第7界層 〜永久不変たる薄霧の鍾乳洞〜
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
城にいる騎士や仲間達を巻き込んだ黒猫捜索……。
仲間達は最初に猫が居たという庭園を探していた。
カロル「ネコー?ネコー…」
リタ「そんなんで来るわけないでしょ。」
ユーリ「ラピード、何か嗅ぎとれないか?」
ラピード「クゥーン…」
フレン「駄目か…。」
庭園の草木を掻き分けて、仲間達は地道に探していた。
ユーリ達の他にもそこら辺を騎士たちが草木を掻き分け、懸命に探してくれている。
エステル「メルクもまだ目を覚まさないみたいですし、早いところ見つけたいですね。」
フレン「そもそも、何故こんな所に黒猫が紛れ込んでいたんでしょうか?何処か猫が通れる様な抜け道でもあるのでしょうか?」
ユーリ「そりゃあ小さな通り道だな。人間には通れそうにないと思うぜ?」
エステルの言う通り、昨日倒れてからメルクはすやすやとまだ眠っていた。
いよいよ眠りから覚めないという夢物語が現実味を帯びてきていたのだった。
ジュディス「親指姫の次は、眠り姫ね?」
エステル「眠り姫なら、王子様のキスで目が覚めるはずですが…。」
「「「……。」」」
エステルのその言葉に全員の視線はユーリに向けられる。
それを見たユーリは肩を竦めて、首を振る。
ユーリ「そんなの、誰が王子様なんて決めるんだ?違ってたら洒落にならないだろ?」
カロル「まぁ、そうだよね…。試すのも二人に悪いしね…。」
エステル「絶対に大丈夫だと思いますけど…」
リタ「そんな事より早く探すわよ。」
いつだったかエステルがメルクを説得しようとしていたのを誰より近くで見ていたリタは、否定も肯定もせずにそれを流す。
ガサガサと草木を掻き分けていくリタは、とうとうその体を草木に埋めてしまい姿が見えなくなる。
それに倣い、他の仲間達もガサガサとガサ入れを始めていた。
しかし思ったよりも重労働で、何時間掛けてもとうとうその黒猫が見つかることは無かった。
その日は騎士たちも仲間達も捜索を諦めて、翌日へと持ち越す事にした。
二日目となったその日も仲間達は諦めずに黒猫を探し続け、城の内外を漏れなく捜索していた。
カロル「やーい、ネコやーい。」
パティ「ちっとも姿を見せてくれないのじゃ〜。本当におるんか〜、リタ姐?」
リタ「居るから騎士たちも話してたんでしょ?」
エステル「私もこの目でちゃんと見ていますから、絶対に居るはずなんです!」
少女が目を覚まさず、とうとう二日目に突入してしまっていた。
未だにすやすやと夢の中へ旅立っている様子の少女は、病室で点滴に繋がれながら決して起きる事は無かった。
ヴィスキントも確認しに来たらしく、少女の様子を見てから何処かへ消えたらしいということを偽神子から聞いていた。
パティ「メルク姐は、なんで目を開けないのじゃろな〜?そんなに眠たかったのか?」
カロル「体調が悪そうって訳でもなさそうだけど…。」
レイヴン「でもこの間、吐血してるんでしょ?それもあるんじゃない?体が休め、って言ってくれてるのかもよー?」
パティ「ならいいんじゃが……心配になるのじゃ。……もう二度と目を覚まさないんじゃないかって…そう思ってしまうのじゃ…。」
「「「……。」」」
パティの悲しい声を…言葉を聞いて、周りは黙り込む。
猫を探す手も止まってしまい、それぞれがお互いの顔を見てしまう事態になると、やはり全員が不安に思っていた事のようで、皆等しく不安そうな顔を隠しもせずに浮かべていたのが分かる。
そんな皆の様子を一変させたのは、騎士のとある言葉だった。
「あ!こら待てっ!!」
その言葉に期待して視線が一斉に動く。
騎士たちが慌てて何処かに駆け込んだのを見て、カロルとパティが嬉しそうに満面の笑みを浮かべてその騎士達を追いかけていく。
更にそれを追いかけるようにユーリ達も駆け出して行く。
「「待てーーーっ!」」
カロルとパティの元気な声が聞こえ、仲間達も追い付こうと速度を速める。
そのまま速度を落とさず走れば城の外へと出てしまい、やがて貴族街へと出た。
大捕物となりそうな予感を感じながら仲間達は目まぐるしく変わる貴族街を走り続ける。
その視線の先には確かに黒猫が逃げる様にして颯爽と駆けているのが見え、足も早い。
