第4界層 〜進退両難なる黒雨の湿原〜
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___帝都ザーフィアス城内、フレンの自室
騎士団長には城内にそれぞれ自室が与えられる。
なので騎士団長となったフレンにも例外なく、自室が与えられていた。
その自室には何故か一人の兵士が居た。
「……ここか。奴の自室は。」
そう、ヴィスキントだ。
ユーリ達が第4界層へ挑戦中、兵士の姿でフレンの自室へと侵入したのだ。
ヴィスキント独自の調べでは、ここにはかなり重要な書類などが置かれている。
侵入者対策でそれぞれの引き出しなどには鍵がかけられているが、ヴィスキントにそんな問題は微々たるものだった。
鍵を壊し次々と書類を漁っていくヴィスキント。
目的の書類はギルドに関してのもの、そして〈
ユーリという男が言い放った”ヴィスキント”という自分の本当の名前、そして騎士どもが〝神子〟の存在を知ってる理由。
それが気になっていたヴィスキントは遂に行動に出たのだった。
ガサガサ
目的のものではない要らない資料は床に次々と捨てていく。
引き出しを開け、資料を見て棄てていく行為を繰り返すこと約数十分。
漸く目的の資料を手に入れた。
それはギルドの名簿とギルドにあるはずの〈
よく精巧に出来ているが、写しだと分かるとヴィスキントは内容を記憶し、遠慮なくその資料たちを燃やしていった。
次々と燃えていく資料を見ながらまだまだ奴らの情報を貪欲に集めていくヴィスキント。
しかし、これでようやく分かった。
奴らが何故”ヴィスキント”という名前を知っていたのか、そして〈
誰かがギルドから資料を持ち出したか、それともその場で写されたかだ。
「名簿を写されていたとは、な……。これは大きな失態だな。」
〝神子〟のことも奴らが〝神子〟という名前を知っているだけに過ぎず、〝神子〟が一体どんな物かまでは把握できていないはず。
いや、〈
自分たちのギルドにとって厄介な敵と言えるだろう。
「……騎士団壊滅は無理だろうが、せめてあの騎士団長の小僧だけでも無力化できれば…或いは。」
当分の目的は〝神子〟である少女の界層踏破だ。
あれが踏破して行かなければ、あいつの夢を叶えることなど不可能だ。
何故なら〝神子〟と共に界層踏破しなければ願いは叶えられないからだ。
〈
だから変に気を起こす必要はないが、これ以上何かの手がかりを掴まれても困る。
それに気がかりなことは他にもある。
それはあの少女がまさか恋慕という面倒なものを芽生えさせてしまったことだ。
「……はぁ。恋は盲目というが、果たして…。」
奴らに付いていくのが正しいのか、判断に決めかねる。
一旦少女と詳しく話を聞かなければならないだろう。
面倒だとばかりに頭をわしゃわしゃと掻き乱すヴィスキントだったが、その体を硬直させる。
一瞬だが、何か物音がしたからだ。
「おい、誰かいるのか?」
扉向こうから兵士の声が聞こえてくる。
舌打ちをしたヴィスキントは全ての資料を燃やしたのを確認した後、窓を割り、そこから脱出する。
その姿を中に入ってきた兵士が見ており、慌てて窓の外を確認したが、もう既にそこにヴィスキントの姿はなかった。
「こ、これは…!」
兵士が部屋中を見渡すとフレン騎士団長の自室は荒らされた跡があり、それに紙が燃え尽きた跡や鍵が壊された跡もある。
明らかに空き巣だった。
それも自分と同じ兵士がまさか空き巣をするなんて、と顔を青くさせその兵士は慌てて上司に相談し、そのまま城内は混沌とする。
現場検証や、脱出経路の捜索など多くの兵士や騎士を総動員させ、事態を把握しようと努めたがヴィスキントが優秀過ぎたのだ。
捜査したが、結局何一つ分からなかった。
誰がやったのか、どの兵士か。何のために騎士団長の部屋に空き巣に入ったのか。
その全てが謎に包まれていた。
兵士の何人かがフレン騎士団長に報告しようと〈
そしてフレン騎士団長へと先程の旨を伝えれば、顔を険しくされた。
兵士一行は騎士団長と共に帝都へと帰還していったのだった。
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ヴィスキントは兵士の姿からベンの格好に着替え、〈
「すまない」と謝った後そのまま〈
……面倒極まりない。
「おお、こっちこそすまねえな!大丈夫か兄ちゃん。どっか怪我しなかったか?」
「いえ、大丈夫です。こちらこそすみませんでした。」
「礼儀正しい兄ちゃんだな!俺の名前はクレイマンって言うんだ。兄ちゃんは?」
「…ベンです。」
「おお!いい名前じゃねえか!どうだ?この後飲みに行かないか?」
「すみません、これから仕事なもので…。」
「そっか、そりゃ仕方ねえな。悪かったな、引き留めて。」
「いえ、ではこれで。」
「ああ、ちょっと待ってくれ、ベン!」
「?」
「兄ちゃん、〝神子〟って聞いたことないか?」
