第1界層 〜変幻自在なる翻弄の海〜
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__第1界層、七日目の昼下がり
エステルが急いで詠唱を完成させ回復させた後、メルクの元へと駆け寄る。
息はしているようで、エステルは無意識に安堵の息を吐いた。
「エステル!メルクは?!」
「気絶してるだけのようです!!ですが、何処を打ったのか分からない状態なので早めに医者に診せないといけません!」
「了解だ!」
エステルのその言葉に全員が早く終わらせなければ、と決意を新たにする。
シュヴァーンを倒しきったレイヴンも息を切らしながら次のターゲットを切り替え、攻撃を重ねていく。
「最後のやつなのじゃ!」
パティがそう叫ぶと、最後の八本目の足がその姿を徐々に変えていく。
最後の1番強い敵は誰だ?
皆が息を呑む中、変化したその姿にその場の全員が顔を真っ青にする。
何故ならそれは、
「「「「メルク…?!」」」」
そう、彼女だったから。
偽物の彼女はいつもの笑顔を浮かべると、術を発動しようとしてるのか短杖を構えるので慌てて後衛組が偽物メルクへと攻撃を仕掛ける。
やりづらいとか言ってる場合じゃない!
何回か闘ったとはいえ、その強さはまだ未知数に近い。
ユーリ達にとっては最もやりづらい相手なのは間違いなかった。
「……」
短杖を構えた偽物メルクは口を開き、何かを喋っているがその口から声が出ることは無い。
その動作ですぐに分かった。
「詠唱開始してるのじゃ!!」
「皆急いで止めるのよ!」
流石の前衛組も一度偽物メルクの方へとターゲットを切り替え、攻撃をしていく。
しかし剛体があるのか中々詠唱を止めてくれないメルクに、徐々に皆が焦燥感を滲ませていく。
メルクの術発動のタイミングを見極めるのはは極めて困難。
いつ来るか分からないそれに恐怖も滲ませていた。
そんな時、ユーリとフレンは共に自分達の偽物と戦ってお互いに勝利を掴んでいた。
肩で息をする二人だったが、最後の偽物メルクと本体を叩けば終わる。
すぐに武器を持ち、偽物メルクへと攻撃を仕掛けにいった。
しかし、時は既に遅かった。
長い詠唱だとは思ったが、まさか特大の術の詠唱をしていたとはリタも思わず、その身に術を受けてしまう。
光の洗礼を受けた七色の剣が上空より広範囲に降り注ぐ光属性魔術、プリズムフラッシャ。
範囲効果は恐るべき全員で、その光の剣を受け痛みに耐えるがなんと長い魔術だろう。
「くっ…!」
「うあああああ!!」
所々から悲痛な悲鳴が聞こえてくる。
もう駄目だ、誰かがそう呟いた。
そんな時だった。
『•*¨*•.¸¸♬︎.・*’’*・.♬』
優しい旋律がその場を埋める。
途端に空は晴れ、術が消えていく。
そして皆の体が眩いばかりの光に包まれ輝いていくと、先程受けたダメージを簡単に回復させてしまった。
待ちに待った増援に皆が嬉しそうに、何人かは涙を流しながら歌い手を見る。
そこにはまだ床に伏した状態ではあるが、必死に腕と口だけを動かし、歌を紡ぐメルクの姿があった。
「「「「メルク…!!!」」」」
その言葉に少しだけ口元を緩ませたメルクだったが、限界に近く、また必死そうな顔へと戻っていく。
「メルクが頑張ってんだ!!お前ら行けるな!?」
「ボク、頑張るよ!!」
「おっさんもやったるでー!」
「はい!あと少しです!頑張りましょう!」
偽物メルクはまた特大の術でも使おうとしているのか中々魔術が発動しない。
それもそのはず、メルクが先に詠唱を開始して術を相殺しているのだから。
自身の戦い方は自分自身が一番良く分かっている。
だから相殺が可能なのだ。
術を発動しない偽物メルクを好機と捉え、全員が攻撃を集中させていく。
ここで次の魔術を食らう訳にはいかない。
皆の気持ちは一つだった。
「これで終わりだ!」
ユーリがメルクにトドメを刺し、最後に残った本体へと攻撃をしていく。
それは全員の願いが叶う瞬間で、何ならこんなに戦いが長引くとは思っていなかっただけに、皆からするとそれは悲願でもあった。
遂に、その時は訪れる。
《きゅうううううううう!!!!》
独特な悲鳴をあげたヌシは次第にその姿を消していく。
そう、勝利を掴んだのだ。
その出来事に皆が手を取り合って喜んだ。
「メルク!!」
いちばん近くにいたエステルがメルクを抱きしめ、涙を流す。
そしてその感動のままお礼やら謝罪やらをするエステルに、メルクも目を閉じては優しく背中を摩る。
よく頑張りましたね。
そう言いたかったメルクだが、どうやら本当に限界が来たようでエステルに体重を預ける形で気を失った。
それに気づいたエステルは涙を流しながらも、ぎゅっと抱きしめお礼を言った。
「ありがとうございます…!!メルク、身体を休めてくださいね…!!」
「どうだ?メルクの状態は。」
歓声で喜びあっている向こう側から離れ、こちらに来たユーリにエステルが「気絶してるだけのようです。」と答える。
それに安堵の息を吐いたユーリはしゃがみ込むと、メルクの顔にかかった髪に触れる。
こんな小さな体で良く頑張ったものだ。
「エステルもお疲れさん。」
「はい!ユーリこそ!」
笑顔でお互いを労う。
すると先程までヌシがいた場所が眩く光り出す。
それは目を開けてもいられないくらい眩しく、全員が腕を目の前にやり光をやり過ごした。
しばらくその光を受けていたユーリ達。
光が消えたくらいの時には何が何だか分からないと辺りを見渡してみるも、何も起きちゃいない。
「なんだ?さっきの光__」
「きゃああああ?!!」
エステルの悲鳴が聞こえ、全員がそちらへと注目する。
エステルが慌てて立ち上がり、何かを探すような仕草をする。
「メルク?!メルク、どこですか?!!」
エステルのその言葉にユーリも目を見張る。
確かに先程までエステルが抱き締めていたはずのメルクが居なくなっている。
ユーリも慌てて船内を見渡すもどこにも見当たらない。
あんな状態のメルクがどこかに行くなんて不可能だ。
さっきの光の間になにがあったんだ?
全員に訪れた静寂は、皆の気を重くする材料にしては十分過ぎた。
暫くメルクの捜索が行われたが結局、誰一人メルクを探し当てる事は出来ず、船内に彼女の姿は何処にも見当たらなかった。