こちらを見ない黒猫に仲間達はそれぞれ巧みに捕まえようとするが、猫持ち前の軽やかさでのらりくらりとかわされてしまう。
騎士たちも捕まえようと手を伸ばしたり体当たりしてみたりするものの、捕まえる事はできないかった。
カロル「あぁ!もう!!」
リタ「はぁ、はぁ、もうっ無理……!」
ジュディス「餌でおびき寄せたらどうかしら?」
「「それだ!!」」
カロルがカバンの中を探っていくと……
カロル「あったよ!」
カロルがカバンから出したのは、“マタタビ”だった。
猫が大好きな……餌ではないが、これでおびき寄せるようだ。
まるで手慣れたように準備を進めていくカロル。
その間にも騎士や仲間達が猫に挑んでは次々と沈んでいく。
そこへマタタビの匂いが充満して、猫が立ち止まる。
ちょこちょこと歩いてきてはマタタビの前で寝転ぶ黒猫をジュディスが簡単に捕まえた。
「「やったーーー!!」」
皆がキャアキャア言いながらジュディスの周りを囲う。
しかしジュディスは猫を見ては肩を竦めさせ、その猫を皆へと見せるように腕を動かした。
その猫は確かに黒猫だった───しかし、その瞳は金とは似つかない青色をしていた。
全然違う猫が城に迷い込んでいたのだ。
ガッカリした騎士達とユーリ達は、そのまま大きな溜息が出て肩を落としてしまう。
あんなに苦労して見つけたと思ったが、やはりそう上手くはいかないようだ…。
カロル「このままマタタビの匂いに誘われて、他の猫も来てくれたら一番良いんだけど…。」
レイヴン「期待するしかないわねー?」
暫くマタタビを見る一行だったが、猫がユーリ達を警戒しているのか、それともそもそも近くにいないからか、猫が現れることは無かった。
リタ「そう簡単にはいかないわよねー。」
エステル「うぅ…、他の場所って言っても他に思い付きません…。」
リタとエステルの会話に、騎士達が一度少女の病室に行ってみたらどうかと提案してくれる。
少女の病室に上がり込んでるかもしれないからだ。
カロル「でも、その猫が元凶なら近くに居たら危なくない?」
ジュディス「それなら。早く行くに越した事はないわね。」
ユーリ「行くぞ。」
騎士達とはここで別れ、ユーリ達は足早に少女の病室へと向かう。
少女の扉にユーリが手を掛けようとしたその時、中から声がした。
……あれは、ヴィスキントの野郎か。
そのまま扉に手を掛けた状態でユーリは仲間達を振り返ると、口に指を添え静かにするようにジェスチャーをする。
そのままユーリが扉に耳を当てるので、仲間達まで扉に耳を当てていた。
……
………………
………………………………
ヴィスキント「……。」
ヴィスキントが何かに気付いたように扉へと目を向けて、目を細めさせる。
医者もそれを見て苦笑いをしていた。
二人とも誰が扉前に来たか、分かったからだ。
ヴィスキント「……まぁいい。」
医「では、メルクさんの状態について、でしたねェ?」
ヴィスキント「あぁ。」
医「現在、眠りについて二日目……。その前からその兆候はありました。眠りにつくペースが徐々に早くなっていたのは…貴方もご存知の通り。」
ヴィスキント「あぁ、聞き及んでいる。」
医「はい、そうですね。しかし以前はメルクさん自身が処方した漢方で眠気は抑えられていました。……それがどういう訳か、その薬さえ効かなくなっていたのですよ。私が処方する薬も然り…。」
ヴィスキント「薬が効かない体になったとか、そういった事はないのか?」
医「…それは否定出来ません。今現状では確かめようがありませんから。…ですが、こんなにも急にその事態になったのには何か理由があるはずです。それを突き止めない限りは、ずっとメルクさんは眠りについたままでしょう。」
ヴィスキント「……第6界層での挑戦後、1か月間行方不明になっていたアレか…。」
そう言って、ヴィスキントは扉を睨みつけ声を張り上げる。
ヴィスキント「……居るのでしょう!早く入ってこられたらどうです?」
その言葉に少しの沈黙があったが、扉が静かに開かれる。
ユーリが入りお互いに目が合うと、バチバチッと視線に火花が飛び散る。
その横を通り抜け、仲間達が中に入ってくる。
カロル「猫見つけた?ベン。」
ヴィスキント「いいえ、まだですね。」
ユーリ「何だよ、役に立たねえな。」
ヴィスキント「……。」
