第4界層 〜進退両難なる黒雨の湿原〜
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___どこかの海上、船内
ゆっくりと目を開けたメルクを見て、ユーリがホッとしながら暖炉へと視線を向ける。
兎にも角にも、こいつの体調を治さない限り、永遠にメルクは苦しむ事になる。
ユーリ「……ともかくその体を治さないとな。」
『う、ん…。ありが…とう、…ユー、リ。』
途切れ途切れの言葉で何とかこちらにお礼を伝えるメルクは、何かに気付いたように、又は何か思い出したように僅かに顔を上げた。
『……〜...♪*゚』
ユーリ「!!」
僅かに聞こえてきた途切れ途切れの歌で自身の身体の傷が癒えていく。
メルクがユーリの肩の傷を思い出して、治してくれたのだ。
自分が大変な事になっているというのに、やはり自分よりも他人優先なんだな、とユーリは嘆息し、嘆く。
少しでもその他人に対する思い遣りをメルク自身へと向けてくれたらと、無理そうな願いを心の中で思う。
そんな事を露として知らないメルクは直ぐに歌い終わると「けほ」と軽い咳をついていた。
ほら、言わんこっちゃない。
お礼にと頭を撫でてやれば、その具合の悪そうな顔を少しだけ綻ばせた。
『……今は……今だけ、は……隣に、居て……ユーリ…』
ユーリ「“今だけ”じゃなくとも、気が済むまで居るさ。んな事心配するより、お前は自分の心配してろ。」
『ふふ……、そう、だ、ね…』
弱々しいメルクの声に、目を伏せながら聞き入る。
完全回復した自分と、どんどん弱っていくメルク。
早い所岸に上がって、医者を頼らないとまずそうだ、と焦燥感に駆られる。
『ユーリ…。』
ユーリ「ゆっくり話したい所かもしれねえが、もう少し体を治したらな?……そうだ。そういえば、薬の素材ひとつは取ってきたから、後は何だったか…」
『……ふ、ふ……あ、…りがとう…。他、は……の涙とシュクレ、ローズのは……びらと、……けほ、眠り草……、お化け…布……』
「……?(その材料は…何の薬の材料だったか…。前にこいつから聞いた事があったが、あの時……何と言ってた…?)」
ヴィスキントは必死に過去を思い出しながら静かに聞いていた。
何の薬だったか思い出せない。
取り敢えずこの状態を治せる薬があるならそれに頼りたい所だが…。
ユーリ「そうか。お化けの布だったよな?第5界層にあるって言ってたのは。」
『うん…。そう…。……ふふ、リタ、大…丈夫かな…?』
ユーリ「天才魔導士様はやれば出来るからな。それよりも他の材料だな…。メルクは動けねえし、どっかで取ってこないといけねえが…」
『迷惑……て、ごめ…ん…さい……』
ユーリ「言っただろ。治る可能性があるならそっちに賭けるってな。それよりお前は少しでも寝てろ。体力を回復させないといざって時に動けないからな?」
『うん……、…うだね…』
黙ったメルクだったが、眠れないのか再びユーリへと声を掛けていた。
メルクに気付かれない様に溜息をついたユーリだったが、本人の気の済むまで付き合う事にした。
『……ゆー、りは……なん…、そこまでして……わた、…を、たすけてくれ、…の?』
ユーリ「ん?そりゃあ、助けを求められたら誰だって助けるだろ、普通。」
『わたしが……裏切…てると、知っ…ても…?』
ユーリ「ま、そん時は少し傷付いたけどな。だけど、本人の事情を知らずに非難するのは違うって思うからな。それがメルクだから、と言うのもあるだろうが、俺はお前から事情を聞くまでは信じてやりたいって思うぜ?」
『……そ、か…。』
ユーリ「逆にお前はこれからどうしたいんだ?」
『わ、たし…?』
僅かに視線をユーリの方へと向けたメルクだったが、そこまでの体力がない事や身体を襲う倦怠感が邪魔して、ほんの僅かしか顔を動かせなかった。
それでもこれからの事を聞かれたメルクは、働かない頭で一生懸命考える。
結局私は何がしたいのだろう、と。
