第2界層 〜恒河沙数たる火蛾の街道〜
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__第2界層、中間地点手前
メルク達は街道を逸れ、木々の中に身を潜めていた。
第2界層へと紛れ込んだ人を先に行かせようという作戦の元、その人たちを待っているとヴィスキントがいち早くその存在に気付く。
「…来たようだな。」
『??』
メルクも目を凝らせて見れば、そこには懐かしい面々が。
声を上げかけて、口を彼に押えられる。
「…馬鹿か。声を掛けてどうする…?」
『すひふぁへん……(すみません……)』
小声で叱咤され、大人しくしているが信用ないのか口から手を退けようとはしてくれない。
「(念には念を入れておくか…)……おい、声を変えられる薬を持ってたな?」
『(こくこく)』
「…効果時間は?」
『……摂取量によります』
僅かに口から手を離し、向こうに勘づかれないようにと小声で話す2人。
薬剤師であり、植物博士でもあるメルクの薬を頼り、声を変えることにしたのだ。
もしかしたら、あいつらがこっちに気付く可能性も考慮せねばならない。
最近とことん運に見放されているからな。
悪い方へと考えておかねばなるまい。
3日分ほど声を変えられる薬をメルクから貰うとヴィスキントは一気にその薬を煽った。
流石は優しい優しい薬剤師サマだ。
飲みやすく、後味も残らない。
試しに僅かに声を出してみると高いのか低いのか分からないような声が出る。
……それも二重に声が出ている気がする。
しかし、普段の自分の声とは全然違う声に満足する。
良くやった、とメルクの頭を撫でるヴィスキントにメルクは嬉しそうにはにかんだ。
『…それでどうするのですか?』
「あまり悪い方に考えたくはないが、あいつらがこっちに勘づいた時には、お前は人質の振りをしろ。」
『??』
この万年笑顔の少女の事だ。
人質に向いてないのは百も承知。
本人に聞いては見たがやはりこの作戦は難しそうだ、と瞬時に作戦を変更し、伝える。
「……いいか?あいつらが近付いてきたら俺はお前に無遠慮に薬を嗅がせる。気絶したお前を縛り、人質にする。……気絶から起きても寝ている振りをしてろ。それ位なら出来るだろ?」
『(こくこく)』
「よし、その作戦で行くぞ。ここで奴らに俺とお前が仲間だと悟られれば、あいつの夢は叶わないと思え。」
『!!』
その言葉に目を瞬かせた少女は、俯き悲しそうな顔をしたがすぐに持ち前の笑顔で顔を上げ大きく頷いた。
あいつ…アビゴールの名前さえ出せばこの少女はやってくれるだろう。
それに嫌悪感を出しながらも、その言葉に頷いた少女を見つめ、視線を外した。
そうして、2人は静かに彼らの様子をじっと見守る事にした。
*.○。・.: * .。○・。.。:*。○。:.・。*.○。・.: * .。○・*.
「メルクー!」
「居たら返事してくださーい!!」
皆がメルクを探す中、ユーリやフレン、レイヴンは辺りを警戒していた。
いつまたあの火蛾と言う奴が湧いてくるか分からないからだ。
「あの街灯が点いてる割に、敵さんが来ないのなー?」
「嫌な予感がしますね…」
「そうか?このまま行けば踏破出来そうだぜ?」
「またまたぁ、青年ってば薄情なんだからー。本当は一番にメルクちゃん助け出したいだろうに。」
「本当、嘘が下手だな。」
「お前ら……」
警戒?している最中、ラピードが何かに気付いたように吠えた。
その声にユーリとフレンが武器を手に取った。
「カロル!エステル!敵だ!!」
「エステリーゼ様!私の後ろに!!」
「え?!敵さんどこにいるのよ?!」
レイヴンが上空を見上げた瞬間、火蛾が大量に街灯へと集っている所だった。
そしてその敵はユーリ達へと襲っていく。
「ぎゃああああああ!!」
「カロル!また装置があるかもしれねえ!謎解きは頼んだぞ!!」
「ぼ、ボクが?!」
「他に誰がいるんだよ!」
敵を倒しながらユーリがそう叫ぶとカロルは装置を探すため辺りを見渡した。
そして街灯の近くに、パティが触っていたあの装置と同じものが置いてあるのに気付く。
慌てて駆け寄り、そこに書かれている謎解きを読む。
「え、えっと……六つの柱、焔の色……交じりて……って、掠れてて読めないよー!!」
「何とかして読め!」
「そんなぁ…!」
しかしやらねば、こちらがやられるのだ。
顔を叩き、気合を入れたカロルは解読に専念する。
