第3界層 〜窮猿投林の流転の森〜
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___帝都ザーフィアス城内、訓練場
エステルがメルクの手を引っ張り、連れてきた場所はメルクやカロルにとっては昨日散々な目に遭った場所だった。
そこには昨日居たあのヤバい指揮監督はおらず、フレンとユーリが2人で打ち合いして稽古しているだけだった。
エステル達はその近くの茂みに隠れ、それを見ていた。
エステル「良いですか…?メルク。ユーリのカッコイイ所は沢山あるんですよ…!」
ヒソヒソと話すエステルに合わせてメルクも静かに頷いた。
そのまた隣ではリタが呆れた顔でエステルを見ていた。
幾らこうやっても当の本人が気がないのだから無理だろうに。
それでも気になってしまってここに来たのは否めないので黙っているが…。
『ユーリは独特な剣の使い方よね。』
エステル「自己流なんだそうです。」
メルク達は暫くその稽古を見ていた。
光る汗、激しく動いている事で荒く吐き出される息、剣同士が撃ち合い鳴り響く金属音……。
「「『……』」」
リタはただ一人思ったことがある。
我々は何を見せられているのだろう、と。
隣を見ればエステルに倣い、真剣に見るメルク。
その顔は一体何を考えているのか……。
リタ「(たったこれだけで、急に好きになるなんて事ある訳__)」
その時、メルクの頬が徐々に赤くなっていくのをリタは確実に見た。
そしてその顔は、昨日宝物を見て幸せそうにしていたそんな顔だ。
リタ「(え?まじで?嘘でしょ?)」
目を疑う様な光景にリタは己の心を鎮めようとしていた。
だって、まさかそんな……あんな光景だけで恋が始まるものなのか?
エステルの行動がまさか、二人を変えるなんて誰が思う?
リタ「(いやいやいやいや……。有り得ないわよ…。今日は太陽がいやに差し込んできて暑いからよ。)」
それでもとチラリと見てみるが、赤みがかった顔は変わらない。
それを見てしまえば、もう確信するしかない。
ユーリ「今日はこの辺にしておこうぜ。」
フレン「ふぅ…、そうだな……。」
お互いが剣を仕舞うと、一息つき呼吸を整える。
そこからは雑談やらお互いの先程の反省点を言いあったりと、話題に尽きないようだった。
フレン「ところで、ユーリ。彼女とはどうなんだ?」
「「!!」」
エステル「(来ましたっ!)」
リタ「(あー。やっぱり男同士でもこの手の話題ってするんだ……)」
ユーリ「どうって…、どうもしてねえよ。」
フレン「ふっ、そうか。てっきり君の事だからもう裏で何かしてるのかと思ってたが、意外と奥手なんだな。」
ユーリ「なんだよ、そりゃ。別に何にもねえよ。」
フレン「君の様子からして何にもないとは、僕は思えないけどね。」
ユーリ「言ってろ…」
フレン「ユーリ。本当に彼女の事、よろしく頼むよ。」
ユーリ「何でお前にそんなこと言われなきゃならねえんだよ。」
フレン「君も気付いてるだろう?彼女の危うさを。」
フレンがユーリを説得するように肩に手を置く。
それを跳ね除けることはせず、違う場所へと視線を逸らせるユーリも分かってはいるがその表情は素知らぬ顔をしていた。
『……』
エステル「(フレンったら、脱線してます!)」
リタ「(これ、聞かせていいやつなの?)」
ユーリ「まぁ、な…。」
フレン「彼女はきっとギルドの事でとても悩んでる。それこそ、自己犠牲の気があるから心配なんだ。その上彼女は優しすぎる……だからこそいつか、その身を滅ぼさないか、ね…。」
ユーリ「ま、それについては本人次第だからな。」
フレン「ユーリ!」
ユーリ「分かってるって。…………充分すぎるくらいな。」
フレン「……。」
苦い顔になるユーリにフレンも黙る。
ユーリ「この間、少し話をした。けどな?深入りするとあいつ、こう言ったんだ。“明日にでも第3界層へ行く”って」
フレン「?? それはまた、何故だ…?もう第3界層は踏破しているから行く必要は無い筈だ。」
ユーリ「……。“あそこに閉じこもっていれば誰も攫ってはくれないでしょう?”だってよ。」
フレン「っ!?やはり、彼女は……」
ユーリ「…どう考えても1人じゃ帰ってはこれねえよな。」
「「!!」」
ユーリのその言葉にエステルとリタが横にいるメルクをすぐに見る。
