第5界層 〜不朽不滅の幽鬼の塔〜
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___カプワ・ノール
宿屋へと来たユーリ達は誰もが暫くは黙り込んでいた。
納得いかない者、落ち込む者、困惑する者……それぞれに抱える気持ちはどれもメルクに対してだった。
__ひと目だけでもメルクに会いたいだけなのに。
そう思わざるを得ない。
だってその為に皆頑張って第5界層を踏破してきたのだから。
カロル「こっそりと見に行っちゃダメかな?」
リタ「ま、それならバレないわよね。」
エステル「だ、駄目です!人様の家の庭に侵入するなんて…」
パティ「じゃあ、エステルはお留守番なのじゃ。」
エステル「え?あ、えぇ?わ、私も行きます…!」
いそいそと準備を始めた子供組を見て、ユーリ達大人組は苦笑いでそれを見届けている。
ユーリ「あの医者、会わせないとなるとかなり徹底しそうだけどな。」
フレン「まさか。あの建物の扉に鍵を掛ければ客は来れない。それではあの医者もその患者さんも困るんじゃないか?」
レイヴン「うーん、ていうかあの医者結構〜特殊というか?おっさんが滞在している間、客なんて来なかったわね…。」
ユーリ「まぁ、闇医者だしな。法外な値段で治療してたりするんだろ。だから客が来ないんじゃないか?」
ジュディス「じゃあ、あの子達は無駄足を踏みそうね。」
ジュディスの視線の先にはもう外に出ていっていなくなった子供組を見ていた。
ユーリ達が気付く前にもう出立したらしい。
大人組は大人しく子供組の成果を待つことにした。
「「(ま、無理だと思うが…)」」
ユーリとレイヴンの心は一致していた。
絶対無理だと心に誓いながら、二人は宿屋の扉を見遣ったのだった。
◈◇♡◇◈**:;;;;;;:**◈◇♡◇◈**:;;;;;;:**◈◇♡◇◈**:;;;;;;:**◈◇♡◇◈
カロル達は再びあの医者の自宅兼仕事場へと来ていた。
ここにメルクがいる。
絶対に会ってやると意気込んで来たのだ。
カロル「裏から入るしかないよね。」
パティ「なら裏口に行くのじゃ」
リタ「あんた達、ここの裏口どこにあるか知ってるの?」
エステル「後ろの方になら有りそうですけど……」
サササッと移動を開始したカロル達は目的の裏口へと辿り着いていた。
ひとつの扉があるだけで、後は何も無い場所だ。
カロル達はコソコソと裏口の扉へ進み、扉を開けようとした──
「いけませんね。こんな所で泥棒の真似事ですか?」
「「「げ、」」」
4人の後ろには背の高い猫背の、あの医者が無気力そうに立っていた。
エステルが慌てて口添えをしようとしたが、その甲斐なく医者は4人の首根っこを掴むとポイポイとカプワ・ノールの街中へと猫を捨てるかのように手放した。
そして手をパンパンと叩くと仕事は終わったとでもいうように自分の仕事場に戻っていく。
パティ「全く気配を感じなかったのじゃ…」
カロル「裏口がダメなら、窓から様子を見るのはどう?」
リタ「あんた…あんな事があった後でもたくましいわね…」
カロルを先頭に、今度はメルクが居るだろう病室の窓の下に辿り着いた4人。
カロルとパティは謎の勝利を確信していたが、リタとエステルだけは嫌な予感を感じていた。
カロル「……今度こそ…いけるよ…!!」
パティ「……早く覗くのじゃ…!!」
リタ「上手く行くかしら?」
そっと窓から中を覗こうとした瞬間、4人の頭上に影が出来る。
エステルとリタはすぐにそれで誰が来たかなんて想像がついたのだった。
「おやおや。またしてもネズミが紛れ込んで。」
「「げ、」」
リタ「ま、そうよね。」
エステル「逆にすごいです…」
先程と同じく首根っこを掴まれ、カプワ・ノールの街中へとポイポイされる4人。
しばらく呆然としていたカロルとパティだったが、その目は徐々に猛々しい炎へと変貌していた。
こうなったら会うまで諦めない!!
