第7界層 〜永久不変たる薄霧の鍾乳洞〜
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___第??界層、白の空間。
白い空間へとやって来た少女は、ボーッとその空間を見つめていた。
そこへ例の声が降り注ぐ。
《私の神子……可愛い、可愛い…私の神子よ。》
『…ユグドラシル、様…。』
《良くやりましたね。第7界層踏破おめでとうございます。例の物を差し上げましょう。》
そう言って少女の手には例の小さな宝箱が置かれていた。
そう言えば前回のもまだ口にしていない。
呆然とユグドラシルを見つめていた少女だったが、すぐに頭を切り替え、
『ユグドラシル様…お答え下さい!あの力は一体なんなのですか…?もしかして神子の力が…他人に移る力なのですか……?』
《私の神子よ。神子の力が他人に移り変わるという事はまずありません。それは安心していいでしょう。》
『ほっ……。それを聞いて安心しました。』
《私の神子はあなた一人…。貴女以外が成り代わるなど、天変地異が起きようともあり得ません。》
『では、あの力は…?』
《ここでお教えしても良いですが、折角ならここで知識をつけてみてはどうですか?》
『…例の図書館ですよね…?』
《えぇ。ですが、何もない状態で探すのも苦労するでしょうから……そうですね…。“勇者”という言葉が書かれている本を探しなさい。》
『“勇者”…?』
《私の神子…。貴女が完全踏破するその瞬間を楽しみに待っていますよ。》
『あ…』
その瞬間、少女は元の世界へと戻されていた。
呆然と〈
そんな少女に仲間達が無事を祝い、抱き着く。
しかし少女の心の中はただ一つ───“勇者”という言葉だけがグルグルと回っていた。
……何故か、不穏な響きのする言葉だ、と感じていた。
そんな少女を不思議そうに見て、仲間達は具合でも悪いのだと片付け、少女の肩へと手を置き、城への帰還を促した。
呆然としていた少女はわずかに頷いただけで仲間達とともに歩き出した。
それを見たユーリが嘆息して少女を見る。
ユーリ「(なんか、変な事でも言われたのか…?)」
心配そうにユーリが見ている少女の背中は、いつもよりも頼りなさげに、小さく見えていた。
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城へ帰還した少女は、医師の元へ連れて行かれて診察を受ける。
ただ、いつもと様子が違うだけに医師も怪訝な顔で少女を見ていた。
カルテを書いていた手を止め、医師が少女に向き直る。
医「…何か、気になる事でも?」
『…え、』
医「心、ここに在らず……でしたよ?」
『……第7界層を踏破して、ユグドラシル様に会って……大したことは言われなかったので…少し元気が無かっただけだと思います。すみません、ご心配おかけしました。もう大丈夫です。』
医「…そうですか。」
それにしては元気がない上に、少女はいつもなら医師に向き直り視線が合うにも関わらず、今日だけは全く視線が噛み合わない。
何か悪い事の予兆じゃなければ良いが…。
医「何かあれば言ってください。私はメルクさんの主治医ですから。」
『ありがとうございます。』
ようやく視線が噛み合い、医師も笑顔を向けた。
〈
取り敢えず病室で休むよう言われて、そのまま少女は受け入れた。
医「後で様子を見に行きますので、誰かさんみたいに脱走しないように。」
『あらあら、ふふ…!私はそんな事しませんよ?あれはユーリだからです。』
医「全く……。暫く拘束しなければならなくなるとは、あの時は思いもしませんでしたよ。騎士の方々からも聞きましたが、あんなに脱走癖があるなら先んじて拘束しておくべきでした。」
『ふふ!』
可笑しそうに口元に手を当てて笑う少女に安心して頭を撫でてあげれば、嬉しそうにはにかみ、それを受け入れていた。
ユーリ「おいおい、逃げないって言ってただろ?」
『ユーリ!』
医「一度脱走した人が何を言いますか。」
