第1界層 〜変幻自在なる翻弄の海〜
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__第1界層、七日目の朝
いつものように皆よりも早く起きて、そして朝食の準備をするメルク。
そこには昼食に向けての準備も兼ねていた。
〝っつうよりは、甘いもの全般だな。後はマーボーカレー。〟
昨日の彼のあの言葉で、メルクは今日、作ろうと思ったのだ。
朝から仕込めば昼には食べられる。
彼に、少しでも喜んでほしいから。
『今日で、もう終わり。明日からはまた、研究に励まなくちゃ。』
厨房で一人そう零せば、それを聞き取っていたらしい誰かによって再び言葉にさせられる。
「明日から研究に励むのもいいけど、ギルドのことも考えといてくれよ?」
ユーリが厨房に入ってきて、そう告げる。
にやりと笑う彼は悪戯な顔をしていた。
『あらあら?本当にいいの?』
「良いに決まってんだろ?悪かったら端から誘ってねえよ。」
朝食のつまみ食いをしに来たらしく、盛ってある朝食を軽く摘まむ彼に困った顔で笑う。
しかし、メルクの手元の食材を見て目を丸くした。
「もしかして…」
『はい。今日のお昼はユーリの好きなマーボーカレーにしました。今から仕込めば昼には出来上がるから、楽しみにしてて?』
「ははっ、そりゃあ楽しみだ。ヌシが午前中に現れないことを祈っとくぜ。」
嬉しそうに笑顔になるユーリに、メルクもまた笑顔になった。
その後ろから眠たそうに目を擦りながらカロルが入ってくる。
やはりいつものメンバーだ。
『さて…、今日もこっそり三人で朝食を食べてしまいましょうか?』
「「賛成」」
2人が厨房から食堂へと向かう姿を見て、配膳の準備を始めるメルク。
その胸にはドキドキと胸が高鳴るのを感じていた。
美味しい、と彼は言ってくれるだろうか?
メルクは三人分の食事を持って食堂へと向かった。
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__第1界層、七日目の昼
意気込む皆に比べて、不安そうな顔を浮かべる下っ端三人衆とメルク。
否、メルクの表情こそ変わりはないが、内心はすごく不安に思っていた。
決戦はいいが、果たして勝てるだろうか、と。
流石にそんなメルクの内心を紐解ける人物はまだいないようで、皆その笑顔に騙されていた。
「ボクたち甲板に居るけど、向こうはどんな出方をしてくるんだろ…。」
心配になっている人ならもう一人いた。
カロルだ。
他は優雅なもので、一人は読書に励んでいたり、一人は寝転んでいるし。
「そんなに気張ってちゃあ、相手さんも出てこないわよー?」
レイヴンが横になって、欠伸をかみ殺しながらそう零す。
ジュディスもそれには賛成のようで、一つ頷いた。
「余裕を見せといたほうがいいわよ?いつ来るか分からないんだから。」
「だから緊張してるんだって…」
『緊張するのも無理はないわ?私だって緊張してるもの。』
「え?メルクいつもと同じ感じなのに?」
『ええ。緊張してるわ?』
メルクとカロルたちが向こうで話している中、レイヴンはにやりと笑いユーリを見た。
「昨日の夜はお楽しみだったわね、青年?」
「見てたのかよ」
「いやぁ、あんな可愛い子がギルドに入ってきてくれたらおっさん泣いて喜ぶわー。」
「どこまで見てんだよ…」
呆れ顔でおっさんを見るユーリにジュディスも夜の出来事を見ていたようで口をはさむ。
「あら?かっこよかったじゃない。女性の涙を静かに受け止める男性…。きっと彼女も貴方にメロメロね?」
「ジュディもかよ…」
「ユーリにしては女性の扱いが上手だったな。」
「フレンもかよ……。お前ら見てるんだったら出てくればいいだろ?」
「あんな良い雰囲気を出しといて、あそこに入れ、なんて酷いんじゃない?無理に決まってるわ。」
「そーよそーよ!?おっさんたち、マジで胸キュン…!」
「僕はユーリのことだから何かやらかすのでは…、大丈夫かと心配していましたけど…、何とか彼女も落ち着いたようで安心しました。」
フレンたちの視線は今や話題になっているメルク。
笑顔でいつも対応している彼女があそこまで取り乱すのは中々お目にかかれないとも全員思っていた。
「でも、ギルドを追い出されそうになっている…というのは少し気がかりですね…。」
「流石、ユニオンに入ってないギルドね。100人以上のギルドなんて…それも子供だけでしょ?怪しすぎじゃないの。」
