第1界層 〜変幻自在なる翻弄の海〜
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___〈
それは誰もを魅了して、虜にしてやまない魅惑の大扉。
その近くに町が出来て、人が営みをするまでに栄えた。
〈
そんな中、凜々の明星もまた〈
「初めて来たが…こりゃ、すげえ賑わいだな。」
「〈
「何でそんなに詳しいんだ?カロル先生?」
足を止めずに町中を歩く仲間たち。
ユーリもまた歩きながらカロルの話に耳を傾けていた。
「だってさ!まさかボク達が挑むなんて思わなかったから色々と勉強して来たんだよ!」
そう言ってその体躯には大きい鞄の中から大量の本が出てくる。
その題名には〈
だが、勉強熱心なカロルの事だ。
前の旅のように知識を頭に詰め込んで挑みたかったのだろう事が伺える。
「ボクだって、一冒険者として知識だけは詰め込んで置かなくちゃ…!」
「流石カロル先生。頼りになるな。」
褒められて嬉しそうに頬をかくカロルにユーリも笑顔で応えた。
そして〈
「お前さん方!〈
人の良さそうな顔でこちらに手を振る男性にカロルがハッとした様に近寄る。
「もしかして、案内人さん?」
「おう。勉強はしてきたみたいだな?」
「えへへ……」
「案内人?」
リタが不思議そうに男性を見遣る。
それに自己紹介を名乗り出る男性。
「俺は〈
他のメンバーもそこに集まってくる。
フレンとエステルだけはちゃんとお辞儀をして礼儀正しくしていた。
「で?その案内人さんは何を案内してくれるんだ?」
「へへっ、ここは〈
ベンは仲間たちを一人一人見てウンウンと頷いた。
「良いメンバーだな!よし、じゃあ説明するぜ?」
〈
そこはあそこに見える海となんら変わらねぇ、大海原だ。
ただゲートに入るだけじゃ海に溺れて死ぬだけだ。
ここでは第1界層目に挑む勇者に船を提供してるって訳だ。
「ちなみにお前さんら、今〈
「へへっ!そこも勉強済みだよ!第4界層だよね?」
「おお!こいつはよく勉強したな!」
ガシガシと頭を撫でられ満更じゃなさそうな首領。
「待って。1回1回戻っては1界層目から始めないといけないわけ?」
「そこのお嬢ちゃんは勉強不足だったな。」
「別にいいじゃない。どうせ挑むんだから。」
「ははっ!威勢がいいのはいいが、命を落とすかもしれねえから知識は大事だぞー?」
「1界層毎に、高度な転移魔術が施されてるんだ。それに触ったものだけを記録する代物らしくて、1回戻ってもそこから始められるらしいんだ。」
カロルがリタを振り返り、説明する。
それにほかの仲間たちからも歓声が湧き上がる。
それに今度は鼻高々くしたものだからリタの逆鱗に触れたらしく、殴られていた。
「高度な転移魔術……。ますます中に入りたくなったわね…!」
「さすが魔術バカ……」
リタがカロルに向かって拳を振り上げるとカロルがユーリの後ろに避難した。
続きを説明してくれとベンに促すと、その続きをカロルの代わりに説明してくれる。
「話を戻すが、結局その転移魔術を見つけるまでがお前さんらの旅ってことだ。ち、な、み、に!1界層毎に帰ってくるのを俺はオススメするぜ!1回入れば転移魔術を見つけるまでは帰れねぇんだ。長い旅になるから疲労困憊だぞ?」
「フレンが行きたかったのは何界層?」
「僕が行きたかったのは第4界層だったんだ。これは……長くなりそうだね…。」
苦い顔になるフレンにエステルが横から励ましの言葉をかける。
「ちなみに、そこのボクは勉強してるから知ってると思うけど、界層毎に敵の強さが違うんだ。奥に行けば行くほど、強くなっていくよ。そして界層を奥へ奥へ進めば進むほど、また強くなっていくからな。だから転移魔術を見つけたら一度帰ってくるのがオススメなんだ。」
「なるほどね。」
リタが頷きながら納得する。
しかし一つ気になった点があった。
「ここで船を出してくれるんでしょ?そのお金はどこから出てるのよ?」
「あぁ、そのことか。慈善団体が寄付を募ってて船を作ってるんだ。俺もその慈善団体の一員という訳さ。」
「へぇ?そこまでして冒険者を行かせたいのね?」
「……本当は俺の友達が〈
「……別に、いけないって言ってる訳じゃないわよ。あんたの船が無かったらこちとら、〈
「はは!ありがとな!しかし丁度良かったな!今から船が出るからそれに乗るといいぜ!」
「え?!ほんと!?」
カロルが嬉々として叫ぶ。
「食料とかも積んであるからな!安心してくれ!では、良い航海の旅を!!」
手を挙げ、次の客の案内を始めるベン。
