第5界層 〜不朽不滅の幽鬼の塔〜
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___帝都、城の入口
“疑似”霊薬アムリタを作る為に、素材を聞いたユーリ達はフレン達にその事を伝えようとメルクの元を離れ、帝都へ戻ってきていた。
そこで待っていたのはフレンやエステル達ではなく、メルクの体調を心配し、メルクの帰りをひたすら待っていたココやロロ、サリュとカリュ……そして城の兵士達だった。
カロル「うわ、なんでこんなに集まってるの?!」
ユーリ「……奥にフレン達が居るな。アイツら…さては俺達がここに来る事分かってたな…?」
ジュディス「素晴らしい歓迎じゃない。有難く受け取っておきましょう。」
門へと入ったユーリ達へと駆け寄る4人の姿。
その4人こそ先程先頭に立っていたココとロロ、そしてボディーガードの双子だった。
サリュ「お疲れ様です!」
カリュ「メルク様は…?」
ココ「なあなあ、メルク姉は?」
ユーリ「まぁ、待てって。取り敢えずフレン達と話させてくれねえか。聞きたいのは分かるけどな。」
詰め寄ってくる4人を手で押えつつ、奥にいるフレン達へと視線を向ける。
ようやくこちらに向かってくる仲間達を見て、ユーリはカロルとジュディスに4人の相手を任せることにした。
フレン「全く…君たちは急に来るんだから困ったものだよ…。」
ユーリ「そうでもこの兵士の数を揃えるとは分かってたんじゃねーか。」
フレン「勝手に集まって来てたんだ。」
エステル「お久しぶりです、ユーリ。」
ユーリ「おう。エステルも元気にしてたか?」
エステル「はい!とっても元気です!……その…、メルクは?」
ユーリ「まぁまぁってとこだな。優秀な医者が居るからな。」
メルクの様子を聞いたフレン達は心の底から安堵の息を吐いた。
あれからメルクの体調を心配していただけに、その報告はとても体に染入る。
エステル「こっちは霊薬アムリタについて粗方分かったことがあるんです。」
リタ「あれ、結構難しいわよ?条件もだし、素材だって聞いたことがない素材ばかりよ。」
ユーリ「……やっぱりか。そっちはそんな感じか。」
フレン「君の方ではどうだったんだ?メルクさんから聞いたんだろう?」
ユーリ「あぁ。メルクに聞いた話だと、“疑似”霊薬アムリタを作る事になった。」
カロル達が兵士達へとメルクのことを話している間に、ユーリ達も情報を共有していく。
素材やら生成方法が難しいのは分かった。
だがどうやら、一番難易度の高いものはアムリタを作る際の“環境”のようだった。
ユーリ「……結構厳しそうだけどな。メルクは知ってんのか?」
フレン「こればかりは彼女に聞くしかないね。」
エステル「ドンケルハイトを太陽の下で蜜雨をかけ、霊薬を作る……。」
リタ「疑似品なら満月の夜にしか咲かないからその時にしか作れない…ねえ?」
フレン「かなり限定されている作り方だが…」
ユーリ「分かってる。やるしかないってな。」
カロル達も話し終えたようで、こちらに来て話に参加する。
ココやロロ、サリュとカリュも参加し皆で共有し合った。
ココ「そういえば、メルク姉の植物園って大きかったもんな。」
ロロ「その月下美人……確かメルクお姉さんが大事に育てていた花です。絵で書いて見せてもらったんですが、とても綺麗な花でした。」
サリュ「ですが…その場所までメルク様をお連れするのは……」
ユーリ「その為の医者だからな。そこは心配していないんだが…。失敗はできねえな。」
リタ「端から難しいって分かってた事じゃない。今更あーだこーだ言うつもりはないわ。さっさとやっちゃいましょ。」
リタが意気込みを見せる中、仲間達も頷きお互いの意志を確認しあう。
メルクのためにやるしかない。
お互いの意志は一致した。
