第2界層 〜恒河沙数たる火蛾の街道〜
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__第2界層、中間地点手前
「うぇっくしょん!!」
派手なクシャミをしたリタは鼻をすすりながら街道を真っ直ぐ歩く。
隣にはジュディスもいて、2人並んで仲良く歩いていた。
装置の仕掛けが終わったリタは満足そうに頷き2人して仲間達の後を追ってきていたのだ。
「しっかし、あいつらどんだけスピードを上げて進んで行ったのよ……。全然追いつかないじゃない。」
「ふふ。それ程、彼女が心配ってことよ。」
「まぁ、気持ちはわからなくもないけど。」
「一人は気が気じゃないでしょうからね。」
「?? 誰の事よ。」
「あら。気付いてなかったの?彼よ、彼。」
「????」
リタは腕を組み、歩きながら考える。
そういった話は興味が無い為か、あまり気にしていなかったのでリタからすると検討がつかない。
「誰よ?」
「ユーリよ。」
「え?そうなの?意外ねー?」
確かに言われてみれば、メルクを気にかけていたような気がしなくもない。
ニヤリと笑ったリタは意地悪そうな声で揶揄う。
「今度あいつに会ったら、からかってやろうかしら。」
「ふふふ。良いんじゃない?」
女の話というのはあまりして来なかったリタだが、この時ばかりはユーリに仕返しとばかりに揶揄おうとそればかり考えていた。
割と追いつく為に歩幅を大きくしていたのもあってか、目の前に人影が見える。
しかし、妙な配列だ。
黒づくめの奴が何かを肩に抱え、その前の方にユーリ達が歩いているという、かなり妙な構図。
「……なにあれ?」
「……あの肩に担がれてるって、まさか……」
「誰?」
「恐らくメルクじゃないかしら?」
「!!」
よくよく目を凝らしてみると、白衣を来たような白さの服に僅かに黒いヒールが見える。
顔を前に持って行かれてる為顔は見えないがその服装から確かに彼女だと確信した。
「で、どんな状況よ?」
「さあ?でも……まずい状況ではあるかもしれないわね。」
「人質に取られてるってこと?相手の目的は何?」
「それも分からないわね。さ、どうする?私たち以外助けられないと思うのだけれど。」
「決まってんでしょ!あたしの初めからの目的はメルクだけよ!」
すぐさま詠唱に入った天才魔導士にクスリとジュディスが笑うと武器を手に持ち、彼女との息を合わせる。
彼女の術が発動次第、上空から攻撃してメルクを取り返す。
それしかないだろうから。
「吹っ飛びなさい!!」
「!!」
その叫び声で敵が気付き、瞬時に術を躱す。
しかし上空からの攻撃には気付くのが遅くなり、首の皮一枚で躱すとその隙をつかれ、メルクを奪われてしまう。
「!!(しまった…!!)」
「ふふ。返してもらうわね。」
ジュディスがメルクを抱え、大きくヴィスキントから離れる。
しかしメルクを取られてはどうしようもないヴィスキントは、すぐに標的をジュディスに変え持ち前の武器で攻撃をする。
そこへユーリが立ち塞がり、ヴィスキントへと攻撃を仕掛けてくる。
何度かその攻撃を流して、大きく後退したヴィスキントは舌打ちをしてすぐにその場から退散した。
ユーリ達が彼を追おうとしたが、その速さは尋常ではなく街道外れの木々へと紛れ込んでしまったので追いかけるのをすぐ諦めた。
「(これで邪魔されるのは何度目だ…!あいつら…絶対に赦さねえ…!!!)」
門を通り、元の世界へと戻ったヴィスキントはすぐさま表の顔へと変貌させる。
しかしその表情は憎悪のままだ。
これではいけない、と頭を振り大きく深呼吸をした。
そしていつもの顔に戻り、また案内役としての仕事へと戻って行ったのだった。
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『……う』
自分の声に目を覚ましたメルクは、ゆっくりと目を開ける。
もう終わったのか、と目を凝らそうとしたメルク。
しかしその目に飛び込んできた人影は、予想していた人物ではなく、ユーリとエステルだった。
「大丈夫です?!」
「目が覚めたか。」
驚いて目を見開くと、他のメンバーもお目見えして更に驚いてしまう。
彼は……彼はどこに行ったのだろう…?
先程までサポートしてくれていた彼が見当たらないことに疑問を持ちつつ、ゆっくりと体を起こすとエステルが背中に手をやって支えてくれた。
『……ここは?』
「まだ第2界層です。メルク、本当に無事で良かったです…!!」
涙を流すエステルに目を瞬かせたが、すぐに持ち前の笑顔を見せる。
ともかく状況を確認し整理しなければ…。
「どこか怪我とかしてないか?」
『怪我…。ないと思います。』
体のあちこちを見てみたが、特に無さそうだと思っていたが、首に包帯が再び巻かれている事に目を丸くする。
以前、第1界層で噛まれた時の怪我は治ったはずで巻いていた包帯も取っていたのに。
「あんた、どこまで覚えてるの?あたしも途中からしか知らないけど、その首のやつは黒づくめの人がつけた痕らしいわよ?」
リタが私が首に手を当てていたのを見て、そう答えてくれる。
彼がつけた痕?
