第7界層 〜永久不変たる薄霧の鍾乳洞〜
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例の副作用の眠気は決して強い効果のものではなく、早くても一週間……遅くても数週間で眠気が来る程度のものだったはずだ。
それが最近どうしたことか、眠気の感覚が狭まっている。
それも一週間…、五日……、そして三日…と段々症状が起きる時間が短くなっていた。
医師の処方した薬を飲んでも効果がなく、私はいつの間にか病室に戻っているという奇行に襲われていたのだった。
エステル「メルク!今日は庭園の植物について教えて下さい!」
リタ「あんたも飽きないわねー…?」
二人はここ最近いつも私に付き添ってくれて、私が不安にならない様にだと思うけれど、例の眠気の事を口にしない。
きっと気になってるだろうに、それを隠して二人は私に付き添ってくれているのだ。
…本当、申し訳ないわ…?
エステル「メルク…?」
リタ「どうしたのよ、ボーっとしちゃって。(もしかして、寝そうなのかしら?いや、だとしたらあの戦闘マニアが言う様に目を擦ったりするはず…。)」
『ううん、何でもないわ?ありがとう、二人とも。お仕事もあるのに。』
リタ「あー、あれは今は息詰まってるのよ。たまには、私達だって息抜きしたいじゃない?」
エステル「私も仕事がひと段落したので、二人で休暇を頂いてるんです。ですからこうしてメルクと一緒にのんびりできるのが、すごく嬉しいんです!」
『あらあら、まぁ。ありがとう?二人とも。』
嬉しそうに微笑み、頬に手を当てている少女に二人も笑顔で頷く。
そうして三人は城の庭園へと足を運んでいた。
『(この間眠りについたのは…丁度二日前…。もうこれ以上、眠気が早まらなければいいけれど…。)』
エステル「メルク、これってなんです?」
『これは…メドウサフランといって珍しい花なんです。でもその実態は、有毒植物で食べれば中毒を起こして即医者行きですよ?その為に花言葉も"危険な美しさ"と言われているんです。』
エステル「え、毒なんです?これ。」
リタ「なんでそんな危険なものをここで育ててるのよ…。」
『間違えて植える人も多いみたいだから、それでじゃないかしら?…でもそんな植物でも薬にもなるんですよ?植物は奥が深いですよね?』
リタ「まぁ、奥が深いけど…。これは抜いといたほうがいいんじゃない?」
『抜いても勝手に花が咲きますから、意味は無いかと…。』
エステル「へぇ、勉強になります…。」
そんなこんなで庭園の植物の話になり、意外にも盛り上がっているところへ三人の元にとあるものがやってくる。
それは少女には見覚えのあるもので、いつだったか助けたあの猫だった。
「ニャー。」
『あれ…?この子…。』
エステル「可愛いです…!メルク、知ってるんです?この猫…。」
『はい…。確か、第6界層で助けた猫です。……どうしたのですか?皆に付いてきたのですか?』
しゃがんで猫に話しかけるメルクへと、その猫は近寄って頬擦りをする。
どうやら、助けてもらった恩義はちゃんと覚えている猫のようで少女にしか懐かず、ラピードにも懐かれなかったエステルはそれを見て大ショックを受けていた。
エステル「な、何故…私には動物に好かれる才能がないのでしょうか…?」
リタ「好かれてもいいことないわよー?」
エステル「リタはラピードに好かれてるからいいじゃないですか!! 私なんて…、私なんて……!!」
リタ「お、落ち着きなさいよ。その内好かれるわよ、あんたも。」
エステル「それ、本当です?!」
リタ「え? え、えぇ…。多分だけど…。」
少女の腕に納まり、落ち着いている様子の猫にエステルが羨ましそうに少女を見た。
少女もそれを見て苦笑しながら腕の中の猫を撫でる。
「ニャー…。」
気持ちよさそうに猫が目を細めている。
それにエステルがそっと手を伸ばした瞬間、猫が威嚇をしてエステルを牽制させた。
ガックシと効果音がつきそうなほど、エステルが落ち込んでしまいリタも少女も苦笑でエステルを見るしかなかった。
リタ「ほら、見てみなさいよ。アタシにも懐かないのよ?この猫。」
「シャーッ!!」
エステル「え、本当ですね…。珍しいです、この猫…。」
『どうしよう…。飼い主が居るのかしら…?』
見た所、首飾りもなければ何か目印になるような物も身に着けてはいない様だった。