「…………やっぱり無理ー!!」
そんなカロルの叫びが聞こえた瞬間、何故か街灯の灯りが赤から黄色、そして白へと変わった。
すると火蛾が悲鳴を上げ、何処かへと飛び立っていく。
いきなりだったので、ユーリ達も不思議そうにそれを見遣る。
「少年!やれば出来るじゃないの!」
「え?ボク、何にもしてないんだけど……」
「じゃあもしかしてリタ達が……?」
「そっちの方が可能性は有りそうだな。」
嬉しそうにする仲間達。
そして先へと進もうとした矢先に、またしてもラピードが何かを察知した。
「どうしたんだ?ラピード」
フレンが珍しそうにそう話し掛けると、ラピードは鼻をすんすんと嗅ぐ様な動作に入り、街道外れの鬱蒼とした木々の方へと顔を向けた。
「ワフッ…!」
「「!!」」
ラピードのその声にユーリとフレンがまたしても反応し、ラピードと同じ方向へと顔を向けた。
「どーしたのよ、青年たち。」
「メルクがいるかもしれねぇ…」
「「え?!」」
「メルクさんの匂いがここで途切れているそうなんです。その後、別の匂いと一緒に街道外れの方へと逸れていった……と言ってます。」
「さっすが!ラピード!!」
「流石です!!」
「よくやったのじゃ!!」
皆が褒める中、ユーリとレイヴンは声を潜めて話していた。
「別の匂いって…?」
「嗅いだことのない匂いだとさ。」
「魔物とかじゃないわよねー?」
「いや、人間の臭いらしいな。」
「もしかして、メルクちゃんをこの第2界層へと押しやった犯人?」
「そいつは、さすがに分からないな。だが、街道を外れるなんておかしいだろ…」
ラピードが走って木々の中に突っ込んで行くので、ユーリ達もそれを追いかけるように木々の間を縫っていった。
*.○。・.: * .。○・。.。:*。○。:.・。*.○。・.: * .。○・*.
「……マジかよ。」
『……』
二人は目の前の出来事に驚いていた。
あの犬がまさかメルクの匂いを嗅ぎ分けられていたとは。
すぐさまヴィスキントはメルクに薬を嗅がせ、気絶させる。
腰にある拘束用の縄でメルクの腕を後ろで素早く縛り上げる。
やはり、こうなるのか…!
上手くいかないものだ、と悪態を心の中で吐きながらメルクの腕を縛り上げると、丁度目の前に現れた犬に分かるようにメルクの首へとナイフを突き付ける。
「じっとしていろ。こいつがどうなってもいいのか。」
二重に聞こえるその不思議な声に、動揺した犬は威嚇をしたもののヴィスキントがメルクの首にナイフを押して当てた事で静かになる。
……余程頭のいい犬らしい。
これで分かるとは最近の犬は凄いな、なんて場違いなことを思いつつ後ろから出て来た面々を睨みつける。
「近付くな。こいつを殺すぞ。」
「「「「「!!!」」」」」
ユーリ達の視線はメルクと黒づくめの人に向けられていた。
腕を拘束され、気絶させられているのかピクリとも身動きもしないメルク。
地面にうつ伏せの状態でその上に黒づくめが押さえつけている状態だ。
更に、そのか細い首にナイフを押し当て今にもサッと切り付けそうな黒づくめの人。
その声から性別を判断するのは不可能だったが、黒づくめの体格的に男の人のようだった。
「……お前、あのガキどもを襲ってたやつか?」
「質問するな。私に指図するならこの女をここで切り捨てる。」
「や、やめてくださいっ…!!」
刃の部分を充てがい、今にも引きそうな状態にエステルが悲鳴をあげる。
「いいか?お前らはこのまま真っ直ぐ進み、この界層を踏破しろ。……少しでも変な事をしてみろ。その時はこうだからな。」
サッとメルクの首に薄い傷を入れた黒づくめに、全員が大人しく頷いておく。
血を流しても起きない様子から、メルクが無事なのかさえ怪しくなってくるが今は敵を刺激させてはいけない。
元来た道を戻り、そのまま街道を歩き出すユーリ達の後ろからメルクを肩に担ぎ、ある程度の距離を保ちながら追ってくる黒づくめ。
手に持ったナイフは変わらず彼女の顔付近に充てがわれていた。
「どうするの……ユーリ……」
「今は従うしかねえだろ…。下手なことをすればメルクの命が危ない。それに……」
「??」
「何を話している。」
黒づくめがナイフをメルクの顔に押し当てた。
慌てて離れるカロルにユーリも静かに歩き出す。
今は光明が見えなくとも、必ず見える。
そう信じているのだ。
なんてったって、ここには2人ほど居ないのだから。
「(頼むぞ……リタ、ジュディ……!)」