第8界層 〜蜿蜒長蛇なる深淵の懸河〜
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翌日ともなれば皆は仕事へと奔走する。
大事な少女が見つかったのもあり、捜索に充てていた長期間の仕事を取り戻すためでもあった。
無論、そこにはユーリも含まれている。
今日も城の中は静かである…………否、少女にとってはそうでもないようだ。
「おい、メルク。」
『はい、アビゴール様。(あら…?今日はお声がいつもよりクリアに聞こえますね…?)』
城の中を護衛の双子と一緒に歩きながら話していた少女に、前方から歩いてきていたアビゴールが話しかける。
それに双子が武器を僅かに強く持って警戒をすれば、それを見たアビゴールがふんと鼻を鳴らし、双子を一瞥する。
ズカズカと遠慮なく歩み寄ってきたアビゴールに少女が嬉しそうに笑顔を向ければ、その笑顔に満足したアビゴールが少女の頭を撫でる。
すると暫く撫でていた手を止めたかと思うと、少女の体をいとも簡単に掬い上げ、そのまま肩に担ぐ。
驚いた少女だったが、それよりも双子が慌てて少女を救い出そうと武器を構えた。
カリュ「メルク様!?」
サリュ「何をする!?」
「あーあー…。ピーチクパーチクうぜえよ。少しこいつを借りるだけでそんな喚くな…。騒々しい…。」
サリュ「そう言って、何処かに連れ去る気だろう?!」
カリュ「メルク様、今お助けします!!」
「お前ら、本気で言ってんのか?俺の今の居住区はここだぞ?どこに連れ去ろうってんだよ。あぁ?」
双子とアビゴールの睨みが遂に火花が飛び散る頃、そこへ現れた人物によってその視線は別の所に向けられる。
丁度そこに居合わせたのは、偶然にもヴィスキントだった。
アビゴールに担がれている少女を見て一瞬だけ目を見張ったが、すぐに顔を顰めさせる。
「…何をされてるんですか。貴方は…。」
「おう、暫く見なかったがくたばってなかったか。」
「くたばってたら、貴方の計画は丸つぶれですからね? それを肝に銘じて置いてもらいたいものですがね。」
「ハッ!端から心配してねえよ。お前の実力は俺が一番知ってる。こんな所でくたばるかよ。ただの挨拶だろ、挨・拶。」
「全く…。貴方という人は…。」
「ふん。お互い様だがな。」
何やら不穏そうな会話も、二人には当たり前らしい。
双子が更に警戒を強める結果になってしまった所へ、今度はまた別の問題児が現れる。
ダッシュでこちらへ向かってくるその人物は、アビゴールやヴィスキントからすれば見慣れた姿の人物であり、あれほど普段お淑やかにしろと調和を合わせていたにも関わらず、その人物は城の廊下を一目散に走っていたのだ。
その目的はやはり…。
「メルクちゃ~~~~んっ!!!!」
「「はぁぁぁ…。」」
アビゴールとヴィスキントが同時に長い溜息を吐いた。
頭を抱えて項垂れる二人は、目的の人物を視認して呆れていた。
あの偽神子様はこの少女の事となると人が変わるものだから困る。
そう思っていたからだ。
「…今日はツイてねえな…。」
「酷く同感します。」
「おい、逃げるぞ。」
「ええ、そうしましょう。」
アビゴールもヴィスキントも偽神子を振り切るようにして、反対方向へと走り出す。
双子が一瞬遅れてそれを追いかけるが、それよりも早く横を偽神子が走り去っていく。
そのスピードたるや、最早人間の域を超えている気がした。
「「はや?!」」
流石の双子もその速さに瞠目する。
そして同じく逃げていたアビゴール達も、後ろから迫りくる偽神子のスピードに怪訝な顔をさせていた。
「おいおい、どうなってんだよ!あいつの足はよ?!」
「このままでは追いつかれてしまいます!メルクをこちらへ!!」
「チッ!仕方ねえな!!」
投げ渡した少女をヴィスキントが受け取り、お互いにスピードを上げる。
元々ヴィスキントのスピードについてこられる者などいない。
