第3界層 〜窮猿投林の流転の森〜
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___帝都ザーフィアス城内、武器格納庫前
武器の格納庫ともなれば、絶対に兵士が門番をしているに決まっている。
宝の地図を見て、宝物を探しに来たカロルとメルクだったが、現在躓き中である。
カロル「どうしよ…。お城の兵士さんが立ちふさがってる…。」
『直接聞いてはだめなの?』
カロル「駄目だよ!この宝の地図がバレたら、きっと皆探しに来るよ!」
大事そうに宝の地図を持つカロルにメルクが笑い、しかしこのこのままでは何も出来ないとメルクが意を決して兵士に近づく。
慌てて止めようとしたカロルだが、もう兵士の前に立ってしまったメルクにあちゃー、と頭を押さえた。
『すみません、この中の見学って出来ないでしょうか?』
「ん?出来ないに決まってるだろ?」
「ほら帰った帰った。」
『うーん、どうしてもですか?』
「いくら嬢ちゃんでも駄目なもん駄目だ。さ、帰った帰った。」
『では、こうしませんか?私が勝負に勝ったらその中を見せて欲しいのです。』
「え?ダメだって。怒られるよ。」
『こんなか弱そうな人でも、兵士さんは負けてしまうのですか?』
「うっ…」
門番2人がお互いの顔を見合わせる。
実は2人はユーリたちのグルなのだ。本当は事情を知っている。
だが、ここを通すわけにはいかないのだ。…仕事だから。
「うー、分かった。それなら良いだろう。ただし、負けたら諦めるんだぞ?」
『はい。ありがとうございます。』
訓練用の木刀を構える兵士に対して、メルクは短杖を構え本気の姿勢を見せる。
ここで負けるわけにはいかない。
カロルのためにも、ここで勝って見せる。
後ろでアワアワしているカロルを余所に、メルクは詠唱を始める。
目を閉じ歌を歌うメルクに対し、兵士が拍子抜けとばかりに目を瞬かせ微笑む。
いきなり歌い出すなんて可愛いお嬢ちゃんだとのほほんとしていると、兵士の頭上から大きな水瓶が現れ、勢いよく水瓶から水が流れ出す。
押し流す勢いが強く、兵士二人はあっという間に水に押し流されてしまった。
コツコツとヒールを響かせ格納庫前まで歩くと、短杖を口元の近くにやり微笑むメルク。
『これで勝ち、ですよね?』
もう居なくなってしまった兵士に向けて笑顔でそう言い切り、中へと入っていく。
それにカロルが慌てて着いてきて、格納庫内へと侵入する。
カロル「だ、大丈夫かな?」
『ふふ。勝ったので大丈夫です。』
カロル「そういう問題かな…?」
それでも宝が目の前にあるかもしれないという好奇心には勝てなかったようで、ずんずんと中に進むカロル。
武器格納庫には物騒な武器が大量に置かれて、荘厳な空気の中で二人は宝物を探し回る。
『!! これかしら?』
メルクが手に持ったのは先ほどと同じ宝箱。
それに目を輝かせ近づいたカロルに手渡すと、ゆっくりとその箱を開けた。
すると、その中身はまたしても紙だった。
カロル「……今度は、訓練場だ。あそこ、何もなかった気がするんだけど…。」
『今日は何かあるのかもしれないわね?』
カロル「よし、行ってみよう!」
武器格納庫を出た二人は次なる目的地である訓練場へと向かっていく。
その後ろを着けているものに気付かぬまま。
ユーリ「メルクのあれ…絶対本気だったろ…。」
フレン「相手が誰だろうが油断するなと、あれほど常に言い聞かせているんだけど…」
リタ「言いたい所、それ?」
エステル「次は訓練場って言ってましたね?私たちも行きましょう!」
ユーリ「っていうか、こうなると嫌な予感がするんだよな…。」
そのユーリの予感は果たして当たるのか…。
