第3界層 〜窮猿投林の流転の森〜
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___帝都ザーフィアス城内、メルクに宛てられた部屋
メルクに宛てられた部屋の机の上にあるのは小さな宝箱に入れられた沢山の甘い宝石達。
何回も開けてはそのキラキラを見て、恍惚な溜息を吐き、ゆっくりと閉じる。
勿体なくて食べられない。
昨日、カロルと城の中の探検をした時に、宝の地図をカロルが発見し(落ちてきたのだが。)この宝物に辿り着いた。
誰がこれを仕組んだかなんて、直ぐに分かった。
__ユーリ・ローウェル。
彼しか居ないのだ。
だってメルクが、飴を好きだと知っているのは彼しか居ないのだから。
『本当、すごい方…』
机に頬杖つき、またしても恍惚の溜息を吐く。
あの人は私の嘘でさえ見破りそうになった。
恐ろしくも、不思議と一緒に居てとても居心地の良い人。
あの第1界層での船上の時もだ。
居心地が良いと感じたのは。
何故なんだろう、こんなにも感じた事なんて今までないのに。
あの方の前でさえ息を詰まらせて、良く見せる為にいつも頑張ってきて……。
……私、あの方の前で無理をしてるの?
そんなはずは無いのに。
あの方は私を助けて下さって、夢まで追わせてくれて…。
何も文句はないのに、何一つ不自由をしていないのに。
どうして……?
コンコン
『!!』
誰かが扉をノックする音がした。
慌てて宝箱を仕舞い、扉前へ移動する。
『はい、居ます。』
「……。」
『??』
扉を開けると、兵士さんが何も言わずに中へ入ってきて、驚いたが笑顔でそれを見遣れば、兵士さんはチラリとこちらを見て部屋の中を見渡した。
「何も変わった事はないか?」
『!!』
ヴィスキントが兵士に成りすましていたのだ。
扉を閉め、兵士さん…いやヴィスキントを中へと入れる。
『第3界層から帰ってきてからは特に何もないです。』
「そうか。……なら、こちらの話になるが…、この間の件、色々なやつに調べさせたが全く何も出てこなかった。だから忠告に来た。暫くは独りになるな。これはギルドマスター命令だ。俺達はお前に死なれては困るからな。」
鎧が重く肩が凝るのか、時折肩を回すヴィスキント。
それに気付いたメルクはヴィスキントの腕を取ると優しくツボを押す。
『分かりました。因みに、この間第3界層踏破した後は石版も何も無かったんです。』
「あぁ、それについては解析完了だ。恐らくこの間手に入れたルビーが第3界層の宝だ。石版は…分からないがルビーさえ手に入ればこちらの物だ。」
メルクのやっているツボ押しを見ながらヴィスキントは、ほう、と一息ついた。
ここまで兵士の格好をしてきただけあって、後は敵陣と言う事もあり、少しだけ緊張していたからだ。
ツボ押しのおかげか、少しだけ緊張も解れ体の変な緊張も緩んでいく。
「お前は何でも出来るんだな。まさかツボ押しが出来るとはな。」
『お役に立ちたいですから。』
「……そうか。」
ヴィスキントの表情は今までよりも緩みきっていた。
ここには2人しか居ない。
誰かが入ってきても、兵士として偽装出来る自信もある。
『大丈夫ですか?少し休んでいきますか?』
「そうしたいのは山々だが、まだ仕事が山ずみでな。」
『そうですか…。お身体、大事になさって下さい。』
「あぁ。俺は大丈夫だ。むしろお前は自分の心配をしろ。」
ツボ押しの礼を口にしながら、ゴキゴキと首を鳴らすヴィスキント。
そしてまた兵士としての顔へと変えると部屋から出ていこうとする。
それを腕を掴み、止めたメルクにヴィスキントが怪訝な顔で少女を見る。
『せめて、もう少し居られませんか?』
「??」
少女の言わんとしていることが分からず、ヴィスキントは少女の顔を見るがそれ以上に分かる事など何も無かった。
止められたのはこれで二度目だ。
どうしたものか、と頭を悩ませていたが悩む時間も惜しいと扉から離れ、部屋の椅子へと座るヴィスキント。
「……少しだけだぞ。」
何時ぞやの時と同じ事を言えば、ぱぁと顔を明るくさせる少女。
その椅子の近くに別の椅子を持ってきて、そこに座る少女に暫く目を向けていたが何かを話す訳でもなく時間が過ぎていった。
それでも少女はこの空間を堪能するように目を閉じてなにかに思いを馳せているようだった。
……この時期の頃の少女の考える事は分からん。
腕を組み暫くはその空間でヴィスキントも目を閉じた。