いくら少女を肩に担ごうが、今は羽根の様に軽い少女の弊害など、ヴィスキントからすれば無いに等しい。
アビゴールよりも先に進んだヴィスキントはふと考える。
────"自分は何をしているんだろう"、と。
こんなことをしてる場合ではない気がするのに、何故アビゴールに加担してしまっているのか。
逃げ切ったヴィスキントは少しだけ乱れた息を整えながら後ろを振り返れば、アビゴールの罵声がこの廊下にも響き渡る。
どうもアビゴールはヴィスキントに対してではなく、あの偽神子に対して怒っているようである。
反対に偽神子もそれに反抗するように抗議している声が、ヴィスキントの居るこの場所まで届いてくる。
やれやれと呆れたように首を振ったヴィスキントの耳に、少女の笑い声が届く。
肩に担いでいた少女を見れば、口元に手を当てておかしそうに笑っている。
その笑い声に多少緊張を解いたヴィスキントもまた、口元に笑顔を湛えているのに気付かぬまま少女を見下ろしていた。
「全く…。俺たちは何をしてるんだ…。ガキのように追いかけっこは勘弁だが…。」
『あらあら、まぁ?それでも、お二人の仲の良さが垣間見えた気がしました。』
「…まぁお互い、長い付き合いだからな。」
敬語を外したヴィスキントが、顔を歪めながら煩わしそうに頭を掻く。
そしてアビゴールの方を振り返っていた身体を走っていた方向へと戻し、歩き出した。
すると前の方から今度はフレンとエステルが見え、思わず面倒そうな気配を察知したヴィスキントだったが、その時には既に遅かった。
少女を抱えているヴィスキントを見て、二人が不穏な事を思い描いてしまったようだ。
武器に手を掛けたフレンが見えて、ヴィスキントが余計に頭を抱える。
「…チッ。面倒なことになった…。」
『あらあら、まぁ…?これは確かに…見る人からすると大変な構図ですよね…?』
「逃げるぞ。」
『私を下ろせばいい話では?』
「あいつが何かお前に用事があったんだろ?なら、ここで降ろして武器を持ったあいつらに引き渡せば俺があいつから説教かまされるのが目に見えている。それだけは時間の無駄で、勘弁だからな。」
『あらあら、ふふ。なら、私はヴィスキント様とならどこまでも逃げますよ?』
「……お前、そんな言葉どこで覚えた?」
『何かおかしかったでしょうか?』
「天然ものか。」
サッと振り返ったヴィスキントは休ませていた長い足を再び動かし、フレンたちを振り切る様に走り出す。
そして目の前に見えたアビゴール達に声を掛ける。
「そこのお二人!話なら別室でお願いできませんかね!」
「は?」
「?? アビゴール様?ヴィスキント様の後ろから騎士の方が般若の形相で追いかけてきてますよ?」
「はぁ?!! お前っ、何してくれてるんだ!!」
「話は後です!!貴方の部屋に直行しますよ!!」
「チッ!本当、今日はツイてねえ!!!」
アビゴールも走り出し、偽神子も走りだせばフレンや騎士たちから猛抗議の声が上がる。
そのまま三人はアビゴールが勝手に使っている自室へ身を滑らせて、扉に鍵をかける。
その数秒後に扉を激しく叩く音が鳴り響いた。
「あぁ、クソッ!面倒だ!!」
「お二人が私から逃げるからですよーだ。」
「それもこれも、あなたがあんな速度で迫ってくるからでしょう?あんな速度で迫られれば、誰だって逃げたくなりますよ。」
『ふふっ、ははは…!!』
「「「!!」」」
少女がこれ見よがしに担がれたままおかしそうに笑う。
そんな少女の様子に偽神子も声に出して笑ってしまえば、残る二人は呆れて肩を竦めさせた。
しかしそんな状況下でも扉の方はけたたましく叩かれている。
二人がどうするか、と天を仰げば少女が"扉越しに説得する"という提案をする。
それが無難だな、と考えた二人は少女を下ろし扉の前に向かう少女を見遣った。
果たして、どれほど効果のあるものなのか…。
『騎士様!私は大丈夫です!ただ追いかけっこをしていただけなので!』
「「………。」」
