第1界層 〜変幻自在なる翻弄の海〜
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その日の午後。
調合も終え安心していたメルクは午後は何をしようかと迷っていた。
「メルクー!!」
甲板に居た私に話しかけてくる人がいた。
あれは……カロルさんだ。
嬉しそうにこちらへ寄ってくる姿はとても愛らしく、子供らしい。
私は笑顔を零してカロルの話を聞く体勢になった。
「メルク!!メルクって、〈
『〈
「そうなんだ。今、皆と〈
私の手を掴み、船内の食堂へと向かうカロルさん。
子供とはいえ、魔物との戦闘もした事があるのか、指にはたくさんタコが出来ていたことに気付き驚いた。
この子も、もしかしたら苦労性なのかもしれない。
「皆ー!メルク呼んできたよー!」
「おう、来たか。」
カロルさんに手を繋がれたまま歩いていると、ユーリの隣へと座らせられ、改めて食堂をぐるりと見渡した。
「忌憚なき意見を頼むぜ?」
『ふふ。頑張るわね?』
「あれ?!メルク、いつの間にユーリには敬語外してるの?!ちょっと!!ズルいよ、ユーリ!!」
「なら、私も敬語はなしにして頂戴?堅苦しいのは苦手なの。」
「あ!私もお願いします!」
「エステル。あんたもずっと敬語じゃない。あんたに至っては敬語だろうがなんだろうが変わらないわよ。」
「そんなことありません!!敬語なしは仲良くなる近道、と聞いたことがあります!メルクとはもっとお近付きになりたいので!」
そんな話が聞こえてきて、エステルに笑顔で頷くと嬉しそうに向こうも笑って頷いてくれた。
リタはそれを見てすぐに真面目な顔つきになると私を見つめた。
「まずはこの第1界層について、知っていることを教えて。」
リタが私に向かってそう話したので、思い出すようにゆっくりと言葉を紡いでいく。
『〈
「少しでも情報が欲しいのよ。お願い!」
手を叩いて頼み込むリタを皆が僅かに驚いた様子で見ていた。
それに私が断れるはずもない。
リタに笑顔で頷いておいた。
「第1界層目は翻弄の海で、島がひとつもない、海のダンジョンなんだよね?!」
カロルが意気込んでそう言うので、肯定したかったのだが、早くも訂正しなければならないようだ。
『〈
「がきんちょの本、あたしも読んだけど…そんな古い本なの?これ。」
そう言ってリタが持っていた本を渡してくれる。
それを受け取りサラサラと中身を確認する。
これは思ったよりも初版の方かもしれない。
『これは……初版、ね…。懐かしいわ?』
「初版?!じゃあ、ボクの知識って……もしかして古い?」
『攻略が進んできた今の情報と比べたら、物足りないかもしれないわね?』
「そんなぁ……」
ガッカリとした様子のカロルに、落ち込まないで、と頭を撫でる。
するとレイヴンがヨコから会話に参加される。
「メルクの知っている情報を元にした方が良さそうだな。」
「……じゃあさ、この本に書いてあった〝3日目を過ぎた頃、体に異常が出始める〟ってのも違うってこと?」
カロルが唇を尖らせて私を見る。
隣のリタは何かを考えているようで、口元に手を当てて暫く考え込んでいた。
『半分正解で、半分ハズレ……と言った感じでしょうか。』
「ひっ、やっぱり私たち呪われるんです?!」
エステルが僅かに椅子から後ろに仰け反るので、可愛い反応にくすりと笑う。
確かに私が見た本にも、体に異常が起こり始めるのはおよそ3日目辺り。
何でも〈
恐らくカロルはそれのことを言っていたに違いない。
『〈
「予防策ってないのか?」
『こればかりは個々の体の栄養状態だったり、メンタルだったりがあるから一概に全員が幻覚に苛まれる……とは言えないの。』
「前途多難、だな。」
『でも、治療方法は確立されているの。』
「え?なんですか?!」
食い気味にエステルが私に近寄り、聞いてくるので答えようと口を開く。
