第4界層 〜進退両難なる黒雨の湿原〜
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___帝都城内、図書室
ユーリ達が行った後、私達は調べ物をしに図書室へ来ていた。
医師から言われた足りない材料とやらを調べに来たのだ。
他の材料は無かった気がしたが、万全を期したい。
折角彼らが貴重な物を取りに行ってくれるのだから、不安要素は排除しておきたいのだ。
『秘薬、エリクシール……』
サリュ「それが例の薬の名前ですか?」
カリュ「何だか効きそうな名前ですね!」
『ふふ、そうですよね?秘薬エリクシールは伝説のアイテムと呼ばれているものなのです。何でもその身にある全ての厄災を浄化し、病気あればその病気も全て無に帰すというアイテムなんです。……本当ならそれでも効果があるのですが…、他にも似たようなアイテムがあるんです。』
サリュ「流石メルク様!お詳しいです!」
カリュ「もうひとつのアイテムとは?」
『ふふ、ありがとうございます。もうひとつは霊薬アムリタ、と呼ばれるものです。それも似たような効果ですが、二つが合わさると更に効果が倍増するんだそうです。』
カリュ「それは手に入りにくいものなんですか?」
サリュ「出来たら欲しいですよね。」
『そうですね…。聞く限りだと難しいと思います。本当に貴重なアイテムで、これこそ失敗した時の喪失感が洒落にならないくらいですから…。』
霊薬アムリタと秘薬エリクシール。
二つは似て非なるもの。
でも合わさるとその効果は、この世にある回復薬のどれをも凌駕する。
スペシャルグミも目ではない、ということだ。
サリュ「……ん?」
カリュ「……メルク様、何か聞こえませんか?」
『??』
二人には何かが聞こえているらしく、武器を僅かに構えている二人。
それに合わせて私も耳を澄ませてみるが、私には全く音をキャッチ出来ない。
至って静かだと思うが、彼らの顔を窺えば徐々に険しくなっていくので目を丸くした。
そして──
ドン!バタン!
「メルク様!!お逃げ下さ──」
「案内ご苦労さん?」
図書室の扉を開けた兵士が急に前に倒れ、私はあまりの急な事に口元に手を当て息を呑んだ。
同時にサリュとカリュが私を庇うように武器を構えながら私の前へと飛び出してきた。
ガタイの良い男達…それも7、8人くらいは居そうな集団がこちらを見ると舌なめずりをしていた。
そして二人の間にいる私に目を付けると、目を鈍く光らせる。
まるでそれは、獲物を見つけた獣のような光を放っていた。
「よーやく会えたな?お姫サマ?」
『?? 私は姫では……』
「ごちゃごちゃ言ってねぇで、大人しく連れ去られてくれねえか?こっちも仕事なんでね?」
武器を構え、ギラギラした目をこちらに向ける男達に思わず怯みそうになる。
しかしサリュとカリュがそれを見て黙ってはなかった。
サリュ「メルク様は渡さないぞ…!」
カリュ「盗賊め!我らがメルク様には指一本触れさせない!」
「やっぱり護衛が居たか…。まあこんなヒョロヒョロなヤツら簡単に去なせるか。」
サリュ「舐めるなよ…!」
複数人の男達がサリュとカリュに向かう中、メルクは倒れた兵士へと回復を施していた。
そしてサリュとカリュの二人へと支援の技を使っていると、二人を掻い潜ってきた屈強な男が私へと手を伸ばした。
それを慌てて避けると、カリュがそれに気付き男を去なす。
急に動いた事でなのか、身体が急に倦怠感を憶える。
『ごほっ!ごほっ!』
サリュカリュ「「っ!?」」
「何だ?お目当てのお姫サマはもしかして病弱っつー奴か?ハハッ!!攫い甲斐のあるカワイイお姫サマだな?!」
ガタイの良い男が声を張り上げそう叫ぶと、遂に身体が悲鳴を上げたように脱力感に襲われる。
その場に倒れ込んでしまった私にサリュとカリュが慌てた声を出した。
それに応えようと身体を起こすが、座り込むのがやっとだ。
倒れた影響で、持っていた短杖が床に投げ捨てられている状態になっており、それに手を伸ばそうとしたがまた倒れそうになる。
二人は私を間に挟むようにして男達の攻撃を去なしていく。
私が足でまといになってるのは確実だ。
どうしたら、彼らの邪魔にならずに済むだろうか。
「オラオラッ!!そこのお姫サマを渡せ!!」
サリュ「渡す…」
カリュ「ものか…!!!」
こんな時…彼が居てくれたら、そんな事を思って、ハッとした。
期待したらダメだ。
ここには自分達しか居ないのだから。
誰も助けてはくれないんだ。
でも、どうして彼を思い出してしまうのだろう?