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___帝都ザーフィアス城内、訓練場
時刻は昼過ぎ。
昼食を食べ終わった兵士や騎士が訓練を開始している中、カロルとメルクは訓練場に忍び込んでいた。
カロル「うぅ…。屈強そうな人たちがいる…。」
『宝箱はどこにあるのかしら?』
カロル「すごいね…メルク…。全然動じてない…。」
辺りを見渡すメルク。
訓練している兵士たちの本当に中央に宝箱が置いてあるのが見える。
あれはこの兵士たちを超えて行かねば届かない場所だ。
しかし今は訓練中。
どう見てもあの中を歩いていくのは危険だ。
それでも取りに行かないわけにはいかない二人。
またしてもメルクが意を決して兵士たちの所へと向かう。
カロル「え?!メルク…!!」
カロルがアワアワとする中、メルクが兵士の一人に声をかける。
『すみません、あの宝箱取らせてもらえませんか?』
「ん?嬢ちゃん、危ないから入ったらだめだよ。」
『すみません。でもどうしてもあれが取りたいのです。』
指をさした方向には宝箱があり、兵士達を掻い潜らなければならない場所にあった。
それに苦笑いしながら兵士の一人が宝箱を見遣る。
「俺たちが取ってくるから、お嬢ちゃんはここで待っててくれ。」
『ありがとうございます。』
汗を拭きながら兵士の一人がそれを取りに行こうとすると、そこの指揮監督らしき兵士が怒鳴る。
「お嬢ちゃん!欲しい物があれば実力で取れ!!お前ら、その嬢ちゃんは強いぞー!さっき兵士二人をやってたからな!」
何故かそんな言葉を言い放つ指揮監督にメルクが目を瞬かせ、指揮監督の言葉に目を飛び出させる兵士達。
あんなか弱そうな人が兵士二人を…?
その言葉に各々が武器を手に取り、じりじりとメルクに近寄る。
「「「「試合、お願いしますっ!!」」」」
『え、』
武器を手に持った兵士達、およそ10人近くがメルクへと襲い掛かってくる。
急いで回避を取ったメルクは、ポシェットから何かを取り出し地面に投げつけた。
そして、辺りを煙が包む中メルクはお目当ての宝箱へと手を伸ばそうとしたが、その前に誰かの剣がメルクの目の前を通り過ぎる。
素早く回避したメルクは、そのまま目を凝らしその正体を見極めようとする。
ようやく見えたその剣の持ち主は先ほどの指揮監督だった。
「奇襲とは、よくやるじゃねえか。嬢ちゃん。」
『あり、がとう…ございます…?』
「だが、この道30年のこの俺が、嬢ちゃんに胸を借りるつもりで参る!!」
鋭い剣がメルクすれすれに来て、慌てて回避するメルク。
そのまま接近戦に持ち込まれたメルクは、懐に隠していた短刀で指揮監督の剣を流していく。
力の差なら歴然。でも、それ以外ではきっとどうにかなるに違いない。
そんなメルクの様子に意を決して出てきたカロルが、指揮監督の剣を受け止めた。
じりじりと鍔迫り合いが起こる中、好機だとばかりにメルクが歌い出す。
カロル「ボクだって…!やればできるんだー!」
武器で指揮監督の剣を押し遣り、一発決め込もうと武器を振り回したカロル。
しかしそれを華麗にかわし、指揮監督も一筋縄ではやられない。
敵が2人になったことで指揮監督がにやりと笑う中、遂にメルクの詠唱が完了する。
__”プリズムフラッシャ”
光の洗礼を受けた七色に輝く聖なる剣が降り注ぎ、指揮監督を容赦なく攻撃していく。
その無遠慮な攻撃に、指揮監督はにやりと笑いとばす。
「もっと、もっとだあぁあ!!!!」
強い者と戦うほど面白いと感じるタイプであろう指揮監督に、カロルが「うげ」と苦言を漏らす。
これじゃあ、いつまで経っても終わる気がしない。
カロル「何でこんなことにぃぃ!!!」
「おら!もっともっと来い!!」
それを遠くで見ていたフレンが呆れて頭に手をやる。
ユーリ達も試合の流れを緊張しながら見ていた。