診察室の扉に手を掛けては、こちらを怪訝な顔で見ているユーリに少女はクスクスと笑っているが、医師は呆れた顔で彼の顔を見ていた。
医「今度入院なら、即拘束です。」
ユーリ「はぁ?!」
『ユーリ、日頃の行いですよ?』
ユーリ「メルクまで…。」
それでも少女に元気が出たのなら、と二人は少女の表情や冗談に安心していた。
そして少女が医師にお辞儀して病室へ移動しようと椅子から立ち上がった時、少女が何かに気付いたように立ち止まった。
それに二人は不思議そうな顔で少女を見る。
医「どうしました?」
『…………いつもより、身体が軽い、んです…。いつも以上に身体が軽くて…?』
不思議そうに自身の手を見つめる少女に、二人は怪訝な顔でお互いを見てから少女を見つめる。
そんな少女は二人が見てるとは知らず、背中に羽根が生えてないか確認してみたり、足におかしな点はないか確認したりしていた。
何もないと分かると困った顔で首を傾げて歩き出す。
しかし歩いた瞬間、違和感があるのか立ち止まっては足を確認する少女。
流石に様子のおかしい少女の肩を叩き、医師が歩みを止めさせる。
医「…大丈夫ですか。」
『…いつものように歩けないんです。本当に軽すぎて……ふわりと浮いているように感じます…。』
ユーリ「??」
医「…メルクさん、歩いてみてもらっても?」
医師の話を聞いて大きく頷いた少女は、今一度先程の様に歩く。
そして医師がその歩き方を見て、「ふむ…」と言葉を濁す。
医「(確かに…いつもと歩き方が違います。思いのまま行かない様な…。というよりあの高いヒールの踵の部分が地面に付いていない…?)」
『どうでしょうか?』
医「…確かに違いますね。それにメルクさんは気付いているかは分かりませんが……歩く時に踵がついていませんよ。」
「『え?!』」
流石に気付いていなかった様子で、二人して驚いて少女の足を見る。
恐る恐る歩く少女の踵のヒールは確かに多少浮いているように見えた。
ユーリもそれを見て驚いた様に顔を顰めさせる。
『……私…』
医「ここまで来るときに気付かなかったのは、もしかしたら何か気掛かりなことがあったからなのでしょう。」
『……。』
僅かに目を見張った少女だったが、バレたか、といった困った顔で医師を見た。
それに笑って医師が頷くと、少女の脇へと手を入れ軽々と持ち上げる。
医「…ふむ。余計に軽くなったかもしれませんね。ただでさえ羽のように軽かったですが…、このふわりと持ち上がる感覚は病みつきになりそうですね。」
『ふわりと…』
『まぁ、先程診察もしましたし、これ以上検査を重ねても今のメルクさんには負担でしょうから、今日の所はゆっくりと休んでください。』
『そうさせて頂きます…。』
医師がそのままゆっくりと少女を下ろすと、違和感がありながらも少女はゆっくりと病室へと戻って行った。
その場に残った二人は心配そうにその後ろ姿を見つめる。
ユーリ「で?原因は何が考えられるんだ、お医者さんよ?」
医「…未知数ではありますが。最初メルクさんの体重が軽くなったのは例の副作用が原因でした。しかし今回は飲み込んでなさそうにも関わらずああいった現象が起きている……。恐らく、〈
ユーリ「……そうか。」
だが、〈
だからこそ、ユーリは返事に困ったのだ。
医「経過観察ですね。」
ユーリ「検査でも分かんねぇなら、仕方ないよな…。」
医「ただ一つ、身体が軽い時に限ってお二人は抗いきれない強烈な眠気に襲われてますから、注意願いたいですね。」
ユーリ「……そうだった!ちょっと、メルクのこと見てくるわ。」
医「はい。お願いします。」
慌てて出て行ったユーリを見届け、医師が新たにカルテに書き加える。
他の患者とは明らかな異常を見せる少女のカルテ。
医「…医師として、必ず暴きたいものです。どの様な患者でも治せる…医師として。」
憂いた言葉は誰に聞かれる事なく消えていった。
大きな息を吐いては椅子にもたれた医師は、ユーリと少女のカルテを見比べる。
