第5界層 〜不朽不滅の幽鬼の塔〜
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___カプワ・ノール
ヴィスキントを待っている間、何かメルクに出来ないかとカロルとパティは頭を働かせていた。
それを見たユーリが不思議そうに見遣るが、あまりにも必死そうに2人が頭を使っているため否応なく気になってしまう。
ユーリ「何やってんだ?お前ら」
カロル「あ、ユーリ。何って作戦会議だよ。」
カロルとパティの間には大きな紙が広げられ、そこには何か小さい文字が沢山書き込まれていた。
ユーリがそれを見ようとしたら、パティが紙に覆いかぶさり見せないようにする。
パティ「ユーリがウチらに協力してくれるというなら見せようではないか!」
カロル「ユーリも参加する?」
ユーリ「だから何の作戦会議だよ…」
呆れた目で2人を見れば、お互いに顔を見合わせとびっきりの笑顔で声を揃えて言う。
「「メルク(姐)が元気になる作戦会議!」」
ユーリ「お前ら…暫く面会禁止だって言われてるだろ…」
カロル「でも何にもしなかったらメルク、敵側についちゃうよ!?」
パティ「それを阻止する為の作戦会議じゃぞ!」
ユーリ「…ふーん。なら俺も参加すっかな。」
その場にしゃがみ、改めて床に敷かれている紙を見れば、それぞれの字でああでもないこうでもない、と書き込まれており、2人がメルクの為に一生懸命なのが一目瞭然だった。
これが少しでもメルクに伝われば、何の問題も無いのだが…。
ユーリ「……ん?この“アルストロメリア”ってメルクのファミリーネームじゃないか?」
パティ「そうなのじゃ!元々アルストロメリアは花の名前なんじゃ!ピンクや白…色とりどりの綺麗な花なんじゃ…」
ウットリとした顔でいうパティに興味を持ったユーリは深く聞いてみることにした。
ユーリ「で?その花の名前がここに書かれてるのは、偶然なんかじゃないんだろ?」
パティ「ウチらの話ではこのアルストロメリアを空から大量に降らせるって作戦なんじゃ!」
カロル「それを見れば植物博士のメルクも少しは元気になれるよね!」
ユーリ「……そうだな。」
子供らしさ全開の発想にフッと笑うユーリ。
それに対して笑われた二人は不貞腐れていたが、次の作戦を話す。
カロル「後さ、メルクが城の音楽室で歌ってた歌……、あれ、ボクすっごく好きでさ…。窓の近くでそれをボク達が歌ったら少しでも昔を思い出して元気になるんじゃないかって思ってさ。」
ユーリ「誰が歌うって?」
カロル「ボク達!ユーリもだからね!」
ユーリ「俺、歌はちょっとな…」
パティ「全員で歌うのがミソなんじゃ!そんなことゆーとる場合か!」
すぐに拒否を2人によって棄却され、話がどんどんと進んでいく。
それは妄想の域の話だが、何だか聞いていればメルクが喜びそうな事ではあった。
……費用は凄いことになりそうだが。
カロル「後は皆で買ったお土産をメルクに渡したら喜んでくれるよね!」
パティ「まだ渡せてないのじゃ。ここで渡せたらどっちもハッピーなのじゃ!」
ユーリ「おーおー。すごい作戦だな。かなり大掛かりだが、出来るのか?」
パティ「ユーリ。出来るか、出来ないかじゃないのじゃ!」
カロル「やるか、やらないかだよ!」
ユーリ「お、おう…」
2人の熱意にユーリは少し引き気味になったが、この2人ならやり遂げそうか、と少しだけ納得する。
だがひとつ気になる事がある。
これをやるとなるとこの3人だけでなく、他の奴らの協力も必須になるはずだが…。
ユーリ「他の奴らには言ったのか?この話」
カロル「今からだよ!今までは作戦会議してたからね!」
パティ「だからユーリに頼むのじゃ!ウチらは色々と仕込んでおくからの!」
ユーリ「なーんか嫌な予感がしてたが…この事か。」
