第3界層 〜窮猿投林の流転の森〜
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___帝都へと向かう道
帝都に向かう道中、メルクとヴィスキントは作戦会議をしていた。
一応確認はとっておいた方がいいからだ。
作戦途中の連絡はどうするのか、作戦終了の目途はどの程度なのか。
全ての確認を取った後、ヴィスキントはメルクを肩に担ぎ帝都へと急ぐ。
その身は全身黒づくめで、誰にも分かりはしない。
そしてその声も薬でわざとに声を変えている為、その黒づくめが誰かなんて想像もつかないだろう。
「もうすぐで着くぞ。覚悟を決めろ。」
『はい。』
帝都の城の庭へと忍び込み、わざとに兵士に見つかるように行動すればそれに簡単に引っかかる兵士や騎士。
すぐに不審者だと広まり、その庭にはフレンやユーリ達も姿を現した。
ヴィスキントの肩に担がれている少女を見て、皆がハッと息を呑んだ。
本当に向こうから来たのだから、あの宝石はかなり大事なものだと分かる。
フレン「…何をしに来た。」
「わざとらしく噂を流した癖によく言いますね。」
仕事モードの彼は敬語へと変え、フレンを睨みつける。
それに臆することなくフレンが一歩前に出た。
フレン「彼女を返してもらおうか。」
「交換条件というやつですよ。こちらもただで来たわけではないのですから。貴方達騎士団の持っているルビーと交換です。…偽物だった場合は…分かっていますね?」
ヴィスキントがわざとらしく隠し持っていたナイフを袖から取り出し、騎士へ見せつける。
それに臨戦態勢をとっていた騎士たちがザワつきだし、動揺する。
あのままでは少女が危ない、とその場の誰もが思った事だった。
フレン「…分かった。ちゃんと本物を持ってくる。だから彼女を下ろしてあげて欲しい。」
「先にルビーを見せなさい。話はそれからです。」
騎士の一人にフレンが目配せをする。
その騎士が城の中へと戻り、例のルビーを宝箱ごと持ってくるとフレンに慎重に手渡した。
ゆっくりと黒づくめに近づき宝箱を差し出すが、手に取る様子がない。
「ここで開けて中身を見せなさい。」
フレン「……本物だと言っているはずだ。」
「敵である貴方達のその言葉を、誰が信用すると?」
スッとナイフが少女に近付いたのを見て、フレンは慌てて宝箱を開けてみせる。
その中身は言わずもがな燦然と輝くルビーで、勿論その中身はヴィスキント達が求めているルビーそのものだった。
「……。」
誰もが息を呑む中、ヴィスキントをじっと見て反応を窺う。
「よろしい。ではこの少女と交換しましょう。」
下ろした少女の背中を押し、フレンの手にある宝箱をさっと奪い取った黒づくめ。
メルクは目が見えていない為、足元がおぼつかずふらついてしまうが近くに居たフレンが彼女を支えた。
次に黒づくめを見ようとしたフレンだったが、メルクに気を取られている間に黒づくめはその姿を消していた。
一瞬の出来事に他の騎士たちが騒ぎ出すが、取り返せた少女にユーリたちは安堵の息を吐いていた。
フレン「メルクさん、大丈夫ですか?」
『…その声はフレンさん、ですか?』
「?? はい、そうですが…。」
『そうですか。すみません、目が見えないもので…。』
フレン「え…」
支えていた彼女を離し、目を見てみるとメルクの瞳は焦点があっておらず、彼女の言葉が嘘偽りなく真実だとその場で気付く。
フレンは大きな声で医療班を呼ぶように騎士へと命令を下した。
その言葉にユーリ達が近付き、何事だとメルクを見遣る。
フレン「彼女……目が、見えてないんだ。」
エステル「っ!!」
カロル「そんな…!」
ユーリ「……。他に怪我はないのか?」
『その声はユーリ、ですね?懐かしい声…。』
ユーリ「っ、」
本当に見えていないと、誰もが唇をかむ。
すぐに医療班が来ては、メルクの容態を見ていく。
その内医者も来てメルクの状態を診るが、その医者でさえ静かに首を横に振った。
その診断には全員が暗い顔で俯いた。
「メルク姉!!」
「メルクお姉さんっ!!」
それを知らない子供たちは、メルクに嬉しそうに抱き着く。
その声を聴いたメルクは驚いた表情をした後、嬉しそうに二人を抱き締め返す。
『その声…、ココとロロですね?』
「何言ってんだよ!おれたちがそれ以外に見えるのかよ?」
フレン「……ココ、ロロ。…大事な話があるんだ。」
「「??」」
『フレンさん、私が話しますよ。』
メルクはいつもの笑顔でフレンが居るだろう方向を見ると、その腕に抱き締めている二人へとゆっくりと言葉を紡ぐ。
どこまでも優しく、まるで子に言い聞かせる母親のように。
『ココ、ロロ。よく聞いて?』
「な、なんだよ…。」
『私、貴方達の顔が…よく見えないの。』
「は?」
「それって…。」
『ごめんなさい。視力が…落ちたみたいなの。』
「「!!」」
「嘘だろ…!?何されたんだよ!!あいつらにっ!!」
「もしかして何か実験台にされた、とか?」
『気付いたらこうなってたの。ごめんなさいね?』
謝るメルクに、2人は大粒の涙を流した後ギュッとメルクに余計に抱き着く。
二人の子供にその事実は辛い物があった。
唯一身内とも呼べる人が、急に目が見えなくなったなんて。
唯一の身内に自分たちが視認される事がないなんて。
「う、うわぁあぁああああああ!!!」
「う、ひっく…!メルク、おねえ、さんっ…!」
そんな二人の少年を目を閉じ優しく、しかし強く抱きしめるメルク。
自分でさえ急に視力が悪くなり、殆ど見えていない状態で困っているのに、この2人にとってはそれ以上に辛いものがあるだろう。
自分を見てもらえない、という辛さが。
子供にはそれは酷なものだ。
その辛さは……自分には良く分かっているから。
『……ごめんなさい。』
呟くように言ったメルクの言葉に、余計涙を流し、泣き叫ぶ少年たち。
ユーリ達も暗い表情でそれをずっと見ていた。
『たとえ…目が見えなくとも、貴方達をこうやって抱き締めることは出来るわ?そして、貴方達の温もりをこうして感じる事が出来る…。それは、とても幸せなことよ?』
「でも、メルクお姉さんが不自由じゃ…」
『こうやって貴方達を抱きしめる事が出来るんだもの。私はそれで満足。大丈夫、きっと治るわよ。』
「本当かよ…。」
『あらあら?ココ?私の言葉、信じてくれないの?』
「そんなこと、ねえけど…」
ちらりとユーリやフレンを見たココ。
その表情からメルクの視力は元に戻らないと、察しの良いココはすぐに察したのだ。
でも優しい言葉を投げかけてくれるメルクに言うのは憚られた。
「じゃあ、約束しろよ…!ぜってえ、その目、何とかするって!」
「ココ…。」
「じゃないと、おれ、メルク姉の事許さねえから!!」
『……。』
「どうなんだよ!!」
メルクに抱き着いたまま苦しそうな顔をし、そう叫ぶココ。
本当は治ってほしい、許さないなんて嘘だ。
でも、そう言わないとメルク姉は諦めてしまいそうで。
何も出来ない自分が嫌になりそうで。
『ふふ、分かった。じゃあ、約束よ?』
小指を出したメルクの指に自分の指を絡め、指切りげんまんをした。
ちゃんとメルク姉の視力は元に戻る。
ココは心の中でそう願うばかりだった。