第3界層 〜窮猿投林の流転の森〜
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___帝都ザーフィアス、城内
第3界層から帰還したメルク達を最初に出迎えてくれたのはココとロロだった。
メルクに抱き着いて無事を喜ぶ二人。
そして視力が元に戻った事に関しても、また涙を流して喜んでくれた。
メルクがそれを見て嬉しくない筈がなかった。
2人を抱きしめ、嬉しそうに笑った。
仲間達もそれを見て感動したように泣く者、嬉しそうに笑う者、三者三葉の反応をしていた。
「もうメルクお姉さんが狙われなければいいけど…」
「あいつら、メルク姉さらって何するつもりなんだろ。界層突破なら自分たちですればいいのに。」
『…。』
「あ、メルクお姉さんが気に病む必要ないよ!ぼくたちが守るよ!!」
「そうだそうだ!最近ここにいる騎士から剣の使い方習ってるんだぜ?おれたち!」
『……そう。』
本当はそんな危ない事をして欲しくない。
でもこの子達に言ってもきっと…無駄だろうから。こんな純粋な目で言ってくれるこの子達には…私の声は届かない。
『ありがとう。』
だから今だけは優しくお礼を言っておく事にする。
この子たちを裏切ることになろうとも、私は止まれないのだ。
もう、私の残された選択肢はないのだから。
殺人集団として名が知れ渡った私たちのギルド。
この子たちにあのギルドと関わりが無い事は、騎士様たちが噂を流してくれた。
後は、私達の悲願であるあの方の願いを叶えるだけ。
例え、誰かにこの身が狙われようともそれだけは必ずや成し遂げて見せる。
「…?メルク姉、どうしたんだよ。なんでそんな、泣きそうなんだ?」
『そんなことないわ?あんなに小さかった貴方達が、まさか私を守るなんて言ってくれるとは…思ってもみなかったから…かしら。』
「へっへん♪期待してくれていいぜ?」
「ぼくも頑張るから!」
『無茶だけはしないで…』
「「分かってるって!/わかってるよ!」」
どうか、私の居ない世界でも幸せな日々を過ごして。
そう、願わずにはいられない。
私が……その〝願い叶える者〟なのに、なんて馬鹿らしく、浅はかな願いだろう。
『……ありがとう』
「そんなにお礼言うなって!分かったからさ!」
「ぼくたちが騎士になったら一番に守るから、だからメルクお姉さんもそれまで絶対に攫われないでね?」
『あらあら…?その時は守ってくれないの?』
「あ、もちろん守るぜ?!」
「そ、そうだよ!ちゃんと守るから!」
『ふふ、冗談よ?私もここに居たいから。きっと大丈夫よ?』
「「約束!」」
指切りした三人。
一人はその指切りを噛み締めて、思いを馳せる。
この約束は…果たされることはないだろう、と。
それでもしばらくはギルドのために情報収集と、界層踏破に専念しなければ。
メルクはまだしばらくは、二人との再会を堪能していたのだった。
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___その日の夜。帝都ザーフィアス庭園内
夜が来ても眠れないメルクは城中にある庭園へと来ていた。
ここにはメルクの大好きな植物が沢山あって、心落ち着けられる場所だと思ったからだ。
『少し、肌寒いかもしれないわね…?』
吹く風は今の季節にしては少しだけ肌寒い。
それでも植物を見て湧き上がる好奇心は止められないのだ。
しばらく庭園を堪能し、その植物の観察まで始めてしまったメルク。
ノートにメモを取りながら植物の細部まで書き込んでいく。
そんなメルクへと声を掛ける者が居た。
ユーリ「自分が狙われてるって分かってんのかねえ?」
『!』
いつの間にやら真剣になっていた事に気付き、ハッと我に返るとその声の主へと視線を向けた。
呆れた様子のユーリを見て、苦笑いで返すメルク。
すぐに謝るとユーリは横に来てメルクの手元を覗き込んだ。
ユーリ「本当に植物が好きなんだな。」
『はい。植物は…愛情を込めれば込めるほど美しくなって、毒にも薬にもなるから好きなのよ?』
ユーリ「毒が好きって…それあんま良い趣味とは言えねえぞ?」
『ふふ。そうかも、ね?』
笑ってノートを閉じたメルクに安堵しながらユーリは近くにあったベンチに座った。