ユーリが苦笑いでそう呟くと、ニヤリと笑う2人。
すぐさまその準備とやらに向かう2人を見届け、ユーリは他の人達に知らせる為に色んな所に駆け回る羽目になったのだった。
◆◇*─*◇◆*─*◆◇*─*◇◆*─*◆◇*─*◇◆*─*◇◆
結局皆にその話をすればすぐにOKが出る辺り、皆も何かをしたかったのだろう。
手分けしてカロル達の作戦に必要な材料を集めるのだがこれがまた難しく、アルストロメリアというのが中々花屋に売れていないので困っていた。
別の花では意味が無い、とパティが豪語するので何とか全員で集めきると、今度はカロル指揮の元、歌の練習が始まり…となかなか忙しい濃密な時間をユーリ達は過ごしていた。
そんな時、素材集めから帰ってきたであろうヴィスキントが頭を掻きながらカプワ・ノールの街中を途方もなく歩いていた。
「チッ…どういう事だ、あいつ。俺まで追い出しやがって…。」
ユーリ「お困りのようだな?ヴィスキントさんよ?」
「…お前か。どうせあの医者にお前らも追い出されたんだろう?」
ユーリがヴィスキントに話し掛けると、舌打ちをされたがいつもの態度で会話はしてくれるようだ。
ユーリ「あぁ。面会禁止だとさ。」
「そんなに具合が悪いのか…?大風邪とやらを侮っていたが、これは早々に素材を集めなければな…。」
ユーリ「まだ素材が集まってないのか?」
「あぁ。乙女の涙以外は集めた。乙女の涙がこういう時に限って出てきやしねぇ…。くそっ、ここ最近運がついてこないな…。」
視線を逸らし悔しそうな顔で話すヴィスキント。
一応こいつにもそういう顔が出来るらしい。
ユーリ「第6界層、だったか?」
「あぁ。……お前らはどうせ終わってるんだろう?なら霊薬アムリタの素材でも集めてこい。」
ユーリ「ま、ちょっとやる事やってからな?」
「?」
怪訝な顔でユーリを見遣るヴィスキントだが、そのユーリの後ろからカロルがやって来たことで顔を元に戻していた。
カロル「あ!ベン!素材集まった?」
「いえ、まだ集まっていません。後は乙女の涙を手に入れるだけですのでなんら問題はありません。」
ユーリ「お前…ほんと性格悪いな。」
「何の事ですか?」
先程の口調と打って変わっていつぞやの敬語へと戻るヴィスキント。
ジトリとした視線を向けるもそれを無視し、涼しい顔でカロル達を見ていた。
「そちらは現在何をしているのですか。」
カロル「えっとね、メルクを元気にする作戦!」
「メルクを…?」
ユーリ「ま、ちょっと訳ありでな。」
「……。まぁいいでしょう。彼女には元気になってもらわなければなりませんから。こちらもその為なら惜しみません。」
カロル「じゃあベンも歌の練習しようよ!」
「は?…いえ、今何と?」
ユーリ「くっくっ…!お前一瞬素が出てたぞ。」
「……。」
ユーリを静かに睨み、しかしすぐにカロルに聞き直すヴィスキント。
突拍子も無い単語だったものだから、驚いてしまって素を出してしまったのだ。
「……歌なら彼女の方が…」
カロル「メルクを元気にするんだから、メルクには頼めないよ!」
「はぁ…、そういう物ですか?」
カロル「そういうもの!」
ヴィスキントが敵だと言う事を忘れているのか、カロルは必死にヴィスキントの手を掴み、頼み込んでいる。
困惑しているヴィスキントにユーリはほくそ笑み、あと一押しをする。
ユーリ「どうせまた第6界層に行くんだろ?運がついてなくて素材が出てこないなら、ここらでいっちょ、景気づけと行こうや。ヴィスキントさんよ?」
「……よく分かりませんが、理解はしました。」
ため息を吐き、諦めた様に肩を落とすヴィスキントにカロルが喜ぶ。
仕方無しに歌の練習に付き合うことになり、カロルに手を引かれるまま仲間達の所へ連れていかれ、他の面々からは驚かれる。
