第5界層 〜不朽不滅の幽鬼の塔〜
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___ウェケア大陸
パチパチと焚き木が爆ぜる音がする。
今夜は夜も深くなってきたから自分に構わず野宿しようと言ってくれた少女に、男も有難くそれを受け入れることにした。
そしてその場で簡単に火を起こし、野宿セットを出すと自分の持っていた寝袋に少女を優しく入れてあげた。
『…あ、これは…クレイが使ってください…』
「俺は大丈夫だって!それよりもメルクが使ってくれ!体調、悪いんだろ…?」
優しい気遣いに少女は有難く受け取ることにした。
これ以上断り続けるのは相手にも悪いだろうから。
静かな空間でパチパチという音だけが響き渡るかと思いきや、男は何かを話さなければと拙い頭で所々途切れながらも会話をしようと躍起になっていた。
しかしそんな男の心情を察知し、くすりと少女が笑った。
きっと退屈させないようにと気を回してくれているのかもしれない、と少女が思うとそれに応えようと少女から話題を振る。
『クレイはどうして旅を…?』
「あ、あぁ!俺は、〝神子〟を探しているんだ。」
『!!』
ユグドラシルから聞いていた“クレイマン”という名前、そして彼の旅の目的が〝神子〟を探しているということ。
少女は一抹の不安を覚え、男に先を話す様促した。
確かにクレイマンという名前は私の周りではあまり聞いた事がない。
まさか、そういうことなのか?
「俺は〝神子〟を壊さないといけないんだ。俺の腕の中でな…。それで〝神子〟を探してるって訳だ。」
焚き木を見ながらそう呟くように話す男に、少女は黙ってしまう。
腕の中で〝神子〟を壊す…?
何だか独特な表現だ。
『壊す…?』
「あぁ。そうだな。〝神子〟を説得した上で、〝神子〟としての体を壊すって意味だな。来世では〝神子〟という使命に囚われず生きて欲しいって意味も兼ねてんだ。〝神子〟は、選ばれたら最後、幸せな人生なんて送れねぇ。だから“壊す”のさ。俺はもう、何人もの〝神子〟を壊してきたんだぜ?」
いつぞやのヴィスキントの前とは違い、少女に話すには濃い内容だった為か、困った顔でそう話す男。
あの時は酒もあったが、それでも素面でも普通に話し始めていた。やはり少女に話す内容ではない、と自分で感じているのだろう。
『幸せな人生を送れない……。』
「あぁ。〝神子〟は世界樹ユグドラシルにこき使われて、願いを叶えるための器にされて犠牲になる……。そんな暴挙放っておけねえよ。」
これは驚いた。
まさか、世界樹の事やユグドラシルの事まで知っているとは…。
驚いている少女なんて露知らず、その後男は自分のいた世界についての話をし始めた。
〝神子〟として生贄にされた人の事、〝神子〟に悪霊が取り憑いて世界を壊されたこと…。
そんな話を真剣に聞いていた少女だが、やはりユグドラシルの話と同じで、別の国の話のように聞こえてしまう。
少女はこの件に関しては当事者であって、決して他人事ではないというのに。
だが、少女にとって男の話は若干現実味を帯びていた。
ユグドラシルから色々聞いて、犠牲になると決めたからもあるだろうが、〝神子〟の事を“可哀想”だと言う男の話は、今の少女にとって嬉しいものであった。
そうやって〝神子〟の事を考えてくれる人がいる。
犠牲になってもこうやって〝神子〟の人生を考えてくれている人がいる…。
それが例え、終焉という同じ最期だとしても嬉しいものは嬉しいのだ。
「!! すまない、メルクに話す内容じゃなかったよな…。」
少女は一粒だけ涙を流していたのだ。
少女の涙を見て話した事を後悔する男だったが、少女が首を振り「大丈夫」だと伝える。
逆にありがとうと言いたい。
だけど、今言えば男は自分を殺すだろうから。
今だけは胸に仕舞って、男を見た。
『素敵なお話でしたので、感動しました…。その〝神子〟という方、見つかるといいですね…?』
「!! あぁ!見つけてみせるさ!そして絶対に壊す!……来世では幸せになって欲しいからな。」
遠い未来を思い描いているのか、男の目は遠くを見ていた。
そしてやっとこの空間に静寂というものが訪れる。
焚き木の爆ぜる音を2人は暫く堪能していたが、どちらともなく寝る事にしたようだ。
「見張りは俺がするからメルクは寝てな?今は体を休ませて、元気にならないとな?」
『ありがとうございます…。元気になったら、何かお礼をさせてくださいね…?』
「なははっ!良いってことよ!お互い様だろ?」
そう言って寝袋で横になっている可愛い少女の頭を撫で、寝るのを促した。
明日の朝からはまたこの大陸を歩かなければならないだろうし、少女を抱き上げるにしても、少しでも休んだ方がいい。
すぐに寝息を立てた少女を優しい瞳で見て、男はその晩見張り番をルンルンとこなすのだった。
