第4界層 〜進退両難なる黒雨の湿原〜
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___帝都ザーフィアス、下町
素材、聖なる角を取りに行こうとするユーリ達は下町を通っていた。
ユーリから見て、相変わらず下町の奴らはしぶとく生きているようだ。
「ユーリ!フレン!」
下町の少年テッドが俺たちを見つけたからか、慌てて駆け寄ってくる。
その後ろからはハンクス爺さんも歩いてこちらに向かってきているのが見え、俺たちは足を止めることにした。
ユーリ「どうした?そんなに慌てて。」
「聞いてよ、ユーリ!ここ最近変な奴らが下町をうろついてるんだ!」
フレン「変な奴ら…?」
「城の方を窺ってる様子じゃったぞ。何でも瑠璃色の髪と瞳を持つおなごを探しているようで、常にブツクサブツクサと言っておったぞい。奴ら、そのおなごが城にいると見当したんじゃろうな。常に城の方を見張っておったぞ?」
「「「「「!!!」」」」」
瑠璃色の髪に、瑠璃色の瞳…。
明らかにそれはメルクの事だ。
何でまたこんな時に…。
ユーリ「ちょっと待ってくれ。その話、もう少し詳しく聞かせてくれ。」
「さっき、あいつら、こうも言ってたんだ!黒髪の男や金髪の男が出て行ったら城に乗り込むぞ、って!!」
レイヴン「こりゃあ、まずいかもな…」
リタ「あたし達の居ない隙に掻っ攫おうって魂胆なのかもね。」
ユーリ「…どんなヤツらだった?」
「ガタイのいい男達だったんだ!結構人数いたけど、大丈夫なの?」
フレン「その不審な奴らは今どこに?」
「もう城の方に行っちゃったよ!!だからユーリとフレンを呼び止めたんだって!」
ガタイのいい男と言えば、何時だったか界層踏破した後に襲ってきた奴らが思い浮かぶが…、今はそんな事考えてる暇はなさそうだ。
俺はフレンを見て、すぐに城の方へと駆け出した。
幾ら精鋭の騎士達がいるとはいえ、不安は残る。
少しでも不安があるならそれを排除するまでだ。
……頼むから、無事でいてくれ!
後ろからカロル達も着いてきているのを確認して、城の門へと到着すればそこは悲惨な状態だった。
何者かにやられたような痕跡、そして倒れている門番達。
リタ「嘘でしょ?!そんなに強いの?」
エステル「ユーリっ!早く行きましょう!」
ユーリ「それが良さそうだな…」
俺たちは急いでメルクの病室へと走り出したが、そこはもぬけの殻だった。
荒らされた形跡などはなく、ここには居なかったと考えるのが妥当だろう。
くそ、あいつらどこに行った?!
エステル「音楽室でしょうか?」
リタ「普通に考えれば、図書室で調べものしてると思うわ。今回の調合、かなり難しいって言ってたから情報収集しててもおかしくは無いし。」
フレン「急ごう、ユーリ!」
ユーリ「あぁ!」
途中で怪我をしている兵士達を目の当たりにして、エステル達が顔を歪めていく。
怪我を治してやりたいのは山々だが、それよりも先に元凶を探さないと被害が拡大するだけだ。
何よりメルクを攫われてしまっては探すのも一苦労で、その上メルクの病状からして良くはない。
図書室の扉を蹴破る勢いで開けた俺の目に、複数のガタイのいい男達相手にだいぶ健闘しているボディガード二人と、その二人の間で苦しそうに座り込むメルクの姿が写った。
床に手をついていて、その近くには戦おうとしたのか短杖があったが、床に投げられていた。
息も荒い状態で俯いているメルク。具合が悪そうなのは、火を見るより明らかだった。
ユーリ「メルク!!」
『!!』
「ん?なんだ帰ってきちまったか?まぁ、いい。そこのか弱くて病弱そーなお姫サマは俺達が頂くぜ?」
僅かに反応を見せたメルクだったが、男が妙な宣言をしたせいで身体を硬直させていた。
メルクを護っている二人も大分健闘はしているがいつまで持つかという状態で俺たちも中に入り、敵と交戦する。
サリュ「ユーリさん!メルク様を連れて早く病室へ!メルク様の体調が芳しくありません!」
カリュ「ここは我々が引き受けます!それよりも早くメルク様に薬を!」
ユーリ「分かった!」
誰かがメルクを連れて薬を飲ませに行かないといけないんだ。
俺は迷わずメルクを抱き上げ、図書室を抜ける。
最後に見たカロル達も分かったように頷いたり、手を挙げて合図をするので一人でこいつの病室へと向かう。
ユーリ「体が熱い…!熱があるのか…?!」
『ごほ、ごほ…。ユーリ…、ごめ、んなさい…』
ユーリ「喋ったら舌を噛むぞ!」
急いでいるのと、両手が塞がっているので病室の扉を蹴破り、中に入り目的の物を探す。
何処だ?
