第7界層 〜永久不変たる薄霧の鍾乳洞〜
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途中の船はユーリの巧みな話術とやらで漁師の船を出してもらって、簡単に辿り着いていた。
ユーリ「さて、辿り着いたわけだが…。何か作戦でもあるのか?」
『…正直、試したことがないものなので…ユグドラシル様に会えるかどうかは五分五分です。もしこれがダメなら、第7界層を踏破して会う事にします。』
ユーリ「逆にそっちの方が手っ取り早そうだが…あいつらも居ないと、攻略は難しそうだよな…。」
少女はゆっくりと〈
そしてそのまま言葉を紡いだ。
『どうか、"ユグドラシル様の元へ"…。』
すると扉が開き、身体を預けていた少女は吸い込まれるようにそのまま中に入っていったのを見て、ユーリも扉の中へと入る。
しかしそこはいつだったかみたいな白の空間ではなく、見渡す限り広大な"図書館"のような場所だった。
遥か頭上に広がる本棚の高さに眩暈がするほどだ。
所々、本が浮かんでいて不思議な光景を生み出しているが、こんな不可思議な光景を見ても少女が驚かないところを見る限り、どうやら少女にとっては知っている場所のようだ。
『…ここは、図書館…ですね。ここで調べろという思し召しでしょうか…?』
ユーリ「…つったってなぁ?ここの文字、全く読めない言語で書かれてるぜ?」
空中に浮かんだ本を手に取り、そのまま中を見たユーリだがすぐに顔を顰めさせ本を手放してしまった。
しかしユーリが手を離したところで、その本はふよふよと再び浮いては何処かへ流れていく。
それを珍しそうにユーリが眺めると、少女は一冊の本を手にして真剣に読んでいた。
それも…その本もユーリには知らない言語で題名が書かれていたのにも関わらず、少女は真剣に文字を目で追っていた。
ユーリ「……マジかよ。」
読めるのかよ、という疑問を口にすることなくユーリは取り敢えずこの広大な図書館を探索することに決めた。
本を読む柄じゃないし、何より本を読むのは苦手だ。それが、知らない言語ならなおさらだ。
例のキュアノエイデスを手に持ち、ユーリは図書館内を散策した。
しかし何処もかしこも本、本、本……。
本酔いしそうなほど、この空間は本で埋め尽くされていた。
随分と高い場所までやってきたユーリは一度下を見下ろすと、最初の位置から変わっていない少女を目にして「げ、」と口零す。
よくそんなに集中して読めるものだ、と変に感心してしまう。
ユーリ「なんかねえかな…。」
本なんて死んでも嫌だが、適当な本を手に取り中をペラペラ捲るが……やはり読めそうにはない。
いや、本嫌いだからというのもあるが、マジで知らない言語で書かれているので一文字も読めやしない。
挿絵でもあればそれがヒントになって少女に持って行ってやれるが、と期待して何度も何度もページを捲るが、挿絵すらない本を元に戻す。
ユーリ「しっかし、こんな場所があったとはなぁ…?」
上から少女を見下ろすユーリは、階段の柵に寄りかかりジッと少女を見つめ続ける。
知的な少女もいいが、頬を赤く染めた少女が見たい。
そんな我儘なユーリの心に、ユーリは一度首を振り考えを打ち消す。
今邪魔をしてどうする。
余計にここに居る時間が長引くだけだ。
悶々と考えるユーリだったが、少女がふと本から顔を上げ、何かを探す様に辺りを見渡したことから自分を探しているのかもしれないと考え付く。
それに大きな声で少女を呼べば、驚いたように顔を上げ、本を抱きしめる少女。
そして嬉しそうな顔で本をこちらに見せてきたではないか。
『見て下さい!!これ、異世界にある植物が載ってるんです!!』
その言葉にガクッと倒れそうになり、階段の柵に掴まり事なきを得た所で少女を改めて見直す。
それはそれは目を輝かせて言うものだから、何かあったのかと思ったが……そういう事な?
