第2界層 〜恒河沙数たる火蛾の街道〜
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__第2界層、中間地点
メルクはただひたすら街道を歩いていた。
火蛾という街灯に寄ってくる蛾を避けながら……、または仕掛けを解き火蛾の発生を防ぎつつ進んでいた。
そんなメルクに、声を掛ける者が居た。
「おい、作戦変更だ。」
『!!』
突然現れたヴィスキントに驚き、目を見開いたメルクだったが、知り合いだと分かった瞬間安堵していつもの笑顔に戻った。
『どうしたのですか?』
「他の奴らがこの第2界層に紛れ込んだ。一度離れた場所で待機しておけ。」
『?? でも門の管理は貴方が…』
「あぁ。だが、それを擦り抜けて入っていった奴らがいる。……全く、厄介な…」
『見つからないように行動しなければ、ですね。』
「いや、奴らが過ぎてから行動を開始しろ。その方がお前の負担も少ないはずだ。」
黒づくめのバージョンのヴィスキントにコクリと頷く。
しかし少し疑問が残る。
『……何故、ここまですぐに来れたのですか?』
「あぁ、知らなかったのか?一度踏破した事のある奴はある程度、場所を指定出来るんだ。ま、門の管理を俺がしてるから他の奴らがそれをすることはないだろうが、な。」
『ここを踏破した事あるのですか?初めて聞きました。』
「あー?言ってなかったか?俺は第6界層までは行ってる。」
『!! すごいです…!』
純粋なメルクの褒め言葉に、ヴィスキントが少し狼狽える。
そんな瞳でこっちを見るな、恥ずかしいだろ。
褒められて悪い気はしないもので、頬をかきながら視線を逸らせたヴィスキント。
それも黒づくめだからメルクには分からなかっただろうが。
「ともかく、俺が合図をする。そしたら彼奴らにバレない程度に着いて行ってここを踏破しろ。いいな?」
『分かりました。それまでは一緒にいて下さるんですね?』
「……ま、まぁ、そうだが…」
そんな馬鹿正直に聞かれたら何だか口ごもってしまう。
先程の事といい、調子を狂わされてばかりで苦い顔で視線を逸らせた。
♪゚゚+.・.。*゚♪゚゚+.・.。*゚♪゚゚+.・.。*゚♪゚゚+.・.。*゚♪゚
一方、ユーリ達一行は第2界層へと辿り着き、周りの景色を警戒しながら見ていた。
辺りは薄暗く、街道沿いをずっと等間隔で街灯が点いている為街道自体は明るい。
「ちなみに、第2界層は一体どんな所なんだ?カロル先生?」
「うーん、実はボクも勉強不足で…。メルクと一緒だったら答え合わせをしたんだけど……」
「知ってる情報だけでいいから、言ってみろって。」
「う、うん。ボクの見た本ではこの第2界層は
「ほが?」
聞き慣れない単語に誰もが首を傾げる中、エステルが思い出すように目を閉じ説明する。
「
「ほう?流石エステルは物知りだな。」
「ありがとうございます!」
チラリと皆の視線は例の街灯へと向けられる。
等間隔である街灯には、まだ蛾が
安心は出来ないが、今だけはまだその姿がないことに全員がホッと息を吐く。
「その蛾を避けながら奥まで行けばいいんでしょ?簡単じゃない。」
「界層を重ねていくうちに難易度は難しくなっていく筈だから、気をつけた方がいいと思うよ。」
カロルがリタに注意するも、素知らぬ顔で街道を進んでいく。
それに慌ててカロルも着いていき、他のメンバーも追い掛ける形で街道を進んで行った。
