第5界層 〜不朽不滅の幽鬼の塔〜
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___カプワ・ノール
ヴィスキントが去った後、仲間達はメルクの病室へとお邪魔してそれぞれが買ったお土産を渡していた。
しかし、面白いことにそのお土産はどれも飴玉だった。
全員が全員、メルクへのお土産を飴玉に選んでいたのだ。
目を瞬かせたメルクだったが可笑しそうに、そして嬉しそうにそれを受け取り声に出して笑った。
『ふふ、ははは…!』
カロル「びっくりだよね。皆が飴選んでたなんて思わないじゃん!というか皆、他の選んでよ!これじゃ勝負にならないじゃん!」
『勝負?』
パティ「誰がメルク姐を喜ばせるのか選手権じゃ!」
エステル「メルクの好きなものが飴しか思いつかなかったものですから…」
ユーリ「確かにな。じゃなかったら皆違うやつ買ってたよな?」
カロル「じゃあ同点じゃん…」
がくっと肩を落としたカロルを見たメルクは少し考えた後、カロルの持っていた飴を口に入れる。
『……オレンジの味ですね?』
カロル「うん!メルク、ずっと病室に居たから元気出してもらおうと思ってビタミンカラーのオレンジにしたんだよね!」
エステル「私のは桃色で、味も桃なんです。」
リタ「じゃあ皆、味は違ったって事ね?ならいいじゃない。味で決めて貰えば?」
そこへ空の方へいたレイヴンとジュディスが大量の花…アルストロメリアを持って病室に現れた。
地面に落ちたやつだが、お見舞いに花はいいだろうと二人が手に持てるだけかき集め持ってきたのだ。
それを見て医者が「花瓶なんてありましたかね…」といい部屋を去っていく。
ジュディス「久しぶりね。メルク。」
レイヴン「まさかおっさんまで追い出されるなんて思わなかったぜ…。寂しくなかったかい?メルクちゃん」
ユーリ「逆に安心したんじゃないか?」
レイヴン「ちょっと!青年!!なんでそんなこと言うの?!おっさん傷ついちゃうって!!」
そんなレイヴンの様子を気にした様子もなく、花を受け取ったメルクも花瓶を探しに出ようとして、前が見えていないから危ないと仲間たちに止められる。
仕方なく花を机の上に置き、部屋の中を探すが見当たらなさそうだった。
医者が持ってきてくれるから、と他の人たちが言うのでメルクが大人しくベッドへと座った。
パティ「メルク姐。やっぱり〝神子〟じゃったんじゃな。あの羽、綺麗だったのじゃ!」
『??』
本人は気付いていなかったのだ。
自分の背中に羽が出ていた事なんて。
それにユーリ達も気づき、目を瞬かせた。
ユーリ「あれって自分で出し入れが可能じゃないんだな。」
『鏡で見たことがないので、分かりませんね…?』
リタ「でも何だか納得だわー。あの術の強さとか、範囲とか滅茶苦茶なんだもん。見たことない術式だし?メルクが〝神子〟ってだけで大分解消されたわー。でも研究のし甲斐はありそうよね。」
カロル「リタっていっつも研究じゃん。」
リタ「何?なんか文句ある?」
カロル「いえ、なんでもありません…。」
慌てて口を噤んだカロルにリタも満足して腕を組む。
『もう皆さんにはすべてバレているのですね?』
ユーリ「ま、違う事もあるだろうが概ねは知ってると思うぜ?」
フレン「だからこそ聞きたいんだ。メルクさん。ギルドの事や〝神子〟の事、そして何故〝神子〟に関して嘘を吐いたのか教えてもらえませんか?」
『……潮時、ですね。』
諦めたように肩を落とし、困った顔で笑うメルク。
そして机の上の花を見てからぽつりぽつりと話し出した。
『〝神子〟の事は存じていると思いますが、私が正真正銘の〝神子〟です。あの門の踏破者の願いを叶える者…それが〝神子〟です。』
ユーリ「もしかしてメルクが界層踏破をする理由は…」
『私も踏破しなければならないから、と聞いています。一緒に踏破しなければ意味がないそうですから。』
フレン「…じゃあ、何であんな嘘を?」
『〝神子〟が囚われているというのは半分嘘で半分本当なんです。私の代わりを務める偽物の〝神子〟の女性がギルドに囚われているのです。そして噂を流せと仰せつかっていました。そうすれば皆さんは”〝神子〟を救出するのに躍起になるだろうから”。そしてそこには私への警戒を薄める意味もあったのです。』
視線を合わせず、メルクは俯いた。
悪いことをしたから申し訳なさの方が勝って、皆の顔を見れなくなってしまう。
本当は真面目に皆の顔を見て話さないといけないだろうけども…。
そんなメルクの様子を見た仲間達はジトリとフレンへ視線を向けた。
あんな責めるような言い方をしたら誰だって俯きたくなる。
それなのにフレンは責めるような言い方をするもんだからメルクが俯いてしまったじゃないか。
そんな意味を込めた視線にフレンが慌ててメルクに謝った。
『大丈夫です…。これからの事を考えれば、慣れなければならない事ですから…。』
カロル「あーあ、フレンのせいだー。」
パティ「か弱い乙女になんちゅーことを言うんじゃ。」