『回復術技、もしくはお薬で治るみたい。私が回復術技を持ってるから、安心して?もし、私が幻覚にかかってしまったら……これを。』
食堂の机の上にパナシーアボトルをコトリと置く。
するとカロルもカバンを漁りだし、何個かパナシーアボトルを取り出した。
人数分は無さそうだけど、他の日に何かあった時用に取っておいてもいいのかもしれない。
『カロル。それは大事にとっておいて?貴重なお薬だもの。』
「こうなるんだったら人数分買っとけばよかったよ……」
『あらあら、まぁ…。大丈夫、回復は私にお任せを。』
「そ、そうだよね!メルクがいるんだもんね!」
ウンウンと頷き、テーブルに置いたパナシーアボトルをカバンへ再び戻していくカロル。
その間にも、ユーリから4日目以降の話を振られたため思い出す限りで話し出す。
『4日目以降からは、チラホラ魔物がお目見えするみたい。だから武器の手入れとかは早めにしておいた方がいいわね。』
「魔物、か…。どんな魔物が出てくるか思い出せるか?」
『主に水に生息している魔物が多いようですね。』
ゲコゲコやオタオタ、クラブマンなど多種多様な水属性の魔物が出てくると言われる。
また、5日目以降は大型の魔物にも気を付けなければならない。
そして──
『最終日である7日~8日目…。ここが一番の問題で、第1界層の主が現れるの。』
「ヌシ?」
『〈
ゴクリと誰かが生唾を飲み込む音がした。
この主を破壊してようやくこの第1界層の旅が終わる。
寧ろこの主を倒し、先に進むための礎と言ってもいい。
『先に船が壊され、私たちが主に食べられてしまうか……それとも私たちの力が上回るか、の勝負になる…。これを倒せれば第1界層目の攻略完了となるの。』
「要はそのヌシとやらを倒せばいいんだろ?簡単な事じゃねえか。」
ユーリが自信満々にそう言うと、周りもようやくホッとしたり、笑顔が見え始める。
暗い話ばかりでは滅入ってしまうから、ユーリのその言葉はカロル達には有難いだろう。
「弱点は水属性だから……地属性ですか?」
『はい。エステル、当たりよ。』
「地属性の技かぁ…!」
「あたしは持ってるから大丈夫ね。」
「僕も出来る限り応戦するよ。」
皆が意気揚々と主との戦闘に思いを馳せる。
大丈夫、このメンバーなら勝てる。
誰もがそう思った。
「他に注意点とかないか?」
『主はかなりの強さを持っていて、他に類を見ないほど。私たちの世界でいう……ギガントモンスターの扱いね?』
「上等じゃねえか。どっちにせよそいつを倒さないと帰れないんなら倒すしかないよな。」
「ボク、聞いてて怖くなったんだけど…」
「カロル先生なら大丈夫だろ。後は……メルク。戦闘になったら中に入ってろ。ここは戦闘慣れしてる俺達でやる。」
「あたし達はその戦闘メンバーに強制的に入れられてる訳ね。」
リタが呆れた声で言ってはいるが、怯えた様子などはなく、どちらかというとユーリと同じでやらないと帰れないから殺るといった具合だろう。
エステルやジュディスもやる気満々でいて、レイヴンやフレンは初めから覚悟を決めていたようだ。
『皆さんの方が戦闘慣れしているようなので、お任せしますね。機を見て援護に入りますから。』
「え?メルクって戦えるの?」
「リタのようなすごい魔道士ほどではありませんが、一応護身として魔術と短刀を扱えます。」
「へぇ…!すごいね!!」
カロルが感動したようにそう言うので、少し照れてしまう。
『後、〝〈
「足が変化するって……何によ?」
『まだそこは検証不足らしいけれど、今まであった事例では人になったり別の魔物に変化したり…とにかく瓜二つの幻影を見ているようだ、と話されてました。』
「さすがこの階のヌシ。一筋縄じゃいかねぇってこった。」
レイヴンも呆れながらそう話す。
私も出来ることなら戦闘に参加して、皆さんの役に立ちたいけど、邪魔をしてもいけない。
どちらにせよ、当日を迎えないとどうなるかは分からない。
その日は誰も欠けることがないよう祈りながら、皆の話を聞いていた。