第7界層 〜永久不変たる薄霧の鍾乳洞〜
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ユーリが倒れたその日、仲間たちは少女の心配をしていた所だった。
何故なら、面会禁止となり一週間も姿が見れず、お預け状態なのだ。
仲間としては、そろそろ少女の何らかの情報が欲しいところである。
パティ「かと言って押し掛けると、メルク姐が具合が悪かったときシャレにならんしの…。」
カロル「元気だったらそれでいいんだけど…。」
ジュディス「流石に元気にしてるんじゃないかしら?じゃなかったら医師から何か説明があるはずよ?」
そんな話の中、ユーリが目を擦っていた。
それに気付いたレイヴンがユーリをからかいに掛かる。
レイヴン「もしかして夜更かしでもしちゃったわけ?」
ユーリ「ん?…いや、そうでもねえんだが…。なーんか眠いんだよな。」
レイヴン「ちょっとちょっとー。青年までメルクちゃんみたいなこと言わないでちょーだいよ。」
ユーリ「ま、ただの眠気だろ?寝ればすぐ治るって。」
レイヴン「じゃあ、昼寝でもして来たら?丁度昼ご飯食べ終えたばかりだから、おっさんもちょっと眠ぃ~…。ふわぁ~~…。」
カロル「ちょっと二人とも!ちゃんと聞いてる?!」
カロルがそんな二人を叱咤すると気の抜けた返事が返ってきて、仲間達が呆れかえる。
そんな二人を放っておいて、勝手に作戦会議に入るカロル達を見て二人が肩を竦めさせる。
ともかく少女が元気なのか知りたいだけなら、医師に確認すればいいだけの話なのだが、……何故か少女の病室へと潜り込む話になっている。
逆に呆れている二人だったが、遂にユーリが違和感を覚え始める。
ユーリ「(あぁ…くそっ…。何でこんなに眠いんだ…?)」
レイヴン「……青年?」
ユーリ「あ?どうした…?」
レイヴン「本当に眠そうだけど、大丈夫そ?」
ユーリ「あぁ、…やっぱちょっと寝てくるわ。」
レイヴン「ほい、行ってらっしゃい。」
レイヴンがユーリを見送って視線を仲間達へと戻した直後、背後から物音がする。
驚いて背後を振り返れば、ユーリが道の真ん中で倒れていた。
それに慌ててレイヴンが駆け寄り、大きな声でユーリの名前を呼ぶとそれに気付いたカロル達も視線をユーリの方へ向け、そして驚いた顔をする。
カロル「え?!ユーリ?!!」
パティ「医者じゃ!!!」
エステル「私も行きます…!」
リタ「ちょっと待ちなさい!あんたはこいつに回復を掛けて!私が代わりに行くわよ!!」
そう言って手分けをしたカロル達があり、少女の病室に居た医師と少女にユーリが倒れた話がいったのだ。
祈る様に待っていた少女もユーリがただ寝ただけと知り、安堵するとともに少しだけ不安になる。
何故、倒れるほどユーリは眠気を我慢していたのだろうか。
いや、それよりも今の自分の体と昔の自分の状況…そしてユーリの現状が酷似している。
それに不安にならないはずがない。
まるで、副作用がユーリに映ってしまったかのような―――
『…そんなこと…』
―――無いと思いたかった。
でも、今現状痛みを感じ、前の様に眠くない様になり副作用が薄れてしまった自分の体、そして体が軽くなったと言って眠りについたユーリ。
そう考えると証拠が揃い過ぎていた。
『(もしかして、私に神子としての能力が無くてユーリに神子としての能力が移った、とか…?だとしたら、いつなったんだろう…?)』
眠りについて、起きたらユーリに抱き締められユーリの体が光り輝いていた―――あの時だとしたら…もしかしたらあの行為自体は………。
恐ろしい考えが過ぎり、ブルリと体を震わせた。
駄目だ、ユーリに神子をされては困るのだ。
そうなれば今度はユーリが犠牲になってしまいかねない。それだけは……なんとしても阻止しなければならない。
「ニャー?」
不安な顔をしていたからか、黒猫が私の顔を見上げ不思議そうな声で鳴いている。
少女は表情を微笑みへと変え、黒猫を撫で上げた。
そして、決意をする。
『(ユグドラシル様に聞かなければ…。でなければ私は…。)』
なんとかして〈
その為には、誰かに付いてきてもらいたいが…ユーリはダメだとして……。
『…ヴィスキント様なら…』
あの方なら私の願いも叶えてくれるかもしれない。