その顔はいつもの笑顔のままユーリ達を見ており、何を考えているかは分からない。
そんな事を考えていたなんて知らなかったエステル達は途端に悲しそうな顔をする。
エステルに至ってはメルクを優しく抱き締めた。
彼女の気持ちはエステルには痛い程よく分かっているからだ。
他の者を傷付けてしまった自分、それでもユーリ達が救ってくれたからここに居られる。
メルクとは境遇が違うかもしれない。
でも、それでもメルクにも生きて欲しい。
エステルはその気持ちになると、無意識に強くメルクを抱き締めていた。
フレン「……やはり、誰か1人は彼女に付いていてあげるべきだ。」
ユーリ「……いや、そっとしといてやってくれ。あいつは深入りされる事を嫌う傾向にあるからな。またいつああ言い出すか分からない。」
フレン「だが、それでは根本の解決にもならない。」
ユーリ「そんな事よりも、自分の心配しなくても良いのかよ?早いところ第4界層へ行かなくちゃならないんだろ?騎士団長サマ?」
フレン「まぁ、そうだが…。今の彼女を放っては置けない。」
ユーリ「連れていけばいいだろ?メルクの知識は今までで充分に役に立ってきたし、戦闘だってあいつが居たから何とかなってきた所はある。」
フレン「……そうだな。それの方が良さそうだ。明日にでも彼女へ聞いてみよう。」
ユーリ「そうしますかね…。」
ユーリ達が訓練場から離れるのをじっと待っていたメルク達は、姿が見えなくなった途端茂みから立ち上がった。
エステル「……メルク。」
『エステル、そんな顔をしないで?折角の顔が台無しだわ?』
エステル「メルクは…死なないですよね?」
『死ぬつもりなんて元々ないのだけれど…。ユーリの言い方が悪いわね?』
リタ「誇張したってこと?」
『あそこには植物が沢山あって研究のしがいがある、と伝えたはずなんだけどね?』
エステル「確かに…あの時のメルク楽しそうでした。」
リタ「でも火のないところに煙は立たないわよ?あの話も言ってはいたんじゃない?」
『ふふ、まぁそうね?思ったことを口にするのは私の悪い癖だわ?』
エステル「メルク。私はメルクに死んで欲しくありません。確かにギルドの事で悩んでるかもしれません…。それが……私では解決出来ない事も分かっています…。でも…!だからといって死ぬのは違いますっ!!」
必死なエステルの説得に僅かに困った顔で笑う。
本当に死ぬつもりはないのだけど…。あの方の願いを叶えるまでは。
『エステル。私本当に死ぬつもりはないの。だから安心して?だって、私には研究という大事な物があるから、ね?』
エステル「……。本当です?嘘だったら承知しませんよ?」
『カロルにも同じ事を言われたわね?そんなに私は信用ないかしら?』
リタ「自分の胸に聞いてみなさいよ。」
リタは何故メルクが恋愛とかそういった物に興味が無いのか分かった気がした。
端から死ぬつもりの人間なら確かに恋愛なんて興味ないだろう。
恋愛しても相手を苦しめるだけだ。
だからメルクは遠ざけていたのだろう。
……例え、ユーリが好きだという気持ちに蓋をしても。
リタ「(こりゃ大変な事になったわね…。あの戦闘狂であんな感じなら難しいわよ。)」
エステル「とにかく、明日フレンから〈
『はい。寧ろ望むところだわ?』
メルクの言葉にようやく頷いたエステルの後ろでは、疑念の目でメルクを見ているリタがいた。
エステル「……で、話は変わりますけどどうでした?!ユーリは!」
『?? ユーリだったわね?』
エステル「違いますよ!こう……胸が暖かくなるとか、顔が熱くなるとか…!」
リタ「はいはい。あんたはとにかく中に戻って仕事をしましょうねー」
エステル「え、え?!リタ!待ってください!まだ話聞いてないです!」
エステルを引っ張っていくリタだったが、一度その足を止めるとメルクを振り返った。
リタ「……あんたの術式を解析するまで、死ぬなんて赦さないから。分かったらちゃんと生きる覚悟決めときなさいよ?」
『あらあら?ふふ。』
言うだけ言って再びエステルを引き摺って城の中へと戻って行った二人を見送り、メルクは暫く訓練場に残っていた。
『(あの方の願いを……私は絶対に叶える…。そう、私はその為にここにいるのだから。)』
青空を見上げ、雲ひとつ無い快晴なのにメルクは大きく息を吐いた。