ユーリ「おいおい、そいつはいいが…探さなくていいのかー?! 副作用の事が書いてある本ってやつをなー!」
下に居る少女に聞こえる様に大声で言葉にすれば、ハッと少女の顔が引き締まる。
…まぁ、好きな本が見つかったのは良い事だが。
そして周りを見た少女は顔を強張らせて、恐々と一歩一歩後ろに下がっていた。
それを見て不審に思わないほど、勘が鈍いわけでもない。
『…!!』
恐怖をこらえた顔をしたあと少女は大急ぎで何処かへ走っていく。
それに驚いていれば、少女の後を追いかける様に本の形をした魔物が追いかけていくのが見える。
ユーリ「ッ?! そういうことかよ…!」
ようやく自分の出番だ、と高いところから一瞬で飛び降りれば不思議な力が働き、地面に着くときには不思議と痛くなかった。
…一瞬副作用の事を思い浮かべたが、そういう事ではない事が分かる。
降りる時の浮遊感が全くなかったからだ。
ユーリ「ここの重力すげえな…。こりゃあ、ちぃと戦いづらいか…?」
少女の走っていった方向へと駆け出すと、奥の本棚に囲まれた場所へ追いやられている少女の姿。
そのままキュアノエイデスを魔物に振るえば、少女の顔が明るくなる。
『ユーリ…!!』
ユーリ「ようやく、俺の出番ってわけだな。っつーことで、魔物は俺に任せな?」
魔物と少女の間に入り込み、にやりと笑えば、頼もしいと思ってくれているのか少女の顔が安心に満ちた顔をする。
しっかし、魔物も本とは……。
ユーリ「…マジで本酔いしそうだな…。」
『…? 本酔い…?』
ユーリ「いや、こっちの話…。」
出てくる魔物を一掃すると、少女の歌が始まり回復を掛けてくれたことが分かる。
怪我はしてないが、それでも心配性な少女の事だ。
念のために掛けてくれたであろうことが窺える。
ユーリ「ん、サンキュ。」
『こちらこそ、ありがとうございます…。いきなり現れたのでどうしようかと…。』
ユーリ「ま…、一応ここも〈
『一人で来なくて正解でした…。危なかったです…。』
一応護身用なのか、手に持っていたナイフを懐に戻す少女を見て頭を撫でて安心させれば、ようやく笑みが戻る。
ユーリ「つーか、ここの重力どうなってんだよ…。ふわふわして気持ち悪いな…。」
『高い場所の本も取れる様に、でしょうか…?』
ユーリ「そんなことで重力が軽減されてるなら、ここを作った奴は相当な本好きだな。リタのやつやエステルに紹介してやりたいくらいだぜ…。」
まぁ、本を読めるとは限らないが…。
少女も同じことを思っていたのか、くすりと笑みを一つ零した。
それを見てユーリも同じように笑えば、再びユーリには辛い、長い読書の時間が訪れる。
周りに警戒しながらユーリは武器を持ち、少女は椅子に座って真剣に書物を読み漁る。
時折果敢に……いや無謀ともいうが…、そうやって挑んでくる魔物を撃退しながら、ユーリは欠伸を零していた。
あぁ、暇だ。…実に暇だ。
再び欠伸が出てきてしまい、そのまま堪えずに欠伸をすれば少女が顔を上げ、ユーリを心配そうに見遣る。
『……やっぱり、まだ副作用が…』
ユーリ「いや、何もないから眠くなる。…つーか、本に囲まれたら眠くなるだろ…?」
『あらあら、ふふ…!ユーリが本が苦手だって事が、今、とても良く分かりました。』
ユーリ「最初からそう言ってるっつーの。ふわぁ…」
『あれなら少し横になってても大丈夫ですよ?』
ユーリ「おいおい、誰が魔物の相手をするんだよっと。」
近付いてきた魔物を剣を振るうだけで倒せば、少女は困った顔でそれを見届ける。
しかしこんな場所に居たら時間の感覚が狂ってくる。
一体どれくらいここに居たのだろうか。
『そう言えば、お腹がすきませんね…?』
ユーリ「ん?そうだな…。確かにな。」
おかしなことに、結構な時間をここで食っていたと思っていたが、そうでもないのか腹は空かない。
空腹感に苛まれるよりマシだが…本当に時間の感覚が狂ってるのかもしれねえな。
ユーリ「なぁ、何個か本を持って帰って一旦外に戻ろうぜ?時間の感覚が狂っちまってるわ。」
『そうですね。確かに…。』
少女は本を見繕うため、本棚に近寄り適当な本を取り出す。
そしてそれを胸に抱えると、図書館最初に入った扉へと歩み寄る。
それに倣い、ユーリも扉の近くへと寄り扉が開くのを待ったが……少女が手に掛けても扉が開きそうにない。
『あ、あれ…?そんな…』
ユーリ「ん?代われるか?」
『はい。』
少女と場所を交代し、ユーリが目一杯力を込めたが…開くものが開かない。
よくよく観察すると、扉には複数の鍵穴のようなものが見つかる。
……これってまさか、この広大な敷地から鍵を探せという事か…?