ただ…お忙しい方だから、捕まるかどうかは賭けになるが…。
『ユグドラシル様に会えなくとも…〈
「……ニャ。」
まるで、駄目だと言っているかのように猫が短く鳴く。
そして、そのまんまるの金色の瞳にじっと私だけを映していた。
諭されたような気分にさせられ、少女は微笑みながら黒猫を撫でる。
大丈夫、少しだけいってくるだけだから。
―――そう呟いて。
♪+゚*†。:゚+。♪+゚*。†:゚+。♪+゚*。†:゚+。♪
少女が動き回れるようになり、双子の監視も復活しつつある中…少女は例の人物の捜索に自分の時間を
ひたすら何かを探すような行為に、双子が不思議に思わないはずがなく少女へと尋ねていた。
サリュ「メルク様、何かお探しですか?」
カリュ「私どもも手伝いますよ?」
『そうですね…。実はヴィスキント様に用事がありまして。』
「「…。」」
不安そうに顔を曇らせた双子に少女は大した用事ではないから、と話し笑顔を向ける。
その笑顔に簡単に騙された双子は、少女と一緒にヴィスキントの姿を探す。
しかし、その姿は幾ら探しても見つかるはずもなく、たまに一緒にいるという偽神子であるリコリスでさえ会えない日だった。
困った三人は数時間かけて特定の人物をこの広大な城の中を探し回っていたこともあり、一度庭園で休憩することになった。
椅子に座った少女だったが、休憩にするにしても何か飲み物がないといけないと再び立ち上がったものの、それを見越していた双子の片割れが紅茶を用意してくれるというので、それに甘えさせてもらった。
カリュ「こうして探し回ると改めて思いますが……、やはりお城は広大ですね…。」
『ヴィスキント様自身、お忙しい方ですから……。それで会えないのかもしれません…。』
カリュ「肝心な時には現れず、要らないときに現れるとは…全く…。」
二人で溜息を吐くと、あまりにも同じタイミングで溜息を吐いたものだから二人して笑ってしまう。
そんな中、双子の片割れが帰ってきて、紅茶を人数分入れてくれる。
植物に囲まれながら紅茶を嗜むのは少女にとっては癒しであり、温かな紅茶を飲みながらほうと息を吐いた。
『この場所で、ずっと休憩していたいですね…?』
「「同感です…。」」
双子も気が緩みそうになり慌てて気を引き締めると、三人の耳に突如聞きなれた声とガサガサという音が聞こえてくる。
揺れ動く植物の中からガサガサと現れたのは、ユーリだった。
出てきては「よ。」と手を上げるその人物に三人とも首を傾げさせては、その本人を見る。
だって、彼は検査続きで暫く面会制限があった人物だったはずだからだ。
サリュ「えっと…何故こちらに…?」
カリュ「確か…検査続きで面会禁止とまでなっていたはずですが…?」
ユーリ「上から三人の姿が見えたもんでな?」
そう言って、病室だっただろう場所を指さしたユーリ。
そこへ三人が目を向ければ窓が完全に開放されており、脱走してきたことが明白であった。
『あらあら、まぁ…?ダメですよ、ユーリ?脱走は。』
ユーリ「メルクに言われたくないなぁ?いつだったか、点滴抜いて脱走しようとしてたくせにか?」
『うっ、』
「「メルク様…。」」
呆れた双子の声に、慌てて弁明しようとする少女だったが、ユーリが近くに寄ってきたことに過敏に反応を示していた。
一歩踏み出したユーリに対し、ほんの僅かだったが、少女が一歩後退したのだ。
それに気付かない三人ではない。
試しにユーリが少女へ歩みを進めれば、明らかに少女は足を後退させた。
「「「…!」」」
その不思議な少女の行動と、今ヴィスキントを探している少女の目的。
嫌な予感がした双子はお互いを見て大きく頷き、平静を装った。
サリュ「…ユーリ様、そういえば丁度いいところにいらっしゃいました!実は剣術についてお聞きしたいことがありまして。」
そう言ってサリュは少女に気付かれない様にユーリへと目配せをする。
カリュは同時に少女に紅茶を進めようとしているところだった。……ユーリの脱走について呆れるような発言をしていたが、今は気にするまい。
ユーリは静かにサリュの言葉に従い、二人は少女から離れたのをカリュが見て安堵する。
目の前の少女は気付いていない様に目の前の紅茶に舌鼓を打っている。
それにニコリと笑ったカリュは、少女へ世間話を持ち掛け話に花を咲かせることに成功する。