再び二人が冷戦に入りかけたその時───
「ニャー」
「「「え?!」」」
あの黒い毛並みで金色の瞳を持つ猫が窓から入り込み、寝ている少女の顔に擦り寄ったのだ。
それを見た仲間達が慌てて少女から引き離そうとするが、そこはやはり猫の方に軍配があった。
迫りくる数多の手をすり抜けると、床に降り立ちユーリたちに向かって威嚇をし、毛を逆立てている。
まるで警戒しているその姿に仲間達に困惑が生じ、どう捕まえるかそのまま作戦会議に入る。
しかし、
ヴィスキント「……ふん。どうやら頭の良い…賢い猫の様ですね。」
目にも止まらぬ速さでヴィスキントが猫の首根っこを捕まえると、その猫の首にナイフを突き付けていた。
一度驚いた様に短く鳴いた猫だったが、自分の今の状況を理解しているのかナイフを見て動きを止めた。
そして静かにそのナイフを突き付けているヴィスキントへと鋭い視線を向けていた。
カロル「うわ……ベン早いよ…。」
パティ「最初からここで張っておけば良かったのじゃ〜。」
仲間達にも緊張が走るその行為。
ヴィスキントは猫をスッと睨みつける。
ヴィスキント「この猫が全ての原因なのであれば、ここで仕留めるのが筋でしょうね。」
ジュディス「あら。可哀想ではなくて?」
ヴィスキント「彼女のためです。それならどんな命だろうが、惜しくはありません。」
ヴィスキントが遂に猫の首へとナイフを当てたその瞬間、猫が首に当てられたナイフをものともせずに腕を伸ばしヴィスキントの手へと爪で攻撃をした。
思わぬ相手の反撃にヴィスキントが手を離せば、毛を逆立たせ、ヴィスキントへと猫が威嚇をする。
それに迷わず舌打ちをしたヴィスキントと猫の静かな攻防戦が今、始まった。
カロル「猫が怖がってるんじゃない?」
ヴィスキント「…。」
「フシャーーーッ!」
リタ「あんたでも駄目なら捕まえられないわよ、この猫。」
少しだけ期待していた仲間達だったが、こうなってみれば後はどうしようもない。
一つ出来ることといえば…少女に近づけさせないことくらいで。
ヴィスキント「…餌付けか。」
ユーリ「いや…、無理だろ…?」
レイヴン「あんさんの口からまさか“餌付け”なんて言葉が出てくるとはねぇー…?」
やられた手を摩りながらヴィスキントが溜息を吐く。
出来るならさっきの時に仕留めてしまいたかったが、こうなれば餌付けでもして、慣らしてからやってしまおうという魂胆だ。
手持ちに何かあったか、と探るヴィスキントの元へ偽の神子が勢いよく扉を開け放つ。
リコリス「おっ邪魔しまーす!」
いきなりの大きな音に、猫がビクリとさせ扉を開け放った主を見遣る。
…その金色の瞳は胡乱げに顰められていた。
リコリス「って、あぁ⁈ ネコだぁ‼︎」
「……。」
猫が警戒をして後退りをする中、それを好機とみたヴィスキントが扉を開け放った張本人を見る。
そして猫の背後から手を伸ばしたが、それに勘付いた猫は大きく飛び上がり少女の頭元へと降り立つ。
それに仲間達が慌てて猫と少女を離そうとする。
すると猫が少女に向かって可愛らしく鳴いた───
『………ぅ、ん…。』
「「「…‼︎」」」
その場に居た全員が目を見開き、驚いたように少女を見る。
すると少女はゆっくりと目を開き、近くにいた猫を見つめると柔らかく笑い、ゆっくりとその黒い毛を撫でた。
『…ふわ…ぁ…。おはよう…?猫さん…。』
「ニャー。」
眠たそうではあるが、しっかりと猫を撫でられていることから、ちゃんと眠りから覚醒はしたのだろう事が窺える。
それにパティが涙を流しながら少女へと抱きついた。
エステルもその後に続く様に少女へと抱き着き、静かに涙を流した。
何が何だか分かっていない少女はその2人の涙を
見て、ただただ驚きに顔を染める。
しかしその後に微笑みを浮かべると2人の体を抱きしめ返していた。
『何か、悲しいことでもありましたか?それとも、何か嬉しいことでしょうか?』
パティ「メルク姐、起きるのが遅いのじゃ…‼︎」
エステル「うぅ、でも良かったです…!ようやく、目覚めて…!」
『あらあら、まぁ…?私、そんなに寝ていたんですか?』
真実を確かめるように医師の方へと視線を向けた少女は、医師が頷いたのを見て、二人に謝る。
『すみません。だいぶ、寝坊してしまったみたいですね…?』
パティ「全くじゃー!」
