した。
なんでも、医者にかかってるなら大丈夫だろうと言うのと、ユーリ達なら大丈夫だろうという医者の判断だった。
『彼が戻ってきたらカプワノールに居ることを伝えて貰えませんか?』
「あぁ、いいですよ。まぁ、帰ってこれたらの話ですけどね。」
苦笑いで見送ってくれた医者にお辞儀をし、ユーリの顔を見た。
あの後何が起こったのか、そしてヴィスキントやユーリ達はこの1ヶ月間何をしていたのか。
知りたい。
でも、私には人の願いを叶えるという使命も課せられている。
それは……ユーリ達には言えない願いだ…。
『……秘薬を作りに、カプワノールへ連れてって下さいますか…?』
私が彼らと居られる時間は、もう残り少ないのかもしれない。
私は……誰の願いを叶えたいのだろう。
ユーリ「あぁ、行くか。ようやくその体を治してやれるな。」
少しだけ眉間に皺を寄せた彼だったがそれ以上何も言及することなくメルクの手を握り、オルニオンから離れた。
近くにいたバウルに乗せると仲間たちから、驚きの声や嬉々とした声が辺りに響き、僅かな時間の幸せをメルクは噛み締めた。
……どうか、皆に優しい世界になった暁には幸せになって欲しい。
今の私には、その願いだけだ。