第7界層 〜永久不変たる薄霧の鍾乳洞〜
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少女が眠ってから数日が経ち、やはり眠る期間も徐々に長くなっていた。
仲間達はそれに焦りを感じていた。
このままでは本当に少女は目覚めない気がして。
リタ「───こうなったら、何でも試すが良いのよ。」
突如として、リタの口からそんな言葉が放たれる。
そんなリタを全員が見た所で、リタは再び口を開いた。
リタ「例えば寝ているあの子を〈
レイヴン「……一理あるわねぇー?」
ジュディス「そうね。この際だから何でもやってみましょう。」
ユーリ「おいおい……大丈夫なのか、それ。」
カロル「僕も不安なんだけど…?」
パティ「でも、何もしなかったらメルク姐は酷くなるばかりじゃ。」
フレン「……一つ、試してもいいのでは…というものがある。」
カロル「え?!なになに?」
パティ「どんな方法なのじゃ?」
するとフレンはユーリをしかと見て、声を発する。
フレン「ユーリ。」
ユーリ「ん?」
フレン「君は…確かそのキュアノエイデスの力を発現させるには彼女に何かをする、と言っていたね?詳しくは教えてもらってないけど、それをやって見たらどうだ?」
ユーリ「……。」
あれは……危険だ。
少女に無理を強いてしまう。
ユーリが視線を逸らしたのにフレンは気付き、そして首を横に振った。
フレン「これも彼女のためだと思って──」
ユーリ「あいつの為を思うなら、……絶対にやらねぇ。あれは…メルクの体に影響するんだ。それこそ、あんな小さな体で血反吐を何回も吐くくらいにな。」
ユグドラシルから貰ったキュアノエイデス。
その力を発揮させるには毎回少女を“呼吸が出来なくなるくらい強く抱き締めて”やらなければならない。
そして少女に神子の証である“七色に輝く妖精の羽根”を出してやらなければならない。
……それは少女に負担がかかりすぎる行為だった。
だからこそ、ユーリはやりたくなかった。
少女に負担を強いると分かって、これ以上傷付けたくはなかったからだ。
二人の間に流れる剣呑な雰囲気に、エステルが慌てて話に入る。
エステル「え、えっと……。ほ、ほら!あれはどうです?! キスで目覚めるというやつです!」
パティ「誰がやるのじゃ?」
エステル「あれなら全員で………、はダメですよね…。」
ガッカリしたエステルへとパティが肩を叩いて、労ってやる。
咄嗟に思い付いたにしては、よく頑張ったと頷きながら。
フレン「…ユーリ。」
ユーリ「……他のやり方をしてダメなら考える。あれは、最終手段だ。」
カロル「じゃあ、お医者さんの所に行って報告しないとね。」
ユーリ達は医師のいる診察室へと向かい、ことの次第を全て話した。
最終手段もある事を伝え、それには神子の羽根を出さなければならないことも伝えると、暫く医師は考え込むようにして黙り込む。
医「(……神子の羽根は正直、メルクさんの体に負担がかかりすぎます。それでも……それで目覚めるというのなら…)───分かりました。その際は私も同行します。最終手段として取っておきましょう。」
パティ「よし!医者からのお墨付きも貰ったし、早速始めるのじゃ!」
カロル「え、まず何するの?」
リタ「海水に浸けてみたら?」
カロル「こっわ!」
医「それなら私のいる所でやってもらいたいですねェ?」
そう言って医師は立ち上がり、準備を始めている。
仲間達はそれを見た後、各々準備をするために一度解散することにした。
集まってきた仲間達で、あの手この手を使って少女を起こそうとするが……結局起きず。
迫る最終手段に、ユーリの顔は少しずつ渋くなっていた。
フレン「(……ユーリ。)───次ので最後だね。」
次起きなければ、最終手段を取るしかない。
顔ごと視線を逸らせた親友に心が痛むが、このままではきっと少女は起きてこないのだろう。
だからこそ、やるべき事はやるしかないのだ。
ヴィスキントを呼び寄せ、〈
それに訝しげな顔を隠しもせず、ヴィスキントは少女を見てからその少女を抱えているユーリを睨む。