後はメルクの体調や、霊薬を作るための環境が整うのを祈るばかりだ。
勿論、サリュやカリュもそれを聞いて、自分達も着いて行きたいと志願した。
だが、1番近くでメルクのボディーガードをしていた2人を今の状態のメルクに会わせれば、どうなるかは分からない。
自分達でさえメルクとのお目通り叶うまで時間が掛かったのだから。
メルクにとって、特に双子や子供達には会いにくいだろう。
その事を包み隠さず4人へ伝えた。
メルクが会えるようになるまで待って欲しい、と。
子供には酷な話だが、これも病気が治らなければ何も始まらない話なのだ。
暫くは我慢をしてもらうしか無かったが、子供達は意外にも納得をしてくれ、大人な対応を見せてくれた。
……どうも、騎士団に剣を習っている内に徐々に鍛えられていってるらしい。
__心と体、そのどちらも。
ロロ「寂しいですが……メルクお姉さんの為です!」
ココ「その代わり会えるようになったら直ぐにあわせてくれよな?!」
ユーリ「分かってるって。」
ニカッと笑った2人にユーリ達も安心した所で、双子も必ず会えると信じ現状を受け入れてくれた。
ユーリ「さ、霊薬とやらを作りに行くとしますか。」
決行は来週の満月の日。
それまでは各々好きな時間を過ごす事にした。
やるべきことがある人はそっちを優先に、やる事がない人はメルクへ会いに。
とある人は双子の剣の稽古に付き合ったり……。
各々の時間を過ごしたのだった。
❁⃘*.゚❁⃘*.゚𖤣𖥧𖥣。𖤣𖥧𖥣。❀.*・゚𖥧𖤣𓂃𖤥𖥧𖥣⋆*.* 𖥧⚘❁⃘𖤣𖥧*゚.
そして、問題の当日…。
ユーリ達はメルクと医者を連れ、例の植物園へと向かう。
そこには荒れ果てた植物の姿があったが、メルクはひたすら奥へと向かっていく。
寂しそうな、悲しそうな顔をしていたが、心を強く持ちメルクは奥へ、奥へと進んでいく。
一際大きな扉の前まで来たメルクは、仲間達の方へと振り返った。
この奥に月下美人がある。
そして、時間ももう少しすれば良い時間帯になる。
『……ここでようやく…霊薬アムリタを…』
ユーリ「前から研究してるって話だし、やっぱり感慨深いか?」
『……はい。とても…感慨深いです。まさか作れるとは思っていなかったので…』
少女は扉に向き直る。
ゆっくりと扉を開ければ、そこは今まで通ってきて散々見てきた荒れ果てた植物園とは違う、全くの別世界だった。
音を立て流れゆく水の音、そうともすれば雫でも落ちているのかピチョンと心地よい音を何処かで鳴らしている。
中に入った仲間達は余りのその景色の素晴らしさに感嘆の声を上げていく。
『ここが、私の研究している植物園の最奥……。そして、霊薬を作るための施設です…。』
広い空間の中央には湖のような水場があり、その周りには岩や地面があってそこに月下美人が沢山に咲いていた。
あまりの綺麗な白の空間に、言葉を発することも躊躇われ、ユーリ達は誰も声をあげなかった。
少女が入口近くのスイッチを構うと、植物園の天井が音を立て開いていく。
絶好の満月の夜。
見えた月は欠ける事無く、空に存在していた。
その月の光を受けた瞬間、目の前にある沢山の月下美人の花が白く光り輝く。
自ら発光しているその姿に、医者もユーリ達も息をのみ事を静かに見守る。
調合方法や、生成方法はメルクにしか分からない。
後はメルクに任せるだけだが、大丈夫だろうか。
そんな心配を感じ取ったのか、メルクがユーリ達を振り返り、ふわりと笑顔を見せた。
ゆっくりと歩き出したメルクは月下美人の大群の中に入ると1本の大輪の月下美人を優しく手折る。
そしてそのまま水辺まで行くとその花をゆっくりと水へと浸けた。
『……月下美人はその性質から、漢方薬として扱われる事もあるくらい…栄養価の高い植物です。特にこの月の光を浴びた月下美人は、治療効果が好ましく、薬にするにはもってこいなんですよ?』