そりゃあそうだ。一応敵同士なのだから。
だがカロルはベンの事を何だかんだ慕っていたし、だからというのもあるのだろう。
渋々参加したヴィスキントを入れ、作戦概要を確認し、練習やら素材集めやらをする事数日。
遂に本番の時が来た。
「(…………俺…一体何してんだろう…。)」
カロル「ベン!本番はちゃんと歌ってね!?」
「はぁ…。分かっていますよ。やる事はやります。」
カロルに強制的に連れられ、病院(医者の自宅件仕事場だが…)の前へとやってきた仲間達。
ジュディスとレイヴンはバウルと共に上から待機していた。
作戦概要としてはこうだ。
まず、合唱をしてメルクに気付いて貰い窓際へ移動した所にカロルがジュディス達へ合図し、空から沢山のアルストロメリアを落とす。
するとカロルとパティの作戦ではメルクが窓を開けるだろうということで、そこで“歌って!”と書かれたプラカードを大きく振り、メルクへと合図をする。
歌ってくれたら良し、歌わなくても気が引ければ良し。
最後良い感じの所でお土産達を渡せれば終わり、といった内容らしい。
「この作戦……ズボラすぎでは?」
カロル「大丈夫だって!上手くいくよ!絶対!」
「その根拠は何ですか?」
ユーリ「まぁ、いいじゃねえか。お前もメルクの姿が見たいだろ?」
「……まぁ、生きてるかの確認はしたいですが…」
リタ「もうこうなったら、どっちにしろやるしかないわよ。」
パティ「絶対成功させるのじゃ!」
「「「おー!」」」
エステルとパティ、カロルが大きく手を挙げ掛け声をあげる。
呆れた顔をするヴィスキントに隣ではユーリ達も苦笑いで3人を見ていた。
わざわざ、あの音楽室で聞いた曲を合唱用に変えたのだ。
そして例のアルストロメリアもヴィスキントの協力でなんとか目標の個数を達成出来たのだ。
ここまでやって失敗は許されない。
カロル「よし、行くよ!皆!」
指揮者の様に手を挙げ、皆を見据えるカロル。
自分も歌うようだが、指揮はしたいらしい。
大きく振られた手に合わせて皆が口を開き、その口からは練習の成果が飛び出す。
一人は恥ずかしそうに、一人は気持ちを込めて、一人は呆れながら…歌い方はそれぞれだけど、各々がそれぞれのメロディを歌っていく。
だが統一しているちゃんとしたメロディ、そしてリズム。
旋律がカプワ・ノールの街中を風に乗って流れていく。
通行人でさえ、その曲を聞くために足を止めたのだ。
「ママ!いい曲だね!」
「そうね?聞いたことのない歌だけど、でも心地いいわね…」
通りすがりの親子連れも立ち止まり、その旋律を体に染み入る様に聞き惚れる。
いつの間にか仲間たちの周りには観客が集まって、囲うように聞き入っていたのだった。
◆◇*─*◇◆*─*◆◇*─*◇◆*─*◆◇*─*◇◆*─*◇◆
「「「~~♪♪♪♪」」」
『…?』
何処からか懐かしい旋律が流れてくる。
読書をしていた手を止め、窓際へと近づくメルク。
病院の入り口にはカロルたちが建物に向かって合唱している姿があって、僅かに目を見開く。
その中にはユーリやヴィスキント様もいるのだから驚いてしまう。
思わず俯きそうになる顔を仲間たちの優しい旋律が後押しして、メルクは顔を上げ続けた。
この曲は、いつだったか私が歌っていた歌だ。
覚えていてくれたのか、と呆然とそれを見ていると上から何かが降ってきて突然のことに驚いてしまう。
白や薄桃、黄色や橙……紫や赤…色とりどりのアルストロメリアが空から落ちてきていた。
一体どういう原理だろうと窓を開けると、空の方に見慣れた空飛ぶ船が見え、そこにはレイヴンがこちらに大きく手を振ってくれていた。
横には笑顔で花を持ち、下へと落としているジュディスの姿もあり、目を丸くした。
何でそんな事をしているのだろう…?