私にとって、彼はどんな人なの……?
そんな事を思っていれば、頭上から苦しそうな声が聞こえてくる。
サリュもカリュも、頑張ってくれているのに今黄昏ている場合ではなかった。
『(だとしても…、誰からの刺客でしょうか…?もしかしてあのお方が帰ってこい、とそう言っているのでしょうか…?)』
「お前ら!!こいつら2人は俺がやる!!早いところそこのお姫サマを攫え!」
「「「「「おう!!」」」」」
それに応えるように男達が襲いかかってくる。
もうダメだ…。
私は、どうしたら……?
ユーリ「メルク!!」
『!!』
「ん?なんだ帰ってきちまったか?まぁ、いい。そこのか弱くて病弱そーなお姫サマは俺達が頂くぜ?」
心から待ちわびた人の声だ。
いつも私の危機に駆けつけてくれる人…。
私に襲いかかろうとしていた男達を軽く去なしたユーリは私の近くに来て様子を窺うように顔を覗き込んだ。
僅かに緊張していた身体が倦怠感と安心感の間で渦巻いてグチャグチャになる。
その間にも襲いかかろうとする敵を攻撃しては後退させるユーリ。
サリュとカリュが何かをユーリへ言っていたのが聞こえ、その後すぐにユーリは私を抱え図書室を飛び出した。
ユーリ「体が熱い…!熱があるのか…?!」
『ごほ、ごほ…。ユーリ…、ごめ、んなさい…』
ユーリ「喋ったら舌を噛むぞ!」
言われた通り黙ればすぐに病室へと辿り着き、扉を蹴破ると中へと入っていった。
そして何かを探しているかのように顔を忙しなく動かすユーリに薬だと見当つけて、声を絞り出す。
『ごほ!…そこの、引き出しに…』
そう伝えればユーリは、ベッドへと取り敢えず私を下ろし、例の引き出しを開ける。
大量の薬が入っている袋を私に優しく手渡し、水を入れたコップも準備してくれた。
咳止め、解熱剤、抗生剤……。
何錠か薬を出し飲み干せばユーリがやっと安堵したように息を吐いた。
そしてもう大丈夫だと頭を撫でてくれて、申し訳なさと来てくれた嬉しさに顔を俯かせた。
『どうして、ここに…?』
ユーリ「下町のヤツらが教えてくれたんだよ。お前を狙う妙な集団がいるってな。それで戻ってきたんだ。」
『ごめんなさい…。迷惑ばかり…』
ユーリ「大丈夫だから取り敢えず寝ろ。こんな状態で寝れないと思うが…、それでもお前は少しでも体を休ませた方がいい。分かったな?」
『……はい。』
決して眠くは無いが、言われるがままに横になると武器を持ち廊下の様子を窺う彼。
少しでも役に立ちたいが、今の私では足でまといだ。
それでも、お礼だけでも伝えたい…。
『…はぁ、…はぁ、ゆー、り…』
ユーリ「ん?呼んだか?」
『あり、がとう…』
今の精一杯の笑顔でお礼を伝えると、徐々に薬の効果で眠くなってくる。
少し間が空いた後、ユーリが適当に返答してくれたのでまた笑い、今度こそ眠気に任せて目を閉じた。
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私が目を覚ますと、サリュとカリュが現状を伝えてくれた。
ユーリ達は聖なる角を手に入れるために古代都市へ。
そしてエステルとフレンは城の体制の立て直しの為、城内にいるとの事だった。
サリュ「それよりも、一先ず体調が良くなったようで安心致しました。」
カリュ「急に倒れられたので心配致しました。もう大丈夫なのですか?」
『はい。心配おかけしました。今はこの通りです。』
ベッド上でにこりと笑えば、安堵の息を吐き、心の底から安心した顔を見せた二人。
本当に二人にはお世話になった。
だからこそ思う。
私に着いていれば彼らに危害が及ぶのではないか、と。
いずれ攫われてしまう身であるが故に、彼らの仕事や命の危険を考えてしまう。
甘えた考えだと分かってはいるが、どうしても人が怪我をするのは見たくはない。