2人の心が一緒になった瞬間だった。
リタとエステルはそれを見て諦めた様子で付き合う事にした。
運が良ければ会えるかもしれないと期待しながら。
しかし2人の予想はある意味、概ね当たる事になる。
運が良ければ会えるかも、と思っていたがその逆で全く会えないのだ。
どこに隠れようが、あの背の高い不健康そうな医者が何処からともなく現れてはカロル達の首根っこを掴み、街中へと離すのだ。
何度やっても、何度挑戦しても、あの医者に見つかってしまう。
カロルとパティのやる気スイッチは更に燃え上がっていた。
メラメラと瞳に闘志を宿し、掴まれば捕まるほど闘志を燃やしていっていた。
そんな2人を見てリタが呆れ、エステルが困った顔で2人を見遣る。
これでは幾らやっても、いたちごっこだ。
ユーリ「よ!成果はどうだ……って、何となく分かったわ……。」
幾ら待っても帰ってこない子供組の様子を見に来たユーリ達。
カロルとパティの様子を見たユーリはすぐに駄目だったのだろう、と察した。
エステルとリタがユーリ達に向き直り、肩を竦めた。
リタ「あの医者、ちゃんと仕事してる訳?全然中に入れないわよ。」
エステル「咎められないのがまだ幸いと言いますか…」
ユーリ「ま、だよな。あの医者変な所で鋭そうだしな。」
レイヴン「まぁ、そうなるわなー?」
カロルとパティが次の作戦を練っているのを他の7人が呆れた目で見ていた。
そこまでやってまだ諦めないとは恐れ入る。
そんな気持ちを醸し出していた。
カロル「よし…!これで行こう…!」
パティ「待ってるのじゃ、メルク姐!今助け出してやるぞぃ!」
ユーリ「あいつら、何言ってんだ…。」
リタ「ほっときなさいよ。どうせまた無理なんだから。」
そう言いつつもカロル達の後を追うリタにエステルも慌てて着いて行った。
ユーリも面白半分でそれを追いかけていくのでフレンが慌ててユーリを止めに入る。
フレン「ちょ、ユーリまで…!」
ユーリ「いいじゃねえか。あいつらの頑張った成果とやらを見に行こうぜ。」
ジュディス「面白そうね。どうやって見つかってるのか見に行くのもいいわね。」
レイヴン「どうせまた、見つかるだろーけどねー?」
フレン「貴方達は誰も止めないのですか?!」
「「だって面白そーじゃん/だって面白そうじゃない。」」
フレン「くっ…!」
ユーリ「フレンだけここに居て良いんだぜ?」
ラピード「ワフ」
フレン「ラピード、君もか…!」
迷った挙句、ユーリ達に着いてきた騎士団長様に皆が素直じゃないな、と肩を竦めさせた。
フレンも心配していたから、会いたいに決まっているのだ。
移動した面々は結局最終関門であるメルクの病室の窓下まで来ていた。
回数を重ねる毎にここに来るのが難しくなっていたが、ようやくまたここまで辿り着いた事にカロルとパティが満足していた。
パティ「……よし。後は覗くだけなのじゃ…!」
カロル「……ここまで来たら絶対にひと目見てやる…!!」
謎の一致団結を見せ、窓の中を覗き込もうとしたが、再び仲間達の頭上に影がかかる。
エステルとリタはもうその展開が読めているので、溜息を吐いた。
「おやおや。今度は人数が増えていますね。ムフフッ…!」
カロル「えー…?ウソでしょー?」
パティ「な、何故バレるのじゃ!ここまでは完璧じゃったのに!!」
カロルとパティの首根っこを掴み、やれやれと肩を竦める医者。
そしてユーリ達大人組を見て、大きく溜息をついた。
「もう何度目ですか。この子達に強く言い聞かせておいてくださいよ。」
ユーリ「ははっ。悪いな。こいつら往生際が悪いもんでな?」
カロルとパティをユーリへと渡すと医者が何かに気付いたように窓中へ視線を向ける。
その視線を皆が辿ると、メルクが机に向かって本を読んでいたのだろうが、眠気が来たようで本の上で腕枕をしてその上でスヤスヤと寝ていた。
「……あれ程そこでは寝るな、と言っておいたのですが。また体調を崩しかねませんから。」