どこに薬がある?!
『ごほ!…そこの、引き出しに…』
メルクの指示に従うため、ベッドへと取り敢えず下ろし引き出しを開ける。
大量の薬が入っている袋を本人に渡し、水を入れたコップを手渡す。
何錠か白い錠剤を袋から取りだした後、口の中に入れ嚥下するのを見届ける。
その間にも辛そうに息を吐くメルク。
もう大丈夫だと頭を撫でてやれば、申し訳なさそうに顔を俯かせた。
『どうして、ここに…?』
ユーリ「下町のヤツらが教えてくれたんだよ。お前を狙う妙な集団がいるってな。それで戻ってきたんだ。」
『ごめんなさい…。迷惑ばかり…』
ユーリ「大丈夫だから取り敢えず寝ろ。こんな状態で寝れないと思うが…、それでもお前は少しでも体を休ませた方がいい。分かったな?」
『……はい。』
一応ベッドへと横になるメルクを見つつ、廊下側の様子を窺う。
カロルたちが抑えてくれてるからこっちまで来る事はなさそうだが、用心するに越したことはない。
『はぁ、はぁ…はぁ、』
静寂が部屋を包む中、メルクの荒い息遣いだけがこの場に響く。
出発前には元気そうだったメルクが、俺達が来た時には既に風邪をひいた様に急に体調が悪くなっていた。
あの医師の言葉は本当だったんだな、と頭の片隅に思った。
風邪であれば少し休めば治る訳で、こんな急に風邪が再発するなんて中々ない症状だ。
苦しそうにするメルクをチラッと見てから、また廊下を見遣る。
早く苦しさから解放してやりてえ。
その気持ちが強かったから、早めに聖なる角を取りに行こうと思ったのだが、完全に裏を読まれてしまって失敗だったか。
『…はぁ、…はぁ、ゆー、り…』
ユーリ「ん?呼んだか?」
『あり、がとう…』
そう言って辛いはずなのに笑顔を浮かべるメルクに、少しだけ目を逸らして強く拳を握る。
どうすればこいつが平和になる世界になれる?
何にも脅かされない、そんな世界になる?
〝願い叶える者〟
そいつに頼んだら…、メルクが穏やかに過ごせる世界になるのか?