それが身近な人なら余計に……。
『お二人は…、兵士の仕事を辞めたいと思われたことは無いのですか…?』
思わず聞いてしまったその質問に、キョトンとした顔で二人は顔を見合せた。
しかし次の瞬間、彼らはニカッと笑顔になりこちらを見た。
サリュ「逆ですよ?メルク様。」
カリュ「冴えない私達が貴女様のお陰でこうやって役に立っている。それが嬉しいのですよ。」
サリュ「私達はずっと1人では能力を発揮出来ない人間でした。」
カリュ「しかしそれもこの間までの話です。今はメルク様という綺麗なお方の護衛に付けて、またサリュとも仕事が出来るので有難く思っています。」
サリュ「ですからこの仕事を誇りに思えど、辞めたいとは思ったことはありません。メルク様にはとても感謝しているんですよ?」
二人の間には暖かな空気が流れている。
そしてその暖かな空気がこちらにも流れ込んで来るような気がして、でもそれを許容してしまえば私はあのお方の願いを…叶えられなくなってしまいそうで。
ユーリや、皆に絆されて……、これではいけないのに。
あのお方の願いを聞き届けるまで私は……後ろを振り返れないのに。
葛藤する心が、強く私の胸を締め付ける。
……会いたい。
あのお方に会えば、また私は昔の私に戻れる気がする。
だから戻りたい…、あのお方の元へ…。
サリュ「メルク様?」
カリュ「どこか痛むのですか?」
『……いえ。大丈夫ですよ……?大丈夫…、大丈夫ですから……。』
サリュカリュ「「……」」
大丈夫を連呼するメルクを心配して、双子は顔を見合わせる。
何かおかしな事を言っただろうか。
それとも本当に具合が悪いのだろうか?
サリュ「メルク様。今は少しお休みください。まだ病み上がりなのですから。」
カリュ「後で医師を呼んでおきますから、今だけは楽にして休まれてください。」
双子は病室から出ると扉の前に佇む。
護衛を全うするのが仕事だから。
フレン「サリュ、カリュ。」
「「はっ!」」
騎士団長様が声を掛けて来られたので双子は敬礼をした。
そして気遣わしげな表情を中へと向けられていたので、メルクのことを気にしているのだとすぐに察した。
サリュ「メルク様なら少し具合が悪そうでして…」
カリュ「現在休んで頂いてます。」
フレン「そうか…。」
一度大きく息を吐き中を見たが、すぐに双子へと労いの言葉を掛けるフレン。
あの不届き者からのメルクの護衛も大したものだった、と褒めれば嬉しそうな顔で返事をした二人。
そして同時にハッとした顔になるとフレンへと先程の報告をする。
サリュ「実はお耳に入れたい話が…」
フレン「??」
カリュ「先程、メルク様から不思議なことを聞かれたのです。」
サリュ「兵士の仕事を辞めたいと思ったことはないか、と。」
フレン「……それで二人はなんと?」
サリュ「逆です、とお答えしました。」
カリュ「メルク様のお陰で今がある、この仕事を誇りに思えるとお伝えしたのですが…苦しそうなお顔をされたので一応出てきたのです。」
そう話すと暫く考え込んだフレンだったが、思い当たる事があるのか二人をしかと見つめた。
フレン「……そうか。実は二人には言ってなかったことがあるんだ。メルクさんは…、自己犠牲の気がある方なんだ。」
「「!!」」
フレン「もしかしたら、今回の事を自分のせいだと責めているのかも知れない…。二人とも、彼女のフォローも頼めるか?」
サリュ「勿論であります。」
カリュ「メルク様のせいではないというのに…。とことんお優しい方です。」
フレン「だからこそ、色んな人に狙われてるのかもしれないな。……彼女を頼むよ?」
「「はっ!!」」
敬礼した二人の肩に手を置き、任せた、と言う気持ちを込める。
そしてフレンは、その場を後にした。