言われた場所へ向かうと、そこには意外にも大きな船がいて、それにパティが一番に喜んでいた。
「おっきな船なのじゃ!!」
「これくらい大きな船だとかなり金がかかるでしょうに……。それほどまでに、慈善団体も儲かってるってことね。……なんか、裏がありそうで怖いわね…」
パティの横でリタが不穏な言葉を口にしたが、カロルとパティはもうその話を聞いておらず、さっさと乗り込んでいた。
「皆!早く早く!!もうすぐで出るって!」
「早くするのじゃあ!!」
「はぁ、あいつらには疑うって言葉はないのかしら?」
「でも全てを疑ってたら何も出来ないわよ?私たちもいきましょ?」
そう言ってジュディスがリタの手を取り船の方へ向かう。
「え?ちょ、ちょっと?!」
「待ってください!私も行きます!」
リタ達の後を追いかけていくエステル。
男4人はそれを見て、やれやれと首を振った。
ともかく船が出るなら急がねばなるまい。
男達もその船に走って乗り込み、それを確認した操舵手が錨を上げる。
そして汽笛を鳴らすと〈
次の瞬間、ユーリ達は何だか違う空間に来たかのような錯覚を起こす。
しかし先程と変わらない様子の海だが……
「!!皆、後ろを見るのじゃ!!」
パティに言われるがまま後ろを振り返ると、先程まであったはずの〈
本当にここは異次元の空間なのだ、とそれだけで認識させられた。
「むふふ♩やっぱり船の上はいいのじゃ!」
「くぅーん……」
ラピードが水を苦手とする事は仲間なら全員が知っている事だった。
怖がる素振りを見せるラピードにパティがよしよしとその体を触りまくる。
若干嫌そうな顔をしたものの船から落とされるわけでもないので大人しくしているラピード。
「つーか、これってどれくらいの旅になるんだ?」
「第1界層目〈翻弄の海〉は他の人の記録だと一週間くらいらしいんだ。」
「ということは……この船に乗るのは全員仲間という事じゃな!!」
そう言って仲間たちが船の上にいるメンバーを見渡す。
パティのその言葉を聞いていたのか、白衣を着た一人の女性がパティへと近付く。
『ふふ、初めまして。私、メルクと申します。仲間と言って貰えてとても嬉しいわ?』
柔和な印象の女性で、白衣を着て……医師だろうか?
「ウチはパティなのじゃ!よろしくなのじゃ!メルク!」
『ふふ、よろしくね?パティちゃん。』
頭を優しく撫でる様を見れば、何故こんな優しそうな女性がこんな危険な場所に来ないと行けなかったのかが気になる。
その疑問をずっと燻ってる訳でもない性格のリタが口を開きかけたが、それよりも先にレイヴンがメルクの手を取り、男前な声で話しかけていた。
「綺麗なお嬢さん…!自分はレイヴンと言います!以後お見知り置きを……」
『あらあら、まぁ…!素敵な紹介、ありがとうございます。』
ゆっくりと優しく話す様はパティの様な子供だけでなく、誰に対しても同じらしく、メルクがこんなおっさん相手にも同じく対応していたことに全員が驚いた。
その上、メルクという女性がその手を優しく取って握ったのだから、初めての反応にレイヴンも息を呑んだ。
「おっさん、その辺にしとけよ。」
「……」
「おい、おっさん。」
固まって動かなくなったレイヴンにユーリ達がやれやれと首を動かした。
「俺はユーリだ。」
「私、エステルといいます!」
「僕はフレン・シーフォ。騎士団所属です。」
「ぼ、ボクは!カロルだよ!」
「ふふ、私はジュディスよ。よろしくね?メルク。」
「あたしはリタ・モルディオよ。名前くらいは聞いたことあんでしょ?」
「後、こいつはラピードな?」
「ワフッ!」
『あらあらまぁ…!皆さん素敵な名前をお持ちなんですね。』
「「「「「「「//////」」」」」」」
メルクのその優しさに当てられ皆が一様に照れる。
ゆっくりとレイヴンの手を外し、メルクはその場でお辞儀をした。
『改めまして…、メルク・アルストロメリアと申します。どうぞよしなに。』
ハッとしたレイヴンがメルクを見て、素直に疑問を口にした。
「何故…貴女の様な方が、この危険な場所へと来ることに…?」
『私、こう見えて薬剤師と植物研究学をしていまして……。未知なる植物や薬になる素材を求めて〈
「植物研究学…?ということはお城付きの学者さんです?」
エステルが不思議そうにメルクへと尋ねる。
しかしメルクはその場で首を振り、正直に答える。
『いえ、私ギルド所属なんです。』
「「え?!!」」
レイヴンとカロルが衝撃を受けたように声を上げる。
そして、考え込む2人。
……どこのギルドに植物研究学を専攻していたところがあっただろう?