その少女の可愛い戯言に、アビゴールとヴィスキントが渋い顔をする。
合ってはいるが、それを言われると大人のプライドとして"違う"と否定したくなる。
その後も少女の説得の甲斐あって、騎士たちが扉前から退散したのが分かり、二人は安堵の溜息を長~く吐く。
アビゴールが自室の椅子にドカッと座れば、その横に偽神子も堂々と座り、僅かにアビゴールから批判の目を向けられていた。
するといつの間に入っていたのか、黒猫が一つ鳴いて少女の足元に擦り寄った。
それを抱き上げた少女を見て、偽神子が腰を上げて一緒に黒猫を愛でに行こうとするも…黒猫が他者に懐くはずもなく、ただただ威嚇されていた。
「フシャー!!」
「みゃ~~~~!!!」
「……何だあれは。」
「メルクの副作用の微症状に反応する猫だそうです。…この猫が鳴くときは気を付けられた方が良いかと。」
「ふん…、放っておけ。猫に構ってる暇などない。」
「で?貴方は何故、メルクを肩に担いでいたのですか?何か用事があったのでは?」
「あぁ…。…………?? あ?何だったか…?」
「………忙しすぎて記憶が飛んでるじゃないですか。」
「うるせえ…。最近頭が痛くて、それどころじゃねえんだよ…。」
「断酒したからじゃないんですか?それは。」
呆れた口調で言うヴィスキントを睨んだアビゴールだったが、その視線を物ともせずに逆に嘲笑ったヴィスキント。
そんなアビゴール達の言葉に少女が聞き逃さずにキャッチする。
慌ててアビゴールの傍に寄った少女は心配そうにアビゴールの顔を見つめる。
『…頭痛に悩まされているのですか…?』
「?? あぁ、そうだが?」
『…少々席を外してもよろしいですか?お薬の方、調合いたします。』
「……まぁ、お前が調合したやつなら誰よりも安心できる、か…。よし、行ってこい。あとお前も一緒にだ。ヴィスキント。」
「……………………はい。」
「ハッ!何か用事もあったのか?」
「用事だらけですよ。どこかの誰かさんの所為で。」
それでも命令には従うようで、少女の傍に寄ったヴィスキントは目配せをして扉の外へと促す。
その扉の前では相変わらず、偽神子と黒猫の一進一退の攻防が続いていた。
毛を逆立てて威嚇をする猫VS黒猫に触りたい偽神子の構図の出来上がりである。
余計に頭を悩ませたアビゴールは、僅かに頭痛の訴えをする。
小声のそれも、少女には届いたようで余計に心配させる羽目になった。
『…ヴィスキント様、急ぎましょう。』
「ええ、そうしましょうか。…どっかの誰かさんが、過労で倒れる前に。」
「テメェ…。覚えておけよ…?」
「フッ。覚えていれば、ですけどね。」
そう言って去って行った二人を睨んだアビゴールだが、少しの間だけ休憩が取れたことに安堵していた。
そのまま椅子に座った状態で目を閉じたアビゴールはすぐに寝息を立てていたのだった。
◆+。・゚*:。+◆+。・゚*:。+◆+。・゚*:。+◆+。・゚*:。+◆
『アビゴール様、お辛そうでしたね…?』
「まぁ、ここ最近は信者共への布教やら面倒やら立て続けに見ていたからな。あいつにしては心配になるほど働いていたな。」
『…ただの頭痛だったらいいのですが。』
「なら、あの医者に診せるか?…クックック、面白い事になりそうだぞ?」
『あらあら、まぁ?おすすめしたいような…お勧めしたくないような…。』
「逆にあいつの悲鳴が聞こえて、スカッとするかもしれないな?…やってみるか。」
『まぁ、勝手に薬剤師が薬を処方するものでもありませんし、先に診てもらいますか?』
「いや、あいつならきっと危機察知して逃げてるはずだ。なら、先に症状の緩和だけでもさせておくとするか。…材料は足りるのか?」
『調合室を見てみない事には何とも言えませんが、確か…何かの薬品が盗まれたそうなんです。』
「は?薬品がか?……ここの警備はずっと手薄だな…。呆れて物が言えない。」
長い溜息を吐いていれば、調合室へと辿り着き、扉を開けるヴィスキント。