手招きしてメルクを呼ぶユーリに素直に従い、隣に座る。
ユーリ「……あのガキどもが、騎士を目指してて複雑か?」
『!』
僅かに反応したメルクに「やっぱりな」と呟くユーリ。
あの時ユーリはずっとメルクの表情に注目していたのだ。
いつもいつも笑ってばかりのメルクの顔が僅かに曇ったのを見逃さなかったのだ。
あの嘘が得意なメルクでも、ココとロロに関しては別のようだった。
ユーリ「ギルド出身だったあいつらが、騎士ね…。」
『あの子たちは昔から騎士に憧れてる所があったから、今回のことは自然だと思うの。…それが私関係だというのが、とても皮肉ではあるけれど…。』
ユーリ「いいじゃねえか。男ってのはそういうもんだ。自分の好きな女は守りたいもんなんだよ。今は見守ってやったらどうだ?」
『そうね…。複雑だけど、あの子たちの意思を否定したくないから暫くは様子見かしらね?』
いつものように「ふふ」と笑ったメルクに、ユーリは僅かに目を細めそれを見遣った。
何かを隠していないか、と探るような目で。
そんなユーリの瞳に気付かないメルクはそのまま天を見上げた。
そこにはいつぞや見たようなきれいな星空があった。
『結局、第1界層で用意していたマーボーカレーは台無しになったわね…?』
ユーリ「あれは残念だったな。折角作ってもらって悪かったな。」
『あの時は仕方なかったと思うわ?今度また作ったら、今度こそ食べてもらえる?』
ユーリ「そりゃ楽しみだ。いつでも待ってるぜ?」
同じく空を見ていたユーリだったが、ポケットから何かを取り出すとメルクの手にそれを乗せた。
その何かは透明で綺麗な紫色の飴玉だった。
『!…飴……。』
ユーリ「好きなんだろ?この間偶然貰ったからやるよ。」
『…ふふ、ありがたく頂くわね?』
暫く飴玉を光に翳して見たりして恍惚の顔を浮かべていたメルクだったが、その飴玉を口に入れると嬉しそうに笑ってユーリを見た。
本当は甘いものが好きなのに態々自分のために取ってくれたことが嬉しくて。
『ありがとう、ユーリ。』
ユーリ「あぁ。」
暫くは二人の間に静寂が訪れた。
それでも居心地の悪い物ではなく、2人の間に流れる雰囲気は心地好い物だった。
お互い何を考えているかは分からなかったが、それでも今はこの時間を堪能したいと考えていたのだ。
時折コロンと鳴る飴玉の音を聞きながら、2人は暫くその場にいた。
ユーリ「……なぁ。」
『?』
ユーリ「いつだったか、居場所がないって話をしてただろ。もしかして何か予兆でもあったのか?あの後捕まったり、攫われたり色々大変だっただろ。」
『予兆、という程の大層なものはないの。何か、そう感じただけだったかしらね?』
ユーリ「…ならいいけどな。」
『?』
疑り深いユーリにメルクが笑いながら首を傾げる。
それを見たユーリが急に真剣な顔になるので、メルクは内心で驚きながらも表では笑顔で聞く態勢になった。
ユーリ「メルク。お前、俺たちに何か隠してないか?」
『?? 何のこと?』
ユーリ「界層踏破した後、必ずお前だけ町に飛ばされる件もだが…、ああやってギルドの連中に狙われてるんだ。何も知らない、だけじゃ済まないと思うがな。」
『うーん…。本当に分からないの。ギルドの目的とかは特に…。〝神子〟というのも良く分からないけど…その神子って人が無事なら、とは思うの。』
ユーリ「……」
ユーリの目はまた探るようにメルクを見ていた。
だが、嘘が得意なメルクのことだ。
その口調も、言葉も、表情でさえ一切の妥協はない。
それを見抜ける技量が、今のユーリにあるかは彼次第だ。
ユーリ「…辛くないのかよ。」
『ユーリには、そう見えるの?』
ユーリ「そうだな。何かを押し隠そうとするような、そんな風に俺は見えるけどな。あのガキどもに関してもそう思っちゃいるがな…。思ってることは本当にあれだけか?」
『…』
ココとロロの話になった瞬間、メルクの顔つきが変わる。
僅かにその笑顔だった顔が強張ったのを、ユーリが見逃すはずなかった。
ユーリ「…本当、嘘が得意なんだな。」
『?』
しかし次の瞬間にはもう元の笑顔に戻っていたメルク。
ここでウソがバレれば、今までの苦労が水の泡だ。
何とかして誤解を解かなければ。
でも、逆に言い連ねれば誤解を招くこともあり得そう?