そんなものあったかな、と思い出そうとするが全く思い出せない。
作戦とはいえ、急に薬を嗅がせられ気付いたらここに居たのだから。
だがユーリ達に、私が彼の仲間だと知られてはマズイと言われたのを思い出す。
『……記憶が曖昧で…。黒づくめとは…?』
「俺達も何が何だか分からないんだが、駆けつけた時にはメルクを人質に取っていたんだ。」
「皆、色々聞きたいことがあるかもしれないけど、彼女にも考える時間が必要じゃなくて?」
ジュディスがそう助け舟を出してくれたので、一度ここまでの事を整理することにした。
確か作戦ではユーリ達の後を追って界層突破を目指すといった話だったはずだ。
しかし、サポート役の彼が居ない所を見ると恐らく作戦は失敗したのかもしれない。
ならば、この界層を皆と共に突破し再び彼に会えば良いだろう。
『……』
不安そうに皆が見守る中、メルクはいつもの笑顔を浮かべ皆にお礼を言った。
『皆さん、ありがとうございます。助けてくださったみたいで…』
「本当、良かったよ!!メルクが無事で!ボクたち、メルクが無理やりここに閉じ込められたって聞いて、いても立ってもいられなくてさ!!」
『(ん?)閉じ込められた…?』
「え?違うの?」
カロルの話が見えなくて、首を傾げる。
私はここに閉じ込められたのだろうか?
もう、ここから出れないとは聞いていないが…?
『私、ここから出れないんですか…?』
「え?いや、そっちじゃないよ!」
今はメルクが敬語なのは誰もが置いておいて、事実の確認をした方が良さそうだ、と誰もが思った。
「ギルドのさ、悪い人に連れてこられてこの第2界層に来てるんでしょ?もしかして違った…?」
『悪い人…?』
どうやら彼らと擦り合わせが必要そうだ。
しかしメルクは嘘が上手い。
擦り合わせればきっと騙せることは確実だった。
本人はそんなこと思わずにやりこなしてしまうので問題は無いが…。
『私気付いたらこの場所に居て…。ここが第2界層なんですね…。』
「そうだったんだ…。大変だったんだね…。」
カロルが心配そうに見てくるので、大丈夫だと伝える為に優しく頭を撫でる。
「あー、こうされるとメルクが戻ってきたって感じ…。」
『あらあら?』
ふふ、と笑うメルクにようやく皆も笑顔が出てくる。
エステルもようやく涙が止まり、顔をくしゃくしゃにしながら笑うので、彼女の頭を優しく撫でておいた。
嬉しそうにそれを受け入れ、またくしゃくしゃと笑った。
『では皆さんは第2界層に挑戦途中だったんですね?すみません、私が邪魔したみたいで…。』
「うーん、確かに挑戦するつもりはあったんだけど…」
「僕達は君を助けに来たんだ。メルクさん、僕からも質問いいかな?」
フレンから優しく問われ、メルクも優しい笑顔で頷く。
それにフレンも微笑みかける。
「君の事を気にかけていた子供が居たんだが…、ココとロロって子供のことを知ってるかい?」
『!! はい!ココとロロは元気にしていましたか?以前、第1界層挑戦後会えずにここに来ていたので…』
「安心してくれ。2人とも元気そうだったよ。今は我々騎士団が保護している。」
『そうですか…。……え、保護?彼らは何かあったんですか?』
「やはり知らないか…」
『??』
何故ココとロロが騎士団のお世話になっているのだろうか。
彼らは自分と同じギルドに所属していて…。
「彼らは何者かに追われて殺されそうになっていたんだ。そこにユーリ達が丁度居合わせて、助けたんだ。」
「あぁ。助けてって求められたからな。」
「メルクを人質にとってた黒づくめの人が2人を殺そうとしてたんだ。」
『黒づくめの人が…。(彼が…?どうして…ココとロロを…?)』
俯くメルクに心配そうに見やる仲間達。
『私も……その人に殺されそうになっていたんですか…?』
「殺す気があったかは分からないが、いつでも殺せると脅されてはいたな。」
ユーリが苦い顔でそう話す。
恐らくだが、彼のそれらは演技だと思った。
だがココとロロに関しては、聞いていないことなので分からない、というのが正直な所だ。
「君は、あのギルドのことをどこまで知ってるんだい?そこが聞きたいんだ。」
『私の所属しているギルドは……子供達の夢の為に在るギルドで…私の植物研究のための費用も道具もギルドが叶えてくれて…。』
「……そっか。」
フレンが困った顔でそう呟く。
他の仲間達もそれに苦い顔で視線を逸らせる。