そこには例の話をしていた医師もいて、ヴィスキントは瞬時に顔を歪めてその人物を見遣った。
「げ…。」
「おやおや…?珍しいですねェ?お二人して、ここへ来るとは。」
『アビゴール様が体調が悪い様子で…。』
「ほう?聞き捨てならない言葉ですねェ?医師として。……彼は今どこに?」
その瞬間、流石に少女も言い淀んだ。
今さっき、症状の緩和だけを目的にここに来たというのに、彼の事を言うのは憚られるようで。
『いえ、その…。頭痛だけみたいで、取り敢えず症状の緩和だけでも、と思いまして…。』
「メルクさんならご存じのはず。頭痛と言えど侮ってはいけない事を。……ふむ。彼の場合、過労ですかねェ?」
「まぁそうだろうな。」
「心筋梗塞や脳梗塞の疑いを考えるべきですが…。やはり検査いたしましょう。私も心配になりましたので。」
「あいつなら自室に居る。部屋番号なら、G-Jだ。」
「ムフフッ…!! 情報提供、ありがとうございます。おふたりとも。」
子供が泣きそうな笑顔で去って行った医師を見送り、少女は不安そうな顔でヴィスキントを見上げる。
教えても良かったのか、と言った顔をさせた少女に、ヴィスキントはフッと笑って少女の頭を撫でる。
そして調合室の中へと遠慮なく入って行った。
「どうせ、時間の問題だ。お前がああ言ってしまった手前、あの医者は何が何でもあいつの体を診たがるだろうしな。なら早く行かせた方があいつの為にもなる。」
『…やはり、お優しいのですね。ヴィスキント様。』
「ふん、そう思うなら早く探すぞ。」
『??』
「盗まれた薬品があると言っていただろう? それが何か突き止めて、犯人を炙りだしてやる。こんな些細なことでどっかの誰かさんを連れ去らわれる訳にはいかないからな。先日の謎の誘拐事件だって未解決のままなんだ。些細な事でも突き止める。」
『ヴィスキント様…。』
「薬品ならお前の方がお手の物だろう。早くしろ。」
『…はい!』
頼られてることへ対してなのか、喜んで顔を綻ばせた少女は昨日の様に薬品の確認に入る。
一つ一つ丁寧に。
しかしそんな少女の手も、とある音で止まる事となる。
「────うわあああああああ……?!!!!!」
「……フッ、アッハハハハッ!!! 聞いたか?!あいつのあの悲鳴!!傑作だなっ!? 」
ヴィスキントが大笑いすると少女も困った顔をしながらも、口元は笑っている。
遂には腹を抱え始めたヴィスキントはしゃがんで笑いを堪えようとするも、その甲斐虚しく、結局吹き出している。
「クッ…、フフッ…!あー……、ヤバいくらい可笑しいな…?」
『あらあら、まぁ?』
頬に手を当て笑いながらも薬品の確認を行えば、また二人の耳にアビゴールの悲鳴が聞こえてくる。
またしてもその悲鳴にヴィスキントが笑い、少女もそれにつられて笑顔になる。
すると薬品を確認していた少女の手が止まった。
『……これ、かもしれませんね…?』
薬品棚に書かれている薬品名とそこに該当する瓶が見当たらない。
それも、その薬品名は知る人ぞ知る“毒薬”であった。
薬剤師なら知らないはずがない毒薬の為、少女の顔が僅かに強ばる。
それに気付いたヴィスキントが笑いを止めて、少女を見上げた。
「……見つけたか。」
『……かなり毒性の強い毒薬が持ち出されてます…。ひとたび人間の体の中に入れば……人によっては即死もあるかと…。』
「となると、かなりまずい状況になったな。もしそれが悪用されれば…。」
『……ヴィスキント様…。』
「あぁ、分かってる。だが、俺だけでは薬品の扱いに不安が残る。お前も捜索に協力しろ。」
『……! はい!』
嬉しそうに少女が頷いたのを見て、ヴィスキントが頷き辺りを見渡す。
そして少女を一瞥し、言葉を連ねる。
「……他に失くなった薬品がないか、調べろ。こんな事をする犯人なんだ。他の薬品も盗っていておかしくはないからな。」
『分かりました。慎重に調べますね?』
「あぁ。それこそあの医者が戻ってくるまでに───」