『……ほんと…は、ユーリと、…皆と……いたい…』
「っ!!」
ヴィスキントが弾かれたように壁に凭れていた身体を起こす。
まさか、この少女がそんなことを言い出すとは…。
やはりこいつらに預けたのが間違いだった、と後悔した。
あの少女ならアビゴールの言う事を何でも聞くと思っていただけに、先程の言葉はヴィスキントの中でかなり衝撃的であった。
驚いているヴィスキントに気付きながらユーリはゆっくりと優しくメルクへと聞き返す。
……知りたい。
メルクがどう在りたいのか、どうしたいのかを。
『でも……“神”の…願いも……叶えたいの…』
「……。(一応、根底にはそれがあるのか…。とにかく今は様子見、だな…。)」
ユーリ「“神”って誰のことだ?さっきからチラチラ出てるが、そんなヤツいるのか?」
『……ギル、ドマ…スターの、…アビゴールさま……。あの方の……願いを、叶えた…い…、そう、願う…の……。』
ユーリ「何でだ?そいつの所為でお前は辛い思いをしてるだろ?」
『あの、方は……わたしの、恩人、だから……。いのちを、救ってくれた……かた、だから…』
少女の言葉にヴィスキントが昔を思い出す。
アビゴールが少女を連れてきた時に、あいつへと言ってやった言葉を。
今思えば、よくこんなにも純粋な少女をあいつが育て上げたものだ。
子育てなんてしたこと無かった癖に。
『両親を、亡くして……ひ、とりだった、私を……あの方は、救ってくれたの…。そのとき、あめだまをくれた……』
ユーリ「!!」
『……宝石、みたいに…きらきら、かがやい、て……あの時…子供だった、私には……さいこうの、たからものだった……』
「……」
ユーリ「……」
『あぁ……、この人に、ついていこう、って……この方の、ために…なにか役に、たてたら、って…。だから、好きな…植物の、研究……も頑張っ、た。』
「(そしてお前はギルドを養える程の研究成果を出した、か…。あれには驚いたな…。こんな子供が、世間を驚かせるような薬を作りあげたんだからな…。世の中分からないものだ、と思ったものだ。)」
ユーリ「でも、植物の研究は苦じゃないんだろ?」
『うん…。だい、すきなの…。』
目を閉じたメルクは一度大きく息を吐いた。
そろそろ体力も限界そうである。
ユーリはメルクの体に、ずれた毛布達を被せ直す。
少しだけ触れたメルクの肌はやはりまだまだ冷たくて、瞬間顔を歪ませたのは言うまでもない。
『……わがまま、なのは……わか、ってるの…。どちらか、一方、しか……かなえられない、と…。でも、…でも……かなえられるのなら……どちらも、叶えたいの…………。』
元々か細い声が余計にか細くなって遂には吐息で話しているのではと言うほどだ。
少女の切実な願いを聞いた2人は途端に顔を歪める。
確かに少女の願いは、どちらか一方でないと叶えられないだろう。
メルクがギルドマスターであるアビゴールの願いを叶えるというのなら、ユーリ達はメルク達を悪人として捕えなければならないだろうし、ユーリ達と一緒に居たいという願いを叶えるならば、アビゴールの願いを叶えるという少女の願いもユーリ達によって却下されるだろう。
要するにこの少女は優しすぎるのだ。
育ての親を喜ばせたい一心で願いを叶えたい、でも居場所を作ってくれたユーリ達とも一緒に過ごしたいという願いを思い描いてしまった。
一つしか叶えられないと分かっていても、だ。
『は、は……お、か、しい……よね…?私自身、が、……〝願い叶える者〟な、のに……。私、が、……願いを、かな、えて、ほしい、だ、なん、て……』
ユーリ「?メルク? おい、しっかりしろ!!」
急にユーリへと寄りかかるように倒れ込んだメルクにユーリが目を丸くしたが、その顔色を見れば一目瞭然だった。
慌てて肩を揺するユーリを見てヴィスキントもハッとする。
少女の近くに慌てて寄り、首に手を当て触診をする。
「っ、脈が弱すぎる…!!このままじゃ、死ぬぞ…!」
ユーリ「なっ、」