フレン「う、」
言葉に詰まったフレンは頻りに謝った。
それにメルクが困った顔で笑う。
大丈夫と言っているのに、真面目な方だ。
ユーリ「ま、フレンのことは置いておこうぜ。」
フレン「ユーリ…。」
ジュディス「ともかく女性が捕まってるのね?じゃあ、騎士団はその女性を助けなくちゃ駄目ね。」
『それが…当の本人は偽物の〝神子〟をやることに関して、やる気満々なんだそうです。今はどうなっているかは分かりませんが、恐らく今も楽しんでいるのではないでしょうか?苦痛を与えられているわけではないらしいので…。』
カロル「じゃあ…安心…なのかな?」
パティ「そうなると助けにくいのー?」
うーむと悩みだした仲間達にメルクは次の話をしようとしたが、そこへ医者が戻ってきた。
「遅くなりました。花瓶買ってきましたが…入りきらなさそうですね。」
花瓶へ雑に花を生けるが、すべての花が入りきらず再び机の上に寝かせられる。
そして、医者がメルクの様子を見て「ふむ」と一言呟いた。
「…では皆さんはお引き取りを。メルクさん、そろそろ横になってください。顔色が今一つです。先ほどの〝神子〟の姿で疲れも出ているでしょうから安静にしておいてください。」
『あ、…はい。』
カロル「じゃあ、また明日来るね!」
「はぁ…。面会禁止と言ってるはずなんですが。まぁ…いいでしょう。ただし、次からは時間制限ありですからね。」
パティ「横暴なのじゃ!」
「これもメルクさんの体調管理のためです。さ、メルクさん。早くベッドへ。」
言われるがままにベッドに入るメルクは、申し訳なさそうに皆を見た。
しかし他の仲間たちは大丈夫と笑顔を見せ帰っていった。
そこへ医者がメルクの近くに寄り頭を撫でた。
「少し面持ちが良くなっています。良い変化があったようで。」
『…そうでしょうか。』
「えェ、えェ…。良い方向へ向かっていますよ。ムフフッ…!良かったですね。仲間の皆さんに受け入れられて。」
『…まだ、分からないんです。本当にこれで良かったのか…。でも、皆さんを見ていると…やっぱり話しておきたいと思う様に、なりました…。』
「ふむ。いいのではないでしょうか。心理学は私の得意分野ではありませんが、いい傾向だと思いますよ。」
頭を撫でるのをやめ、再び生け花に挑戦する医者を見てメルクが少しだけ笑った。
恐らくその花瓶には全部入りきらないだろう。
だけども挑戦する医者に、メルクは黙って事の成り行きを温かく見守ったのだった。
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翌日、やはりあの後に高熱を出したメルクに面会できず仲間たちは医者の元を訪れていた。
霊薬アムリタの事で聞きたいことがあったからだ。
ユーリ「霊薬アムリタの薬の素材って何か知ってるのか?」
「霊薬アムリタ…。それは…」
「「それは…?」」
「実は私にも分かっていないのです。」
がくっ、と椅子からずり落ちるカロルとパティ。
期待させておいてその言い回しとは何という事だ。
「…確か、メルクさんは植物博士と聞きます。もしかしたらメルクさんなら分かるのかもしれません。」
カロル「でもそのメルクは…」
「後で私が聞いておきましょう。ですので今日の所はお帰りください。」
パティ「この医者、すぐウチらを帰そうとするのじゃ。」
「当然です。貴方方には前科がありますから。」
医者に言われて思い当たる部分があるらしいカロルとパティの二人は「う、」と唸る。
そして、医者が2人の背中を押し外に出そうとした。
ユーリ「もしメルクの熱が下がったら面会してもいいんだろ?」
「えェ、構いませんよ。ただしメルクさんの状態によって面会時間を変えますから悪しからず。」
ユーリ「あぁ、それで構わない。」
エステル「そういえば、城の図書室でメルクがエリクシールの本を探していたんです。もしかしたら霊薬アムリタに関する蔵書もあるんじゃないです?」
フレン「なら目的地は帝都ですね。一度戻らないといけないと思っていたので丁度良かったです。」
カロル「ボク…ここに残ってていい?メルクが心配だし…。」
ユーリ「なら調べ物するグループと、ここでメルクの熱が下がるのを待つグループと分かれるか。」
リタ「あんたたち、本を見たくないだけでしょ。」
パティ「うむ…。ウチは調べものするグループに入った方が良さそうじゃの?」
ジュディス「そうね。恐らく凛々の明星の面々は調べものしないでしょうから。」
エステル「それって…ジュディスも含めてるんです?」
ジュディス「さあ?どうかしらね。」
結局、調べものをするために帝都に戻るグループがエステル、フレン、リタ、パティ。
ここでメルクの解熱を待つグループがユーリを含めた残りの面々だ。
ジュディス「帝都までは送ってあげるわ。」
エステル「ありがとうございます。では調べものしてきますね。」
カロル「何かわかったら教えてね!」
二手に分かれた仲間達。
残ったユーリ達は、ヴィスキント対策でも考えておこうと宿屋に戻ったのであった。