リタ「なんで戦闘になってんのよ…」
ユーリ「こんなはずじゃなかったんだがな…」
エステル「えっと、助けた方がよくないです?」
フレン「あの人はああいうタイプなんです。強い奴と戦うのが生涯の生きがいだと常日頃仰ってたので…それでだと思います。」
ユーリ「つーか誰だよ、あそこに置いたの。」
リタ「あたしはちゃんとベンチに隠しておいたわよ?」
フレン「指揮監督…」
恐らく指揮監督が一枚噛んでいる。
フレンはそうと分かると、立ち上がりメルク達の方へと向かっていく。
そして指揮監督の前に出て、武器を振るうと指揮監督が一度大きく後退した。
「騎士団長さまのお出ましか…!楽しくなってきたぜ!!」
フレン「二人とも、ここは僕に任せてくれないか。」
カロル「え、いいの?」
フレン「この人は一度叩かないということを聞かないからね…!」
フレンの攻撃が指揮監督にぶつかる。
その真剣さにカロルが引くほどだ。
カロル「これって、稽古だよね…?」
『カロル、これを。』
メルクが手に持っていたのは例の宝箱だった。
すぐにカロルが宝箱を開け、中身を確認するとまた紙が入っていた。
そして書かれていたのは次の場所だ。
カロル「今度は中庭だ。今度こそ、宝物にたどり着けますよーに!!」
メルクの手を取り、走り出すカロル。
しかし、行く先々で何故か兵士に出会い、何故か勝負を挑まれるという悪循環。
カロル「もしかして…この宝の地図って、実は地獄の地図だったりして?」
『ふふ、あながち間違ってないところがやるせないわね?』
笑顔でそれでも倒していくメルク、そして破れかぶれに突破していくカロル。
それでも二人の手はまた繋がれ、戦闘になれば離れ、また繋がれる。
ずっと繋いでいる手は徐々に強く握られ、次の目的へと向かっていく。
中庭に到着したカロルたちは急いで宝箱を探す。
綺麗な植物に囲まれて、メルクは目移りしそうなのを堪えカロルのために必死に探す。
カロル「あった!」
カロルの言葉にメルクが反応し、近づく。
今度こそ最後でお願いっ!というカロルの言葉に苦笑いで聞いているとカロルがその宝箱を開ける。
そこには色とりどりの宝石が入っていた。
カロル「え、…飴?」
『!!』
その言葉によくよく見てみると、輝いているその球体は甘い香りがして…。
カロルが一つ手に取り口の中に入れる。
カロル「飴だ…。」
『……飴。』
カロルから宝箱を受け取り、中を見つめるメルク。
それに飴を舐めながら不思議そうに見るカロル。
するとメルクの顔が一変する。
「「「「!!」」」」
まるで愛おしい物を見るかのようなそんな優しく、そして艶やかな表情をしたのだ。
その宝箱を抱き締める姿は、本物の宝物を抱き締めていると錯覚させる程。
『カロル、この宝物、貰ってもいいですか?』
カロル「へ?いいよ?…だって、それ気に入ったんでしょ?」
『…はい!』
幸せそうな笑顔でカロルを見るメルク。
それにカロルも嬉しそうに鼻の下を擦った。
『大事にします…!』
嬉しそうにもう一度ギュッと宝箱を抱き締めるメルクにカロルも満足だった。
例え、宝物がしょぼくても、それが仲間の宝物になるならそれはそれで宝物なのだ。
リタ「良かったわねー。あんなに喜んで貰えるなら頑張った甲斐があったわー。」
エステル「はい!最初は飴なんかで良いのかと思いましたが、メルクが喜んでいるならそれで良いです!」
ユーリ「だから言ったろ?大丈夫だって。」
メルクを見るユーリの目は同じく優しい。
それにリタもエステルも笑顔になり、誰もが笑顔になる1日となった。
……若干1人を除いて。
フレン「はあ、はあ、そろそろやめにしませんかっ?!」
「まだまだ行くぞい!!!」
フレン「くっ…!」
まだまだ汗をかく1日だった……。