「なんか追加情報ねぇの?カロル先生?」
「うーん、本には蛾のことしか書かれてなかったんだけど、何か噛み付いてくる蛾らしくって、人を襲う凶暴な蛾みたい。」
そこまで言うとカロルの頭頂部へとチョップをかましたリタ。
不満げな顔でリタを見遣るカロルだったが、また叩かれそうなので黙っておいた。
「あんた!先にそういう事は言いなさいよね!?」
「あ、そういうこと……?一応今言うけど、小さな蛾から人の大きさ位までの蛾が居るらしくて、何なら人の大きさ位あるやつはその足で人を捕まえて巣に運ぶって書いてあったよ。」
「馬鹿じゃないの!!大事な事よ?!それ!」
危機を察知し、素早く避難したカロルだったが、判断は正しかったようだ。
「メルクちゃん……、巣に連れていかれてないと良いけど…」
「「「あ…」」」
レイヴンの言葉で何人かが、ハッとした様にその言葉を呑み込む。
もし巣に連れて行かれていたら、食べられてしまうかもしれない。
それにこんな所を1人寂しく居るのもあって、可哀想だ。
早く見つけないと、と誰かが零したのを全員が返事を返し街道を見つめる。
まだまだ蛾は見つかってないが、注意して進むべきだろう。
___第2界層踏破開始から、3時間後
「メルク〜!」
「居たら返事してー!」
仲間達はメルクの姿を探しながら歩いていた。
しかしこの街道、幾ら何でも火蛾なる物が出て来なさ過ぎる。
ただただ道を歩いて進んで行くだけになっていて、仲間達はメルクが巣に連れ去られたのでは無いか、だからこんなに火蛾が大人しいのではないのか、と予想をつけていたからだ。
「こんな所に1人で閉じ込められるなんて…、私には無理そうです。だからこそ、メルクが心配になってきます……」
「その為にも早く見つけてやろうぜ。」
エステルの言葉にユーリが答える。
すると、パティとカロルが何かを見つけたようで大騒ぎしていた。
「何これ?」
「面白そうなのじゃ!ポチッと押してみるのじゃ〜」
「え?!ダメだよ!なんかの仕掛けだったら……」
__ポチッ
カロルの願い空しく、パティが遠慮なく街道近くにあったボタンを押す。
すると何処からか、《ブーーーン》という無視特有の羽音が複数聞こえてくる。
仲間達がそれに気付き、カロルは顔を青くした。
カロルは虫が大の苦手である。つまり、この界層はカロルにとって地獄の界層であった。
「ぃぎゃああああああ!!!!」
「おお!蛾が飛んできたのじゃ!」
カロルの悲鳴をものともしないパティが上空を見上げ、やってくる蛾を見て感嘆する。
ユーリとフレンはすぐに武器を手に取った。
「感心してる場合かよ…!」
「かなりの数だね!皆、気をつけてくれ!」
「この界層やだああああああ!!」
「やってしまうのじゃ!」
1人叫んでいて、頼りにならないが他の仲間達で火蛾を倒していく。
その習性通り、初めは街灯に寄っていくがその後人間を視認すると歯向かってくるのだ。
キリがないと思われるその数に、遂にカロルが卒倒する。
ユーリがそれに気付き、カロルの近くで戦っていると先程パティたちが叫んでいたボタンとやらがある。
しかし、その上には謎かけのようなものがあり戦闘中なので思考がそれに割けない。
「おい、カロル!しっかりしろ!戦闘に入らなくていいから、せめてこれを解いてくれ!」
ユーリがカロルを守りながら叫ぶが、彼は起きてきそうにない。
こういう謎解きが得意なやつ、他にも居たか?
