第4界層 〜進退両難なる黒雨の湿原〜
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___帝都城内、図書室
あれから一先ずは快復した私は図書室へと来ていた。
無論、彼らも付いてきてはいたが先日の事もあってかその顔は少し緊張を帯びていた。
流石に可哀想で、暫く話しかけていたのだが緊張が解れる事はなさそうだった。
そんな時、エステルがお菓子を持って現れてくれたので心の中でとても感謝した。
4人で束の間の休息をした後はエステルも調べ物を手伝ってくれるというので、遠慮せず甘える事にした。
エステル「秘薬エリクシールです?それなら奥の方にあった気がしますよ?」
『本当?じゃあそこを探しましょうか?』
エステル「はい!確か、この奥に……あれ?」
指を差しながら本の題名を確認するエステルだったが目当ての本が無かったのか、その指が止まることはない。
次々と本を目にしていくが、結局無かったようだ。
エステル「おかしいですね?ここにあったはずなんですけど…」
『誰かに借りられたのかもしれませんね?また今度探してみますね?』
エステル「そうしましょう!それよりメルク、もう少しお話しませんか?まだまだメルクのこと知りたいんです!」
可愛らしいお姫様だ。
彼女こそ、この帝都の姫だというのに…。
もしかして私は彼女と間違えられたのだろうか?
一般人にしては珍しく、護衛も付いているし……間違えられても不思議ではない。
だとしたらエステルの方が危ないのではないだろうか?
『エステル?』
エステル「はい?なんです?」
『この間私達を襲ったあの人たち…、実はエステルが目的なのかもしれないの。』
エステル「え?そうなんです?初耳ですが…」
『お姫様目当てみたいだったから、もしかしたら間違えられたかもしれないと思って…。あの人たちに見覚えはない?』
エステル「見覚えならあります!いつだったか、〈
それは聞き捨てならない台詞だが…。
だがそれなら本当に私が目当てだったのだろうか?
『エステル。あの人たちに直接聞いてみたいことがあるの。…ダメ、よね?』
エステル「うーん…。私からは了解する事は出来ませんが…フレンが良いと言えば大丈夫だと思います!聞いてみます?」
『うん、お願い出来るかしら?』
エステル「はい!じゃあ、聞いてきますね!」
エステルが去っていった後を見つめ、考える。
もしあの時に私が攫われていたら、どの場所へと連れていくつもりだったのか。
そしてあのお方と繋がりがあるのか。
サリュ「メルク様?あの者共に何を尋ねたかったのですか?」
『誰が目的だったのか、と…気になってしまいまして。それで直接聞けたら、と。』
カリュ「それくらいならば私達が代わりに聞いてきますよ?あの者共は危ないですから、メルク様をまた攫おうとするやもしれません!」
サリュ「幾ら奴らが牢獄の中でも気を付けられた方が良いかと思います。」
『そうですね?でもお二人もいて下さるのでしょう?ならば百人力ですね?』
そう言えば二人は照れたように同じ動きで頬を掻き始める。
双子ならではの特性に笑顔で見ていると、奥の方を見て顔を引きしめた二人。
フレン「メルクさん。」
フレン騎士団長が来たから顔を引きしめたのか、と少し笑いを零せばフレンは目を瞬かせた。
何でもない、と笑いながら言えば納得はしていないものの本題に入るようだ。
フレン「エステリーゼ様から聞きました。奴らに何か聞きたい事がある、と。」
『はい。やはりダメでしょうか?』
フレン「本当であれば断っています。それこそ一刀両断でしたが…、今回はこちらから少しお願いしたいことがありまして…。」
『??』
それを聞いて双子も目を丸くさせ、お互いの顔を見合わせていた。
騎士団長直々にお願いなんて何があるのだろう。
フレン「実は奴ら、メルクさんと話をさせろ、とずっと叫んでいまして…。メルクさんは彼らと面識は…?」
『先日襲われた時に初めて会いました。』
サリュ「向こうも、あの時がメルク様と初対面だったと思われます。確実に、初めて会ったような口ぶりでしたので。」
カリュ「間違えているのかは定かではありませんが、メルク様を姫、と勘違いなさっているようでした。」
サリュ「勿論、相手がそういう呼び方で普段呼ばれているのなら露知らず…」
フレン「なるほど…。」
暫く考え込むフレンだったが、私を見てうんと頷く。
フレン「貴女に危険を冒して欲しくはない…。ですが、これも何か手掛かりが掴めるかもしれないので迷っています。……メルクさんさえ良ければ、彼らと対面しますか?」
『元より、お願いしたいと思っていました。私で良ければ是非やらせてください。』
フレン「では、こちらからは〝神子〟の情報を聞いて頂きたいのですが…頼めますか?」
『〝神子〟…ですか?』
フレン「はい。未だ囚われている〝神子〟の救出を急ぐべくとにかく少しでも手掛かりが欲しいのです。」
『分かりました。』
フレン「勿論護衛は多めにつけます。僕も近くに居るので安心してください。」
こうして、意外な対面となったが彼らへの疑問をここで払拭出来るチャンスを掴んだ。
各々の思惑が交差する。
果たして、その思惑はどちらに傾き、歯車を狂わせるのだろう。
さあ、どうなる?