ヴィスキントは海図を広げ、大体の所の検討を付ける。
後は他に乗り込んでいる航海士に場所の指定をしなければ。
「ここから近くならカプワ・ノールか…。間に合うか…?(カプワ・ノールならあの医師か…。嫌だが、行くしかないか…。)」
ユーリ「ともかく医者に診せないといけないんだ!何処でもいいから港につけてくれ!」
「分かっている。喚くな。」
甲板にいる航海士へと急ぐ様に伝え、ヴィスキントは少女の元へと戻る。
少女を抱え暖炉の近くへと寄り、あまりの暑さに顔を顰める。
しかしそうも言ってられない。
この少女が居なければ、作戦もへったくれもないのだから。
とにかく身体を温め、冷たくなるのを防がなければ末端から壊死していく。
少女を抱き締め、思わず舌打ちした。
いつからこんなにも作戦が困難になったんだ、と悪態をついて。
ユーリ「俺がやるからあんたは航海士の所にでも行ってろよ。俺は船のことサッパリだからな?」
「……そうだな、それが良さそうだ。」
確かにこのユーリ・ローウェルという男に航海術を持っていそうな感じはしない。
何でもソツなくこなしそうだが、自分の方が詳しい事は詳しいだろう。
少女を手渡し、すぐに暖炉から離れる。
……暑いのは苦手だ。
ヴィスキントはそのまま部屋を出て、甲板へと向かっていった。
代わりにユーリは少女を強く抱き締める。
頼むから、目の前でふと息を引き取らないでくれ、とそう願いながら。
『た、…けて…ゆー、り』
ユーリ「!!」
まるでうわ言のように吐かれた言葉。
〝助けて、ユーリ〟
それにユーリが応えるかのようにメルクを余計に強く抱き締めた。
助けるから、幾らでも助けてやるから、
だから生きてくれ。
目の前の小さな生命を助ける為なら何でもするから…!!
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
___カプワ・ノール港
ノール港へついた瞬間ヴィスキントは少女を抱え、とある場所まで走り出す。
慌ててそれについて行くユーリだったが、敵に任せておけないというのも心情。
ユーリ「おい、何処に行くんだ?!」
「医者の所に決まってるだろ…!他に何処がある?!」
ユーリ「ま、だよな…」
とある家に駆け込んだ瞬間、目の前の白衣を着た細身でクマの酷い、全身で倦怠感を表しているような猫背の男に少女を手渡す。
「金なら幾らでも払う。こいつを助けてくれ。」
ヴィスキントの本気に白衣の男が目を瞬かせ、ニヤリと笑う。
久しぶりの患者だ、とウキウキしている白衣の男をユーリは怪訝な顔で見る。
こんな、明らかに怪しそうな奴にメルクを任せて大丈夫だろうか、という視線をヴィスキントへと向ける。
それにヴィスキントが答えようと口を開けた瞬間、白衣の男の嬉しそうな声がする。
「あっははァ…!!!可愛い可愛いお嬢さんだァ!!!これは手厚く歓迎しなくては……!!」
毛布から見えた顔だけでそう叫ぶ白衣の男にさらに不安になったユーリは視線だけで再びヴィスキントに訴えかけた。
しかしそれを見たヴィスキントが呆れた溜息を吐く。
「頼むから他のことはしないでくれよ…。」
「分かってますって。……ムッフフぅ!!」
分かってると言いつつ、少女を見れば気持ち悪い声を出す白衣の男……医者に最早呆れた眼差しを送る。
そして部屋の中へと駆け去っていく医者を見ていると扉が閉まり、何故か鍵が掛かる音がする。
ユーリ「おい、大丈夫なのか?」
「奴は腕だけは確かだ。…腕だけは、な……。」
腕組みをし、苦い顔で扉を見遣るヴィスキントだったが、次の瞬間、部屋の中からおかしな音が聞こえてくる。
ウィーーーン、ガシャリ、
ジーー、ジーー、ジーー、
ウィーーーン、ガシャ、
ズガガガガガガガガ……
「……始まったか。」
ユーリ「お、おい?これ、明らかに治療の音じゃねえだろ…!!工事だろ、工事!!」
「俺もここの治療は受けたことがある…。……死にかけたがな。だが、治療の腕は確かだ。……音はおかしいが、な…。」