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ヴィスキントが部屋から出ていき、仕事に戻ってしまった後、メルクは図書室へと向かっていた。
何もしないのはやはり気後れしてしまうし、何よりあそこには沢山の蔵書があり、植物の蔵書もあった事は昨日カロルとの探索で確認済みだ。
『植物……』
図書室にある途方もない本の中から植物の本を探すのは骨が折れそうだ。
一つ一つ確認しながら探していくと、やはり昨日あった場所に何本もの植物に関する本があった。
何冊か取り、図書室にある机に置くとメルクは椅子に座り読み始めた。
時折ノートに書き写しながら暫く読んだり書いたりして集中していたものだから、目の前に誰かが座った事に気付かなかった。
『……。(やはりこの植物はもう絶滅してしまったのか…。また第3界層で見つかるといいな…。)』
エステル「……」
リタ「……」
忙しそうにペンを走らせたり、読んだりとそんな様子を珍しそうに見る2人は、尚も気付かない様子のメルクに目を丸くしていた。
植物研究家の名前は伊達じゃないという事が証明された訳だ。
…元々疑っていたわけではないが。
リタ「ここまで気付かないものなの?普通」
エステル「しっ!リタ、邪魔をしては駄目ですよ…!」
リタ「大丈夫よ。ここまで話してて気付かないなら集中してる証拠だから。」
リタの言う通りメルクは2人に気付かない様子である。
しかしそんなメルクも何かに躓いたのか、ペンを口元に当て難しい顔をした。
リタはそれを見て立ち上がると何処かへ行ってしまう。
エステルも慌ててそれに着いていくと、リタはコーヒーカップを持っていた。
恐らく躓いてしまったメルクに差し入れるつもりだろうとエステルが笑顔を浮かべると、「何よ」と言う顔でエステルを見るリタ。
エステル「ふふっ、リタは優しいですね!」
リタ「何よ急に。気持ち悪いわね。」
エステル「酷いです!」
リタ「はいはい。あたし達の分も持って行くわよ。」
手際良く3人分のコーヒーを作り、盆に乗せるとリタはスタスタと歩き出してしまった。
エステルも慌てて追いかけようとしたが、昨日のメルクの様子から飴を用意しようと別室に寄ってから戻って行った。
リタ「はい。」
『!』
カチャとソーサーの音がして、メルクが我に返る。
近くを見てみると湯気のたったコーヒーカップが置いてあったので、その入れてくれた本人を見て目を丸くして笑顔を零した。
『ありがとう、リタ。』
リタ「あんまり根を詰めすぎるのも良くないわよ?」
『ふふ、そうね?』
コーヒーカップを持ち上げ、一つ口にすれば丁度いい甘さのコーヒーが口に広がる。
コーヒーの苦味と砂糖の甘さがベストマッチだ。
ふんわりと香るコーヒーの匂いもとても心地良い。
『ふぅ…』
リタ「相変わらず好きね。植物。」
『はい。』
リタ「何かきっかけでもあんの?植物を研究するようになったきっかけ。」
『元々居た場所には沢山の植物があって、常に植物に囲まれていた、…という記憶があるの。あまりにも昔だからあまり思い出せないけども、ね?』
コーヒーの水面に揺れる自分を見れば、その顔は笑顔だけど何処となく、寂しそうな顔をしていた。
本当に微かな記憶だがそんな記憶がある。
あれはどこの記憶かは分からないけど…。
『それもあって、子供の頃から植物に触れるようになって…そしたら今みたいになってた、って感じかしら…?』
リタ「ふーん。どこが面白いの?植物の。」
『愛せば愛するほど花や実や葉をつけて、お返しをくれるの。毒も棘も全てが美しく、綺麗よね?』
リタ「そう?毒とか棘とかって、ただ痛いだけじゃない。」
そんな中エステルがお菓子を持ってやってきた。
そこにはビスケットやスコーン、色々ある中異質なものがそこにはあった。
『…!飴…!』
リタ「好きなんでしょ?それ」
リタが頬杖をつきニヤリと笑う。
エステルも笑顔でお茶菓子の用意をしており、2人はメルクの好物を知っているようだった。
キラキラと輝く透明な飴。
どれも色とりどりでお互いの色を主張しているようだ。
メルクはパァと表情を明るくし、飴をひとつ取ると口の中へと頬張る。
紫色の飴はぶどうの味だった。
リタ「ほんとに好きなのねー。昨日見た時は驚いたわ。案外あんたって子供っぽいのねー?」
エステル「良いじゃないですか!飴だって、誰に食べられても嬉しいと思いますよ?」