医「…?」
何かに気付いたように医師が改めて体を起こし、カルテを見比べる。
そして医師は僅かに目を見開いたのだった。
‥‥・*・‥‥………‥‥・*・‥‥………‥‥・*・‥‥
慌てて少女を追いかけて行ったユーリは、歩きづらそうな少女の後ろ姿を発見する。
その後ろ姿を見てユーリはニヤリと笑い、少女を掬い上げるようにして横抱きにすれば、先程医師が言っていたようにスッとではなく、ふわりと持ち上がる。
……そうまるで本物の羽を持ち上げたように。
『きゃっ…!?』
ユーリ「ははっ!驚いたか?」
『ユーリ!』
確かにこれは病みつきになりそうだ。
人間を持ち上げるのとは違う感覚で、このふわりとした持ち上げ感は……中々癖になる。
驚いた様に手を胸の前にやり、身体を強張らせた少女だったが、持ち上げた主がユーリだと分かると、少しだけ緊張を解く。
『急にどうしたのですか…?』
ユーリ「はあ…。そろそろ敬語を直してくれるといいんだがなぁ?」
『はっ…!』
口元を押さえ、ハッとする少女。
しかし困った顔で笑われてしまえばユーリも苦笑いで少女を見遣る。
ユーリ「病室だろ?歩きにくそうだし、このままで行くか。」
『ありがとう、ユーリ。』
ユーリ「おう。」
横抱きのまま歩き出せば、少女は頭をユーリの身体へと預ける。
そして不安そうな表情を浮かべたのだ。
ユーリがすかさずそれを見て少女へと問う。
ユーリ「……なんか、ユグドラシルに言われたのか?」
『……。』
いつもなら笑顔でサラリと躱す少女も、今日ばかりは何故かその表情を引き締める事もなく、ユーリの服をキュッと掴んではユーリの胸へと自身の顔を隠すように頭を動かすものだから驚く。
ユーリが思わず立ち止まり少女を見て唖然とすれば、少女は更に強くユーリの服を握った。
ユーリ「……。」
そのままゆっくりと歩き出し、ユーリは前を見た。
お互いに沈黙したまま目的地でもある少女の病室へと辿り着いたが、ユーリが少女を下ろすことも……少女がユーリの服から手を離すこともなかった。
ユーリ「……ゆっくりでいいから、話せるなら話してみろって。」
『……。』
ユーリ「あいつに何言われたんだ?」
『…………何も、言われなかったんです…。』
ユーリ「そりゃ、流石に嘘だろ。じゃなかったらお前がそんな顔するはずないしな?」
『……本当なんです…。何も…教えては下さらなかった…。あの図書館で探せと言われました…。』
ユーリ「……マジか。」
あの図書館はユーリには地獄だ。
しかし少女が行くというのなら、行くしかないのだが。
『でも一つ…。あの副作用…ユーリに神子の力がいってる訳ではないそうなんです。そこだけは安心してください。』
ユーリ「それは教えてくれたのに別の事は教えてくれなかったのかよ。…誰も彼も、勿体ぶるよなぁ?」
『だからこそ知りたい……。……あの力の事も…。(勇者のことも…。)』
最後の言葉だけは口に出すのは憚られた。
それを言えば勘の良いユーリに何かしら気付かれてしまうだろうから。
ユーリ「じゃあ、またあそこに行かないといけないのか。他の奴らも呼んでサッサと行くか。まだ仕事とか、行く体力残ってないだろうしな。」
『…。』
ユーリ「……不安、か?」
『知るのが怖い……。でも、知らないと前へは進めないので…。』
ユーリ「……どんな結果だろうが、大丈夫だろ。前に言っただろ?なんとかなるってよ。」
少女はそれでようやく大きく頷き、ユーリの服から手を離した。
それに合わせてユーリが少女を下ろし、ベッドへと寝かせれば、少女はお礼を言ってユーリを見上げた。
『ユーリもゆっくりと休んでください。…〈
ユーリ「その時はその時、だな。でも、あくまでも俺がやった事だから自分のせいにするなよ?」
『…うん。ありがとう、ユーリ?』
ユーリ「じゃあな。」
そう言って病室の扉を潜ったユーリはあくびを一つ零す。
あぁ、〈
早く今日は寝ることにするか。
ユーリはそのまま気楽に帰路についたのだった。