苦痛を耐える様な顔で目を閉じたヴィスキントを見て、余計に心配になったユーリ。
だが、医者と言うなら黙って見守るしかない、か……。
暫くの間、金属音という到底治療とは思えない音を聞きながら待機する2人。
その音が止む頃に、中から煙と共に現れた白衣の男にヴィスキントが近づいていき、ユーリもそれに倣った。
「結果はどうだ?」
「ムッフフ…!!上々ですよォ…?ですが。この私でも治せない病気というものがありましてねェ…?」
「は?お前が?」
ヴィスキントが怪訝な顔で医者を見遣り、それを見た医者は手を大袈裟に振る。
「勘違いしないで下さい?!低体温症は治しましたし、後の微症状も治しましたよ?!ですが。……うーん、そうですねェ?信じて貰えないとは思いますが、……彼女、〝大風邪〟に罹っているようです。」
「は?何だって?……大風邪?」
聞いた事もない病名……というかふざけた名前でしかないその病名に、流石のヴィスキントも更に眉間のシワを深くし医者を見た。
しかしユーリは城内の医者も同じ事を言っていたので納得していた。
確かにこいつの言う通り、医学の腕は確かなようだ。
……見た目も治療法もおかしい奴だが。
ユーリ「城の医者も同じ事を言っていた。治らないんだろ?」
「えェ、えェ…。そうです。その〝大風邪〟です。」
「治らないって…。ただの風邪じゃないのか?」
「いえ。大風邪は幻の病気でしてね。体力が著しく低下する上に、いつ風邪の症状になるか不明なんです。はい。兎角、症例が中々無いもんで、研究も進まないんですよ。……まぁ、一つ治すとすれば危険を冒すことにはなりますがねェ?」
「何だ?あいつが治るなら何も惜しまん。早く言え。」
「ムッフフぅ…!流石ですねェ?では、秘薬エリクシール。そして、霊薬アムリタを持ってきてください。……ま、無理でしょうが、ねェ?」
「秘薬エリクシール…?……あの船の中で言ってた材料……まさか、エリクシールの材料か。」
それを聞いて、医者がただでさえ不気味な目を見開きヴィスキントの肩を掴んだ。
そして大きく揺さぶる。
「エリクシールの材料を持ってるんですか?!!どこ?!どこに?!!」
「ま、待てっ!落ち着け!!」
手で医者を振り払い、肩をボキボキと鳴らすヴィスキント。
その顔はかなり嫌そうに歪んでいる。
その間ユーリはそんなヴィスキントを見て、ざまあねえな、とほくそ笑む。
それに怒りを覚えたヴィスキントだが、すぐにニヤリとほくそ笑んだ。
「あぁ、その材料ならこいつが持ってるそうだぞ?」
ユーリ「あ、てめ…!!」
ユーリの方へ指を差し、ニヤニヤと笑い出す。
我ながら小さい男だと思うが、仕返しをしなければ気が済まない。
ヴィスキントは次の医者の行動が読めて、余計にその笑みを深くした。
「え?!え?!材料を持ってる?!!どこに?!!スンスン……この臭い……まさか聖なる角…?!!」
ユーリ「うわ、臭うなよ…!!それに臭いで分かんのかよ!」
堪らないとばかりにユーリが聖なる角を医者に思わず手渡す。
そして急いで大きく医者から離れた。
聖なる角を持って、ニタニタと嬉しそうな顔をした医者だがその顔はガキなら泣き出してしまうほど怖くて気持ち悪い。
もうそれはそれは気持ち悪いほど、デレデレでニタニタしているからだ。
「あっははァ…!!!これが聖なる角っ…!!!初めて見ましたよォ…!!この感じ……古代都市タルカロンのエクスユニコですねェ…?」
ユーリ「そこまで分かるのかよ……。すごいという以前に気持ち悪い野郎だな…」
「えェえェ…よく言われます。」
ユーリ「言われるのかよ…。」
聖なる角をユーリに返すと、医者は最初に会ったような無気力な状態へと戻り、静かに首を横に振った。
「ですが。不可能なんですよ。エリクシールを作るのは。」
「何故だ?」
「材料の他に調合が難しいと言われるからです。もし材料があっても、調合で失敗すれば全てがパァです。その時の絶望感といったら無いですよ。私も経験済みです。」