しかもこの鍵穴の数だけ?
ユーリ「おいおい…まじかよ。鍵を探すのか…?こんな場所で、か?」
『……広い、ですね。』
二人で唖然としていたが、探し回らねば終わることもないし、ここから出る事すら出来ない。
ユーリ達は別れることなく鍵を探して回る。
魔物がそこら中をうろついていたからだ。
『魔物が落としてくれれば、一番手っ取り早いのですが…。』
ユーリ「そうだな。」
近付いてきた魔物を一掃すれば、その内の一体から金属のような物が落ちてカランカランと軽快な音を立て床に落ちるのを見る。そして少女と共に目を見開いた。
まさか、鍵か…?
少女がそれを取りに行き、地面に落ちたそれを拾い上げると大きく頷いた。
『ユーリ!鍵です!』
ユーリ「なるほどなぁ…。つーことはここは俺に任せて、メルクは本でも読んでろ。」
『よろしい、のですか…?』
ユーリ「寧ろそれしかねえなら、その方が効率がいいだろ?戦闘班と読書班に別れるぞ。……見ただろ?あの鍵穴の多さ…。結構時間がかかると思うぜ?」
少女の持っている鍵を見れば、金色に輝いているピカピカの鍵だ。
それと同じものを探せばいいのか、それとも違う種類を探せばいいのか…。
ともかく鍵を集めればいい話だ、とユーリが武器を肩にやれば少女も頷き、中央のテーブルで読書を再開させた。
それを見届けたユーリは、そこら中に居る魔物という魔物を倒していき、着実に鍵を拾い上げる。
ユーリ「よしっ!これで三つ目、っと。」
後何個あったのだったか…。
数えておけばよかった、と最初の扉の前に行けば軽く10個くらいは鍵穴があり、それに引き攣った笑いを零してしまう。
…ただでさえレアなアイテムなのに…それを十個以上も探すとなると骨が折れそうだ。
感覚としては十数体に一個、鍵が落ちればいい方だと感じた。
しかし出ないときは出ないので、完全に運任せだろう。
溜息を吐きながら近寄ってきた魔物を瞬殺すれば、また鍵が落ちる。
……今度は銀色の鍵か。
ユーリ「もう少し手応えのある魔物がでてくりゃあ、こっちも楽しめるんだがなぁ…?」
ジュディスみたいなことを言うユーリだが、少女の周りの警戒も怠らずやれば、魔物がわんさか少女に近寄っていくのが目に見える。
それに軽く剣を振るえばあっという間に魔物が散っていく。
…どうやら読書をしている人間を襲う傾向にあるようだな。
『……あれ?これって…。』
少女が何かを読み取ったのか、そう零したのを聞き、ユーリは少女の近くに寄る。
するとその本には挿絵があり、見たことのある剣が描かれていた。
ユーリ「ん?こいつは…これじゃないのか?」
手に持った剣を持ち上げれば、少女も本から顔を上げ頷く。
そしてとある文字の所を指し、ゆっくりと指の腹でその文字をなぞった。
『……ここに、"キュアノエイデス"と書かれています…。』
ユーリ「つーか、マジで読めるんだな…。すげえわ…。」
『恐らく、これは石板に書かれていた文字と同じだと思います。だから私が読めるのかと…。』
ユーリ「ん?石板って?」
『〈
少女が文字を追っていってしまい、肝心の石板からは離れてしまった。
…その石版とやら、とても気になる。
『…
ユーリ「…やっぱ物騒な剣じゃねえか…。」
『属性は水…。水攻撃、攻撃力+15%…、熱毒耐性……。』
ユーリ「いやに図鑑的な説明だな?」
『ええ…。そう書かれてるんです。…………?』
ユーリ「ん?どうした?」
『……。』
真剣に読む少女の姿を見て、隣に座ったユーリ。
しかし少女の顔を見て冗談が言えそうにない事が分かる。
それはそれは恐ろしいほど、その本を真剣に読んでいたからだ。
『……退魔、の剣…?』
ユーリ「??」
『……????』
読んでいる本人も分からないのか、首を傾げ、困った顔をしていた。
そして顔を上げ、ユーリの顔を見ると更に首を傾げられた。
『…途中、専門的な単語ばかりで良く分かりませんが…どうやらその剣は、悪を断ち切る剣だったようです。』
ユーリ「悪を断ち切る剣? 海を割る剣じゃなくてか?」