だがそもそも、〝願い叶える者〟である〝神子〟が向こうに囚われてるんだ。
早計だった、と頭を振りメルクのお礼に対しての言葉を適当に返しておいた。
♪゚゚+.・.。*゚♪゚゚+.・.。*゚♪゚゚+.・.。*゚♪゚゚+.・.。*゚♪゚
少し呼吸が荒いものの、寝息を立てスヤスヤと寝ている様子のメルクにほっと息を吐く。
そんな時、廊下の方から複数の足音が聞こえ咄嗟に武器を構えた。
恐らくカロル達だろうが念の為だ、念の為。
扉を壁にして隠れながら廊下奥の様子を窺っていると、やはりやってきたのは予想通りにカロル達だった。
エステルとフレンが見当たらないがそれでも他の面子に加え、メルクのボディガード達も来ていた。
武器を下ろし手を挙げると、いち早くカロルがそれに反応した。
カロル「あ!ユーリ!メルク大丈夫?!」
ユーリ「今は寝てるぜ?」
部屋の中を指さすとスヤスヤと寝息を立てるメルクに近づいて行く仲間たち。
ボディガード達が一番安堵の息を吐いていた。
ユーリ「アイツらは?」
リタ「牢屋へ連行されたわよ。後で詳しい話を聞くって騎士団長が言ってたわ。」
ジュディス「でも、吐かなさそうよ?彼ら。」
レイヴン「連中、捕まった時も笑ってたからなぁ。」
ユーリ「そうか。まぁ、後はあいつがどうにかするだろ。」
サリュとカリュがメルクの様子を近くで見て一安心したのか、床に座り込んでいた。
確かに、一番緊張したのはコイツらかもしれねえな。
護衛対象が攫われたなんて、シャレにならないしな。
だが、今回は頑張ってくれたからメルクが無事だったんだ。
後で労いの言葉を掛けるとして…。
ユーリ「エステルはどうしたんだ?」
リタ「そこら辺にいる騎士や兵士達の回復に奔走してるわよ。全く無茶するやつらばっかりね、あたしの周りって。」
レイヴン「リタっちだって、無茶する時は無茶するじゃない。」
リタ「あたしはいいのよ。研究で忙しいから。」
ジュディス「ちゃんと休まないとダメよ。心配で泣いちゃいそうだわ。」
リタ「嘘おっしゃい…」
ジトリとした目でジュディスを見たリタは、肩を竦めたが俺を見ると何か物言いたげな顔になった。
なんだ?
何かしたか?俺。
リタ「で、これからどうすんのよ。アイツらが捕まった今がチャンスなんじゃない?次の手をすぐに打ってくるとは思えないけど?」
ユーリ「確かにな。古代都市タルカロンに行くなら今のうち、だな。」
ジュディス「彼らはどうするの?置いていくつもり?」
カロル「戦闘の人手が少なくなるのはマズイけど……、でもここも大変だろうしね。」
ユーリ「そうだな。後片付けはアイツらに任せようぜ?どうせ奴らには色々吐いてもらわなきゃならねえんだ。その時間も必要だろ?」
レイヴン「姫さんはどうすんのよ?」
ユーリ「今は怪我を治すので手一杯だろ?そのままにしとけ。」
回復が居なくなるのは正直ちとキツいが、仕方がない。
これも修行だ、修行。
サリュ「フレン騎士団長には私達の方から伝えておきます!」
カリュ「皆さんはどうぞ旅をお続け下さい。」
サリュカリュ「「メルク様を助けて頂き、ありがとうございました!!」」
ユーリ「ははっ。お前らにそんなこと言われなくてもやってたさ。」
カロル「メルクはボク達の大事な仲間だからね!」
腰に手を当て意気揚々と言ったカロルに他の皆も納得していた。
サリュとカリュがそれを見て頷くと、敬礼をした。
サリュ「メルク様には無理ない程度に調べ物をして頂きます。本当にありがとうございました。」
カロル「っていうか、何調べてたの?やっぱりその難しいっていう薬のこと?」
サリュ「はい。あと1つ足りないものがあるそうで、それを医師から聞いたメルク様は自ら調べ物をなさっていました。」
カリュ「そこへ、奴らが襲いかかってきまして…。」
ユーリ「よくアイツら、メルクの居場所が分かったな…。」
カリュ「メルク様へ逃げる様に警告しに来た兵士を追いかけて辿り着いたようです。その兵士のお陰で我々もすぐに臨戦態勢が整いましたから…。」
サリュ「メルク様がその兵士に回復を使われて、その後急に倒れられたので気が気ではありませんでした。」
調べ物か。
なるべく休んでて欲しいが、メルクの性格からしてもそれは無理だろうな。
それに怪我した兵士を回復させるなんてメルクらしいな。
本当、自分の事を棚に上げて…。
困った奴だよ、お前は。
ユーリ「あそこまで耐えてくれたからメルクが無事だったんだ。ありがとな。」
カロル「そうだよね!流石フレン騎士団長に認められた2人だね!」
サリュカリュ「「ありがとうございます!」」
ユーリ「さて…、俺らはそろそろ行くか。」
ジュディス「そうね。いつまでもここに居たんじゃ、治るものも治らないしね。」
レイヴン「よっしゃ、いっちょやったりますか!」
俺達はそのままフレン達を置いて、古代都市へと向かうことにした。