第4界層 〜進退両難なる黒雨の湿原〜
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___帝都ザーフィアス城内、フレンの自室
フレンは帝都に帰還した途端、自室へと向かう。
そしてその凄惨な状況に息を呑んだ。
鍵という鍵は壊され、資料が地面に散らばっている。
そして何より、大事な〝神子〟や名簿の資料が燃やし尽くされていた。
盗られるよりも厄介な状況にフレンは拳を握った。
恐らくギルドの人間が忍び込んだのだろう。
近くに居た兵士に詳細を聞くことにしたフレンは、この状況に一番詳しそうな人物を呼び出した。
__あの事件現場にいて、現場を目撃した兵士だ。
フレン「詳しく聞かせてもらえるか?」
「はい!自分は元々ここら辺一体の警備を任されているものでした。そこにフレン様の部屋の前を通り過ぎる際、不審な音を聞いたので中に入らせていただきました」
フレン「不審な音…?」
「何かが燃えるような音や、足音といったところですね。とても小さな音だったので大した音ではなかったのですが留守中のはずの騎士団長の部屋から物音がし、不審に思った次第であります。」
フレン「……続けてくれ。」
「はい!自分はその後中に入ると、兵士の格好をしたものがそこにある窓を割り、外へと逃げるのを目撃しました。」
フレン「兵士の格好だと…?という事は身内の犯行という事か?」
「いえ、それが…分からない状態でして。」
フレン「どういうことだ?」
「すべての兵士を調べましたが、その事件当時サボってるものは居なかったのです。」
フレン「という事は…何者かが兵士の格好に化けていたということか…。これは厄介だな…。」
城の警備を見直さなくてはならなくなった。
ここは王族もいれば、保護対象であるココやロロ、そしてメルクさんが居るのだ。
ただの兵士になりすまし、彼女たちを拐かそうものなら簡単に連れ出せてしまうだろう。
フレン「…ココとロロの様子は?」
「あの子たちなら騎士の面々と剣の稽古に励んでいますよ。とても熱心に聞いていてたくましいですね。メルクさんを守るんだとずっと意気込んでいましたよ。」
フレン「…そうか。」
少し気を楽にした兵士もココやロロのことを思い出したのか朗らかに笑った。
それにフレンも笑顔になれば、兵士は慌てて顔を引き締めなおした。
フレン「警備体制を見直す。後で兵士長を呼んでおいてくれ。」
「はっ!」
敬礼し、その場を去る兵士を見送った後、改めて見た部屋の中の惨状に溜息を零す。
警備の問題もあるためこうしてはいられないが、ともかく先に自室を片付けようと掃除を始めるフレンだった。
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___一方その頃、ユーリ達一行。
メルクの状態は悪く、暫くは動かせない状態にあったため帝都への帰還を先延ばしにしていた。
ユーリ達はもちろん、ベンや他の面々も甲斐甲斐しく世話をする中、メルクは一向に目覚める気配がなかった。
「……。(まずいな。クレイマンという殺人鬼が居る中、こうして足止めを食らうのは宜しくない…。だが、こいつが目を覚まさない限りは何も行動に移せないし…どうしたものか。)」
ベンは少女の前で思い悩んでいた。
先日メルク達が帰ってくる前にクレイマンという〝神子〟を壊すと断言した殺人鬼が居る事を知った。
まだこの少女が〝神子〟だと知られたわけではないが、とある噂は流れている。
〝神子という人を探す男がいる〟
〝神子は悪人ギルドに捕らえられている〟
など、何処から嗅ぎ付けたのか分からないが、色々な噂が飛び交っていた。