「経験済みなのかよ…。」
ユーリ「材料は全て手に入りそうなんだ。何とか作れないのか?」
「ほう…?材料が全て手に入る、とは…素晴らしい自信ですねェ?まぁ、持ってきても良いですが……調合は期待しないでください。なんと言っても、調合時に必要な〝神子の祈り〟が無ければ失敗するのですから。」
「「!!」」
途端に2人は少女のいる部屋を見た。
〝神子〟といえば、メルクしかいない。
ということは、このエリクシールの調合にはメルクの手伝いが必要不可欠。
「一つ聞きたい。その〝神子の祈り〟があれば途中までの調合はお前が出来るんだな?」
「えェえェ、可能ですよ。……もしかして、アテがあるのですか?〝神子〟という人に。」
「……まぁ、お前は口が堅いからな。良いだろう。……〝神子〟ならお前が今治療した少女だ。」
「ファッ?!!」
すぐに部屋を振り返る医者。
そして中に入るとベッド上にいる少女の顔や身体を触り始める。
医者だからいいものを、普通のやつなら捕まる行動を2人は蔑視の視線で見遣った。
そして、医者は口元に手を当て何かを考え込み始めた。
「……あぁなると長いぞ。」
ユーリ「マジかよ…。」
暫く見ていたが全く動く気配のない医者に2人して呆れ、中に入って少女の様子を見る事にした。
すると最近見ていた顔色よりも大分良好そうな顔色をしていた少女にユーリが驚いた。
城の医者でさえ、症状を止めるのがやっとだったのに。
あの変な音達に何をされたかは想像したくはないが、この医者の事は少しだけ尊敬し感心した。
「ふむ。顔色も良くなってるな。……ただ、大風邪か…。想像がつかない病名だな。」
ユーリ「確かにな。俺も聞いて耳を疑ったな。」
「エリクシールの材料……、聖なる角、お化けの布、シュクレローズの花弁、眠り草に後は乙女の涙、か……。昔なら無理だと諦めていた素材達だが、今ならそれの素材は集められる…。」
ユーリ「聖なる角は持ってるぜ?」
「……後は植物系か。確かこいつの植物園にシュクレローズと眠り草を植えていたな…。そこから持ってくるか…。ただ……シュクレローズがまだ咲いているかだな。」
暫く考え込んでいたヴィスキントだったが、一度舌打ちをするとユーリを見た。
「ともかく、こいつが治らん事には何も始まらん。ここは協力しよう。」
ユーリ「仕方がないな。じゃあ素材の分担だが…」
「お前たちは第5界層にあるお化けの布を取ってこい。第5界層を解放しておいてやる。」
ユーリ「一々言い方が腹立つやつだな。もう少し可愛く強請ったらどうだ。」
「男が可愛く強請ったらおかしいだろ…」
呆れた視線でユーリを見るヴィスキントにユーリも確かに、と僅かに思った。
「後の素材は俺が手に入れてくる。」
ユーリ「問題は乙女の涙か…」
「あぁ、乙女の涙も問題は無い。第6界層に幾らでもある。」
ユーリ「は?お前、〈
「ふん。舐めるなよ。俺はもう第8界層まで踏破済みだ。」
ユーリ「まじかよ…。」
胡乱気な視線を向けたユーリだが、今言っても仕方がない。
ともかくユーリは仲間達との合流を目標に決め、一度城へと戻る事にした。
しかしメルクが心配である。
ここに残しておいて大丈夫なものか…。
「こいつはここに置いておけ。どうせ医者の所に居ないと生きていられないんだ。この男の所なら俺も任せられる。」
ユーリの気持ちを察したのかヴィスキントがそう話す。
素材を集めたらここに集合と決め、お互いに医者の所から離れる。
そんな時、医者がようやく復活し目を瞬かせる。
「あれ。誰も居ない。……まぁ、素材を持ってくることでしょう…。調合の準備をするとして……ムッフフゥ…!!」
調合を想像して気持ち悪い顔を晒す医者だったが、ある事に気づき顔を元に戻す。
「あ。霊薬アムリタの話をするのを忘れていました……。ま、後で良いですかね。」
少女のいる部屋をそっと閉じ、奥へと医者は姿を消したのだった。