下ろそうとすれば嫌そうに腕の中に居続ける猫に、三人でどうしたものかと頭を悩ませる。
リタ「もう、そのままアンタが飼っちゃったら?」
エステル「そうですね…。飼い主が見つかるまではメルクがお世話した方が良さそうです。この子、他の人間は怖がって近寄ろうとしませんし…。」
エステルがそっと手を伸ばすと再び威嚇を始める猫を見て、エステルがサッと手を引っ込めた。
どうしても触りたいのに、触らせてくれないと嘆いているエステルを見て、少女は腕の中の猫も見る。
黒猫は一般的にあまり好かれないので、飼い主が見つかるかどうかは今のところ先行き不透明である。もし運が良くて飼い主が見つかるならそれに越したことは無いだろうし…。
『…そうですね、この子の飼い主を探すまで育ててみます。』
エステル「じゃあ、この子に毎日会えますね!私、好かれてもらえるように頑張ります…!」
リタ「程々にしなさいよー?これくらいの猫って警戒心強いし、嫌な人間が近寄り過ぎて人間不信になるから飼い主探すなら気を付けた方がいいわよ?」
エステル「え、リタ…。何でそんなに猫に詳しいんです?」
リタ「………何でもいいじゃないっ!!」
エステル「ええ?!逆に怒られてしまいましたよ?!メルク!」
『あらあら、まぁ…?』
リタ「そこ!のほほんとしない!!」
『あらあら、ふふ。』
リタ「ああもうっ!」
賑やかになった庭園に騎士が何だなんだと近寄っては少女の腕の中の猫に癒される。
しかしやはりエステルの言う通り、この猫は少女以外に懐きそうになかった。
これでは前途多難だ…。
「可愛いですね。」
「家で飼いたいくらいだ。」
「…シャーーーーっ!」
「「「…懐かれれば、だけど…。」」」
サリュやカリュも近くに控えているが、双子でも懐きそうにないことが証明され、少女は困ったように眉を下げる。
このままでは飼い主が見つかりそうにない。
それではこの子があまりにも可哀想だ。
だって…私は近い未来で――――
「…ニャーッ!!」
リタ「何よこの猫。いきなり鳴き始めたわよ?」
『―――――』
―――バタッ
「「「「「っ?!」」」」」
少女が何の前症状もなく、眠りについてしまった。
猫が少女に向かって必死に鳴いており、しかしそんな場合ではないエステル達はメルクを必死に揺らして起こそうとする。
エステル「メルクっ?!メルク、起きてください!!」
リタ「いつもと違うじゃない…!どういうこと…?」
サリュ「医務室へお連れします!!」
カリュ「お二人もご同行願えますか?!」
「「勿論です!/勿論よ!」」
すぐに医者の元に駆け込んだ騎士たちとエステル達に医者が何事だ、と訝し気に見る。
しかしすぐに騎士の抱えている少女を見て、血相を変える。
医「(まだ二日目なのに…?徐々に眠りにつくペースが速くなっています…。このままでは…)…メルクさんを検査室へ。」
サリュ「はい!」
カリュ「お二人はここでお待ちください。」
「「はい/ええ」」
医者と共に消えていった双子を見送り、二人は祈る。
どうか、すぐに目が覚めますように__と。
二人もこのままでは不安だったのだ。
このままペースが早まれば永遠に目が覚めないのではないか、とそんなことを思ってしまう。
「……。」
一匹がそんな二人をじっと見ていたことに、誰も気づいてはいなかった。
そのまま猫は二人を一瞥することもなく、窓から外に出ていった。
ユーリ「―――メルク?!」
リタ「あ、来たわね。一番乗りよ。」
ユーリ「メルクは…?」
エステル「今、検査中です。今回はいつもよりも検査に時間がかかってますね。」
リタ「そりゃそうでしょ。だってペースがあまりにも早すぎるわよ。そろそろ何か検査で出てもおかしくないんじゃない?」
ユーリ「…。」
検査ではきっと何も出てこないだろう。
だって、神子になるための試練を受けた副作用なのだから。
ユーリは静かに拳を握っていた。
そんなユーリを見て、二人も心配そうに顔を見合わせてからユーリを静かに見ていた。
カロル「メルク、倒れたって?」
レイヴン「ちょっとちょっと~、ペースが速いわよ~。」
徐々に仲間達もやってきて、全員がメルクの診察待ちとなっていた。
そんな中、レイヴンがユーリへと小声で話しかけていた。
レイヴン「…そろそろ潮時なんじゃない?別にばれても皆、心配するだけよ?……それでも、言わないつもりかい?」
ユーリ「…メルク自身の希望なんだぜ?俺が決める事じゃねえだろ。」