そんな疑問を心の中で浮かべていると、私の横に医者が現れ外を見てその場に佇む。
「全く。あれほどこちらが注意しても予想外な事をしてくれますね。彼らは。」
『注意…?』
「面会禁止だと言っていますのに、いつの間にかここへ忍び込んでは貴女に会おうと頑張るんです。勿論、その度に私が追い払っていますが。困ったものです。」
『……。』
「これも全部、この数日の間にメルクさんの為にと彼らが頑張った証です。私の許可なしで、ですが。」
再び空を見上げ、降り注ぐ色とりどりのアルストロメリアを見る。
医者が窓の外へとその長い手を伸ばせば簡単に花をキャッチする。
そのまま医者が私へとその花を手渡してくれるので、そっと口元にその花を寄せる。
あぁ、花の良い香り…。
この花は、私の苗字の元となった花……。
花言葉は〝持続〟、そして〝未来への憧れ〟。
花の色によって変わるアルストロメリアの花言葉。
まだまだたくさんの花言葉はあれど、この空から降ってくるアルストロメリアはどの花言葉の意味を表しているのだろうか。
「メルクさん。」
『?』
医者が見る外の景色を見ようと窓から外を覗く。
すると、カロルやパティがプラカードを手に持ち、それを大きく掲げていた。
そこには大きな字で……、あの字はカロルだろうか…。少しだけ汚い字で”歌って!”と書かれたメッセージが見えた。
ただ、隣に居る医者を見た瞬間二人の顔は「げ、」という顔をしていたが…。
驚いて目を見開く私に医者がこちらを見た。
「私はメルクさんの主治医です。今のメルクさんの体調は良さそうに見えますし、彼らもここまで貴女の事を思って沢山の事をやり遂げている。……歌ってあげてはどうでしょう?勿論、メルクさんの心次第、ですが。」
『…私、は……。…今の私には…歌う資格なんて……』
「ふむ。では、こう考えてはどうでしょうか。あの方々のお礼を兼ねて歌うというのは。」
『お礼…?』
「ここまでするのには莫大な人手とお金が必要になってきます。それこそ沢山の労力が。ですから彼らのお礼を込めて歌うのです。彼らは何故かメルクさんの歌を所望しているようですし。」
じっとカロル達を見る医者だったが、再びこちらを見てニコリと例の顔で笑った。
子供が泣き出しそうなあの笑顔で、だ。
「ムフフッ…!私はメルクさんの幸せを願っています。後は、メルクさんの心次第なんですよ。彼らの気持ちに気付いていない訳ではなさそうですし。ここで彼らにも少しだけ心を開いてみましょうか。」
『……。』
ユーリ達が私のために頑張ってくれたのは頭のどこかで分かっていた。
”でも、何でそんなことを?”
”私は裏切り者なのに。”
そんな言葉達が邪魔をして、素直に彼らの気持ちを受け取れなかったのだ。
医者がくれた、目の前の花をそっと見る。
珍しいとされる紫色のアルストロメリア…。
彼がくれた飴玉と同じ色の花…。
何故この色を医者が取ってくれたのか。それともただの偶然なのか…。
でも……それでも、私を助けてくれた彼のために…、そしてここまでやってくれた彼らのために、その気持ち達に応えたい。
だから___
『~~♦♫♦・*:..。♦♫♦*゚¨゚゚・*:..。♦♫』
「「「「「「!!」」」」」」
胸に手を置き、歌い出したメルクに、途端に花を咲かせたように笑うカロル達。
その歌は、もしも自分に羽があるのなら何処へ行くのか、そして誰もがこの世界で生まれてくる意味を持っているんだ、という希望の歌。
通行人や観客でさえその歌声に息を呑み、呆然と聞く者もいれば目を閉じ聞き入る者もいる。
隣に居る医者もその歌声にはほう、と息を吐き、聞き入った。
「(なるほど。彼らがメルクさんに歌って、といった意味が分かります。この歌声には中毒性がある。また聞きたいと思わせるような何かが。)」
『♦♫♦・*:..。♦♫♦*゚¨゚゚・*:..。♦♫♦*゚¨』
「(これが〝神子〟の歌声ですか…。不思議と体も心も軽くなってきます。)」