クレイマンが先に今の自分たちの隠れ家を探し当て偽物の〝神子〟を殺るのが先か、それともこの少女が起きて界層踏破を目指すのが先か…。
正直分からないことだらけだ。
そんな中、目の前の少女が目を覚ました。
『う、ん…』
「…起きたか?」
ゆっくりと目を開けた少女は弱々しく笑顔でこちらを見た。
しかし明らかに体調が悪そうだ。
「相変わらず体調が悪そうだな。」
『申し訳、ありません…』
「仕方あるまい。雨の中野ざらしにされていたらそりゃ風邪も引くさ。」
ある程度の事はユーリ達から聞いていた。
まさか、あのカエルの魔物がそんなことをするとは思わず、ユーリ達から聞いた時には自分の耳を疑ったものだが。
「取り敢えず体調を直せ。話はそれからだ。」
『はい…。』
ヴィスキントの優しさに甘える事にしたメルクはまたゆっくりと目を閉じた。
静寂が訪れるも、2人にはそれが苦ではなかった。
そんな中、カロルが休憩所へと入ってきて二人の間に入った。
カロル「あ!ベンもお見舞い?」
「ま、そんな所だな。」
ベンの調子に戻し、会話を始める2人。
それは他愛ない話で、カロルがベンを慕っているのが分かるくらいカロルの声は何処までも明るかった。
逆に懐かれてるとは思っていないベンは、他愛ない話に付き合いながら今後の事を抜かりなく考えていた。
少女が起きたのだから、今度は第5界層へ向かう様に伝えるか、それとも一旦攫ってしまうか、迷っているのだ。
「坊主たちは次はいつ第5界層に挑戦するつもりなんだ?」
カロル「あ…その事なんだけど、元々ボク達が〈
「なんだ、もう来ないつもりか?寂しいなぁ。」
カロル「極力会いに来るよ!でも今の所は不明かな…?」
「(という事はこいつらにこれ以上付き合う必要も無いということか…。ここら辺で引き上げた方が良さそうだ。)そうか、ま、また待ってるぜ!」
カロル「うん!」
ユーリ「その必要はねぇぞ。カロル先生?」
休憩所の扉から現れたのはユーリだった。
ニヤリと笑いながら来る彼は一瞬ベンを見て目を細めたが、何も言わずにカロルへと視線を向ける。
カロル「ユーリ、どういうこと?」
ユーリ「どうせ、第5界層にも挑戦するってことだよ。フレンから手紙が届いたんだ。メルクが良くなって少し落ち着いたら、メルクも連れて第5界層へ行きたい、だとよ。どうするんだ?カロル先生?」
カロル「そんなの、メルクが良かったら!」
嬉しそうに話すカロルとは反対にベンはまた迷っていたが、直ぐに笑顔でカロルへと視線を向けた。
「良かったな!坊主!じゃあ、また待ってるぜ?」
カロル「うん!早くメルクが良くなる事、祈っててよ!」
「おう、勿論だ!」
拳を交わす2人。
仲が良いとはこの事だろう。
それくらい他の人から見たら親子みたいに仲が良かった。
ユーリがそれを見て肩を使い、大きく息を吐いて感嘆する。
何ともここまでボスを手懐けたものだ、と。
ユーリ「(こいつ…この間といい……何か怪しいんだよな…。目を離すとすぐメルクの所に来てるし…)」
何だかんだカロルとも意気投合しているが、ユーリとしては気の抜けない相手だった。
大体、あんな大きな門を管理するなんておかしいと思うのだが…。
ユーリ「(また調べといてもらうか…)」
カロル「ユーリ。フレンからの手紙って他に何か書いてなかったの?」
ユーリ「あぁ。後は何にもな。メルクの心配してたくらいだ。」
カロル「そっか…。分かった。向こうも大変なんだね。」
ユーリ「まぁ、コソ泥が入った所為で城の警備体制は見直しらしいしな。」
チラっとベンを見るユーリだが、ニカッとしていて何を考えているか想像が付きにくい。
カロルがその話を聞いて驚いた顔をしたのに対して、ベンは何を考えているのか笑顔を止めなかった。
「(やはり警備体制の見直しか…。また今度様子を見に行くとするか。)」
