第5界層 〜不朽不滅の幽鬼の塔〜
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
___カプワ・ノール
植物園より帰ってきた少女はやはり高熱を出し、寝込んでしまう。
しかし、それでも意識はあるようで仲間達に囲まれ、ベッドで横たわりながらも他愛ない会話を少しずつ交わしていた。
そんな時、病室の扉が開けられヴィスキントが姿を現した。
「……帰りました。」
カロル「あ!ベン!お帰り!」
カロルが疲れ果てているヴィスキントへと近づいていく。
どうやらその様子からして素材、乙女の涙の収集にはかなり時間がかかった様子。
今まで何でも卒なくこなしていたヴィスキントだったからこそ、少女にはその姿が不思議に思えた。
『お疲れ様です。』
「あぁ…。」
少女の頭を撫で、とりあえず笑顔を見せるヴィスキント。
何だかんだ彼にとっても少女は大切で、癒しの対象でもあるのだ。
疲れ果てた体に鞭を打ち、医者の元へと歩き出すヴィスキントにユーリ達からは怪訝な顔で出迎えられた。
それを素通りし、奥の部屋に居た医者へと取ってきたばかりの素材を投げ渡す。
「これで全てが揃った。始められるか?」
「ムフフッ…!流石ですね、貴方は。」
「当然だ。これ位の事こなせなければあいつの側近など勤まらないさ。」
「日々お疲れ様です。…調合ですが、メルクさんの体調次第ですのでまだ時間はかかるかと。」
「あぁ。なら俺は奥で少し休んでくる。もし調合を始めるなら声を掛けてくれ。」
「かしこまりましたよ。ではどうぞ、奥の方へ……あぁ、身体検査でもしましょうか?」
奥の部屋で休もうとしたヴィスキントが顔を歪め立ち止まるとすぐに医者を見た。
嘘だろう?という顔に医者が笑い出す。
「冗談ですよ、冗談。ムフフッ…!!」
「…お前がその笑いをするときは冗談に聞こえないな。」
危機感を感じながらも奥に引っ込んでいったヴィスキントを見送り、手元の素材を見る。
ちゃんと乙女の涙を複数個…。
失敗した時用にと何個も取ってきてくれたのだ。
ただでさえ大変な素材集めだったのにも関わらず、それを1、2週間でこなしてきたのだ。その見事な手腕に流石の医者も感嘆した。
「…全く、惜しい人です。その力を振るえばもっといろんな人の役に立つでしょうに…。」
「……人助けなど、性に合わん。」
医者の呟きが聞こえていたのか奥の方から声が聞こえてくる。
それに肩を竦めて見遣れば、もう返事は帰ってこなかった。
その代わりに質問を投げかける。
「どうです?ここで働くっていうのは。」
「…阿呆か。」
「ムフフッ…。相変わらず貴方らしい返答です。いつまで経っても断られてしまいます。」
「当然だ。もう俺は…俺たちは生きるか死ぬかの瀬戸際なんだ。そんなことしてられるか。」
「ふむ。貴方も大変ですね。」
「………ふん。」
同い年の彼。
生き急ぐように、そして何かに追われるように生きていく友人。
それがなければ、もっとこうして話して、馬鹿したりして、自分も友人の役にでも立てたのだろうに…。
「それが…私の罪ですかね…?」
「何の話だ。」
「いえ、独り言です。お気になさらず。」
「…そうだ。もう一つ頼みたいことがある。」
「なんでしょう?貴方の頼みなら幾らでも聞きますよ?勿論……実験に付き合ってもらえれば、ですが。……あっははァ!」
「…お前、その性格どうにかならないのか?…実験体ならそこら辺の雑魚を用意してやる。それで勘弁しろ。」
「いいですねェ…?実験体…!ムフフッ…!!!」
「……。」
呆れたような、または引いたような声音で言葉を濁すヴィスキント。
しかし話が進まないので、ベッドに横になりながら本題に入ることにした。
「……あいつの…、メルクの体はまだ〝神子〟として未完成なのは知っているな?」
「えェえェ…。知っていますよ。以前から話してくれていた奴ですね…?」
「あぁ、それだ。まだ〈
疲れ気味な声音でずっと話しているヴィスキントの近くに寄り、一応脈を診ておこうと触れるがとてもとても嫌そうな顔をされたので医者があの独特な笑いで笑う。
しかし以前より聞いてはいたが副作用とは、聞き捨てならない言葉だ。
もう彼女は自分の患者なのだ。
その患者が危険なことをしているのなら医者として、主治医として怪訝な顔になるというもの。
「やはり副作用が…?」
「最初は視力が失われた。次に飲み込んだ時はお前も知っての通り、体重の著しい減少だ。…全く、今度は何の副作用が出るのやら。」
「視力が失われた際は、どうやって治療を?生半可な治療では不可能だと思いますが。」
「メルクが自分で治していた。第3界層だったかに生えているイロイロバナというやつで治したらしい。」
「ほう?イロイロバナ、ですか。それはまた珍しい植物を見つけましたね。ですが…イロイロバナにはそんな効能はなかったように思いますが…。これも植物博士ならではのメルクさんの手腕ですね。…こちらとしては、お二人をここで働かせたいものです。」
「ふん。丁重にお断りさせていただく。」
医者の提案をすぐに却下され、医者はやれやれと肩を竦めた。
結構良い職場だと思いますがね?
