第5界層 〜不朽不滅の幽鬼の塔〜
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___カプワノール
もう何度目かのメルクへの面会。
今日こそ粗方聞いておきたい所だが、メルクの体調を考えれば難しそうである。
『……あ。皆さん、お疲れ様です。』
カロル「メルク!元気にしてた?!」
『ふふ…。元気ですよ?』
カロルがメルクの所へ駆け寄り、話し始めるのもいつもの日常風景。
大分笑顔も戻ってきて、皆にはそれが何より嬉しかった。
「面会時間は一時間でお願いしますね。」
カロル「げ、」
カロルはこの医者が苦手なようで、身長の高い医者を見上げながら呻き声を上げていた。
しかしようやく面会時間も一時間近く出来るようになり、一安心だ。
ユーリ「さて。霊薬について聞いてもいいか?」
ジュディス「時間が限られてるものね。早いところ聞いておきたいわ。」
カロル「素材を教えて!メルク!」
皆の真剣な表情に少し考える仕草をしたメルクだったが、少しずつぽつりぽつりと話し始めた。
『……元の素材は、まずドンケルハイトと言われる大輪の花…、そして蜜雨と呼ばれる液体です。』
カロル「え?それだけ?」
『正確には他の要素もいるんですが、材料はそれだけなのです。』
カロル「じゃあ、簡単じゃん!その素材さえ見つければいいんでしょ?」
胸を叩き、任せてと言わんばかりのカロルにメルクが笑顔で笑う。
あくまで材料なだけでほかの要素はもっと大変なのだが…。
ユーリ「だが、その素材がないから代わりの物を使わないといけないんだろ?」
『はい。…ドンケルハイトの代替品は……月下美人、という花です。』
カロル「月下美人?すごそうな名前だね!」
ジュディス「聞いたことがあるわ。確か、満月の夜にしか咲かないと言われる幻の花よね。」
『はい。その月下美人です。難易度が高いですが、それさえあれば似た様な“疑似品”が作れるはずです。』
メルクがその花の大きさを手で例えているが、かなり大きな花のようだ。
メルクの手に収まりきらない程の大輪らしい。
『透き通る様な白さで……とても美人さんなんです。』
カロル「花が美人…?」
『はい。美人さんです。少し青が混じっているのか、本当に白いんですよ?』
植物の事だからか嬉しそうに話すメルク。
代替品があるのならば、それに越した事はないだろう。
一先ず仲間は、メルクの言う月下美人をメモしておき、次なる“蜜雨”と呼ばれるものについて聞くことにした。
全く聞き覚えのない“蜜雨”なるものの代替品は如何に…。
『続いての蜜雨なんですが…。…………』
急に言葉を切ったメルクに仲間達が視線を向ける。
その顔には困惑の表情や、悲壮感が漂っていた。
もしかしたら植物博士のメルクでさえもまだ代替品は見つけてないのかもしれない。
そう浮かんだユーリは頭を振り、メルクの近くに寄った。
ユーリ「まだ代替品見つけられてないんだろ?だったら俺達が月下美人見つけるまでに考えておいてくれればいいぜ?」
カロル「うん!まずはその月下美人だもんね!」
『……あ、でも……』
ジュディス「月下美人にその蜜雨をかけないとダメなら、今蜜雨の正体が分からないとダメなんじゃなくて?」
カロル「あ、そっか…。」
良い案だと思ったんだけどなー、とカロルが残念がっていたがメルクは皆がそう言ってくれる間に答えを出したようだった。
『無理を承知でお願いしたいのです…。月下美人の元へ行く時は私も…連れて行って貰えませんか……?』
そういえば、メルクは生成方法を見るのがちょっとした夢であると先程公言したばかりである。
その為か、メルクは月下美人の元へ行こうとするユーリ達と一緒に行きたがっていた。
少女の体調を考えればここは「NO」と答えるべきなのは分かっているが、少女の願いを無碍にもしたくない。
そこで皆の視線は自ずと医者へと向かっていた。
主治医の許可さえあれば連れて行けるが、果たして……。
「その時のメルクさんの体調次第ではありますが。リハビリがてら外出するのは良いと思います。えェ、はい。」