リタ「いや、飴の気持ちなんて分からないから…」
呆れた表情でリタがエステルを見遣れば、「そうです?」と言わんばかりの反応を返され、リタは溜息を吐いた。
そのまま飴を頬張るメルクを見て、リタも一つ飴を手に取り口に入れる。
なるほど、赤は苺味か。
リタ「……ま、悪くないけどね。」
エステル「他のお菓子も食べてくださいね!お菓子に合うように紅茶も持ってきましたから!」
リタ「ちょうど良かったわ。あたし飲み終わったからそれ頂戴。」
飴を頬張りながら再び本に向かうメルクに、少しは休憩すればいいのにとリタは肩を竦めた。
生き急ぐ必要なんてないのだから、研究だってゆっくりやればいいのに。
リタ「……ま、あたしも変わんないけど。」
エステル「何か言いました?」
リタ「何も言ってないわよー。」
エステルの視線はやはりメルクで、何か言いたいことがあったのか残念そうな顔をしている。
リタ「何か聞きたいことあったんじゃないの?」
エステル「大した事じゃないんですけど…、少し気になってて…」
リタ「聞けばいいじゃない。」
エステル「そう、ですよね…!メルク!」
エステルの呼ぶ声にすぐに反応出来た所を見れば、今回はそんなに真剣に研究にのめり込んでは無かったらしい。
顔を上げ手を置くメルクにエステルが意を決して言葉にする。
エステル「その…気になってたんですけど…、メルクはユーリの事どう思ってるんです?」
リタ「あー、そういう話ねー?あたしもそれは興味あるわ。」
今までそういった恋バナは突っ返していたリタが珍しく話に参加してくれたので、エステルがここぞとばかりに大きく頷く。
『ユーリ?』
エステル「はい!(ユーリがメルクをずっと気にしてるからメルクがどう思ってるか気になって、なんて言えない…!)」
リタ「(ま、言いたいことは分かるけど。あの戦闘狂が恋なんて、面白いじゃない。)」
『優しい方よね?』
エステル「えっと、それだけです?」
リタ「もっと他にあんでしょ。カッコイイとか、結婚したいとか。」
エステル「り、リタ!」
リタ「何よ?こういうのは直接的な聞き方しないとダメじゃない?あたしなら曖昧に聞かれたら濁すか答えないわね。」
顔を真っ赤にしたエステルがリタを窘める。
しかし当の本人はポカンとしていて、どう思ってるか想像に難い。
『他なら、一緒に居て居心地のいい方…かしら?』
エステル「え!やっぱりそう思うんです?!」
リタ「やったじゃない、あの戦闘狂。これは脈アリね。」
『脈アリ?』
エステル「こ、こっちの話です!気にしないでください!(リタ、ダメですよ!)」
エステルが小声で叱咤すると、リタはニヤリと笑う。
リタ「あんたは、あいつとどうにかなりたいとか言う願望ない訳?」
『どうにかなりたい、とは…?』
リタ「さっきも言ったけど結婚したいとか、付き合いたいとか。そういう事よ。言っとくけど、あいつ意外とモテるからそういうのになりたいなら早めに手を打つことをオススメするわ。」
エステル「リタ!喋りすぎです!」
リタ「もう焦れったいわねー。」
キャッキャっと騒ぐ2人。
その間メルクはリタの質問を考えていた。
彼とどうなりたいか、なんて考えた事もなかった。
確かに居心地は良いが、だからどうしたという話で。
『難しい話ね?』
リタ「ありゃ?こりゃ脈ナシの方だったか。」
エステル「えー?!そ、そんな事ないですよね?!ね!メルク!!」
リタ「何であんたが決めてんのよ。これは本人の問題でしょ。」
エステル「だ、だって…!」
このままではユーリが可哀想だ。
ユーリもモテるというのはリタの言う通りだが、反対に言えばメルクも優良株なのだ。
料理は美味い、歌も上手い、気遣いが出来て見た目も可愛いし、美しいし……。
そう思っているとメルクの方は隙がない事に気付く。
何も悪いところなんてないじゃないか。
これでは他の誰かに盗られてしまい、本末転倒だ!
エステル「メルクっ!!少し時間いいです?!」
『??』
リタ「ちょ、あんた何する気よ?」
エステル「こうなったら行くしかありません!」
リタ「だから何処によ?」
エステルがメルクの手を取り立ち上がらせる。
そのまま図書室を出る2人に慌ててリタも追いかけて行った。
果たしてエステルは何処に彼女を連れていこうと言うのか。
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