それに流石のメルクも僅かに困った顔になってはいたが、フレンは意を決してギルドの内情を話す事にした。
子供を殺しては行方不明者扱いにしていたこと、ギルドは色々とまだ隠し事があることを。
その話はメルクにとっては初めて聞いた話で、流石にその顔からは笑顔が崩れていた。
今まで確かにギルドメンバーにあまり会ってこなかったが、夢を叶えるために自分と同じで色々駆け回っているのだと、そう思っていたのだ。
『(アビゴール様…?それが貴方様の求めるものなのですか…?)』
「メルク……」
皆が心配そうに見るメルクは僅かに体が震えていた。
流石に彼女には酷な話だったか。
でも話をしなければ彼女はもっと酷い事をされてしまうかもしれない。
だからフレンも意を決して話したのだ。
ギルドから離れるように、と。
「君の入っているギルドは危険なんだ。すぐにでも離れた方がいい。こうして君は…危険な目に遭っているのだから。」
『……。』
どう言えばいいのだろう。
アビゴール様はそんな事をする人とは思えない。
あの優しい飴玉をくれたあの方が……そんな事をするとは…、私には……。
『ありがとうございます…。知らなかったとはいえ、身内のやった事ですので……ともかくもう一度ギルドマスターと2人で話し合いたいと思います。』
「っ!それは危険だ!彼は君に何をするか分からない!一人で話し合うのは危険すぎる!僕達騎士団も同行する。それなら…」
『有難いのですが…大丈夫です。それよりもココとロロの事、宜しくお願いします。』
メルクが頭を下げるとフレンは動揺したように瞳を揺らし、メルクを見る。
『大丈夫ですよ。』
「なにが、大丈夫なものか…! ……君は、分かっていない…。あのギルドの恐ろしさを…。」
『私もその恐ろしいギルドの一員なんです。何とかしますから…騎士様はどうか子供達のことをお願いします。』
メルクの言葉を受け、何か言おうとするも言葉が見つからず、口を開いては閉じての繰り返し。
どうしたら彼女をギルドから離せる?
どうしたら彼女は分かってくれるんだろうか?
尽きない疑問に遂にフレンは不甲斐ない自分に悔しくなり、唇を噛んだ。
何か言わなければ、彼女はまた何か危険なことをさせられてしまうかもしれない。
騎士として、市民を守らなければならない立場なのに。
「メルク。」
そんなフレンを見てか、この場に漂う重い空気を感じさせないかのようにユーリが口を開いた。
ユーリがメルクの隣に座り込むと、メルクの瞳を覗き込んだ。
「確かに今回の件はお前のギルドのことだ。ギルドのもんがケジメをつかなくちゃならねえ。だが…その前にお前も今回の被害者だ。一概にお前が悪いって訳じゃねえし、何でも一人で抱え込むには事が大きすぎる。」
『……』
もう後戻りは出来ない。
何時ぞやのヴィスキントと同じことを思うメルクは、他の人に気付かれないように俯き、その瞳を曇らせた。
こうなれば、私の“神”の願いを叶えるまでは止められない。
もう、私たちは止まれない所まで来ていたのだ。
ニコリと笑い、顔を上げたメルクに皆が顔を歪めた。
こんな時でもいつもの様に笑う少女の心は、果たして大丈夫なのかと、壊れてやしないか、と。
「……メルク。お前がケジメをつけたいと願って一人で話し合いをするというのなら、俺達はそれを尊重する。」
「ユーリ!!!」
「だが、その時は俺達も好きにさせてもらう。いいな?」
フレンが慌てたように声を上げたが、それを無視し話を続けるユーリ。
その言葉は、ユーリ以外のギルドのメンバーならすぐに察した。
〝その時は俺達も好きにさせてもらう〟
その意味がすぐに分かった仲間達はその場で笑った。
反対にメルクはその言葉の意味を計りかねていた。
何を好きにさせてもらうというのか、メルクには分からなかったのだ。
ただ一つ、分かったことがある。
〝私が“神”をお助けしなければならない〟
もしかしたら彼らは“神”をどうにかするつもりなのかもしれない。
しかしそうなれば、私は…どうなる?
“神”を亡くした私は…〝私〟なの?
『……分かりました。』
「よし!言質取ったぞ。じゃあ最奥まで行くか。」
立ち上がったユーリは手を伸ばし、メルクを立ち上がらせる。
いつもの様に笑っているメルクを見て、大きく頷き仲間達と歩き出した。
俯いてその瞳を曇らせた彼女に誰も気付く事無く…皆は歩き出した。
果たして、この再会は誰もが求めていた再会だったのだろうか。