第2界層 〜恒河沙数たる火蛾の街道〜
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__第?界層、?????
『ここは…』
目を覚ましたメルクは、この真っ白い空間に見覚えがあった。
以前も主を倒した時にここに来ていたのだから。
《──よ。ようこそ────へ》
『あなたは、誰なのですか…?』
《私の神──、───に気をつけなさい。》
『肝心な所が聞こえないのです…!お願いです!教えてください!』
それ以降、音がしなくなってしまった。
その代わりに、目の前に石版が現れ、例の宝箱も現れる。
それを手に取れば読む前に目の前は光に包まれ、その眩しさに目を固く閉じた。
*.○。・.: * .。○・。.。:*。○。:.・。*.○。・.: * .。○・*.
___〈
『……夜…』
帰ってきた懐かしさを感じるこの世界も、もう帳が下り、皆が寝静まる夜になっていた。
そこへ足音が聞こえ、振り返ると黒づくめの人がこちらに駆けてくる所だった。
「無事だったか…!」
酷く安心した様子の彼に笑顔を向ければ、頭を撫でられた。
急いで事の顛末を話す彼に納得していると、手に持っている石版に目を向けられる。
「やっぱり持てるんだな、その石版。」
『そうみたいです。読みますね?』
[この石版を持つ者、特別な者なり。
門を踏破した者の願いを叶える者なり。
門は特別な物である。
門を傷付けること、何人たりとも赦されぬ。
門を傷付ければ、すぐに神の裁きが下るだろう。
また願い叶える者、門へ干渉出来る力を持つ者なり。
そのやり方をここへと記そう。]
読み上げたその言葉にしばらく考え込んでいたヴィスキントだったが、すぐにハッと我に返ると背後を振り返った。
恐らく、ユーリ達を気にしているのかもしれない。
「話は後だ。一先ずはここから離れるぞ。」
ヴィスキントがメルクの肩に手を置き、言い終わる前に腕を掴むと走り出す。
しかし、やはり運がついていないようだ。
その瞬間聞こえてきた声は、2人には馴染みのある声であった。
「待てっ!!」
背後からユーリ達の言葉が聞こえる。
舌打ちをしたヴィスキントは一生懸命着いてきている少女をちらりと見て、その体を一瞬にして持ち上げた。
『わ、』
「っ!?メルクを離せ!!」
すぐに退散した足の早いヴィスキントにユーリ達が敵うはずもなく、そのままメルクはヴィスキントに連れられ何処かへと向かう。
そこは何処かの建物で、古びた様子の外装からは想像もつかないほど中は綺麗だった。
メルクから見て確実に言えることは、ギルドホームとは違う場所に建てられている場所だということくらい。
ヴィスキントに担がれた状態で中に入り、奥の部屋へと入るとギルドマスターが酒を飲んでいるところだった。
「メルクを連れてきました。」
「おお!流石ヴィスキントだ!!やっぱり持つものは俺の側近で、俺の親友だな!!」
酒を結構飲んだのか、時折しゃっくりをしつつ上機嫌なアビゴール。
部屋中お酒の臭いが充満していて、ヴィスキントもメルクも顔を顰めるほどだった。
その上近付いてくるアビゴールも酒臭く、ヴィスキントは気付かれないように鼻をつまんだ。
アビゴールはメルクの肩を掴むと労いの言葉をかける。
笑顔でそれを受け入れるメルクに、ヴィスキントは鼻で笑った。
やはり、この少女はアビゴールに心酔している。
でなければ、こいつがこんなにも臭いのに労いの言葉なんかでこんなに笑顔になれるはずが無いのだから。
「石版と例の箱は手に入れたんだろうな?」
『はい。こちらです。』
相変わらず石版は触れる事すら出来ないが、宝箱を受け取ったアビゴールはすぐにその宝箱を開ける。
そこにはエメラルドの宝石が入れられていて、同時に紙も一緒に添えられている。
紙は前回と同じ内容の事が書かれており、その内容はやはり〝願い叶える者へ食べさせろ〟という文言だ。
「メルク。良くやったな!」
『有り難きお言葉です。』
肩をバシバシと叩くアビゴールに怒る事無く嬉しそうにはにかむメルク。
そして石版について触れられ、先程と同じ事を伝える。
「門へ干渉出来る力…。どういう事だ、ヴィスキント。」
「……分かりませんね。何かしら門へと干渉出来るのはそこに書かれている通りですが…、実際にやってみないことには…。」
「それもそうか。」
ふむ、とアビゴールが石版を見つめたがやはりそこに書かれている文字は自分には読めず、すぐに頭を切り替える。
「メルク、口を開けろ。」
言われた通りメルクが口を開けるとそこへ例の宝石が口の中へと突っ込まれる。
驚くヴィスキントを余所に、メルクは必死になってそれを食べる。
だがそれも前回と同じで飴のように……いや、氷のようにすぐ溶けていき喉の奥へと入っていく。
『うっ…!!』
全身がドクンと反応を示し、途端に胸を押えるメルク。
苦しそうな表情を浮かべ、荒い息を繰り返すメルクにヴィスキントは怪訝な顔をしてメルクを見遣った。
するとメルクの背中から七色に輝く妖精の羽が生え、その小さな体は宙に浮かぶ。
目の前の信じられない光景に目を見張ったヴィスキント。
そこへアビゴールが下卑た嗤いを浮かべながら、友へと声を掛ける。
「どうだ?これが、こいつが〝神子〟である証だ。」
「……信じられませんね…。人に羽が生えるなんて……。まるで御伽噺を見ているかのようです。」
「だろ?俺も初めて見た時は興奮したものだぜ?くっくっく。やはり、メルクは良い女だ。」
下卑た嗤いを変わらず出しながら、事を見守るアビゴール。
しかし何時までも苦しそうな少女にヴィスキントは憐憫に思っていた。
こいつに見つからなければ、こんな苦しいことをさせられずに済んだのに。
「(まぁ、見つけてもらわなければ、野垂れ死にしていたか…)」
七色の羽が消えた瞬間、メルクの体はそのまま倒れてしまい、気絶したのかピクリとも動かなくなった。
「……気絶したか?」
アビゴールがメルクの近くにより、様子を見ると酷い汗をかいて気絶している少女の姿。
それに鼻で笑ったアビゴールはヴィスキントに目配せすると、顎を使って何かを命令してくる。
昔からの親友だから分かる事だが、恐らくこの少女を寝かせろ、という事なんだろう。
ヴィスキントが少女を軽々と持ち上げると、少女の身体の異変に気付く。
「(……おかしい。来た時より軽くなっていないか?)」
その疑問は口に出さず、別室へと向かっているヴィスキントは大きくため息をついた。
この少女は後どれ程、あいつにこき使われ続けるのか。
ヴィスキントは再び憐憫な目で、肩に抱えた少女を静かに見たのだった。