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___帝都城内、牢獄
ガンガンガン!!
「おい、早くここから出せや!!」
「それかあの女を連れてこい!!」
「カワイイ、カワイイ、あの病弱なお姫サマの事だぜ?」
煩いほどの獄中に入り込んだメルク達。
エステルとメルクのボディガードてある双子の間に緊張が走る。
破れんばかりに牢屋を叩く音、叫ぶ怒号や卑しい連中の声。
あれを聞いてもなお、怯えないのがフレンとメルクだけだった。
フレンを筆頭に姿を現すと最初はブーイングの嵐だったが、メルクがいると分かると男たちはあの時と同じように舌なめずりをした。
僅かにメルクの前に出た双子が男達のそれを牽制した。
「よぉよぉ?カワイイカワイイ病弱なお姫サマ…。久しぶりじゃねえか。体調は大丈夫なのか?ハハッ!」
「もっとこっちに来いよ!」
「男共はいらねえんだよ、すっこんでろ!!」
ガンガンと牢屋を揺さぶる音を出し、その煩さにフレンの顔も流石に歪んでくる。
こんな中にメルクを連れてきてしまった事を早々に後悔しそうだった。
フレン「彼女は連れてきた。話ならここでしてもらおう。」
「あん?どの口がほざいてる?俺達はそこの病弱なお姫サマにしか用はねえよ。さっさと消えな。」
フレン「ダメだ。彼女をお前たちに近付けさせる訳には行かない。」
そこまでフレンが言うと急に黙り込む男達。
しかしもう次の瞬間には下卑た笑い声を出す。
そこには侮蔑や呆れ、様々な感情を孕んでいた。
「カワイイカワイイ病弱なお姫サマ?あんたの方が俺達に用があるんじゃないのか?そうだろ?もっとこっちに来いよ、色々教えてやるぜ?」
「もっとそのカワイイ顔を見せてくれよ?ヘヘッ!」
「へっ!恥ずかしがるなって!!」
男達は牢屋の隙間から手を出してはメルクへと手招きをする。
同時に下卑た笑いも発しながら…。
サリュとカリュは耐えられないとばかりに武器を手にして構えた。
それをフレンが止め、双子は唇を噛み締める。
フレン「こちらにも面会の規定はある。これ以上は近付けさせられない。」
「別にいいけどよー?その前に、そのお姫サマ以外の奴らは退場してもらおうじゃねえか。じゃねえと何にも話せねえなぁ?」
フレン「それは出来ない。」
「相変わらずカタブツだな、テメェはよ。」
『……。』
「良いのか?カタブツ。こうしてる間にも〝神子〟がどうなってるのか、知りたくねぇ訳じゃねえだろ?」
フレン「!!」
「だからよぉ?そのカワイイお姫サマと1人にさせてくれや。そしたら全て話そうじゃねえか。なぁ?これでも譲歩してやってんだぜ?」
フレン「……」
不安げにメルクを見たフレンだったが、メルクはやるつもりみたいでこくりとその場で頷いた。
フレン「……分かった。」
サリュカリュ「「騎士団長っ!!」」
フレン「但し、こちらも条件付きだ。」
「ふん、言ってみろよ?」
フレン「彼女とは一定の距離を保つこと。彼女に触れないこと。彼女に危害を加えようとしない事。この三つだ。これ以上はこちらからは譲歩出来ない。」
「ふん。まぁまぁだな。カタブツのガキにしちゃ、まともだ。もっとえげつない条件を出されると思ったぜ。」
フレン「……見くびらないで頂こうか。」
それでも下卑た男達の笑い声が止まることはなく、メルク1人になると分かると余計にその声や舌なめずりは止まらない。
ギラギラと鈍い光を湛えて目を光らせている。
まるでケダモノのように。
フレン「僕達は一旦外に出るが、扉付近でたいきしている。変な気を起こさない方がいい。すぐにでもお前たちを罰する事も出来るからな。」