ヴィスキント「…何をする気ですか。」
カロル「メルクを起こすためになんかしないと、って思って最後の手段で〈
ヴィスキント「…絶対に不可能だと思いますが?」
カロル「どうして?」
ヴィスキント「〈
レイヴン「……どういう事だ?」
ヴィスキント「いえ、こちらの話です。」
何時だったか石版に書かれていた文章。
それには確かに書かれていた。
人が〝神子〟を殺せば罰が下る。だが、〈
それを考えれば〝神子〟も〈
だから少女が目覚める確率など……無いに等しいのだ。
顔を無機質に変え、顔を逸らせたヴィスキントに仲間達はそれ以上言わなかった。
だが、ここから動き出せないのも事実だった。
この目の前の人物がいなければ、〈
その肝心の人物が〈
ヴィスキント「くだらないことしていないで、早く彼女を寝かせてあげなさい。」
カロル「えぇ?起きるかもよ?」
ヴィスキント「ですから…絶対に無い、と──」
〈
そのまま少女を見上げる形でじっと見つめている猫に、背後からパティが捕まえようとして失敗する。
派手に転んだパティに仲間達がヤレヤレと呆れている。
ヴィスキント「(一番はこの猫が怪しいんだが、な…。証拠が集まらない。……そもそも、こんな猫の情報など文献にも無かった……。一体この猫は何なんだ…?)」
目を細め猫を睨むヴィスキントに、猫は見向きもせず少女を見上げていた。
そんな時、レイヴンが渋々とユーリへと声を掛ける。
レイヴン「……結局、最終手段になっちゃった訳だけど。青年、やれそう?」
ユーリ「……。」
ヴィスキント「(最終手段……?しかもこいつが持ってるだと?)」
カロル「ユーリ……。」
ユーリ「……はぁ。出来るならやりたくなかったんだが、な…。なんと言ってもメルクの体に負担がかかりすぎる。」
リタ「でも、やるしかないんでしょ?このまま、この子がずっと寝続けてもいいというなら、あたしはアンタを止めないわよ。」
パティ「待つのじゃ!その前に医者のやつを呼んでこんとな!何かあっても医者がなんとかしてくれるじゃろ。」
カロル「あ、僕も行くよ!」
〈
バウルが居なければここには連れてこられないだろうから、通訳の出来るジュディスも動き出したのだ。
残った面々はユーリを不安そうに見る者や、怪訝そうな顔で見る者と別れた。
ユーリは覚悟を決めた顔で片腕で少女を抱えると、手に持っていたキュアノエイデスを自身に見える様に持ち、そしてそれを見てからユーリは大きく頷いた。
ユーリ「フレン。ちょいとコイツを持っててくれねえか?」
そう言って一番の親友に、その大事な剣を預ける。
それを頷いて返事をした親友は、一度剣を見てから大事に両手で持ち直した。
フレン「…あぁ。分かった。」
ユーリ「つーか、ここでやるならお前ら、マジで覚悟決めとけよ?」
レイヴン「え、何なに?また青年が言ってた大波が来る訳?……嘘でしょ?」
ユーリ「さぁな? 今回はその剣を持ってないから迂闊な事はしないと願いたいな?」
レイヴン「うへぇ…。濡れる覚悟はあったけど、波に巻き込まれる覚悟は決めてないわー。」
ヴィスキント「……何をする気ですか。こんな所に大波など来た事がありません。」
ユーリ「俺が下手なことをしなければ、来ねぇよ。」
ヴィスキント「……。どうやら貴方が嘘を吐いている様子は無さそうですね。」
ユーリ「こんな時に冗談なんて言えるかよ…?」
僅かに笑ったユーリだが、腕の中の少女を見て顔を険しくさせた。
……今回は吐血しなければいいが。
医「お待たせしました。」
カロル「連れてきたよ!!」
パティ「最後の仕上げと行くのじゃ!」
医師も揃い、全員がユーリと少女に注目する。
ユーリは既に目の前の少女に集中しており、少女の腰を引き寄せると強く……強く抱き締める。
───“ もっと、 ”
ユーリ「っ、」
そんな事を言う少女の幻聴が聴こえるなんて。
────“ もっと……もっと、強く… ”
ユーリ「…。」
─────“ 呼吸が出来なくなるくらい強く抱き締めて?ユーリ。 ”
ユーリ「───悪い、メルク…!」
その瞬間、少女の背中に七色に輝く妖精の羽根が出現する。
同時にユーリの体も同じく輝き出したのだ。