そう考えているとふと、メルクの顔が頭にチラついた。
戦いながらこの仕掛けを解いて居たのだとしたら、かなり大変な作業だったろうに。
ユーリは周りの敵を一掃すると謎解きの問題を見る。
メルクが頑張ってるんだ。ここで俺達が頑張らなくてどうする。
そんな気持ちで謎解きを見たが自分の頭は、早くここから離れたい、面倒だ、と言っている。
「……あー、くそ」
頭をガシガシと掻き、ユーリはリタを呼ぶ事にした。
「おい!リタ!こっちに来れるか?!」
「は?何言ってんのよ!今戦ってんでしょ!!」
「この謎解きを終わらせないと永遠と出てくるぞ!」
「そういうことね!」
魔術の発動後すぐにユーリの元へ来たリタは口元に手を当て、思考に耽ける。
その周りをユーリが戦い、カロルとリタに近寄らせないようにした。
何かを弄り出すリタを見て、呼ぶ人をリタに選んで正解だな、とユーリは笑った。
「ん、終わったわよ!」
「よし!流石だ!天才魔導士!」
徐々にその数を減らしていく火蛾に仲間達がようやく安堵した時、カロルも目を覚ました。
「あれ……、ボク、なんでこんな所で倒れてるんだっけ?」
「おーい、カロルー?しっかりしろー」
最後の一体を片付け、武器を収めるユーリ。
皆もお互いを労いながら集まっていくが、リタはまだあの装置の近くにいて1人何か考え事をしている。
ああなると誰にも止められないのでユーリ達は暫く休憩をとる事にした。
「おっさんも何かの本で読んだんだけどさ。」
「ん?なんか情報あるのか?」
「確か、ここの火蛾ってやつ?自分達の繁殖の為に人間のメスを攫って巣に持ち帰っていくって書いてあったの、今思い出したわ。」
「「「「……。」」」」
軽蔑の眼差しをレイヴンに向ける仲間達に、レイヴンが心外だと叫ぶ。
しかしそうなればいよいよ彼女の身が危ない。
良からぬ想像をした仲間たちの顔はそれはもう青くなっていく。特に女性陣が…。
「こ、こうしてはいられません!!早く出発しましょう!!」
「そうなのじゃ!メルク姐のお腹が虫の卵でパンパンになってしまうのじゃ!!」
「ちょ、いちいち言わなくても良くない?!!」
カロルが余計に顔を青くし、何なら吐きそうな勢いだ。
ユーリ達も大きく頷いた後、リタを呼ぶ。
「おいリタ!行けそうか?!」
「あー…うん。先行ってて。」
何か気になるのか先程の装置を弄っているリタ。
先を急ぎたいがリタがあれじゃ進めないな、とユーリが言おうとした瞬間、ジュディスがリタの近くに寄るとユーリ達を振り返った。
「私がここに残るわ。皆は早くメルクを探しに行ってちょうだい。」
「え、でも…」
「きっと今のこの子の疑問は、後々役に立つと思うわ。だったら、今考えさせてあげた方がいいと思って。」
「大丈夫か?1人で」
「あら、私を信頼してくれないの?それこそ心外だわ。」
「……分かった。ここはジュディに任せる。」
「いいの?ユーリ」
「あぁ、ここはもう敵は来なさそうだし…、ジュディがああ言ってくれてるんだ。お言葉に甘えようぜ。」
ユーリの言葉に賛成した人が何人かいる中、エステルだけは心配そうにリタを見ていたが、それでもメルクの心配もあってどっちに着こうか迷っているようだった。
それを見たユーリはエステルに声をかける。
「エステル、どっちでもいいぞ。」
「ユーリ…。…いえ、私もメルクを探しに行きます!1人で心細い思いをしているはずですから。」
「よし、そうとなれば急ぐか。」
軽く手を振るジュディスを最後にユーリ達は先を急ぐ事にした。
「……礼は言わないわよ?」
「ふふ?なんの事かしら?私は私の意思でここにいるのよ。」
「あ、そう。」
ぷいと視線を逸らせたリタはそのまま装置を弄り出す。
この装置は魔導器が使われていたからだった。
「これさえ解ければ…全部の装置に干渉出来るようになるはずよ。」
「そうなの?なら彼らを待たせておいた方が良かったんじゃない?」
「どっかの誰かさんは早くあの子の事を見つけてあげたそうだったし、良いんじゃない?」
「優しいのね。」
「そんなことないわよ。ただ…複雑なだけよ。」
もう触れないと思っていた魔導器。
それがこんな所で発見されるなんて。
異次元とは言え、リタがそれらを心配になる気持ちは昔から変わらないようだった。
ジュディスも分かっていたのか、もう口を挟むことはしなかった。