『それもあるようなんですが…。うーん…?その力を使うには、何か別のものを掛け合わせる必要がありそうです。』
ユーリ「…まぁ、要はすごい剣ってことでいいんじゃないか?」
『ふふ。そうですね?』
ようやく笑った少女だったが、周りを見て顔を青ざめさせる。
『ゆ、ユーリ…?魔物が…』
ユーリ「あぁ、サクッとやっちまいますか。」
ゾロゾロと現れていたらしい魔物を見て、重い腰を上げたユーリが一瞬で倒してしまった事もあり、少女の拍手が飛び交う。
多く見える分、見た目以上に大したことは無かったな。
そんなことを思いながら、ユーリが少女を見れば少女は床に落ちた鍵を何個か集めて回っていた。
『すごいですね…。5個も鍵がありましたよ?』
ユーリ「これでやっと8個めか。あと数本だな。」
『…やはり手分けをしますか?』
ユーリ「いーや?俺一人で大丈夫だぜ?」
『すみません。お世話になります。』
ユーリ「得手不得手があるだろ? 俺は本を読むなんてさらさら御免だぞ?」
『あらあら、まぁ?』
頬に手を当て、いつもの様に微笑んだ少女。
それにユーリも笑顔で返す。
そしてそれぞれの役目を果たすべく、お互いに読書と戦闘に分かれて手分けをする。
本で何かあればユーリを呼び、鍵が見つかればそれを拾い集め───とうとう、その時は訪れる。
ユーリ「よーし、サクッと開けてしまうぞ。」
ユーリが次々と鍵を適当に鍵穴に差し込んでいる姿を見て、少女はドキドキしながらそれを見届ける。
本当にそれで開くのだろうか、と心配になりながら少女は祈る様に胸の前で手を組ませた。
最後の鍵穴に差し込んだユーリは、カチリと音を立て鍵を捻る。
するとすべての鍵が光り輝き、あっという間に消滅してしまった。
しかし、扉が重い音を立てて開くとユーリ達はその扉に吸い込まれるようにして入って行った。
そして───
「『……。』」
どうやら〈
やっとのことで外に出れたユーリ達は安堵の息を吐き、少女はその場で膝をついた。
『出れないかと思いました…!!』
ユーリ「な?何とかなるもんだろ?」
『……そうです、ね…。』
その瞬間、少女が急に倒れてユーリが慌てて抱き起す。
すると少女は寝息を立てて、眠っていたのだ。
安らかな寝息を聞いて、例の副作用だと気付いたユーリは安心して息を吐き出した。
そのままユーリは少女を抱え、城に帰還する。
するとなんと半日も経っていない事が分かり、ユーリは医師に少女を預けたあと、フレンから説教を受けていた。
双子も同じくしゅんとした様子で再び説教を受けており、それを通りすがりの騎士たちが不思議そうに見ては通り過ぎてゆく。
フレン「まったく…今回は怪我がなかったからよかったものの…。」
ユーリ「まぁ、いいじゃねえか。何にもなかったんだからよ?」
フレン「君は楽観的すぎる!!もし、また彼女が〈
ユーリ「ま、大丈夫だっただろ?」
フレン「それは結果論だ。今度からは誰か他の人も付き添う様に…」
ユーリ「はいはい。」
フレン「ユーリ!」
親友同士の喧嘩は中々終わりそうにない。
だが、ユーリの表情は晴れ晴れとしたものだった。
ようやく少女が一歩を踏み出そうとしているのだから。ユーリにとって、これほど嬉しい事はないのだろう。
ユーリ「さて…メルクが起きたら、第7界層に行くぞ。」
フレン「は?また君は急に…」
ユーリ「ちょっと急がないと危ないもんでね?」
フレン「……彼女の事か?」
ユーリ「あぁ。だからいっちょ頼むわ。」
フレン「…分かった。そういうことなら協力しよう。他の人の宛てはあるのか?」
ユーリ「挑むってんなら、仕事そっちのけでも来るだろ?あいつらなら。」
フレン「無理ない程度で、だぞ?」
ユーリ「分かってるって。」
さあ少女の副作用を軽くするためにも、早く第7界層を踏破してしまおう。
その為にはまずは仲間を収集するところからだ。
目覚めた2日目の日。
少女は仲間達と共に、第7界層へと挑む。
その胸には必ずユグドラシル様に会うと強く誓って───