カロル「大丈夫なの、それ?!城にコソ泥なんて…。」
ユーリ「大したもんは盗られなかったらしい。だから良かったのかもしれねえがな。」
「良かったな!何にも盗られてなくて!」
ユーリ「??(何でこいつ、そんな事知ってる?確かに何も盗まれちゃいねえが…。)」
カロル「ホントだよね!何にも盗られてないならそれに越したことはないよね!」
カロルはベンが言ったことを鵜呑みにしてるのか、奴に相槌を打っていた。
確かに違和感がある会話だったのに。
ユーリ「ともかく、メルクの目が覚め次第、帝都に移動だな。ここだと完全な警備は出来ないから早めに来いってよ。」
カロル「逆にユーリ背負っていきなよ。そっちの方が安全じゃない?」
ユーリ「医者から止められてるだろ?」
「完全な警備って…、何かに狙われてるのかお前さんたち。」
カロル「ボクらっていうか、メルクなんだけどね。黒い人から狙われてるんだよ。」
「黒い人…?(やっぱりまだ警戒を解いてはないか…。面倒だな…。)」
一瞬考える仕草をしたベンは、ユーリ達に提案することにした。
断られてもまぁ、いいだろう。
「お前さんたちが帝都に戻る間、こっちで警備を強化してやろうか?それくらいなら俺達もしてやれるぜ?」
カロル「え?!本当に?!」
ユーリ「いや、それはいい。俺達もメルクの目が覚めるまでいるつもりだしな。」
カロル「ユーリ。今だけでも頼んだ方が良いんじゃない?少しでもメルクが安全なら…」
ユーリ「まぁ、そうだけどな。騎士団の面子もあるし、大丈夫だろ。」
まぁ、断られるとは思っていた。
何だかこの男、俺の事を怪しんでる素振りがあるからな。
「まぁ、早く目を覚ますのが一番だがよ?分かった、このままでいいなら俺はそれに従うぜ?」
カロル「ありがとう!ベン!」
「坊主たちの頼み事だからな。なんでも言ってくれ!」
うんと頷いたカロルに合わせてユーリは視線を逸らしていた。
ユーリ「(信用ならねえ奴にメルクの面倒を見させる訳にはいかねえ。早いところ目を覚ましてくれたらそれでいいんだが…)」
その後メルクの見舞いに来た仲間たちを見て、ベンが仕事に戻ると言って戻って行く。
それをユーリがじっと見ていた事にもベンは気付いていた。
ベンが去っていった後、ユーリはレイヴンに近付き、ベンの事で調べて欲しい事がある為、耳打ちする。
ユーリ「……ちょっと力を貸してくんねーか?」
レイヴン「なになに?青年がおっさんに頼み事なんて珍しいじゃない?」
ユーリ「あいつ…、ベンの事について調べて欲しいんだが、いけるか?」
レイヴン「あー、そいつね…?もしかして、恋敵を消しておきたいってや──」
ユーリ「あー、手が滑ったわー。」
レイヴン「いった!!ちょっと!青年!図星だからってエルボー決めることないじゃない!?」
ユーリ「だーれが図星だっつったんだよ?」
レイヴン「へー、違うの?」
こんなに賑やかにしててもレイヴンの事だからと、仲間たちはまた話し出す。
そして2人はまた小声で話し始めた。
ユーリ「なんつーかな…。あいつ、怪しいんだよな。裏の顔があるっつーか…」
レイヴン「裏の顔?青年それを見たわけ?」
ユーリ「まぁな。話し方が俺らとメルクとでは全然違ってたな。」
レイヴン「メルクちゃんの前では安心して素を出すとかじゃあ…ねえよな?青年が言うくらいだから何かあるんだろうしなぁ…。りょーかい、ちと調べてくるわ。」
ユーリ「あぁ、悪いな。」
レイヴン「おっさんに任せておきなさいって。」
それに頷いたレイヴンはそっと仲間たちの元を抜けて情報を集めに行く。
それを静かに見送ったユーリは未だに話に花が咲いている仲間たちを見て、腰に手を当てて僅かに笑ったのだった。