「(っ?!何故こいつが神子のことを…?)いや、ないですが…それは名前かなんかですか?」
ヴィスキントが男…クレイマンの顔をじっと見る。
その顔は端正な顔立ちをしているといえるだろう。
まだ若そうだが、もしかしたら自分と同じくらいの歳かも知れない。
身長も高く、自分も高い方だと自負しているがそれ以上だ。
また、腰についている銃が何より物騒だ。
陽気な性格の男がこんな物騒なものを持って、しかも〝神子〟を探しているなど怪しいことこの上ない。
これも仕事だと自分に言い聞かせ、男に向き直ることにした。
「いやぁ、実はそいつを殺したくて殺したくて仕方ねえんだ。」
「!! それはまた物騒ですね…。何かされたんですか?」
「あぁ…。〝神子〟のせいで俺は家族を失った。…いや、全てを失ったって言えるな。」
「(どういうことだ…?あの少女が人を殺せるとは思えない…。)それは…なんとも…。」
「あぁ、だからこの世界に来たんだ。この世界を救うためにな!」
ニカッと笑う男に邪心はなさそうだ。
よく言えば純粋で無垢、悪く言えば馬鹿。
そうヴィスキントは感じた。
「(この世界に来た…?何のことを言っている?)……この世界って…、まるで別の世界から来たような言い方ですね?」
「あぁ。俺のいた世界は〝神子〟によって壊されたからな。もう無いんだ。」
「!!」
次々と爆弾発言が飛び交い、ヴィスキントの頭は混乱状態だった。
だがしかしここで色々と聞き出しておきたいヴィスキントは、クレイマンと酒を飲み交わすことにした。
こういう手合は酒を飲めばベラベラと話し出す。
そこに付け込んで色々と聞き出せばいい。
以前少女が言っていた〝神子〟を殺そうという敵。
漸く掴んだ手がかりをみすみす逃すつもりはないと内心決意を漲らせ、笑顔で男を見た。
「込み入った話になりそうですし、やっぱり酒でも飲みに行きましょうか。奢りますよ?」
「お!いいのか!じゃあ、行こうぜ!」
ヴィスキントの肩に手を回し、もう片方の腕を上げ嬉しそうにするクレイマン。
吐きそうになった溜息を堪え、ヴィスキントは〈
◇・.。*†*。.・◇・.。*†*。.・◇・.。*†*。.・◇・.。*†*。.・◇・.。*†*。.・◇
「実は俺はな__」
「(こいつ…素面の状態でよく話してくるな…)」
酒場に移動したヴィスキント達だったが、クレイマンは何と飲む前から話し始めたのだ。
それにから笑いをしかけて、真面目な顔に戻るヴィスキント。
「俺のいた世界は〝神子〟は崇められていた存在でな?それはそれは過保護に育てられていたもんよ。」
漸く一口酒を飲み始めるクレイマンに相槌を打ちながら、食事をとるヴィスキント。
何だか良く分からないが早く話の核心を突いてほしい、と心の底から願った。
「〝神子〟っていうのは人々の願いのための生贄みたいなもんさ。願いを叶えるためには〝神子〟自体が犠牲にならなくちゃならねえ。つまり死ぬっつーことだよ。」
「!!」
なるほど。
その身で生贄とし、願いを叶えるのか。
余計に少女を不憫に思ったヴィスキントだったが、慌てて思い直す。
こいつが本当のことを言ってるかはまだこれから見極めないといけないのだから。
「代々〝神子〟っつーのは鍵を持って生まれるらしい。だからその鍵が〝神子〟っつー証拠なんだが、俺たちが生きていた時代は〝神子〟が生まれなくてな。町や村の人間は無理やり若い娘を〝神子〟に仕立て上げ、生贄としたんだ。」
「鍵…ですか?」
「あぁ、何でもクリスタルで出来ている綺麗な鍵らしいんだ。俺は本物を見たことがねえけど、見たことある奴からそう聞いたんだ。」
今度少女に聞いてみるとするか、と考えているとクレイマンが再び話始める。
「その偽物の〝神子〟は意味もなく殺され、それでも願いが叶えられないと分かると村の奴らは次々と若い娘だけを標的にして生贄にしていったんだ。そして、事件は起きたんだ。」
「……。」
「別に鍵を持って生まれてるわけじゃねえ、普通の村娘の〝神子〟が誕生したんだよ。七色に輝く妖精の羽を背中に背負ってな…。」
「! それで、その方は…」
「勿論願いのために生贄にされたさ。だがその〝神子〟は他の〝神子〟とは何もかもが違ったんだ。いわゆる、怨念って奴だろうな?今まで殺されてきた村娘たちの怨念が〝神子〟に結びついちまったんだ。異形のものと化した〝神子〟は人間に絶望し、世界の破壊を望んでしまった。そして俺のいた世界は亡くなっちまったって訳よ。」
「…一つ、聞いても?」
「ん?なんだ?」
「貴方は何故生き残れたのですか?世界が無くなるという事は貴方自身もどうにかなってしまってもおかしくはないのに…。」
「あー、その事か…。俺はな、何でか知らねえが世界を行き来できる力を持っちまったんだよ。だからこうして世界を跨いで〝神子〟を殺すっつー仕事をしてるわけよ。」
さっきの話を聞いていれば因果応報だとは思うが、何故この男は〝神子〟を殺したがる?