浸けている花を見つめながら説明する少女。
白い大輪の花に埋もれる少女のなんと儚き事か。
瞬きをしてしまえばその瞬間から消えてしまうのではないか、という錯覚を起こさせる。
『……そして、このクラリとするくらい強い香りには他の花…ライバル達に負けんとする強い意志があるのです。夜にしか咲かない理由もそこにあるのです。』
時間を計るように満月を見上げた少女は、暫くの間目を細め月を見ていた。
『研究を進めていくと……この月下美人は音に反応する事が分かったんです。……ですから…』
水からあげた月下美人を月夜に掲げると、水に濡れた月下美人が光を帯びて輝きを増していく。
白く、白く……。
銀色にもとれる様な色合いになっていくと、少女は口を開き、歌を紡いだ。
『♪雲間に踊る光〜♪』
それは不思議な曲だった。
優しく、それは優しく歌いあげる少女。
しかし、時に寂しそうに歌う。
煩わしいはずの急な高音も優しい音色で耳触り良く、変調になってもそれがまた心地よく聞こえ聴く者を引き込むのだ。
ドーム状になっている植物園に、その歌は響き渡る。
ドーム状だからこそ反響すると言っていい。
だからか、少女の歌は不思議な音色になりそれが聴いた者の心へと染み渡る。
しかし、少女の歌はそれだけじゃ留まらない。
「「「「「!!!」」」」」
少女が空へと掲げている光り輝く花が少女の歌に反応したのか、まるで湧き水の様に、金色に光り輝く水を花の中央から溢れさせたのだ。
勿論、それを掲げている少女にもその金色に光り輝く水は降り掛かる。
それでも歌を止めない少女の身体に水が掛かっていき、着ている白衣や服を濡らしていく。
すると少女もその光り輝く水に反応したのか、それとも歌の影響か、カプワノールで歌った時のように背中に七色に輝く妖精の羽が現れた。
その上少女の髪も、瞳も、光源を帯び光り輝いていく。
その幻想的な光景を見た仲間達は息をのみ、呆然とそれを見遣る。
倒れやしないかと不安になる者、神秘的だと恍惚の顔を浮かべる者…、それぞれの思いが交錯する中、仲間達の周りの月下美人もその光り輝く水を吸い上げ、更に光を増していく。
そして少女の歌に反応し、少女の掲げている花と同じ様に金色に光り輝く水を溢れさせる。
一瞬にして水浸しになっていく植物園に仲間達かやっと慌て出した。
これはどうするのが正解だ、と。
「……霊薬アムリタの正体は、花から出る蜜雨の事だったんですね。」
医者が膝まで来た水を見て感嘆とした声をあげる。
しかし仲間達はそんな医者を叱咤する。
このままでは皆、溺れてしまう。
お腹の所まで来てしまった光り輝く水を見て、そして未だ歌い続ける少女を見て諦めた仲間達だったが、お互いの姿を見た時に驚いた。
何故なら全員、少女と同じで髪と瞳が光源を帯び、光り輝いていたからだ。
何だか神秘的だ、と目を瞬かせた仲間達はそれぞれの頭や顔を見て嬉しそうに騒ぎ出す。
流石に少女の様なきれいな羽はないけれど、それでも不思議な光景を体験して興奮していた。
「ともかく皆さん、この水が霊薬アムリタで間違いありません。早く採取してしまいましょう。」
その医者の言葉に、それぞれが医者から手渡された小瓶に金色に光り輝く水を入れていく。
こんなにも沢山の霊薬が出来るなんてとても素晴らしい事で、もし少女の体調を治す事を失敗しても秘薬の材料を集めれば何回でもやり直す事が出来ることを表していた。
『•*¨*•.¸¸♬︎』
少女が歌い終わりそうな頃、仲間達も沢山の小瓶に霊薬を入れ終え、満足していた時だった。
……カタカタ…
ユーリ「!」
ユーリだけがその妙な物音に気付き、植物園の扉へと訝しげな視線を向けた。
もしかして扉の向こうに誰か居るのか?