それを見た仲間達や医師、そしてヴィスキントでさえ息を呑んだ。
そして、
『────はっ、』
少女が突然、目を見開いたのだ。
ハッとした様に見上げた少女に、ユーリが申し訳なさそうに……同時に悲しそうに顔を曇らせていた。
『……“ユーリ”?』
ユーリ「っ。はっ、」
突如息を詰まらせたユーリに少女はゆっくりと体を離し、口元に手を当て、そして顔を真っ青にする。
そして少女は今起こっている事態を呑み込んでしまう。
自分の背中には七色に輝く妖精の羽根……、そしてユーリの体は何時だったかみたいに光り輝き、彼の奥に見える騎士団長の持っている剣が反応をして光を帯びている。
『どうして…?!』
ユーリ「……悪い、メルク。」
『ユーリ、痛いのに…!』
───ドクリ…
ユーリ「くっ…、」
「「「ユーリ!!」」」
仲間達の心配そうな声がする。
それでも気丈に振る舞うと、ユーリは少女の心配をした。
ユーリ「メルク……体は、大丈夫か…?」
『……。』
痛みのない少女になんて質問をしてしまったのだろう。
それを考える余裕がないほど、ユーリの心臓は暴れていた。
少女が自分の名前を呼ぶ度に、心臓が脈を激しく打ち出す。
同時に息苦しさと痛みと……異常なほどの熱を感じる。
『私なんかよりも……ユーリの方が…!』
───ドクドクッ
ユーリ「か、はっ…!」
『っ!!』
どうしていいか分からない、と少女が顔を青ざめさせ、静かに震えていた。
今にも倒れそうなほどか弱そうな少女にユーリは精一杯笑ってみたが、どうやら上手くいかなかったようだ。
涙を目尻に溜め、ゆっくりと首を横に振る少女を見てユーリは失敗したな、とから笑いをする。
それでも大丈夫だと伝えたくて、そっと抱き寄せれば嫌がるように少女は必死に抜け出そうとする。
この少女の事だ───これ以上抱き締めれば、また自分が苦しい思いをするかもしれないと思ってくれているのだろう。
……それほど優しい少女だから。
ユーリ「メルク、大丈夫だから。」
『でも…、苦しいのでしょう…?』
ユーリ「お互い様、だろ?」
『私は、何処も痛くな──』
そう言って口を押さえた少女に、ユーリが優しく頭を撫でる。
『ユーリ…』
───ドクッ
ユーリ「っ、」
『……!!』
自分が喋ればまた苦しむとでも思っているのか、口を必死に押さえ、離れていく少女の姿にユーリが大丈夫だと言い聞かせる。
それでも少女は信じられないと、首を振りながら一歩、二歩と後ずさっていく。
しかし、少女はギュッと目を瞑ると突然羽を使い、飛んでいく。
その方向は確実にフレンに目掛けていて、そのフレンの持っていた剣……キュアノエイデスを半ば奪い取るとユーリに静かに渡した。
『……お願いっ、これを振るって楽になって…っ!』
ユーリ「───」
そうすれば、ここにいる全員を巻き込んでしまう。
海を割るほどの威力を持つ剣なのだ。
また大波が来てしまう。
『羽根が…、元に戻らないの…!だからっ、それを振るわないとユーリは元に戻らないかもしれないの…!』
───ドクリッ!
ユーリ「〜〜〜っ!!!!」
その場に膝を着いたユーリを見て、仲間達も顔を青ざめさせる。
そして医師が慌ててユーリの容態を見ようとしたその時…
「ニャーッ!」
あの黒猫がユーリの胸に目掛けて飛びかかったのだ。
黒猫がユーリの胸に到達したその瞬間、ユーリを苦しめていた心臓の痛みや熱さは突如引いていって、逆に体が軽くなっていくという不思議な感覚に襲われる。
しかし───
パティ「メルク姐!!」
パティの悲鳴じみた声にユーリを含めた全員がハッとする。
少女もユーリと同じで背中に生えた羽根が突如消え、そして気を失う様に倒れたのだ。
それを難なくヴィスキントが支えたが、少女は口の端から血を流していた。
全員が息を呑んでそれを見つめる。
顔を青ざめさせ気絶した少女を、支えているヴィスキントが必死に声を掛ける。
医師がユーリに体の具合を聞いて大丈夫だと分かると、すぐさま少女の方へ駆け出す。
少女へと声を掛け続ける二人の声が、何処か遠くに聞こえたと思ったら、ユーリはその場で意識を手放していた。