第4界層 〜進退両難なる黒雨の湿原〜
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___帝都城内、病室
医師の診察を受けつつ、今後の見通しについての説明を受けていると、ユーリ達が中に入ってきて説明を一緒に聞くことになった。
「メルクさんの体調は以前よりは良くなってはいますが…万全ではありません。こまめな休憩や治療が必要でしょう。」
『いつまで続くか、分かりますか?』
「流石にそこまでは…。ただ、この病状について少し聞いたことがあるのです。」
ユーリ「?? ただの風邪じゃないのか?」
「我々も最初はそう思っていたんですが…どうも違うみたいです。ここまで重症な風邪はありませんから。」
医師が私を見てから皆を見渡す。
そして頷いて病名を告げる。
「大風邪です。」
「「「「……。」」」」
『えっと…?』
「ですから、大風邪です。」
カロル「なんだろ…。聞いて損した気分になるのは…。」
リタ「この医者、ほんとに大丈夫なの?」
「大丈夫ですよ!真面目も真面目、大真面目です!」
『詳しい話を伺っても……?』
「はい。」
すると医者はどこから持ってきたのか、大きな黒板のような物を持ち出すとそこへ何かを書き出した。
「良いですか?風邪というのは基本的に咳や発熱、咽頭痛などの症状しかありません。しかしこの大風邪は────」
リタ「……これ、長くならない?」
カロル「ボクも思ったよ……」
ユーリ「まぁ、聞いてやろうぜ?これを聞いたらメルクの病気の治療方針も何かしら定まるかもしれないだろ?」
フレン「期待してるところ悪いが……この医者は話し始めると長い…」
リタ「あたし、ちょっと抜けてくるわ」
カロル「ボク、トイレに……」
ユーリ「ダメに決まってんだろ?ほら、聞くぞ。」
長ったらしい説明を聞いたユーリ達。
数人は夢の国へと旅立とうとしていたが、話が終わったと分かると途端に元気になっていた。
『要するに……重い風邪、という認識でしょうか?』
「まぁ、大まかに言えばそうですね。」
ユーリ「大層な話をした割に大したこと無かったな…。」
リタ「だから言ったじゃない。聞くだけ無駄よって。」
ジュディス「あら、そんな事言ってなかったじゃない。」
レイヴン「んあ?終わったのか?」
何とも自由人たちだ。
結局必死に聞いていたのはメルクとサリュカリュ、そしてエステルとフレンだけだ。
他の人は途中から違うところを見ていたり、寝ていたりしていたのだから。
『……』
エステル「治療法はないんです?」
「実はそうなのです。一度発症すれば死ぬまで付き合わないといけない病気でして。」
カロル「ええ?!じゃあ、メルクは一生このまま風邪を拗らせないといけないって事?!」
「その度に治療が必要なのです。適度な治療、適度な療養。これしか生きる術はありません。」
エステル「そんな…!」
『未確定の治療法なら……現代に伝わっているはずです。』
薬剤師でもあるメルクが口元に手を当て、何かを暫く考えていたが、漸く吐き出した言葉は自らの治療法についてだった。
しかし、それを聞いた医師はとんでもない!と首を大きく横に振った。
「あの治療法はほぼほぼ不可能です!なんてったって、材料が手に入りません!それに誰も成功させた事がない調合なんですよ?!無理です!無理無理!!」
ユーリ「……どんな材料なんだ?」
『ユニコーンの角、乙女の涙、お化けの布、シュクレローズの花弁…、後は……』
「眠り草、ですね。……お詳しいんですね?もしかして、そっち系の研究をされてたんですか?」
『というより、植物の研究を生業にしていまして…。その時にこの調合を耳にしたのです。』
「それはそれは!てっきり、不老不死でも作ろうというヤバい連中の一部なのかと…」
サリュ「そんな失礼なこと、言わないで頂きたいですね!」
カリュ「こんな心の綺麗な人がそんなヤバい連中な訳がないじゃないですか!」
「いやー、ごめんなさい。人は見かけによらないといいますから、まさか、と思いましたよ。」
頭を掻きながら謝る医師に、もちろん許してあげるのがメルクという人物で。
優しい笑顔で大丈夫だと言えば、医師も大きく頷いてどことなく嬉しそうだ。
カロル「えっと……材料、なんだって?ボクでさえ、一個も聞いたことないんだけど……」
リタ「ユニコーンの角は鯨の角の事でしょ?なんかどっかで聞いたわよ?」
エステル「恐らくですが、聖なる角だと思います。古代都市タルカロンにいたエクスユニコから取れる代物かと…」
そこまで言って口を噤んだエステル。
分かっている、分かっているのだ。
あそこの魔物のレベルはかなり高めで、おまけにそれの素材となるとかなり危険な素材集めになるのは明白なのだ。
だからエステルは口を噤んでしまったのだ。
カロル「え?!あんな強い所の素材ってこと?!嘘でしょ?!」
ユーリ「それほど病気に効きそうじゃねえか。他の素材の場所は分かってんのか?」
『……検討付けている場所ならあります。ただ…何個かはかなり難易度が高い上にどこにあるかも分からないものがあるんです。』