ユーリ「医者からの許可も出たしな。メルクも行くか。」
『…!!』
それを聞いて、嬉しそうに顔を綻ばせるメルク。
そして横からにゅっと医者が顔を覗かせ、皆を一瞥する。
「勿論、私の監督の元で。ですが。」
カロル「もしかして、お医者さんも着いてくるってこと?」
「勿論です。以前も言いましたが、今のメルクさんはどんな些細な微症状でも見逃すと命に関わります。ですから遠出するのであれば主治医である私が行くのは必然かと。」
ユーリ「ま、その方が俺達も安心だな。メルクの事、宜しく頼むぜ?」
「はい。メルクさんの体調の事はお任せを。」
『……ありがとうございます…皆さん…!』
カロル「生成方法、だっけ?見るのが夢なんだもんね!そりゃ行きたくなるよ!ボクなら絶対に着いていくね!」
レイヴン「メルクちゃんは自分の体力の事だけ考えてくれたらいいからね。おっさん達が魔物退治はやっちゃうからさ?」
ユーリ「よーし、ならおっさんに魔物退治は任せるかー。」
レイヴン「ちょーっとちょっと!青年!?おっさん達って言ったわよね?!なんでおっさん1人に任せるって話になっちゃう訳!?死んじゃうよ?おっさん!」
『……ふふ。』
まるでコントの様なやり取りが面白くて、思わずくすりと笑ってしまったメルクは慌てて口元を押さえた。
しかしそんなメルクの様子でさえ、仲間達は誰も咎める事なく、優しく見守っていた。
笑う事に、怒る必要もないからだ。
「メルクさん。その月下美人は何処にあるんですか?」
『……私の植物園です。』
「「「「!!」」」」
以前もシュクレローズの花弁を取りに行こうとする際、話に上がっていたメルクの植物園。
ヴィスキントが取りに行った為、その実情は不明だったがこんな時に必要になってくるとは。
『大分、花達にも水をやっていないので、咲くかどうかは賭けになります…。それでも一緒に行って…下さいますか…?』
自信が無いのか、どんどんと尻すぼみになっていく言葉たち。
しかしユーリ達に迷いはなかった。
ユーリ「大丈夫だ。行こう、そのメルクの植物園とやらにな。」
『…!……はい。』
メルクはユーリに対し、ゆっくりと頷きカレンダーを見た。
次の満月の夜は……。
『……次の満月は、来週の予定です。』
カロル「なら、それまでの所でエステル達とも合流しておく?」
ジュディス「そうね。それがいいと思うわ。向こうの人達もこちらに来たがっているだろうし、良い機会だと思うわ。」
ユーリ「よし。なら、明日城へ行ってアイツらに伝えてくるか。」
当面の目標は決まった。
後はエステル達と合流し、月下美人とやらに蜜雨をかけるだけだ。
『(後は……蜜雨の作成と、その夜の条件……。今度こそ、上手く行けば…)』
以前から研究していて、栽培もしていた月下美人。
もう植物園の中は手入れをしていない為、荒れ果てて居るのかもしれない。
でもまだ奥にある植物園は自動で水やりをさせていたし、望みはある筈。
その日を緊張して待ちながら、ただただメルクは願うばかりだった。
翌日。
ユーリ達はカプワ・ノールを経った。
城にいる仲間達に情報を伝えに行くために。
さて、向こうはどれくらい情報を掴んだのやら。
カロル「案外、向こうの方が詳しく分かってたりして?」
ユーリ「それならそれでいいじゃねえか。メルクも代替品って言ってたし、ちゃんとした物が見つかるならそれに越した事はないだろうしな。」
ジュディス「その時はあの子、大喜びね。自分でも見つけられなかった花がようやく見つかるんだもの。はしゃいじゃう気持ちは、私には分かるわね。」
レイヴン「はしゃぎすぎて体調崩さなければ良いけどね。」
ユーリ「まぁ、向こうが見つけたかどうかは行ってからのお楽しみだな。」
バウルに乗ってひとっ飛び。
あっという間に帝都の城に辿り着いたユーリ達を待っていたのは、フレンやエステル達などではなく、メルクを心配していたココやロロ、サリュとカリュ……そして城の兵士達だった……。
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