第2界層 〜恒河沙数たる火蛾の街道〜
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__帝都ザーフィアス、城内客間
ユーリ達は少年二人を連れ、帝都の城内にある客間へと来ていた。
他の騎士の人たちも敬礼し、中に入れてくれる。
緊張しながら少年たちが客間へと入っていく姿に、フレンとエステルが苦笑いした。
「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ?」
「ええ。エステリーゼ様の言う通りです。ここでは僕達騎士団が、君たちの安全を保障するから変に構えなくてもいいんだよ?」
「お、おう…」
「はい…」
一向に緊張が解けなさそうな二人と違い、他の面々は気楽なものだった。
「お邪魔しまーす。」
「やっと座れるわねー。」
「よっこいしょなのじゃ。」
ドカッと座るリタに、無遠慮に座るユーリとレイヴンとパティ。
それに対してフレンが苦笑いで面々を見遣る。
「君たちは本当、遠慮がないね…。」
「だって、こっちは客なんだから変に気負う必要ないじゃない。」
「それに変に構えなくてもいいってお前が言ったんだろ。」
「僕はこの少年たちに言ったんだけど…まあいいや。」
エステルやフレン、ジュディス達も座ったのを確認し、フレンは頷くと唐突に話し始める。
何故、自分が〈
「まずは…そうだな。僕が態々〈
「あぁ。確か〝他の奴らに知らされてない事がある〟だったけな?確かにそんなこと聞いた気がするな。」
フレンは大きく頷くと、少年たちを見る。
そしてゆっくりと話し始めた。
「事の発端は、とあるギルドから流れてきた情報の件で皇帝ヨーデル様から直々に僕が呼ばれた事がきっかけだった。そこには〈
「ヨーデルが確かに困った顔で何かの文献を読んでいるのは私も知ってました。ですが内容までは聞かされてなくって…。」
「除け者にされたんだな。」
「はい…。」
寂しそうに言うエステルにフレンが何か言いかけたが、話の続きをしよう、とその場を一度切り替えた。
「そこには〝神子〟と呼ばれる存在が居ると書かれていてね。誰の事かまでは書かれていなかったものの〝神子〟なる存在は恐らく世界を揺るがす存在になるだろうことが文献で分かったんだ。」
「〝神子〟?なんじゃそりゃ。」
「〝神子〟とはすなわち、願いを叶える存在…。人間の姿に化けている神の子らしいんだ。…これが本当ならその人は誰彼からも狙われてもおかしくはない。更にその願い事も悪い方向になればまた世界は混沌となる…。皇帝陛下はそれを恐れたんだ。」
「だからその存在を確かめに行くために〈
「あぁ。その通りだよ。後…これを見てくれ。」
フレンが取り出したのは手に収まるほどの小さな宝箱だ。
その宝箱を皆が見える様に開封すると、中には炎のような猛々しい色味を持つルビーの宝石。そしてそこに添えられている小さな紙が一枚あった。
近くに居たパティがその紙を手に取り、文字を読み上げる。
「”この宝石を願い叶える者に食べさせるべし”…。なんじゃ?これ食べれるのか?!」
「研究者に素材などを調べさせてみたが、何ら変哲ないルビーであることが証明された。だからこれを食べることなど不可能だ。」
「でもこの紙にそう書いてあるってことは、その〝願い叶える者〟って人に食べさせればいいんじゃないの?」
そう零したジュディスも宝石を手に取り、いろいろな角度から見てみるが彼女の目からしてもただの宝石に見える。
レイヴンも横から見てみたが、特にこれと言って目ぼしい物がある訳ではなかった。
「〝願い叶える者〟ってさっき言ってた〝神子〟のこと?」
「恐らくそうだ。…騎士の間でもこの話は上層部しか知らされていない。表立って捜索すればその人に危険が及ぶかもしれないからね…。」
「つーか、人に化けてんなら捜索ったって探しようがないだろ?」
「文献によると〝神子〟は七色に輝く羽を背中に持つらしいんだ。」
「そんな派手な人いたらすぐに見つかりそうだけど…。」
「逆にそれなら珍しいって捕らえられて売られちゃうかもしれないわね。」
レイヴンの言葉に皆が顔を歪ませていく。
レイヴンは敢えて最悪な展開を言葉で表してくれたのだ。
折角の好意であるそれを詰ることは出来ない。