しかしまだ少女が歌の途中で、今やめたらどうなるかなんて未知数だ。
穏便に行こうと思ったが、その妙な音は段々と大きくなっていく。
遂にユーリが武器を手にしたことで仲間達が驚いて、ユーリの視線の先の扉の方を見遣る。
そして、その扉が荒々しく開けられ霊薬アムリタが外へと流れ出した。
「これが霊薬アムリタか…!!野郎共!早く採取しろ!」
「おお!!」
チンピラのような集団が流れていくアムリタを必死にかき集めようとする。
しかし扉向こうへと流れ出る水は不思議と輝きを失い、霊薬としての効果が見込めなさそうに見えた。
慌ててバケツのような入れ物に水を入れていくチンピラ共だが、その水はやはり光を失っていた。
「なんなんだよ!何で光ってねえんだよ!」
「アニキ!こっちもダメです!」
「どうしましょう?!アニキ!!」
ユーリ「……何だあいつら。」
レイヴン「ただのチンピラっぽいし、ほっといていいんでない?」
リタ「構うだけ損よ。放っておきなさいよ。」
「どうせ霊薬を売りさばこうとする輩でしょう。捨て置くに越したことはありません。」
ユーリ達が呆れて見ていたチンピラ達から視線を外し、しっとりと歌い終わった少女へと目を向ける。
背中の羽が消え、途端に倒れる少女。
医者が急いで駆け寄り容態を確認すると、息はしているようで静かに頷いた。
ユーリ「…よし、メルクの為にも急いで帰るぞ。」
「おい!ちょっと待てや、こら!」
そんなユーリ達の前にチンピラが立ちはだかり、医者が抱えている少女を睨みつける。
「その女を置いていきな!霊薬を作れる女は希少価値が高いからな!!」
チンピラ達が懐からナイフを取り出し脅してみるも、ユーリ達はそのまま何事も無かったかのようにチンピラ達の横を通り過ぎていく。
それにチンピラ達が憤慨し、横を通り過ぎようとしたジュディスの腕を掴んだ。
ジュディス「あら失礼」
……腕を掴んだ瞬間、チンピラは足蹴され大きく吹き飛ばされた。
それに他のチンピラがジュディスを見て顔を強ばらせると、大きく仰け反った。
しかし諦めきれないのか、今度は少女を抱えている医者へと襲いかかろうとするが……
ユーリ「あー悪い、手が滑った」
足を男たちの足元に出し、転ばせたユーリは素知らぬ顔でやり遂げる。
カロル「ユーリ……。それを言うなら、足じゃない…?」
ユーリ「おっと。それもそうか。」
転ばせられ悔しそうな顔をした1人のチンピラが目の色を変え少女へと標的を変える。
この少女さえ捕まえてしまえば、後はどうだっていいのだから。
「…往生際が悪いですね。」
少女を抱えたまま医者はその長身を生かした長い足をチンピラへ突き出し、倒れた相手の胸を踏みつける。
医者だからこそ、分かっている。
踏みつけている部分は云わば肺の部分。
そこを圧迫すれば肺に呼吸が入りづらくなり呼吸が苦しくなるので、両手が塞がった時には丁度いい攻撃方法なのだと。
「うっ、うっ…」
「私の患者には指一本触れさせませんよ。ムフフッ…!それとも私のモルモットになりますか…?丁度試したい研究がありますので…。ムフフッ…!」
「ひっ!!」
「こ、こいつら…強ぇ…」
チンピラ共はもう戦意喪失している様子でユーリ達から大袈裟に離れていく。
一体、あのチンピラ共は何だったんだ…。
もう何もしてこなさそうではあるので、ユーリ達は早く少女を休ませるためにもカプワノールへと戻っていくことにした。
後は秘薬を作るだけだ。
そして、秘薬を作った後の問題も今後考えていかなければならないだろう。
少女をどうするのか、そして敵をどうしていくのかを。