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翌日。
朝になり起きた少女は現在、自分の膝の上で寝ている男の人の様子を伺う。
昨晩ずっと寝ずの番をしてくれていたから、少しでも寝て欲しいと頼んだのだが、中々寝てくれない。
そこで地面の上に座り、膝を叩き横になってと促すと、クレイマンは顔を真っ赤にして仰け反った。
「な、なななな、何を…?!」
『クレイに少しでも休んで頂けるよう、私の膝をどうぞお使いくださいね?』
「へ?!う、嘘だろ?」
『冗談ではありませんよ…?どうぞ?』
ポンポンと膝を叩き強調すれば、アワアワとしていたものの遂に覚悟出来たのか、顔を真っ赤にしながら恐る恐る頭を膝上に乗せ固まる。
「(女性の膝の上って…やわらけー……!)」
頭を優しく撫でられ、男はもうどうしたらいいか分からなくなり、胸はドキドキして、頭は遂にパンクした。
そのまま気絶した男に気付かず、少女はそのまま頭を撫で続けたのだった。
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少女の膝の上でよく休めたクレイマンは意気揚々と少女を片腕で抱き上げ、ウェケア大陸を歩いていた。
時折少女の声掛けで道を訂正しながら歩き続ける事半日。
ようやく見覚えのある船が見え、クレイマンは慌てて駆け出した。
自分の船だと分かり、酷く喜びを表に出していた。
「やっっっっと見つけたぜ!!!流石だな!メルク!!」
『良かったです…。けほ、けほ…』
「!! すまねえ、1人で舞い上がっちまって!今医者のいるところまで行くからな!!」
少女を乗せ、自分も乗ると船を漕ぎ出したクレイマンに目を見張る少女。
まさか、ここまでも漕いで来たのだろうか?
「体力だけは有り余ってんだ!任せとけよ?!」
ザブザブと漕ぐそのスピードは、冗談じゃないのか、と思えるほど程早い。
慌てて船にしがみつく少女を見て、調子に乗る男。
妙な構図の2人は海の中を物凄いスピードで進んでいた。
しかし、少女は羽のように軽いのだ。
しがみついている手が徐々に離れていきそうになり、慌てて少女は止まるように叫んだ。
『っ、止まって…!止まってください!!』
「ん?」
急に止まる男だったが、その時丁度運悪く荒々しい海風が吹き荒び、二人の間に流れていく。
その風の影響で瞬間的に少女が風に攫われてしまい、男が慌て出す。
このまま海へ落ちてしまえば、風邪を引くかもしれないし、少女の体調が悪い今海に入れば別の病気に罹ってしまうかもしれない。
風に攫われた少女は海に落ちていく直前、誰かに掴まれた感覚がして、思わずそれにしがみついた。
薄ら目を開ければ、クレイマンが息を切らしながらメルクを抱き締めている所だった。
「あっぶね…!!女の子ってこんな、風に攫われるものなのか!!気をつけねぇとな…。」
マジで焦ったー、という男にしがみつきながら謝る少女。
「謝る事ねえって!そんだけ体重軽けりゃ仕方ねえしよ。それに調子に乗った俺が悪かった。すまねえ!!」
『いえ…!私が悪いのです…!早くに言っていれば……』
「いやいや!大丈夫だ!……しっかし、どっか辿りつかねえかな…。」
そんな2人の前に島……いや大陸が見えてきた。
あそこは確かヒピオニア大陸だったはず、と少女が呟いたのを聞いて、男はそこへと向かって漕ぎ出した。
『ヒピオニア大陸には新しく出来た街、オルニオンがあるんですよ?』
「じゃあ、そこ行って町医者に掛かろうぜ?まだ大丈夫そうか?メルク」
『ありがとうございます…。薬さえ貰えれば…』
「よし、そうと決まれば行くか。」
゚+o。◈。o+゚+o。◈。o+゚+o。◈。o+゚+o。◈。o+
長い長い航海や旅を経て、ようやく辿り着いた望想の町オルニオン。
そこの医者へとかかったメルクは暫く医者の元で静養することになり、ベッド上で休んでいた。
『けほ、けほ…』
「お、おい…、大丈夫か?なんか、欲しいもんないか?」
『だ、大丈夫、です…』
どうしていいか分からない、とあたふたしていたクレイマンに医者が静かにしてろと一喝し、しょぼんと椅子に座る。
熱が出て、点滴を受けるメルクを見て男はじっとしていたが男自身がそういった性格なのか、じっとはしていられないようで急に立ち上がるとメルクを見た。
「俺、ちょっくら魔物を倒して金稼いでくるからな!!」
『え、大丈夫ですよ…?ごほ、ごほっ』
「メルクは大人しくしてろって」
起き上がろうとしたメルクを押さえ、屈託ない笑顔を見せた。
大丈夫だから待っててくれ、と言った後、すぐに魔物退治へと行ってしまった男を少女は見送った。
少しだけ、安心する。
彼は私を殺そうとしている人だから、何処で自分が〝神子〟だとバレるか分からない。
男の安否を心配しながらも、ほっと息をついた少女だった。