ユーリ「今は体調は悪くないのか?」
「いえ。今呼吸が乱れていますね。どうやら再発しましたか。」
「「え?!」」
パティ「大丈夫なのか?!メルク姐は!」
カロル「お医者さんならメルクに付きっきりになっててよ!!」
「誰のせいですか。誰の。」
ユーリ達を一瞥し、すぐに中へと戻った医者は点滴台を持って部屋の中に現れた。
すぐに額や首を触診し、その小さな体を軽々と持ち上げると窓近くにあるベッドまで運び、鮮やかな手並みで針を腕へ刺すとすぐに点滴を開始する。
真っ赤な顔で息遣いの荒いメルクを見て、カロル達は顔を顰めた。
「いつまでそこにいるつもりですか。」
呆れながらも窓を開け、ユーリ達を見遣る医者。
しかし怒ってはいないようで、強制的に追い出そうという訳でもなさそうだった。
メルクの手を取り、脈を診つつ点滴台の管を弄っていた。
ユーリ「やっぱり良くならないか。」
「まぁ、大風邪ですからね。治すのに秘薬エリクシールと霊薬アムリタは必須です。」
エステル「そういえば、以前メルクがエリクシールの本を城で探していました。」
「ほう。城にはそんな本があるのですね。……しかしこの状態で果たして調合が可能か。医者としては複雑な心境です。どちらにせよ調合に〝神子の祈り〟は必須…。ですがメルクさんの体調を考えると難しいのは明白ですから。成功率は決して高くはありません。」
淡々と言う医者だが、その表情は真剣そのものだった。
割と物事を客観視し、選択肢も迷いがないように選んで見えていたが、それでもそのエリクシールの調合については医者として迷いが見えていた。
カロル「やっとメルクをひと目見れたよ……」
パティ「ここまで長かったのじゃー……」
「いつまで続けるのかと思っていましたよ。ムフフッ…!」
リタ「あんたその笑い、直した方がいいわよ。」
「よく言われます。」
メルクを見ながらそう話す医者。
相変わらず猫背で目の下のクマは酷いし、不健康そうだし。
でも良い人なのは全員に伝わっていた。
だって、メルクを診る目や手つきがとても優しいから。
カロル「中に入れさせてくれないの?」
「逆にここまで譲歩したのですから、そろそろ帰られてはどうですか。」
ユーリ「メルクの状態…、今は大丈夫そうなのか?」
「所謂他の病気でいう“発作”みたいなものですから。症状さえ分かれば問題はありません。」
質問すれば返してくれる医者は、やはり強制的に追い出すようなことはしなさそうだった。
追い出すのは諦めたのか、メルクのいるベッド近くのイスに座り、ずっと脈診をしている医者は視線だけは窓外のユーリ達へと向けていた。
「ただ、体力は普通の人よりも低下していますし、筋力も低下気味ではあります。私も初めて〝神子〟を診察するものですから、この著しい体重の減少については何とも言えませんね。」
レイヴン「心配になるほど軽いからねー。少年でも持てるわよ?」
カロル「え?!ボクでも?」
パティ「心配なのじゃ〜。」
「今後の課題としては、どれほどの期間で“発作”が起きるのか。それを調べることでメルクさんの負担も軽くなると思います。えェ、はい。」
ここに来て初め見ていた頃よりはマシになったメルクの呼吸に、ユーリ達は安堵の息を吐いた。
「後は筋力低下を抑えなくてはならないので、毎日のリハビリは必要になります。一番の問題はそこですが。」
カロル「なんで?」
「あなた方がそこら辺を彷徨いているからですよ。メルクさんとあなた方を会わせる訳にはいきませんから。」
ユーリ「本人が会いたくないって?」
「いえ。私の判断です。これ以上メルクさんの負担をかければ今治っている微症状でさえ治らなくなります。それでは肝心の〝神子の祈り〟は期待出来ませんから、ちょっとした対処方法です。……なので。今は居ても良いですが、メルクさんが目を覚ましかけたらお引取りを。」
医者の言葉にようやく納得し頷いた面々はその日、気の済むまでメルクの様子をずっと窓越しから見ていたのだった。