…この嫌な予感が的中しなければいいが。
…
…………
…………………………
サリュ「ユーリ様。実はお耳に入れたいことが…。」
ユーリ「…。」
サリュ「実は…今、メルク様はヴィスキント様をお探し中でして…。」
ユーリ「は?何でまたあいつなんかに…。」
サリュ「それが…理由をお聞きしてもはぐらかされるんです。大した用事でもない、と仰られていたので私どもも一緒に探してたのですが…先ほどのメルク様の行動で不安になりまして…。」
ユーリ「……マジかよ。俺の検査中に何があったんだ…?」
サリュ「先日、メルク様も隔離解除となりましたし、その間誰の接触もなかったはずなのでヴィスキント様への用事も大したことないのだろうと踏んでいましたが…。どう思われますか?」
ユーリ「ぜってぇ、なんかあるだろ…。…はぁ、まずいな。あいつら揃いも揃って違う場所なんだよなぁ…?取り敢えず、メルクにその用事とやらを聞いてみようぜ?」
サリュ「了解しました。」
ガサガサと植物の間から顔を覗かせたサリュとユーリに驚く様子もなく、ふわりと笑っている少女は二人を手招きした。
そして紅茶を淹れてくれる少女へ二人が礼を言うと、二人も椅子に座り再び束の間の休憩が始まった。
『ユーリ、分かります…。分かりますよ…。』
ユーリ「ん?何の話だ?」
『お医者様の検査…本当にすごいですよね…。痛いくらい分かります…。』
ユーリ「あぁ、その話な?」
そう言って笑うユーリはいつも通りに少女へ接する。
タイミングを見計らって聞き出すしかないだろうな…ここは。
ユーリ「検査にあんな機械要らねえだろ…って何度思ったか…。」
『えぇ、本当です…。』
サリュ「そんなに激しい検査なのですか?城の医師の検査なんて大したことはありませんよ?舌を診て、胸に聴診器を当てて終わりですから。」
カリュ「本当、そんなものですよ?」
『特殊な機械を使われているので、余計だと思いますが…。』
ユーリ「あのヴィスキントの野郎でも嫌がるんだ。相当だろ…?」
四人でそんな話をして二人だけから笑いをする。
あぁ、あの機械は空恐ろしい…。
ユーリ「…そういえば、メルク。ヴィスキントの野郎を探してるって聞いたが…」
『あ、そうなんです。大した用事ではないのですが…お会いして話がしたくて。』
ユーリ「その用事って?」
『…。』
気まずそうに視線を逸らせた少女に三人が息を呑む。
やはり大した用事なのでは…?
『…ユーリにバレたくは無かったので、言いたくは無かったんです…。』
ユーリ「俺だけ?」
『はい。……ユーリ、最近眠いらしいですね…?』
ユーリ「あ、あぁ…。まぁな?最近夢見が悪くてな。」
『だから、私が飲んでいた薬と同じものを差し上げようと思ったのです。ですが、皆さんお忙しいのでヴィスキント様ならこの願いは叶えてくださると思いまして…。』
ユーリ「逆に奴が俺のために動くとは思えないが…?」
『そうですか?なら、私の薬が無くなったので、と言っておきます。期待して待っててくださいね?ユーリ。』
ユーリ「だったら俺が―――」
『駄目ですよ?ユーリ。私のを見ても……そんなことが言えますか?』
いつ眠気に襲われるか分からないのに、敵地に行くのは危険だ。
強張った表情のまま俯いた少女をじっとユーリが見つめる。
…正直、今回の言葉は確かに筋が通っていた。
だが、少女の嘘は上手い。だからこそ、間違えたくない。
ユーリ「んで?奴と一緒にその薬草を取りに行くって?」
『ヴィスキント様なら、何度かご一緒したことがありますし、敵に後れを取るようなこともないと思います。第3界層………、また行けるなんて…!』
少女が例の第3界層に思いを馳せてしまっている。
あそこは少女にとって夢のような場所。それを知っている三人だったので、少女のその様子は嘘ではないだろうと分かっていた。
だが、前者が嘘かどうかの見極めが難しい…。
『はっ、失礼しました…。いえ、目的はユーリの薬を取りに行くことであって、決して植物のために行くわけでは…!』
慌てた様子の少女にサリュとカリュは笑ってしまい、ユーリだけが険しい顔で少女を見ていた。
…ここで言い争っても良い事は無いに等しい。
だが、このまま少女を奴と行かせて後悔はしないだろうか…?