レイヴン「それもそっか…。」
そんな中、ヴィスキントとリコリスも診察室に到着する。
リコリスは相変わらず心配そうに…、煩いくらい騒いでいた。
ヴィスキントも流石に、ここ最近の少女の倒れたという報告の頻回さに深刻そうに眉間に皺を寄せていた。
このままでは任務に支障が出るのは確実だ。
だが、どうしようもないことであるのだ。これは―――副作用なのだから。
リコリスと共に待つことにしたヴィスキントは壁にもたれかかって、ただ目を閉じてひたすら少女が起きるのを待っていた。
サリュ「エステリーゼ様、リタ様。お二人とも医師から聞きたいことがあるので検査室へ来てほしいと言付かっています。」
カリュ「すぐに話は終わるそうですので他の方はここで待機をお願いしたく思います。」
「「分かりました。/分かったわ。」」
二人が移動した後、庭園に居た騎士たちも仕事に戻るべくフレンへと敬礼して仕事に戻る旨を伝えていた。
そして騎士たちが「そう言えば」と仕事に戻りながら話をしていた。
「───メルクさんに懐いていた猫がいなくなってるな?」
「あぁ、あの猫か。確かにどこに行ったんだか…。メルクさんにしか懐かないからもしかしたら一緒に行ったのか?」
騎士たちは尚も歩きながら話し続ける。
それに耳を傾けていたのはユーリやレイヴンだけではない、ヴィスキントもその話に耳を傾けていた。
「メルクさんが飼い主を探すんなら、猫も探しとかないとな!」
「あぁ、そうだな!」
騎士たちが診察室の扉に手をかける。
「───そういえば、あの猫……まるでメルクさんが気を失うのが分かってたみたいだったな。あの鳴き声。」
「「「確かに!」」」
そんなわけ無いか、と笑って扉を潜った騎士をヴィスキントが呼び止めた。
ヴィスキント「ちょっと待ちなさい。」
「「「「???」」」」
騎士達が止まり、ヴィスキントを見る。
壁から背中を離し、腰に手を当てたヴィスキントは騎士達を見据えた。
ヴィスキント「その猫の容姿は?色はなんですか?」
リコリス「ヴィスキント様、猫に興味があるのですか?」
ヴィスキント「えぇ。彼女にしか懐かず、そして彼女が気絶する前に鳴いたという……その猫に興味がありますね。」
リコリスの質問にもすぐ答えたヴィスキントに、騎士達が猫の容姿を思い出そうと考え出す。
隣に居たリコリスはいまいち答えに響いておらず、首を傾げてはヴィスキントを見上げていた。
リコリス「猫なんて皆、一緒だと思いますよ〜?」
ヴィスキント「疑わしきは全部この手で調べます。……決して私は医師ではありませんが、それが今の彼女に出来る私の最善策の治療法ですからね。」
リコリス「…! ヴィスキント様!私もやります!メルクちゃんの為にも一肌脱ぎますよ〜!!」
神子服の袖を捲り、やる気を見せた偽神子も騎士達が容姿を思い出すのを今か今かと小躍りしながら待った。
その偽神子の言葉にユーリ達もやる気を見せる。
カロル「ベン!僕達も手伝うよ!」
ヴィスキント「勝手になさい。……ただし、猫を見つけても彼女の近くにはやらない事。発作の原因がその猫であるならば遠ざけるに越した事はありません。分かりましたね?」
カロル「分かった!」
「えっと、猫は黒い毛並みをしており……」
「確か、夜でも光り輝きそうな金色の目をしていたはずです。」
「メルクさんが持ち主を探すと仰られていましたし、もしかしたら懐いていたご本人の近くにいるかもしれません。」
「人間が近寄れば威嚇して逃げそうになるので、難しいと思いますよ?」
ヴィスキント「分かりました、もう結構です。仕事に戻られて良いですよ。」
ヴィスキントの言葉で騎士達は仕事の為にようやく扉向こうに消えていった。
子供組が猫の容姿を呟き、確認をする。
カロル「黒い毛並みで…」
パティ「夜でも光り輝きそうな金色の目を持った猫〜…?そんなの、どこにでも居そうなのじゃ〜。」
レイヴン「ま、でもこれでメルクちゃんが良くなるなら探すに越した事はないわね〜。」
ジュディス「後であの二人にも聞いてみたら?彼女と一緒に実物を見てるんでしょ?」
ユーリ「決まりだな。」
ユーリ達がお互いを見て決意を込めて頷き合う中、ヴィスキント達も猫捜索に駆り出す事にして、その場を後にしていた。
これが
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黒猫探し……?