どっちにするか迷っているメルクだったが、ユーリが大きなため息を吐いたことで我に返る。
ユーリ「…心が爆発してからじゃ遅いぞ?」
『ユーリが優しいということは分かったわ。でも、無理してるつもりはないのよ?大丈夫。』
ユーリ「いっつもその”大丈夫”って言ってるよな。本当は自分に言い聞かせてるんじゃねえのか?」
『うーん、自覚はないけど…そうなのかもしれないわね?』
ユーリ「……。」
何時まで経っても平行線な話になり、ユーリもどうしたものか、と頬杖をついた。
『ありがとう。心配してくれて。これからの事悩んでいたから、もしかしてそれについて触れてくれてたのでしょう?』
ユーリ「……。(そういうことじゃねえけどな…。こりゃ今は駄目か…。)」
『私、明日にでももう一度、第3界層に行こうと思うの。』
ユーリ「は?」
『あそこには見たことがない植物がたくさんあったの。研究のし甲斐があってとても楽しみだわ?…それにあそこなら…、あそこに閉じこもっていれば…誰も攫ってはくれないでしょう?』
ユーリ「っ」
深く入り過ぎたか、とユーリが反省する。
あんな場所に一人で挑むなんて、どう考えても死ぬつもりだとしか思えない。
何故そんな思考に至ったかユーリには分からないが、一つ分かるとすれば今言った言葉を訂正させなければならない事だ。
ユーリ「あそこはやめとけ。大変だっただろ?」
『ふふ。ユーリ達は大変だったかもしれないわね?』
ユーリ「なんだよそりゃ。まるで自分は大変じゃなかったみたいな言い方だな?」
『だって、植物たちが沢山いたんだもの。幻のキノコや面白い木の実…。本当、沢山の植物があったわ…。』
ユーリ「あー…。」
先程のメルクの様子を思い出す。
ユーリが声をかけるまで全く気付く様子もなく、植物を観察しノートに書き記していた彼女。
確かにあそこは彼女にとっては天国だろう。
だが、それに見合うだけの危険も付きまとってくる。
一人で…、それもずっとあそこで過ごすなんて、植物博士である彼女でも不可能だ。
ユーリ「はあ。俺が悪かったから、そんなことを言ってくれるな。それこそ、あのガキどもが心配するだろ。」
『そうかもね?でも、研究のためならどんな危険も覚悟の上よ?』
ふふふと笑うメルクが冗談に見えないユーリは、から笑いをした。
『ユーリがそこまで言うなら、止めるけど?』
ユーリ「あぁ、頼むからやめてくれ。他の奴らからの恨みも買いそうだからな。」
手を上げ降参だとでも言うようにユーリがするものだから、メルクは笑ってそれを見た。
立ち上がったユーリはメルクへと手を伸ばす。
そっと手を乗せたメルクの手を引き上げ、立ち上がらせたユーリは中を指した。
ユーリ「そろそろ中に入らないと風邪ひくぞ。その証拠に手が冷たいからな?」
手を包み込み温めようとしてくれるユーリにお礼を言う。
ユーリ「…また泣きたい時があれば胸を貸すぜ?」
『…ありがとう?ユーリ。今は大丈夫。』
ユーリ「……そうか。さ、中に入るぞ。それからちゃんと寝ろ。一人でどこかに行こうとすんなよ?俺が間違いなく疑われるからな?」
『ふふ、善処します。』
手を引き、中へと連れてってくれたユーリに別れを告げ、部屋へと向かう。
日記を書き終われば、今度こそベッドへと入り込み目を閉じる。
明日は何をしよう?
『(情報収集に、後はココとロロのことをこっそり見て、界層踏破も……)』
明日のことを考えていると徐々に眠気がやってくる。
今日のところはおやすみなさい。