エステル「どれです?」
『乙女の涙、でしょうか?あれはどこを探しても中々見つからないと思います。』
パティ「乙女の涙なら任せい!ウチの涙を分けてやるのじゃ!」
ユーリ「部外者は引っ込んでろー」
パティ「なんでじゃ!ウチこそ乙女じゃろーが!」
ジュディス「誰のでもいいなら、女性陣全員でやればいいじゃない?誰かのやつが、きっと効果を発揮するわよ。」
それもそうか、と女性陣全員が納得しかけたが、男性陣はそうは思わないようで何人かが顔を顰めていた。
メルクの涙なら分かる。あれは紛うことなき、乙女の涙だ。
しかしパティやリタの涙は全くと言っていいほど想像がつかないし、何なら乙女の涙では無いと思っている。
パティ「後の材料は大丈夫なのかの?」
『一つだけ……サリュとカリュにはご迷惑をおかけすると思います。』
サリュカリュ「「??」」
ユーリ「何でそいつらなんだ?」
『シュクレローズの花弁と眠り草……あれだけは、ギルドにある植物園で私が育てていたものなんです。もし、取りに行くとなれば…』
「「「「「「!!!」」」」」」
それはあまりにも危険な誘いだった。
いつまたあそこに彼らが帰ってくるか分からない状態で、奴らが喉から手が出る程欲しがっているメルクを近付けさせれば、それほどメルクにはとてつもない危険が伴う。
そしてその護衛を務めるカリュとサリュも一筋縄じゃいかないだろうし、何より体調の悪いメルクをあそこまで歩かせるのは他の何よりも怖い。
サリュ「……メルク様のご判断におまかせ致します。」
カリュ「……右に同じくであります。」
フレン「サリュ!カリュ!」
一応上司でもあるフレンが彼らを止めようとする。
護るべき護衛対象を危険に晒す気か。
そういう意味でフレンは彼らを咎めたのだ。
サリュ「どちらにせよ、素材をとってこなければメルク様はお辛いままです。」
カリュ「私たちが今まで一番メルク様の近くにいて身に染みております。ですから、メルク様のお体を早く元に戻して差し上げたいのです…!」
『!! 二人とも…。』
二人の決意は本物だった。
その証拠に、彼らの瞳からは嘘が見られない。
手にした武器を強く握り、真っ直ぐとメルクへと注ぐ眼差しは真剣そのものだった。
カロル「ボク達も行くよ!それなら大人数だし、大丈夫だと思うんだ!…えへへ、どうかな?皆。」
ユーリ「ナイスだ、カロル。俺も首領の意見に賛成だぜ?」
ジュディス「異論はないわね。」
リタ「アタシもよ。でも…お化けの布って…もしかしてなんだけど……」
『残念だけど……、第5界層の幽鬼の塔に行く事になりそうね?』
リタ「や、ややや、やってやろーじゃない……!!」
ユーリ「ガタガタ震えてるぞー?」
リタ「うるっさい!行くなら早く行くわよ!」
皆が行くと決める中、一人反対する者がいた。
それは城仕えの医師だった。
先程も言っていたが、その薬の調合は難易度がかなり高い。
材料や素材の難易度だけではない。
調合自体が難しいのだ。
失敗した時の失望感、喪失感、後悔……それらを考えれば適度に治療したり療養したりする今のやり方が現実的だ。
なのに、何故そんな難しい方を取ろうとするのか、医師には甚だ疑問であった。
ユーリ「そりゃあ、治る可能性があるならそっちに賭けた方が良いじゃねえか。そうだよな?お前ら。」
カロル「うん!ボクもそう思う!それにどうせ第5界層には行かなくちゃいけないんだし、ついでだよね?」
リタ「ま、まぁ?その調合はちょっと見てみたいし?」
ジュディス「素直じゃないわね。」
リタ「うっさいわよ…!あんた…!」
「どうしても行くのかね?辛い事になろうとも?」
『……治るのであれば、そして皆が着いて来て下さるのであれば私は……行きたい、と願うのです。』
「……分かりました。そこまで仰るならこれを。」
医師がメルクに手渡したものは、大量の薬だった。
咳止めやアレルギーの薬など風邪症状の効果を網羅している程の薬の種類の多さだった。
外へ出掛けるならこれくらい無いとやっていけない、と医師からの警告でもあるのだろう。
でも、もう後には引けないから。
その薬を貰って笑顔で頷くと、医師も諦めた様子で困ったように笑った。
ユーリ「まずは俺らだけで聖なる角を取ってくるから、メルクはここで留守番だな。」
カロル「久々に行くよね、あそこ。」
エステル「メルクの分まで頑張ってきますね!」
リタ「あんたはとにかく死なないように過ごしなさいよ?死なれたら困るんだから。」
皆がそれぞれ言葉を交わしてくれる。
そして簡単に旅立ってしまった彼らの後ろ姿を見送り、医師が隣で溜息を吐いた。
「他にも材料がありましたね。何だったかは思い出せませんが…、それが一番厄介だった気がします。」
『……??私は覚えてないですね。』
「うーん、後で調べておきますね」
サリュとカリュも医師を見送り、三人で顔を見合わせる。
後の材料とはなんだったのだろうか?
調べてくれるとは聞いたものの、自分のことでもあるし気になってしまう。
二人には調べ物をすると言い立ち上がろうとしたのだが、自分達も手伝うと言ってくれるので素直に感謝し図書室へと向かった。