カロル「メルク、2日も寝てたんだよ。全然起きないから、この猫が何かしてるんじゃないかって皆で話してたんだ。」
『猫さんが…?』
少女が猫を見ると、違うとでも言ってるように可愛い声で鳴いていた。
それに眉根を下げて見た少女は体を起こし、猫を抱き上げて優しく撫でた。
その優しい手つきに気持ちよさそうに猫が鳴いている。
「ニャー…。」
『ふふ。この猫さんにそんな能力があったら驚きですね?』
カロル「でも、メルクが倒れる前にこの猫が鳴いてたって2人が言ってたんだ。騎士の人達も同じこと言ってたから確かだと思うよ。」
ユーリ「つーか、身体の方は大丈夫なのか?2日も寝てたんだから何かおかしな所とかないか?」
『…。今の所は、無いです…ね?』
カロル「なんか、その間が怖いんだけど…。」
『いえ、本当にないんです。むしろ体が軽いくらいでして…。』
ユーリ「(…またか。体が軽いってのは…大丈夫なのか…?)」
医「…。(また同じような現象が起きている様ですねェ。果たして、この身体の軽さが仇とならなければ良いですが…。)」
少女が不思議そうに話す中、以前に聞いていた二人は心の中で不安になっていた。
エステル「もしかして、眠くなる直前は体が重いから、とかじゃないんです?」
『急な眠気なので、あまり覚えてなくて…。』
パティ「なんか、良い薬はないのか?メルク姐。」
『こればっかりは…お手上げかしらね…?』
猫が丸まって眠っているのを見ながら、少女は困った笑みを浮かべる。
こんなにも心配してくれる皆には悪いが、本当に思い付かないのだ。
暫く考え込んでいて沈黙していた少女を不審に思った仲間達が声を掛け合う。
しかしすぐにそれに気付いた少女は笑みを浮かべて皆を見る。
仲間達から離れて見ていたヴィスキントとリコリスはその様子を見て、考え込む。
果たして、少女の眠りの原因は何なんだろう、と。
リコリスはすぐにオーバーヒートした様に頭をパンクさせ、思考を中断させる。
その隣に居たヴィスキントが暫く考え込んでいたが、答えが出ず、小さく首を横に振る。
その日は少女が起きたことでより一層賑やかになり、夕食も皆で食べてその日を明かした。
今まで寝ていた少女が寝れるはずもなく、城の中を散策すればサリュとカリュも護衛として近くにいてくれた。
サリュ「メルク様、お身体大事になさってくださいね。」
カリュ「もし何かあればいつでも私どもに言付けください!」
『はい、ありがとうございます。むしろすみません、こんな夜中にまで付き合っていただき…。』
「「大丈夫ですよ!」」
『あらあら、ふふ。やはり双子ですね?息ぴったりです。』
少女の言葉に照れたように頭を掻く双子はやはり同じ動作を繰り出していた。
お互いにその同じ行動をしていたことに気づいて、困ったように頭を掻き始めるのもやはり双子であった。
ふふ、と笑う少女に「ま、いっか」と双子もようやく笑顔になった。
ユーリ「こんな夜中に何処に行くんですか?お嬢さん?」
いつだったかみたいにそう声を掛けられ、少女はゆっくりと振り返る。
そこには呆れた顔で肩を竦めているユーリがいた。
『ごめんなさい。眠れなくて。』
ユーリ「逆に眠れた方が驚きだけどな?」
今はまだ髪を下ろした状態の少女の髪を見て、ユーリは手に持っていたものを少女へと渡す。
波に飲み込まれた時に髪飾りを失くしたと言っていたから、ユーリが事前に買ってくれていたのだ。
その贈り物をそっと持ち、感動したように髪飾りを見つめる少女。
そしてユーリを見て、ふわりと笑うとお礼を言った。
『…ありがとう。大事にするわね?』
ユーリ「また失くしたら買ってやるよ。それくらい。」
『それでも…私には大事な物になりそうだわ…。』
髪飾りをそっと胸に抱きしめて、目を閉じた少女にユーリが柔らかく笑いそっと見つめる。
そんなに嬉しそうにされたら買った甲斐があるというもの。
ユーリはそんな少女を見てそっと少女の頭に手を置いた。
ユーリ「今はまだ、メルクを苦しめてる症状を治してやることは出来ないけど。いつか治ったら快気祝いでどっかに行くとしますかね。」
『…!』
ユーリのその言葉に嬉しそうに笑った少女は、大きく頷いていた。
それに満足したユーリはそのまま少女と別れて自分自身も眠りについた。
結局その夜、少女は寝ずに一晩を過ごしたのだった。