「だからここから帰ったらおっさんが調べてくれるんだろ?」
「まぁ、そうね?……あまり期待しない方がいいかも、だけどな…。」
「大丈夫かしら?彼女。ああ言う人って嘘が上手いって言うし、心配だわ?」
皆がメルクに視線を向けていたのが分かったのか、メルクがユーリたちを見て笑顔で手を振る。
それにおっさんが反応し、一生懸命手を振り返していた。
「闇ギルド、じゃないといいけどな…。恐らく黒だろうからお前さんも覚悟しとけよ?」
「分かってるさ。それに、今更闇ギルドで覚悟、なんて…俺ら、たくさんそういうの見てきただろ?」
「それもそうね。」
そんな会話をしていると少しだけ波立った海に、連動するように船が揺れる。
それに全員が気を張ると、タコの足のようなものが甲板にお目見えする。
『!! 〈
「略してタコね!!」
リタがそう言い放ち詠唱を開始した。
ユーリやフレンも武器を持ち敵へと突っ込んでいく。
後衛組も詠唱を開始する中、メルクだけは詠唱を開始しなかった。
『皆さん、気を付けてください!あの足は変幻自在…!何にでも姿を変えられる足です!』
「先に本体を叩け、だったな?!」
ユーリとフレン達前衛組が一斉に本体へと攻撃を仕掛ける。
しかし、それよりも早く足が変化し、カロルの姿に変わる。
「え?!ボク?!」
「チッ。変幻自在って、こういうことか…!」
「皆間違えてボクを攻撃しないでよ?!」
『あの足は声を出しません!それで見分けて下さい!』
「「「了解!!」」」
後衛組で偽物カロルを攻撃していく。
前衛組は本体を叩いていくが、なんと言ってもタコの体…。つまり軟体なのだ。
攻撃しても攻撃しても効いているのか分からないくらいの柔らかボディだ。
「烈震天衝!」
「烈砕衝破!!」
「爆砕ロック!」
「月影尖刃!」
「つーか、これ効いてんのか?!」
「身体が柔らかすぎて逆に気持ち悪いんですけど…」
「少しは効いているようだ…!その証拠に叩けば嫌がる素振りを見せるだろう?」
フレンの言う通り攻撃後に見てみると若干だが嫌そうに身体を揺らす動作が見える。
それに自身を奮い立たせ、攻撃をしていく。
勿論、そこには攻撃を繰り返すラピードの姿もあった。
「ロックブレイク!」
『•*¨*•.¸¸♬︎.・*’’*・.♬』
「トリガーチューン!!」
中・後衛組も負けじと支援していく。
エステルは特に地属性の術を覚えていないため、回復や支援に回っていた。
逆にメルクの方が攻撃型へと回り、術を紡いでいく。
短杖を振るい、指揮者のようにするメルク。
ようやく偽物カロルを倒す事が出来て、皆が安心していた矢先、今度はジュディスの形になっていく敵の足。
「げ…、ジュディスちゃんに変えられるとやりづらいんだけどー!!」
「おっさん、そんなこと言ってる場合じゃないでしょ?!」
「仲間というだけで、かなりやりづらいと思います…!ですが、これも皆で帰るためです!頑張りましょう!」
エステルが励ましの言葉を言い、メルクが気をつけるよう声を掛ける。
『〈
「うへぇ…、これで8番目に青年の偽物来たら、誰も止められないわよ?!」
レイヴンの言葉に、誰もが思った。
「確かに…」と。
「変幻自在なる翻弄の海……、本当にその意味が分かるようです…!!」
「要はその名前の全てはボスに繋がってるってことね!次の界層のヒントになっていいじゃない!」
エステルとリタの正確な分析に、仲間たちは大きく頷いた。
「セヴァードフェイト!」
ジュディスの偽物をパティが仕留め、次に出てきたのはリタの偽物だった。
「よし!天才魔導士少女なら遠慮はいらないわね!!」
「ちょっとおっさん!それ、どういう意味よ!!」
「け、喧嘩しないで下さい!!当たるなら偽物に当たってください!!二人とも!」
エステルが慌ててそう言うと二人の標的はリタへと変わる。
しかし流石はリタの分身で、詠唱が早い早い。
あっという間に術を使われ、ダメージを受ける仲間にエステルとメルクは回復を味方に使う。
『•*¨*•.¸¸♬︎』
「リザレクション!!」
範囲回復術を使用する2人のおかげで、遠くにいた仲間にも満遍なく回復をすることに成功する。
壊滅状態までにならなかっただけマシだが、これが何度も来れば命がいくつあっても足りないだろう。
早期に決したい前衛組は、思いっきり自身の攻撃を本体へと叩き込む。
「4体目、来るのじゃ!!」
パティが敵の足を見て、すぐに察知し皆に聞こえるように叫ぶ。