目を閉じ思いを馳せる医者。
ユーリ達もそれは例外ではなかった。
しかし体の芯から暖かくなるような感覚に目を開ければ、ユーリ達の前には街中とは思えない花畑が出来ていた。
コンクリートの上に花が咲いているのだ。そんな見たことがない現象を見て驚かないはずがなかった。
慌ててメルクを見れば、彼女の背中には七色に輝く妖精の羽があり、医者もその光景に驚いて目を見開いている。
「(〝神子〟が故の現象か…。)」
ヴィスキントも歌に聞き入りながらその光景を呆然と見ていた。
その歌声も、その姿も、この幻想的な光景でさえも、まるで全てを魅了する”麻薬”のようだ。
そんなことを思いながら、ヴィスキントは恍惚なのか自分では分からないまま熱のこもった溜息を吐いた。
少女にはあいつの願いを叶えてもらわなければならない。
それは分かっているし、重々承知している。
でも、少女が育っていく姿を見ていた自分だからこそ思う。この少女の幸せはどうなんだろうな、と。
短い人生になる少女に自分が出来る事はなんだろうな、と感傷に浸ってしまいそうになる。
……全てはこの”麻薬”が悪いのだ。
そう思う事にして、ヴィスキントは暫くこの歌声を聞いていたいと自分の感情のままに歌を聞き入ることにした。
『♦♫♦・*:..。♦♫♦*゚¨゚゚・*:..……』
歌い終わったメルクは全身の力が抜けたような感覚に陥り、そのままその場に膝をついた。
その背中にはもう七色に輝く妖精の羽はなかった。
「メルクさん!」
医者が慌ててメルクの脈を見たり、顔色を見たりと診察に入る。
急に座り込んだメルクを心配してユーリ達も窓の方へと近づく。
診察を待つ仲間たちにメルクは憔悴しきってはいるが、いつもの笑顔を零した。
それに嬉しそうに笑う者や、泣きそうになっている者もいてそれぞれが感動に浸っていた。
『……ありがとうございます、皆さん。…私のために…こんなにも沢山のことを…。』
カロル「当然でしょ!だってメルクはボク達の仲間なんだから!」
『!!』
ユーリ「そういう事だ。だから変なことで悩んでないで、他の奴らに遠慮なく相談しろ。助けてほしいなら助けを呼べ。簡単なことだろ?」
『……。』
泣きそうな顔になりそうなメルクだったが、それは違うと首を振り、次の瞬間仲間たちに笑顔を見せた。
泣き笑いではあるが、その笑顔にパティが窓を乗り越えメルクに抱き着いた。
それを見て医者がやれやれと頭を振ると、パティが一瞬身構えたが、メルクが抱き締め返してくれたので遂にパティの涙腺が崩壊した。
パティ「メルク姐…!悩みがあるなら言うのじゃ…!会えないのは、寂しいのじゃ…!!」
『…ありがとう?パティ…。』
以前のように優しい声音で、そして優しい笑顔で抱き締め返すメルクに、もうパティも声に出して泣き始めた。
カロルも窓を越え、メルクへと嬉しそうに抱き着く。
まだまだ子供な二人を抱きしめ、ポンポンと背中を叩いた。
医者も笑顔でそれを見やり、ヴィスキントは未だに空から降る花を見上げた。
あぁ、自分は間違った方に手を貸してしまったか、と。
これでこの少女に自我が芽生えてしまえば、アビゴールの願いなど叶えなくなってしまうだろう。
今まであいつの言う通りにしてきた少女も今回の事できっと、違う願いを持ってしまう様になるだろうから。
「(あいつの願いもこれで終わり、か…。どうしたものか…。)」
目の前に振ってきた白い花を掴み、ぐしゃりとその花を手で潰した。
少女に自我が芽生えたからとて、諦めるつもりは毛頭ない。
言う事を聞かなければ、言うことを聞かせるまでだ。
簡単に潰れた少女の名前に冠する花を見て、ヴィスキントは鼻を鳴らしその場を離れた。
ユーリ「……。」
そんなヴィスキントの姿をユーリはじっと睨んでいた。
ユーリ「(あいつの言う通りになんてさせねえ…。絶対にメルクを救う。あいつに渡してたまるか…!)」
それぞれの想いが交差する。
さあ、貴女の願いはなに?