「〝神子〟は必ず騎士団が保護する。その為にも僕は第4界層に辿り着かないといけないんだ。」
「何で第4界層なの?」
「未踏破出来ていないところには何かしらのものがあると信じてるからね。あそこは未知の領域だし、何より沢山の未知なるものも見つかっている。だから今現状突破出来ている第4界層へ目を付けたんだ。…早く見つかればいいが。」
「ともかくフレンがそこへ挑戦しなければならない理由は分かった。後はこいつらのことだろ?」
ユーリが少年たちを指す。
少年たちも聞きたいらしく、ユーリの言葉に静かに頷いていた。
「先ほど、僕が言ったことを覚えているかい?文献はとあるギルドから流れてきたのだと。」
「うん、聞いたよ。……もしかしてそのギルドって…〈怪鴟と残花〉のこと?」
「そうだ。あのギルドだけは誰よりも先に〈
フレンがそう言った瞬間、ユーリやレイヴン、ジュディスは勘付いた。
何故態々大人ではなく子供たちが攫われてきたのか。何故殺されたのか、を。
「…何人かはそれで気付いたみたいだね。そうだ。あのギルドは〝神子〟を探していたんだ。そして自分の言うことを聞かせ、願いを叶えさせる為に。その為に生まれたギルドだと僕は推測したんだ。」
「だから要らなくなった子供や、おれたちみたいな勘付いた子供は殺されていったんだ…」
ココが呆然とそう呟くのを大人組が険しい顔で見る。
子供には聞くに堪えない話だったろう。
だが、当事者である彼らにも聞く権利はある。
敢えてここで聞かせたのはそういう理由だろう。
「保護しなければならないと気付いた時にはもう遅かったんだ。殆どの子供たちが行方不明になっていて、それこそ何年も前から行方不明になっている子供もいる。残念だが、生きてはいないと分かったのはその後だった。だからこそ、まだ生き残りの子が居るなら助けないといけないと僕達騎士団が捜査に乗り出したんだ。……あのギルドのアジトを掴むまで時間がかかってしまったが、こうして少しでも生きている子供が居て良かった…。」
フレンがココとロロの頭に手を置き、撫でる。
それに泣きそうになる二人だったが、ココだけは泣くまいと必死に涙をこらえていた。
「恐らくだが、メルクさんに先を急がせ無理やり界層突破をさせ、〝神子〟を探すのが彼らの今の目的だろう。メルクさんは僕達から見ても強い人だったから…。」
「急がなきゃ…!」
カロルとエステルが立ち上がり、焦りを滲ませる。
少年二人も泣きそうになりながらフレンを見る。
「君たちはここにいるんだ。僕達だけで行ってくる。……必ずメルクさんを連れ戻しに来るよ。」
「お願いっ、メルク姉はおれたちみたいなやつにも優しくしてくれた大事な人なんだ…!!メルク姉を…助けてっ…!」
「お願いします…!どうか、どうか…!」
2人はその場で土下座をする。
いつぞやの時も彼らがやっていた土下座。
土下座をしなければやってもらえないと、そう教わっているのかもしれないと気付いたユーリたちの顔が曇る。
余程あのギルドには酷い事をされたらしい事がそれで窺える。
「大丈夫。ちゃんと連れて帰るよ。」
フレンが二人の頭を撫で、顔を上げさせる。
そして二人の手を持つとぐいっと上に引っ張り、立ち上がらせた。
「うわ!」
「土下座なんて必要ないんだ。君たちはもう怖い思いなんてしなくて済むんだよ。」
「「!!」」
フレンのその言葉に涙腺をやられた二人はその場で泣き出した。
その二人の様子にユーリたちはお互いの顔を見て、決意を新たにする。
2人のためにもメルクを必ず連れて帰らなければ、と。
「準備が出来たら行こう。第2界層へ。」
「結局あそこにまた挑むのか。」
「怖いけど…やらなくちゃ…!」
「あたしはメルクさえ無事なら何でもいいわ。さっさと行きましょ。」
「ふふ、貴女って相変わらずドライなのね?」
「うっさいわね!」
そんな言葉を散らしながら、ジュディスとリタは先に客間を出た。
エステルとカロルも慌てて客間を出て、2人を追いかけていく。
「…許せねえな。」
「あぁ。こんなにも酷いことをするなんて…」
「うむ、そこのギルドマスターにはちぃ~とお灸をすえてやらんと駄目なのじゃ!!」
少年二人を残し、他の面々も客間を抜けた。
さあ、果たして彼らは彼女と出会えるのか。
そして〝神子〟は見つかるのか。