「俺の手で…俺の腕の中で〝神子〟を殺す。それが俺の生き甲斐よ。」
「世界を救うと仰ってましたが、〝神子〟は必ず破壊を求めるものなのですか?」
「いや、〝神子〟全員がそういうわけじゃねえ。だが、最終的には俺の世界みたいになっちまうんだ。もうそんな世界ごまんと見てきた。結局人間の欲望で〝神子〟は死んじまうんだ。だったら他人のためじゃなく自分のために死んでほしい。俺ぁそう思ってる。だから説得したうえで俺の腕の中で”壊す”のさ。この相棒の銃でな。」
特殊な言い方をするな、こいつ。
〝神子〟を”壊す”……ね?
「貴方は自分の欲望のために〝神子〟を殺したいのですか? 貴方のいた世界を亡くした〝神子〟が憎い、とか?」
「まぁ、俺もあの世界では傍観者の立場だったからな、あの事件は。だからせめてもの罪滅ぼしだと思ってくれや。来世では幸せになってほしいもんよ。元々〝神子〟ってのは〝神子〟の前に普通の人間なんだ。あんなに若くして人間のことで絶望してほしくねえからな。」
「……。貴方は何人の〝神子〟を殺してきたんですか?」
「もう星の数ほどだ。どの世界にも〈
テンガロンハットを深く被る男は後悔に塗れた顔つきをしていた。
だが、そこには憎悪の感情もある気がして余計に不思議に思った。
やはりこの男は私利私欲のために〝神子〟を殺しているのではないか、と。
この男に恐らく嘘はつけまい。
だからその憎悪の感情を持て余しているのも、きっと何かわかっていないのだろう。
”復讐”だろうが、なんだろうが、こっちとしてはそんなものどうでもいい。
折角の〝神子〟を”壊されて”たまるか。
「……逆に願いたくはないのですか?〝神子〟が生まれないように、と。」
「あぁ、そいつは思ったさ。だが、それは不可能なんだよ。」
「何故?」
「兄ちゃん、世界樹って知ってるか?」
「?? いえ…。」
「〝神子〟っつーのは、世界樹っていうバカデカい木の化身である神ユグドラシルの力を授かった奴の事なんだよ。だから人ならざる妖精のような羽を持って生まれるんだ。持って生まれるという鍵は最終的に願いを叶えるための道具にしかねえけどな。」
大きな木を連想させるようなジェスチャーで話すクレイマン。
……話が脱線している気がするが、とりあえず頷いておく。
だが、鍵穴なんて今まで見つけたことも聞いたこともない。
「その鍵とやらはどのように使うものなんですか?あの〈
「〝神子〟の胸に刺すんだよ。なんつーかな…?その…〝神子〟自体が願いを叶えるための”門”だと思ってくれりゃいい。その”門”に鍵を刺すことで願いが叶えられるための”扉”が開くっつー感じだな。」
「ほう…。大変ですね、その〝神子〟とやらも」
「最終的に願いを叶えられる〝神子〟になるには辛い物を超えなくちゃならねえし、〝神子〟になった奴は生きていて良い事なんて一つもねえよ。」
「辛いもの…?」
「体に色々な異変が起きるんだとよ。例えば失明したりとか、感情を失ったりとからしいぜ?」
「!!」
先日、少女が視力が悪くなったことを思い出す。
結局視力は回復したが、そういう事だったのか。
「なんでも〈
「ふむ…。なるほど。…で、何故〝神子〟が生まれないようにという願いは不可能なんですか?」
「あぁ、そうだったな!忘れてたぜ!」
もうこいつは阿呆で決定だ。
「世界樹の化身であるユグドラシル自体を殺さねえと次々と〝神子〟っつーのは生まれてくるのさ。」
「神を殺すのですか?」
「そうだな。俺はそこまでやりきりてえけど、〝神子〟のことを考えると早く”壊して”やりたくてな…。疼くんだ、身体がな…。早く”壊さねえ”とってな?」
……狂気の沙汰だな。
もう人を殺すことに生きがいを感じている奴の言葉だ。
それに気付いていない分、余計に性質が悪い。
その証拠にクレイマンの顔は愉悦に歪んでおり、本人はそのことに気付いていない。
結局少女は誰の手に渡ろうが幸せになどなれない、という事か。
哀れに思いながら、少女のことに思いを馳せる。
今頃、第4界層のどこら辺にいるのだろうか。
「だから〝神子〟を見つけたら教えてくれよな?!俺がこの手で”壊して”やるからよ!」
「……見つけたら、ですよ。」
「おう!流石持つべきものは友だな!」
「(友じゃない…。)」
溜息をつきそうになるのを必死にこらえ、結局その日はクレイマンが酔いつぶれるまで一緒に居る羽目になったのだった。