ユーリ「本当に、それだけか?」
『??』
ユーリ「他に用事があるんじゃないのか?」
『いえ、それだけですよ?』
あたかも不思議そうに首を傾げた少女。
しかしその少女の顔が急に驚きに目を丸くする。
『…ユーリ!』
ユーリ「ん?どうした、そんなびっくりした顔して…」
『痛くは無いのですか?!』
そう言って少女が勢いよく立ち上がりユーリに近付いて心配そうにユーリの腕を取ると、そこには腕から血が流れていた。
痛みなど無かったので、普通に驚きもなくそれを見遣れば一瞬だけ……ほんの一瞬だけ少女の顔が強張った。
それを見逃さなかったユーリは咄嗟に少女の腕を掴む。
しかし少女はそんな場合ではないようで、目を閉じ、歌を歌い始めると一瞬にしてそこの傷が塞がっていく。
ユーリが生返事をしながら礼を言えば、安堵した様な少女の表情が見える。
そんな少女の様子に思わず手を放してしまえば、少女は安堵した顔のまま自分の席に戻って行く。
ユーリ「(さっきは俺に対して明らかな拒否反応があったのに、傷があったと分かったら近付ける…か。何が何だか分かんねえのが……くそ、嫌な感じだな…。)」
『ユーリ、本当にそろそろ戻った方がいいと思いますよ…?』
ユーリ「別にいいだろ?ちゃんと戻れば脱走したことに気付かないんだからよ?」
『えっと…言いづらいのですが…その…』
急にしおらしくなった少女に三人は不思議そうな顔をする。
その三人の顔を見て、困ったように眉根を下げた少女はユーリに視線を固定させると残酷な言葉を告げる。
『…さっきから、お医者様がユーリの事を探し回ってるんです…。それも……ジョキジョキという金属音まで聞こえてくるので…その……怒っていらっしゃるかと…。』
ユーリ「…。」
それを聞いたユーリは一度固まった後、すぐに踵を返した。
しかし、
医「……あぁ。こんな所にいたんですねェ…?ユーリさん?」
ユーリ「げ…?!」
手には両手でやっと持てるほどの大きなハサミを持ち、ジョキジョキとそれを動かす医師にメルクと双子が顔を真っ青にして椅子から立ちあがる。
そして、ユーリに視線を固定させた医師はニコニコと子供が泣きそうな笑顔を向けてハサミを動かす。
医「いやぁ…何処に行ったかと思いましたが…ムフフッ…!こんな場所に隠れていたとは…恐れ入りますよ。えェえェ…。」
ユーリ「いや……、ちょっとメルクの悩み相談をだな?」
『(私、そんなのされてません…!!)』
サリュ「メルク様…今のうちに逃げましょう…。」
カリュ「そうです…。逃げましょう…。」
『賛成です…!』
三人でこっそりとその場を立ち去ろうとすると、医師の視線が三人に向けられる。
医「あぁ、メルクさん…。」
『は、はい…!』
医「あの後、身体の方はどうですか?重くなったり、軽くなったりしていませんか?」
『い、いえ…!大丈夫です…!!至って健康です…!あ、それよりさっきユーリが怪我を…』
ユーリ「馬鹿っ…!!?それを言うなって…!!」
医「ほう…?聞き捨てなりませんねェ…?怪我を?何処で?いつ?何処に?」
「「「「(怖っ!!!)」」」」
目の奥が笑っていない医師を見てその場で動けない四人に、医師がおかしそうに笑う。
そして、ユーリの首根っこを捕まえ暴れるユーリを物ともせず去っていった。
助かった三人は大きなため息を吐き、無事をお互いに祝った。
『怖かった…!!』
サリュ「ああなると、確かにお二人が言う様に恐ろしいですね…。」
カリュ「自分は受けたくないものです…。城の医者で十分です…。」
そして数分後にはユーリの悲鳴が城内に響き渡り、それを庭園から聞いていた三人は静かに城に向けて合掌をした。
あぁ、尊い一人の犠牲者が出てしまった…。
そう言った双子の言葉に少女は可笑しそうに笑ったのだった。