脳の引き出しという引き出しを開けるが、一向に答えは出てきそうにない。
レイヴンは恐る恐る聞き直す事にした。
「えっと……失礼じゃなければ、ギルド名は……?」
『〈
「〈
「……聞いたことがある…。本人の目の前では言いづらいが……確か、弱小変人ギルドとか…。」
「「「「え?!」」」」
一気に視線はメルクに向けられる。
こんな優しそうな人がそんな変人の集まりにいるとは考えづらい。
何故そんな所に?
『ギルドの理念や活動目的は〝個々に任せる〟なんです。色々な訳アリの人の寄せ集めみたいなものですから、そのような噂が広まったのだと思います。』
特に気にした様子もなく、ふふふ、と笑うメルクに全員安堵の表情を見せた。
『私の研究費も、薬代も……全部ギルドが支払ってくれているのですよ?ですから今回の〈
遠い目をしたメルクに心撃たれない者などいないだろう。
そんな純粋な理由で挑戦するのを応援しないのもおかしい。
皆がメルクに声を掛け、自分たちも手伝うと言ってくれ、やさしさの輪が出来たようだった。
「……。」
ただ1人を除いて。
「?? おっさん、どうかしたのか?」
「……いんーや?何でもないよー?」
レイヴンは少しだけその名に聞き覚えがあった。
少し前、それこそ〈天を射る矢〉のレイヴンとしてドンの元にいた頃、ギルドのことを調べ回ったことがある。
その時にユニオンに入っていないギルドも調べていた。
〈
これは帰ってから調べなければならないな、と一人気付かれないように溜息を吐き、肩を回した。
__事実、メルクは真実を隠したまま話したのだから。どこかで綻びがあってもおかしくはないのだ。
「んで?他の奴らは?」
「「「…………」」」
後は男性ばかりだが、こちらを煙たそうに見ているだけで自己紹介などやってくれなさそうだ。
ユーリ達が視線を向けると、視線を逸らせ船の中に入っていってしまった。
「……前途多難だな。」
「まぁ、全員が全員。他人に心を許せる訳ではなかろうて。」
パティがユーリへとそう告げる。
すると、メルクまで中に入ろうとするので、カロルやエステルがそれを止めていた。
『食材の確認をしなければなりませんから、行ってきますね?これから、皆さんの人数と食事量の計算は大事になってきますし、ここはお任せください』
そうやんわりと言うと先程男性らが中に入って言った場所と同じ所へと向かっていった。
カロルやリタ、エステルにパティは心配なのかメルクの後を追いかけて行った。
「……で?おっさんは何が気掛かりなんだ?」
「なーんのことー?おっさん、いつもこんな感じだろ?」
キメ顔で言われたが、残った者が皆疑わしげな顔をしていた為、仕方なく白状することにした。
「実は……さっき言ってた〈
「……じゃあ、メルクさんは疑わしい相手、という事ですか?」
フレンが船内をチラリと見遣る。
この会話が聞かれていてはマズイと思ったからだ。
「俺様もそこまでじゃねぇと思いてぇが、ふと過ぎってなぁ…?あのカロル君が名前を聞いたことがないくらいの弱小チームなのに、メルクちゃんの研究費を全部出してくれてるなんておかしな話だと思わねぇか?」
「火のないところに煙は立たない、か…。」
「ここから帰ったらちょっくら調べよっかねーって思ってただけだからさ。他の奴らには黙っといてくれや。」
頭の後ろで手を組み、のらりくらりとするレイヴンに皆が大きく頷いた。
生憎、残った面子は口が固い。
大丈夫だろう。
「さーて、おっさん達も中の食材を確認しますか!別に居た男達は信用ならねえみてえだし。」
「それもそうだな。」
一度話をやめて、ユーリ達も中へと入った。
それが、これから来る悲劇の訪れだとは誰も知らないまま。