「おや?まだ二人ともこちらに居たのですか?」
「……チッ。厄介な奴が戻ってきたな…。」
「どういう事ですか!!何故そんなに邪険に扱われてるんですか?!私!!」
「……そういう所だろ…。」
ヴィスキントの肩を掴み、目をこれでもかと見開きながら興奮している医者に呆れた顔をさせて、体を仰け反らせるヴィスキント。
その間にも少女は失くなった薬品が無いか、慎重に調べていく。
そんな様子の少女に医師が首を傾げるので、ヴィスキントが先手を打って説明をした。
何ならその医師にも同じ質問をする。
「何の薬品が失くなっているのか、医師として把握してるのか?」
「あァ…それですか…。えェ…一応は確認済みですが…。恐ろしい事に、全て毒薬ばかり持ち出されてましてねェ?」
「思い当たる人物とか居ないのか?」
そこまで言い切ったヴィスキントを珍しそうに見る医師は、恐る恐る聞いてみる。
「……もしや、忙しい身であるはずの貴方自身が、わざわざ犯人を探してくださるので?」
「あぁ。それくらいしないと、またあいつを攫われても敵わないからな。」
「毒薬を持ち出した犯人と、先日メルクさんを攫ったのは同一人物の可能性が大きい、と……そう言うのですか?」
「それもまだ不明だ。だがこういう小さい事が後々、
嫌そうではあるが、そう言い切ったヴィスキントを見て医師も手を叩いて賞賛を贈る。
そして医師がとある場所へと歩いていくと、その手に紙を持ってヴィスキントの元へと戻っていく。
その紙を彼に渡した医師は、子供が泣くだろう笑顔で少女を見ながら話し始める。
「……それが、今回紛失した薬品の一覧です。メルクさんに見せたらすぐに分かると思いますが…、全て毒薬の類いです。それも……致死性の高い薬効の毒薬ばかりが、ねェ…?」
「こんなもの持っていって何をする気なんだか…。」
「それは分かりません。ですが、ただ毒薬も人間に害があるだけじゃないですから。」
「……“毒も薬になる”と言いたいのか?」
「はい。ですから一概に、殺害目的で盗られたとも考えにくいので困ってるんですよ。」
「……まぁ、肝に銘じておく。」
「はい。そうしてください。…では、犯人探し頑張ってください……っと、その前に。メルクさんにあまり無理をさせすぎないであげてくださいねェ? まだ食事指導中で、目が離せない私の大切な患者ですので。えェ。」
「分かっている。だからこそ、この間宝石を飲ませなかったんだろうが。」
「えェ、えェ…。分かっていますよ。一応、念の為ですよ、念の為。……ちなみに、アビゴールは過労の診断が出ていますので暫く拘束・監禁です。」
「……フッ。ざまぁみろ。」
それを聞いてほくそ笑んだヴィスキントは、すぐに真面目に取り組んでいる少女の名前を呼ぶ。
そして先程医師から貰った紛失物の一覧表を渡した。
その一覧表を見た少女は目を丸くさせてその紙を凝視する。
『……毒性の強いものばかり…。』
「やはりそうか。医者もお前もそう言うなら確実だな。」
「困りましたねェ? 何故毒薬ばかりを…。」
「むしろ、ここの警備はどうなってる?と聞きたいくらいだ。こんな大事な薬品なら鍵でもかけておけ。」
「それはこの城の医師たちに言って欲しいですねェ?あくまで私は、後から来た身ですので。」
「だから言っている。警備を見直すか、錠のついた施錠を考えておけ。」
「分かりました。前向きに考えさせてもらいます。」
「行くぞ。」
『はい!』
どうやら少女もやる気に満ち溢れているようで、返ってきた返事が思いのほか元気だったのを、医師もヴィスキントも目を見張って少女を見る。
その顔にはありありと「やります!」といった表情が垣間見えて、二人がフッと短く笑う。
こうして二人は毒薬を盗んだ犯人を探すべく、パーティを組む事になったのだった。
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毒薬窃盗事件の犯人は…?