「副作用の治療の件、承りましたよ。何より貴方からの依頼です。断る理由など私にはありませんよ。」
「交渉成立だな。…ちなみに、今あいつの治療費はどれくらいになっている?」
「ムフフッ…。見ますか?」
紙を見せれば、その顔が徐々に引き攣っていく。
そしてゆっくりと医者の顔を見上げ、またしても嘘だろう?という顔をした。
「……足元を見やがって…。」
「ムフフッ…!別にこちらとしては貴方の体で支払ってもらって構いませんよ?」
「断る!!」
医者の指を見て危機感を感じたヴィスキントは、すぐにその持ち前の俊敏さで医者から離れた。
折角休んでいたのに、これでは休めないではないか!と苦言を呈すと医者が可笑しそうに笑い、先ほどヴィスキントが寝ていたベッドから離れていく。
恐る恐るベッドへと近付き横たわると、医者がヴィスキントの方を見ずに呟いた。
「私は一医者としても、彼女の主治医としても…彼女には幸せになってもらいたいと願っているんですよ。これでもね。」
「…何が言いたい。」
「勿論、貴方にもですよ…ベン。貴方にも幸せになってもらいたいものですよ。本当に…。」
「端から無理な願いは持つものじゃないぞ。お前自身もよく分かっているだろう?この世界の不条理を。」
「そうですね。分かっているからこそ、そう願うのですよ。……もし、私が〝神子〟に願いを叶えてもらうのであれば、貴方たちの幸せを願いますよ。えェ…絶対に。」
「(…そうか、こいつは知らないんだったな。〝神子〟が願いを叶える時、その〝神子〟は願いを叶える代償に死すという事を。)」
いつぞや〝神子〟を壊すという発言をしたクレイマンの話を思い出す。
もうそれも、当の昔の事のように思えてしまう。
ベッドに横たわり、医者を見たヴィスキントはその絶対に叶えられない願いを鼻で笑うとゆっくりと目を閉じた。
誰も彼も夢を見過ぎなんだ。
善人も悪人も誰かに利用されて、その時に全てを壊されてしまって…そしてまた悪が出来上がり、この世界が成り立っている。
善人も悪人も関係ない。力だけがこの世の全てだ。
だから、この世界はそんなに優しい物ではないというのに、この馬鹿は…。
「お前も…相当、馬鹿な理想主義者だな。……スヴェン・マグノリア。」
「その言葉そっくりそのまま返しましょう。ヴィスキント・ロータス。貴方たちはまだ戻れる…。馬鹿なことはやめるのです。これは貴方の”友人”としての忠告です。」
「お前と俺、いつからそんな生易しい関係になった?夢を見るのも大概にしろ。」
「…ベン。」
ジロリとヴィスキントが医者を睨めば、悲しそうな顔をした医者はそのまま何も言わずに部屋を出て行った。
それを見て大きく溜息をつき、今度こそ休む体制に入ったヴィスキントはすぐに意識を落とした。