「ヘヘッ、結構結構!上等だ。さ、もう行っちまいな。」
フレンは他の人を引き連れ下がる。
メルクの横を過ぎ去る前に小声で話し掛ける。
フレン「何かあればこれを…」
『??』
フレン「所謂目潰しと言うやつです…。激しい閃光が出ますので使う際は目を閉じて使って下さい…」
『(こくり)』
フレン「……ご武運を。」
不満タラタラで双子がメルクの横を通り過ぎる。
エステルも不安そうにメルクを見たが、フレンの後について行ったのを見届け、メルクは漸く男達と対面した。
「よぉ?カワイイ、カワイイ病弱なお姫サマ?待ってたぜ?」
「へへへへ…!」
「グフフフ…!」
卑しい笑いは更に加速していた。
だがメルクが怯える様子はない。
笑顔で堂々としている。
それに男達が余計に卑しく笑い、少女の様子を窺う。
『そのお姫サマ、というのは本当に私なのですか?』
「他に誰がいるんだぁ?ハハッ!」
「もっと近くに寄れよー。触れないだろ?」
「グフフフ…!触ったらダメって言われたばっかりだろ…?」
「あんなカタブツの言うことなんか聞く必要ねぇよ。さぁ、こっちにおいでや。おジョーサン?」
牢屋から飛び出る手達が、まるで飢えたケモノのように這い出てくる。
掴もうとして掴めない。そのもどかしさが男達を更に興奮させた。
『……誰に、命令されたのですか?』
その質問をした瞬間、突如男達の纏う空気が変わった。
全員が飛び出していた手を途端に引っ込め、リーダー的な男がギラつかせた目をメルクへと固定させ、人差し指だけをクイクイと自分の方へと引き寄せる。
誰も牢屋から手を出すものはいない。
あんなにも手が沢山出ていたのに、だ。
その不気味さと男達のギラついた目で、一瞬萎縮しそうになったメルクだが、表情を変えず笑顔で恐る恐る一歩ずつ前へと歩み寄る。
コツコツ…
牢獄に響くヒール音がこの場の静けさを物語っていた。
遂に牢屋のすぐそこまで辿り着いたメルクはリーダー的存在の男へと視線を向ける。
そしてその口元を注視した。
「(ア・ビ・ゴー・ル。)」
男が無言で口だけを動かす。
その言葉をメルクが読唇した瞬間、ドクリと身体中の血液が激しく回っていく。
あのお方の遣いだったのか。
それなのに攫われず、大人しくしてしまった。
あのお方の元へ帰れる絶好の機会だったのに。
『……。』
「ハハッ!どうしたぁ?怖くて恐くて仕方ねえのかぁ?可哀想になぁ?…………攫ってやろうか?」
最後の言葉だけ本気を醸し出すような真剣な声音で囁く。……悪魔の誘いだ。
だがここで攫って貰わなければ私はいつまで経っても、あのお方の元へ帰ることは出来ない。
『……。』
でも、そうすれば彼らは……サリュとカリュは…?
護れなかったと自身を咎め続けてしまえば…、それはトラウマとなりもしかしたら彼らの仕事を奪ってしまうかもしれない。
それに……頭にチラつく彼を裏切る事が、私に出来るの…?
あんなにも助けて貰って、あんなにも気にかけてもらって…。
そんな彼を裏切るの…?
「ヘヘッ…!!やっぱりなぁ?お前さん迷ってるんだろ…?あの方の言う通りだなぁ?」
『!!』
「こりゃあ、是が非でも攫わなくちゃならなくなったなぁ?あのお方もお怒りだ。」
『私は…』
思わず声が震えてしまう。
あのお方がお怒りになってる…。
いけない、帰らなくては…。
でも、でも……!!
これまでのユーリ達との旅や思い出がメルクの頭の中を駆け巡る。
長く居すぎて、彼らに依存してしまっている。
そんな事、あってはならないと頭では分かっているのに…!!