まだ3体目であるリタも倒せていないのに4体目は流石にきつい。
中・後衛組は一気に偽物のリタへとターゲット変更をした。
「って、4体目って…!」
「あれは、プテラブロンクです!!」
リタとエステルが驚いてそれを見る。
確か、テムザ山にいたギガントモンスターだったはずだ。
「モンスターにまでなるのかよ!!」
「ちょっと、キツイかも…」
前衛組が少し弱音を吐くと、後衛組から嬉しい報せが飛び交う。
「天才魔導少女はやっつけたわよー!」
レイヴンが大声でそう叫んだので、皆が安心するが一人、納得いってないような様子。
次に後衛組が狙うはプテラブロンクだ。
しかし次の変化する間隔が先程よりも早く、5体目が生み出されてしまう。
「!!」
「あれって、レイヴンの騎士団の時の…!」
レイヴンが目を見張る。
それもそのはず、その姿は自分が騎士の時の姿であるシュヴァーンだったからだ。
「まじかよ…」と零すレイヴンに後衛組がついに悲鳴をあげる。
「ちょ、追いつかないんだけど!!おっさんを手にかける良い機会なのに!!」
「ちょーっとちょっと!!リタっち!なんでそんな事言うの!!」
「自分の胸に聞いてみなさいよ!!!」
「もう!二人とも!喧嘩は後にしてください!!」
再び喧嘩に発展しそうな2人だったが、お互い別の敵に目標を決めると4体目と5体目を攻撃していく。
「お前ら!翻弄されすぎだろ!!」
「自分のが出てないからって!青年ひどーい!!」
それでも後衛も前衛も必死に攻撃をしていく。
遂に4体目であったプテラブロンクを倒した、と思われたその瞬間、6体目と7体目が同時に発現する。
その姿は……
「俺かよ!」
「僕か……」
なんと、フレンとユーリだった。
なんて最悪だ。
誰もが思った。
このメンバーの中でも最高火力を持つ二人が同時に出てくるなんて。
それもまだシュヴァーンを倒しきれてないのに、だ。
更に最悪な事に6体目と7体目に出てきたのでその強さは折り紙付きだろう。
そんな中、メルクも必死に攻撃を重ねていく。
メルクはシュヴァーンに対して戦っていたが、偽物のフレンとユーリは何を思ったのか目標をメルクに設定し近づいていく。
それにメルク以外の全員が気付き、息を呑んだ。
「くそっ!!」
ユーリがすぐに踵を返し、フレンも同時に踵を返した。
流石に後衛組である彼女に前衛組の2人、それも高火力DPSである2人の相手は無謀に近い。
フレンとユーリは偽物に追いつくと自分達に目標を変えるように攻撃をした。
すると偽物2人はあっさりと目標変更し、ユーリとフレンへと攻撃をし始め、全員が安堵する。
《きゅうううううう!!!!》
本体のタコが妙な声を上げると、偽物達は急に立ち止まる。
不気味なそれに全員が呼吸をするのも忘れるくらい注視していたその時だった。
ぎこちない動きをした偽物のシュヴァーン、ユーリ、フレンは突如目標を一斉に変えた。
再び、彼女へと───
「メルク!!避けろっ!!」
慌てたユーリが走りながらメルクへと叫ぶ。
それに反応したメルクが歌を中断して目を開け、大きく後退する。
そこへ近くにいたシュヴァーンの攻撃が繰り出されるが、ユーリの叫びで事なきを得たメルクは次に来たフレンの攻撃を首の皮一枚で避ける。
そこへさらにユーリの攻撃が入り、隠し持っていたナイフで攻撃を咄嗟に受け止めるがそこは男と女の差だ。
大きく吹き飛ばされたメルクは船の壁に強く叩き付けられる。
『!!!』
激しい痛みに流石のメルクも顔を大きく歪める。
床に倒れこみ、動かなくなった彼女にその場にいた全員に戦慄が走る。
もしかしたら身体の打ちどころが悪かったのかもしれないし、先程の攻撃でどこか負傷したのかもしれない。
それにかなり攻撃面でも支援面でも支援してくれていたメルクが倒れたことで、戦況が厳しくなるのは明白だ。
「っ、エステル!!」
ユーリが彼女の名を呼んだ事で、エステルは慌てて回復技の詠唱に入った。
その間にも戦況は変わっていく。
フレンとユーリの偽物がお互いのオリジナルへと攻撃を仕掛けていき、魔物本体へ攻撃するのを妨げる。
シュヴァーンも狙いはレイヴン一本に絞ったようで、攻撃を続けていた。
エステルが急いで回復の詠唱を完成させ、メルクを回復させた後、彼女の元へと駆け寄る。
息はしているようで、エステルは無意識に安堵の息を吐いた。
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続きます。
管理人・エア