『私、は……』
「分かってるって。皆まで言うな。……勿論、頭の中はあのお方の事だよなあ?メルク・アルストロメリア?」
『っ!』
思わず後退してしまう程の眼力。
表情もそれで崩れてしまえば、男達が再び卑しい嗤いを声に出す。
そして牢屋に近付いていた私に向かって手を伸ばした───
フレン「そこまでにしてもらおうか。」
フレン騎士団長に強く抱き寄せられ、あの卑しい手から逃れられる。
しかしあの嗤い声が止むことはない。
思わず耳を塞いだ私を見てフレン騎士団長が顔を歪め、相手を睨みつける。
フレン「やはり獄中の奴らは約束を守らないか。」
「ハハッ!!分かってたことだろ?それに…、今後の目的も定まってきたしなぁ……?」
ガタイの良いリーダー格の男がメルクを目を細めて見遣る。
その視線から離すようにフレンが腕でメルクの顔を隠すと男は視線を外した。
「なぁ?お姫サマ?このままじゃあ、終わらないぜ?早いところ目を覚ましな?居心地の良い夢からなぁ?ヘヘへッ!!」
『っ!!』
フレン「耳を貸すことは無いよ。悪人の戯言だ。」
耳を貸さないようにとフレンもメルクの耳を塞いだが、声が、音が…手の隙間から漏れて耳に届いてくる。
「お姫サマは分かってんだろ?このままそこに居れば、どちらにせよ処刑は決まったものだってよぉ?」
フレン「処刑…?何の話だ…?」
『(分かってる…!分かっているの…!どちらにせよ私はギルドの処遇を決める時にギルドの人間として罪を認めなければならないっ!だからあのお方の願いを叶えた後に贖罪を…!!)』
「だからさ、最初からお姫サマはこっち側の人間なんだぜ?」
フレン「……それ以上言えば、騎士団長権限でお前たちの罪を重くする。」
「ヘヘッ…。へいへい。分かりましたよー。」
チラリと見た少女には効果抜群だったようで、その体は小刻みに震えている。
それに男が下卑た嗤いを浮かべ、成功を予感して満足する。
これなら簡単に誘拐出来そうだ。
アビゴールが怒ってるなんて端から嘘。
それにアビゴールから頼まれているというのも真っ赤な嘘。
どれもこれも嘘を塗り固めただけだ。
まぁ、あの黒衣の男には頼まれてはいるが、こうでもしないと、この騎士団の包囲網を突破なんて出来やしないのだから。
だが揺さぶれば揺さぶる程、少女の弱点がポロポロと出てくるものだから、つい口が動いちまう。
「ヘヘッ…。まぁ、楽しみにしてなぁ?お・姫・サ・マ?」
フレン「…メルクさん、もう行こう。」
フレンが少女を連れ外へと歩いていく。
それをガタイの良い男は敢えて止める事にした。
「あー、そこの騎士団長さんよ?」
フレン「……何だ。」
「そんな怖い顔したらダメだろー?折角のイケメンが台無しだぜ?ヘヘッ。」
フレン「要件が無いなら──」
「闇夜に気を付けるんだなぁ?騎士団長がやられたら騎士団は終わりだろ?忠告だよ、忠告。」
フレン「……要らぬ忠告ご苦労様だな。」
「ハハッ!!自信過剰なのは勝手だが俺はちゃーんと言ったからなぁ?ヘヘッ!!」
耳を貸さず、そのままメルクを連れ歩き出す。
顔を真っ青にさせ、いつもの笑顔はなく、小刻みに震えている少女にとにかく謝る。
首をフルフルと横に振り、大丈夫だと口から声を漏らすもその声は蚊のように細い声音で、近くで聞き取るのがやっとだった。
フレン「彼らの言葉を鵜呑みにしてはいけないよ。…アイツらは悪人でどんな手でも使う。嘘をついてメルクさんの弱点を突いてくる。だから気にしなくてもいい。」
『……』
扉向こうに待機していたサリュとカリュ、そしてエステルもメルクに駆け寄り、言葉を掛ける。
しかしどの言葉も今の少女には届いていなかった。
フレン「……本当にすまない。もう少し早く助けに入るべきだった。」
『……』
サリュ「……メルク様!そういえば先程美味しいお茶菓子を貰ったのです!折角なら食べられませんか?」
カリュ「紅茶も良い奴を貰ったんです!」
エステル「わ、私も御一緒してもいいです?!」
『……。』
震え、黙り込む少女に皆が消沈した。
誰もが思っているのだ。
もう少し早くに助け出せていれば、と。
その日は結局誰も声を掛けることが出来ないまま病室へ辿り着いてしまい、沈んだままの少女が中に入っていくのを見届けるしか無かった。